「八重樫 雫です」
「エトです」
「前回は八重樫さんがなんで僕達の僕達の旅に同行しようと決めたのかが分かったね」
「あぅ……」
「えぇっと……どうしたの?八重樫さん?」
「自分が愛している相手に自分の気持ちが知られてしまったらどう思います?」
「……八重樫さん、元気出して」
「今回は砂漠での出来事です……楽しんでください」
「「砂漠に到着早々トラブル発生!」」
砂漠に到着早々トラブル発生
Side ハジメ
眼前に広がる赤銅色の世界。遠くの方には蜃気楼がゆらゆらと揺れ、その先には地平線がある。空を見上げれば太陽が燦々と輝き、肌を焼くような熱気が襲いかかる。
道無き道を魔導四輪で駆けて行く。ちなみに運転しているのは僕では無くエトさんだ。
「……外、すごいですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」
「文明の利器に感謝ですね」
「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが……流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」
窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながらシアさんとアルテナさん、ティオさんがしみじみした様子でそんなことを呟いた。
「甘ーい!冷たーい!」
「あぁ、口元がベタベタにしちゃって……ほら、拭いてあげるからこっち向いて?」
「んむぅ~♪」
シアさん達の横では八重樫さんがミュウちゃんと戯れている。砂漠という過酷な環境下でも何とも楽しそうだ。
「……私の方がハジメの事を知ってる」
「私の方が知ってるもん!」
そして僕の両隣ではユエと香織が言い合いをしている。
「両手に花ってやつだね?ハーちゃん?」
前の座席に座っているミレディが揶揄う様に言ってくる。
「ねぇ、ミレディ……ここに指定した座席を車外に射出できるボタンがあってね?」
「おおう!?ごめんなさい!謝ります!私が悪かったです!!」
ミレディは本気で焦ったのか即座に謝罪の言葉を口にする。
「……私とハジメは婚約してる、指輪だって貰った」
「ユエサァン!?」
ユエの突然の暴露に思わず声を上げる。
「……将来設計もご両親への紹介も約束されてる」
「ユエサァン!?」
「ど、どうゆう事かな?ハジメ君?」
今度は香織がハイライトの消えた瞳で僕の顔を覗き込んでくる。
「……嘘はいけませんよ、ユエさん」
運転席に居るエトさんが静かにそう言った。ハンドルを指でカツカツと叩きながらバックミラー越しにこちらを見ている。
「……う~、ユエお姉ちゃんも香織お姉ちゃんもケンカばっかり!なかよしじゃないお姉ちゃん達なんてきらい!」
ミュウちゃんがそう言って頬を膨らませ始めた。途端に、オロオロしだすユエと香織。流石に、四歳の女の子から面と向かって嫌いと言われるのは堪えるみたい……
「大丈夫だよ、ミュウちゃん。二人の喧嘩はいつものことだから。本当は仲良しなのよ?」
「そうなの?」
八重樫さんは膝の上で首を傾げるミュウちゃんの頭を撫でながら二人に向かって言う。八重樫さんの背後に腕が六本、顔が三つある鬼神が見える気がするのはきっと疲れているからだ……うん、きっとそうだ。
「ねぇ?二人共?」
「……うん」
「そ、そうですよ!私達は仲良しさんです!」
二人が必死になって肯定すると、ミュウちゃんは納得してくれたようでニパッっと笑った。二人はホッとした表情を浮かべて胸を撫で下ろしていた。
「……エトさん、三時の方向に魔物集団が……」
「えぇ、見えています」
右手にある大きな砂丘の向こう側に、いわゆるサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっている。砂丘の頂上から無数の頭が見えている。
サンドワームは平均二十メートル、大きい個体だと百メートルにもなる大型の魔物だ。
「なんで、あそこでぐるぐると回っているんでしょう?」
サンドワームたちは一定の範囲を回っては、その中央に三重構造の口を向けている。まるで何かを迷っているように見えた。
「獲物を食べるか、食べないのか迷っているようじゃのう?」
「そんな事ありえるんですか?」
「いや、奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが……」
ティオさんはへんta……変わり者だけど、ユエ以上の年月を生きて、ユエの様に幽閉されていた訳でもないから、知識は結構深い。なので、魔物に関する情報などでは頼りになる。そんな彼女が覚えが無いというなら、本当にイレギュラーの様だった。
「ッ!全員捕まって!」
突如としてエトさんが叫ぶと同時に魔導四輪が急加速する。そして数秒の差で、車体が浮く感覚を覚えた。
「エトさん!次のヤツが直ぐに来ます!」
「了解です!」
エトさんは右に左にとハンドルをきり、砂地を高速で駆け抜けていく。そのSの字を描くように走る四輪の真下より、二体目、三体目とサンドワームが飛び出してきた。
「どぅわ!?」
「わわわっ!」
「ひぅ!?」
後部座席にいる皆はそれぞれ悲鳴を上げながら、シートベルトをしがみついて耐え忍ぶ。
「ちょ!?二人共離れて!お願いだから!」
「危ないから!危険が危ないから! しがみついてるの!」
「……やだ、離れない」
香織と何故か大人化したユエが僕にしがみつき、身体全体でホールドしてくる。香織は僕の腹部に、ユエは首元に顔を埋める格好で抱きついて来ている。
「ふ、二人とも!色々と当たってるから!一旦離れて!」
そんな僕達のやり取りなど関係無しに、次々とサンドワームが飛び出てくる。
「エトさん!シフトレバーの下にあるボタン押して!」
「これですか?」
