「よっす!レギオンだ!よろしくな!」
「エトです」
「前回は⋯⋯大迷宮に入ったのとレギオンさんと出会ったね」
「いやぁ〜、久しぶりの来客で心が踊るねぇ!」
「はぁ⋯⋯」
「アハハ⋯⋯」
「えぇっと⋯⋯今回はグリューエン大火山の攻略だよ」
「楽しんでいってくれよな!」
「「「灼熱の迷宮と待ち伏せ!」」」
Side ハジメ
『グリューエン大火山』は『オルクス大迷宮』や『ライセン渓谷』以上に過酷な迷宮かもしれない。難易度の話ではなく、内部構造がかなり厳しい。なぜなら……
「ホアアーッ!」
「そぉら、頑張れ頑張れ!急がなきゃ、全員纏めてマグマに呑まれてお陀仏だぞォ!」
背後から来るマグマに焦りながら、次階層に進むための階段前に設置されている扉の三桁のパスワードを総当りで打ち込んだり……
「ちょ!?アブな!?」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!落ちちゃいますぅ!!」
「アッハッハッハッハッ!!」
頭上や足下から溢れ出してくるマグマに当たらない様に、マグマの川を極小の岩場を飛び移りながら渡ったり…… うん、なんでこんなイカれた内装になってるの?此処を造った解放者の人はドSなの?
「ゲホッ……はぁ〜、笑った笑った」
笑いすぎたせいか、若干涙目になっているレギオンさんを睨みながら、次の階層について聞いてみる。
「……次はどんな鬼畜な階層なんですか?」
「おいおい、そんなに不機嫌になるなよ〜……心配すんな、次の階層はひたすら敵を倒すだけだ」
そんな事を言いながら、先導するレギオンさんについて行く。もう色々とツッコムのも面倒になってきたので、大人しく黙って付いて行こうと心に決めながら歩いて行く。
「ハジメくん、一旦休んだ方が良いんじゃないかしら?」
「はぁ…はぁ……暑いですぅ……」
「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ」
八重樫さんが暑さで今にも溶けてしまいそうなシアと壊れかけているユエを見て、一旦休憩を提案した。僕も、大分疲労が蓄積されているのを実感しているし、疲れた時に判断力も鈍るから、致命的なミスを誘発してしまうかもしれない。
「そうだね……少し休もうか」
錬成で壁の一部を崩して、腰を下ろせる休憩スペースを確保する。錬成師の便利さに感謝しながら、地面に座り込む。
「ふぅ……流石に体力の消耗が激しいね」
首筋に滲んできた汗を拭う。ユエとシアはグロッキー状態で項垂れている。レギオンさんやエトさんの二人は平然としていた。
「ほぉー、随分と錬成の練度が高いな。こんなに、高速かつ広範囲に干渉できるやつは久しぶりに見たぞ」
「零斗のお陰ですけどね……」
ストレートに褒められたせいか、少しだけ気恥ずかしくて、ほんのちょっぴりぶっきらぼうな返答をしてしまう。
「……ん?」
「どうしたんですか?レギオンさん」
何かを発見したのか、レギオンさんは耳に手を当てている。そして、暫くしてから小さくため息を吐いた。
「どうやら、魔人族の連中が不正して迷宮内に侵入したみたいだな……」
「不正…ですか?」
思わず問い返してしまた。この迷宮に不正なんてものが存在するなんて初耳だ。 すると、レギオンさんは大きく頷く。
「そ、君達みたいに入口から入れば『挑戦者』として受け入れて、それ以外の場所から入れば『侵入者』として『処理』する」
物騒なワードに、思わず目を伏せる。その反応が面白いのか、レギオンさんはケラケラと笑った。
「……!そうだ、いい事思い付いた!」
「何だろう…凄く嫌な予感が……」
嫌な予感の正体を、僕は何となく察していた。そして、その予感が的中する様にレギオンさんは告げる。
「魔人族の殲滅……お願い♡」
そう、ハートが付きそうなほど甘ったるい声で頼むレギオンさん。その声には拒否権は無い、そう言っている様に聞こえた。
「もちろん、タダでやってくれとは言わない。この迷宮をまるっとすっ飛ばして神代魔法を授けてやる……どうだ?」
レギオンさんは、どこか期待しているような表情を浮かべながら僕達を見てくる。
