「八重樫 雫です」
「ん、ユエ」
「前回は僕とアルテナの二人でオアシスの調査をしたね」
「……アルテナの弓、凄い威力だった」
「私達の居た所まで風圧が届いていたのよね……かなりびっくりしたわ」
「さて、今回はグリューエン大火山の攻略に取り掛かるよ」
「楽しんで……」
「「「いざ!大火山攻略へ!」」」
Side ハジメ
「うぅ……頭がクラクラします……」
「大丈夫?アルテナさん」
頭を抑えてフラフラとし始めたアルテナに声を掛けた。あの大弓を使った影響なのか魔力が枯渇していて、今は意識を保っているのもやっとみたいだ。
「もうちょっとで治療院に着くから、もう少しだけ耐えられる?」
「はい……」
アルテナをおんぶしながらゆっくりと歩いて移動をする。
「それにしても、凄い威力だねアレ」
「はい……自分でも驚きました……」
バチュラムもどきを消し飛ばした大弓に、俄然興味が湧いた。アルテナ自身も、あそこまでの威力が出るとは思っていなかったみたいだった。
「レイトさんが、私専用に開発してくれた武器なんですが……まだ、試験段階らしくて制御がかなり難しくて、その上魔力消費も多くて、使える場面が限られているんです」
アルテナはそこまで話すと僕の背中に顔をうずめて、寝息をたて始めた。本当に消耗が酷かったんだろうな。
「お休みアルテナ。そして、ありがとう」
アルテナが起こさないように、揺らさないよう細心の注意を払いつつ、僕は治療院へ向かって歩いて行く。
「シアさん!こっちの患者さん達は治療が終わったから、別の病室に移して!」
「了解ですぅ!」
治療院の中に入ると、香織とシアが患者の治療を行なっていた。そして、僕は香織と患者達の治療の邪魔にならないように、奥の病室へアルテナを寝かせる。
「ふぅ……とりあえず、エトさんから任せられた仕事は終わったから……」
僕は小さく呟いて、アルテナさんを寝かせたベッドに寄りかかって座り込んだ。アルテナは魔力が枯渇して寝ているだけだから、命に別状はなさそうだけど心配なのは変わりない。
「こら、こんな所で休んでいたらダメですよ」
「わっ!?」
僕がボ〜っとしていると、いきなり後ろから声を掛けられた。慌てて振り返ると、そこにはエトさんが腰に手を当てて立っていた。
「オアシスの調査は完了したようですね……何があったのかを聞いても?」
ベッドに座って眠り続けるアルテナを見て、エトさんは僕に聞いてきた。僕はオアシスでの出来事を出来るだけ詳細に説明した。
「なるほど……だから、彼女はここまで消耗していたのですね」
話を聞き終えたエトさんは、納得したように頷いた。アルテナが魔力の枯渇で倒れた事に対して特に驚いていないような感じがする。
「……動けるメンバーだけでグリューエン大火山に向かいましょう。静因石も大量に必要になりますから、少しでも行動は早い方がいいでしょう」
アルテナに優しい視線を向けたエトさんは、すぐに仕事モードに切り替えてそう言った。
「わかりました、直ぐに準備します」
僕はアルテナの頭を撫でて病室を出る。病室を出て直ぐに、香織とシアに状況の説明をする。
「……大火山には、私達だけで向かいます。香織さんはこのまま治療院に残って、患者の治療を続けてください」
大火山に行くメンバーは、僕、ユエ、シア、ティオ、エトさん、八重樫さんの計六人だ。オスカーさんとミレディはミュウの面倒を見なきゃいけないから、同行できない。
「わかった……気をつけてね」
「うん、気をつけて行ってくるよ」
「……ねぇ、ハジメ君」
出発しようとする僕に、香織が声を掛けてくる。振り返ると、そこには不安そうな顔をする香織がいた。
「……無事に帰って来てくれるよね?」
消え入りそうな声で聞いてきた香織。それはまるで、迷子の子供のような不安そうな表情だった。
「もちろんだよ。絶対に戻ってくるから」
僕は香織を安心させるように笑顔で頷いた。そして、もう一度行ってきますと言って治療院を出て、大火山に向かって出発した。
●○●
Side 三人称
『グリューエン大火山』
それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。そこは並の人間では耐えられない程の高気温と地面や宙を流れるマグマ、そしてその中に潜んだ魔物が襲い来る迷宮。
「……暑いですぅ」
「……暑い」
シアとユエが熱気に顔を歪めながら、そう言った。ここは冒険者でさえ滅多に近寄らないと言われている。『オルクス大迷宮』の様に魔石回収によるうまみも少なく、そもそも辿り着けるが少ない。
「確かに暑いね……」
ハジメが襟元をパタパタさせながら、同意する。シアがそんなハジメを見て呟いた。
「なんで、私より厚着なのに平気でいられるんです?」
ハジメは暑いとは言っているが、服装はいつも通りだ。しかしシア達と違って、ハジメは額に軽く汗を滲ませる程度だ。
「まぁ、これは慣れの問題かな?」
「慣れ、ですか……」
シアが納得いったようないってないような微妙な表情を浮かべていると、八重樫が口を開いた。
「私と南雲君は……というより、零斗達の訓練を受けたメンバー全員がどんな状況でも耐えられるように改z……鍛えてもらったの」
懐かしむように八重樫が言ってると、ハジメは苦笑した。そして、両者ともどこか遠くを見るような目をしていた。
「なんだか、凄く非道な訓練の気配がしますね」
「まぁ、否定はしないわ。でも効果はあったわよ。暑さ対策の訓練の時なんて……あぁ、思い出すだけでも……」