エトさんは言われた通りボタンを押す。すると、四輪のボンネットの一部がスライドして開き、中から四発のロケット弾がセットされたアームがせり出してきた。
「中々……いい趣味をしてますね!ハジメくん!」
エトさんは四輪をドリフトさせて車体の向きを変え、バック走行する。その間にロケットランチャーから発射された弾頭が、大口を開いたサンドワームの口内に着弾した。
耳を貫くような轟音と共に、盛大に爆発し内部からサンドワームを盛大に破壊した。サンドワームの真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぎ、バックで走る四輪のフロントガラスにもベチャベチャとへばりついた。
「……八重樫さん、ミュウが見ないように……」
「もう、してるわ。イッ……ミュウちゃん、苦しかった?ごめんね?」
僕は香織とユエを引き剥がしながら八重樫さんに声をかけると、既にミュウちゃんの目にはハンカチを当てられていて、目を塞がれていた。
「……ハジメくん、私は少し外に出ます」
「え?」
「先程、サンドワーム達が右往左往していた地点に人らしき気配があるので、それを回収してきます」
エトさんはそれだけ言うと、運転席から飛び出して行った。
「エトさん、大丈夫なのかな?」
香織の質問に答えたのはミレディだった。
「まぁ、心配はいらないんじゃない?エトっちの実力はかなりのものだし」
ケラケラと笑いながら、車内に設置したある冷蔵庫からアイスを取り出してペロリと舐めながら答える。
「……あの人、レイトと格闘戦でいい勝負してた」
「え?そうなの?」
ユエの言葉に香織が驚く。ユエはコクりと無言でうなずく。
「……そう言えば、エトさんって何歳なんでしょう?」
アルテナさんがポツリと呟いた言葉に、車内が静まり返る。確かにエトさんの正確な年齢を知らない……見た目は二十代前半に見えるけど……
「……レイトと同い年で……ミレディやオスカーと知り合いなら……」
「えっと……少なくとも千三百二十歳くらいかしら?」
ユエの回答に、八重樫さんが計算して出した数字を言うと、全員が一斉に黙り込む。
「……もしかしたらもっと上かも」
「そ、そうですね……あはは……」
ユエが付け足す様に言った一言に、乾いた笑みを浮かべながら同意を示すアルテナさん。
「……この話題には触れないでことにしよう」
「……そうね、それが良いと思う」
「賛成……」
「そう……ですね……」
女性陣の同意により、これ以上エトさんについての詮索はしないことに決定した。
「ただいま戻りました……っと」
しばらくしてエトさんが戻って来たが、かなり衰弱した様子の青年を背負っていた。白い衣服に身を包んでいて、顔に巻きつけられるくらい大きなフードの付いた外套を羽織っていた。
「……お帰りなさい、エトさん。その人は?」
「サンドワーム達が狙っていた獲物だったのでしょうね」
その人が被っているフードを取ると、まだ若い二十歳半ばくらいの男だった。
「呼吸が荒い……大量の発汗に浮き出た全身の血管……それに相当な高熱……」
エトさんは、背中に背負ったまま診察しているようだ。
「……毒もしくはウイルスによる魔力の暴走が原因の様ですね」
軽い診察を終えたエトさんは自分のステータスプレート持って、彼に診察用の魔法を行使した。
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状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可
症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血
原因:体内の水分に異常あり
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「かなり重症ですね……」
エトさんは診断結果を見ながら眉間にシワを寄せている。
「今すぐ解毒出来ないんですか?」
「身体が弱り過ぎていて、解毒しようにも彼の身体が耐えられないでしょうね。先ずは過剰に活性化している魔力をどうにかしないといけません」
僕の問いにエトさんは難しい表情で首を横に振る。そして、香織の方に向き直り指示を出す。
「香織さん、彼にドレイン系の魔法を使ってください」
「わかりました」
香織はすぐに詠唱を開始する。
「光の恩寵を以て宣言する ここは聖域にして我が領域 全ての魔は我が意に降れ 〝廻聖〟」
蛍火の様な淡い光とともに、男の体から魔力が抜けていく。男の顔色はみるみると良くなっていき、苦悶に満ちた表情は安らぎへと変わっていく。
「これで一先ずは大丈夫な筈だよ。でも何かの拍子にまた暴走しちゃうかも……」
「その時は私が対処しますよ」
香織の言葉に、エトさんは笑顔で返す。その後、直ぐにエトさんが全員に診察用の魔法を行使したが、皆異常なしという診断が下された。しばらくすると、男は意識を取り戻した。
「……こ、ここ……は?」
「大丈夫ですか?」
香織が声をかける。男は虚ろな瞳をゆっくりと動かしながら、僕達を見渡す。そして目の前にいた香織の顔を見て……
「女神?そうか、ここはあの世か……」
などと寝ぼけた事を口走り、香織に向けて手を伸ばしていた。何故か無性にイラッときたからデコピンをした。パチンッといい音がなり、同時に男の悲鳴が上がる。
「おふっ!?」
「ハジメくん!?」
額を抑えながら身を起こす男を、驚いた表情の香織が見つめる。他の面々も同様に驚いている。
「起きたようなら良かったです。じゃあ、速く事情を話して貰えます?」
僕は有無を言わさない雰囲気を出しつつ問いかける。男はビクつきながらも、話し始めた。
それを聞きつつ、僕はまた面倒ごとかと内心ため息をついたのだった。
『Fate/Grail League』もう一回やりたいなぁ……