八重樫とハジメの遠い目はより一層遠くへと向かっていく。シアとユエは『もうこの話題には触れないでおこう』と決めた。
「……お喋りは済みましたか?そろそろ攻略に掛かりますよ」
エトがそう言って、ハジメ達を見る。先頭をシアと八重樫が歩き、その後ろをハジメとユエ、ティオが続いて歩く。そして最後尾はエトだ。
「……マグマが宙に流れてる」
「うわぁ……怖いですぅ」
マグマが宙を流れている。フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っている。当然、広間や通路の至る所からマグマが流れているため、360度どこを見てもマグマだらけだ。更には……
「ヒゥ……」
「おっと、大丈夫?」
「はう、有難うございます、ハジメさん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……察知できませんでした」
シアが言うように、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。突然な上に予兆も無いため察知が難しく、まさに天然のブービートラップとなっている。
「これは……確かに厳しそうだね」
ハジメは、噴き出すマグマの熱を感じ取り目を細める。そして、しばらく進んだ所で大きく開けた空間が出現した。
「南雲君、あれって……
八重樫が壁の方を指差しながらハジメに声を掛ける。壁には人為的に削られたと思わしき痕跡が残っていた。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。
「静因石……だよね?あれ」
「うむ、間違いないぞ、ご主人様よ
ハジメの確認するよな言葉に、ティオが頷く。ハジメは壁に埋まっている静因石を抜き取り、じっくりと観察する。
「……小さい」
ユエがポツリと呟く。静因石は小指の先程度の大きさしかない。やはり表層部では、静因石の回収効率は悪く、一度に大量に確保するには深部まで行く必要がある。
「一応、簡単に採取出来そうなのは取って行こうか」
「お、いい判断だな」
ハジメの背後で見知らぬ男の声が響いた。ハジメは直ぐさまその場を飛び退き、ホルスターからドンナーを引き抜いた。シアやユエ達も同じく、ハジメの背後へと移動し戦闘態勢を取る。
後ろを取られた事に、不甲斐なさを感じるがそれ以上に敵への警戒が脳裏を占める。
「おいおい、そんなに殺気立つなよ」
ハジメが向けるドンナーの銃口をどこ吹く風と受け流しながら、ハジメ達の方へ近づいてくる男。
「あなたっ!何者なの!!」
ハジメの背後にいた八重樫は男に向かって、そう叫ぶ。男は突然八重樫に怒鳴られたことに、一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。しかし、直ぐに人の悪そうな笑みを浮かべ口を開く。
「俺達はレギオン……お前達の敵だ」
男は自分をレギオンと名乗った。ハジメの脳内にアラートが鳴り響く。直感的に分かった、この男は今まで戦ってきたどんな敵よりも強いと。目の前の男は零斗と同等かそれ以上の実力を持つ化け物だ。
「ふんっ!」
「痛ェ!」
エトが目にも止まらぬ速さで、レギオンと名乗った男の頭をぶん殴る。レギオンは頭を押さえて、蹲った。
「貴方という人は……面倒事を起こさないでください!」
エトは、自分の横で頭を押さえるレギオンに怒鳴りつける。どうやら、二人は知り合いらしい。レギオンは涙目でエトを見る。
「良いじゃねぇかよ!久しぶりの来客でテンション爆アゲ⤴︎⤴︎なんだから、この位は良いだろう!?」
「良くありません!」
「良いじゃねぇか、減るもんじゃねぇだろ!」
レギオンとエトがぎゃーぎゃーと言い合いを始める。その光景にハジメ達は呆然と眺めることしか出来なかった。
「エトさんの知り合いってことは……」
「レイトさんの強化細胞から分裂した人の内の一人……」
ハジメはシアとそんな話をする。エトはレギオンを説得することを諦めたのか、ハジメに視線を向けた。ハジメは内心で冷や汗を流しながらも、小さく頷く。レギオンはハジメ達の所まで歩いてきて、嬉しそうに話す。
「初めましてだな!俺達はレギオンだ、よろしくな!」
「は、初めまして?僕は──「南雲 ハジメ……だろ?」え!?な、なんで名前を!?」
ハジメは名乗っていない筈の自分の名前を呼ばれたことに動揺する。レギオンはハジメの反応に気を良くしたのか、腹を抱えて笑い出す。
「アッハハ!良い反応だな!俺達はお前達がトータスに来てからの事は大方知っているんだよ」
「それは……どういう意味なの?」
八重樫が訝しげに聞く。レギオンは、八重樫の質問に対してニヤリと笑う。その笑い方は零斗の笑い方にどこか似ていて、不気味だった。
「俺達やエト、ヴェノム達……大迷宮にいる奴らは互いに記憶の共有が出来てな、それのお陰でお前達の事を知っているのさ」
レギオンは愉しげに笑いながら、ハジメの問いに答えた。
「と、長話も良いがそろそろ此処の攻略を再開と行こうか。最下層までは俺達が案内してやるよ」
「……良いんですか?」
「あぁ、もちのろんだ……それに……」
レギオンはそこで言葉を区切り、もう一度ハジメ達の方を見る。そして、ニヤリと笑う。その笑みを見て、ハジメ達はゾワリと悪寒を感じた。
「やって貰いたいこともあるしな」
投稿が遅れて申し訳ない……AC6とストファイをひたすらやり込んでました。ユルシテ……ユルシテ……