「……分かりました。魔人族の殲滅、承ります」
断るような理由も無いし、何より早く静因石を確保してアンカジ公国に戻らなきゃいけない。
「交渉成立だな!よぉし、行動開始だ!」
レギオンさんは、まるで遠足に行く前の小学生の様にはしゃいでいた。そのテンションに、少し不安を抱きながら僕達は休憩を終えて立ち上がる。
「レギオン、魔人族の殲滅は受け入れましたが、どうやって魔人族の元へ向かうのですか?まさか、馬鹿正直に歩いて行く……なんて事は無いでしょうね?」
「そこら辺は心配する必要は無い。『近道』……使うからな」
そう言って、レギオンさんは壁の一部に手を当てた。すると、壁がまるで生きているかのように脈動し、波打ち、形を変えていく。
「……レギオン、まさかとは思いますがこの中に入れと言いたいんですか?」
エトさんが心底嫌そうな顔をしながらレギオンさんに問い掛けた。レギオンさんは、そんなエトさんの反応すら楽しむ様にニッと笑いながら、口を開いた。
「その、まさかだ」
レギオンさんの言葉と同時に僕達は壁は口を開けるかのように上下に裂け、そこから独特の臭気が漂い出した。
「ッ!?」
「そう警戒するな、安全は保証するからよ」
レギオンさんはそう言って、壁の奥へ進んでいく。僕達もその後を付いて行くが、何処か漂う違和感に拭えないまま歩き続ける。壁の中は暗く、目を凝らしてやっと足元が見えるくらいだった。また壁の中はまるで生き物の内臓の様に脈動し続けている様な気がする。
「な、何なんですか……この道……」
シアが思わずそう呟いた。まるで、僕達を歓迎する様に壁は動き続けている。すると、先を歩いていたレギオンさんが振り返り、口を開いた。その間にも、脈動は続いている。まるで僕達を中へ中へと誘い込む様に動き続ける。
「ここは俺達の『胃の中』だ」
レギオンさんはニタリと笑いながら、僕達を見る。
「……胃の中?」
僕は理解が追い付かず、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。その声を大笑いしながら、レギオンさんは再び歩き始める。僕は慌ててその後を付いて行くが、そんな僕に追い打ちをかける様に今度はエトさんが口を開く。
「ここの説明をするには先ず、私達がどのような存在なのかを説明する必要がありますね」
「えっと……エトさん達はレイトさんの能力から生まれた存在……なんですよね?レギオンさんもそうじゃないんですか?」
エトさんの言葉を聞いたシアさんが質問すると、エトさんは首を横に振り話を続けた。
「彼は私達と姿形は同じですが、身体の構成が私達とは全くの別ものなんです」
レギオンさんの後ろ姿を眺めながら、エトさんはそう説明する。やっぱり、どこか違和感があったのは間違いでは無かった様だ。
「俺達は元々、バクテリア状の生物でな、そのままじゃ不便なもんだから、全員で結合して人の形を取ってるわけだ」
「だから一人称も複数形で、名前も『レギオン(軍団)』……なんですね」
「『名は体をあらわす』って言うだろ?」
レギオンさんは、何がおかしいのかケラケラ笑いながらそう説明をしてくれた。つまり、個々の意思を持った細胞が繋がって今の姿になったって事?僕が困惑していると、レギオンさんがまた話を始めた。
「そもそも、俺達とエト達は生まれ方違ってな……俺達は零斗自身の細胞から培養、変異した存在。エト達は零斗の持つ能力に『強力な意思』が芽生えて、それに肉や骨、皮……人体パーツが蓑虫みたいにまとわりついた存在……まぁ、ある程度噛み砕いて説明するとこんな感じだな、理解出来たか?」
レギオンさんはそこまで話すと立ち止まって僕らの方に振り向いて、寒気がするような奇っ怪な笑みを浮かべた。
「まぁ、直ぐに理解は出来る訳ないよな。今はそんなに気にしなくっていい、興味が湧いた時にでも詳しく話してやるさ」
そう言って、レギオンさんは再び歩き出した。その背中を見つめながらしばらく歩いていると、レギオンさんまた話し出した。
「そんじゃ、ここからがそこのウサミミ少女の疑問に対するアンサーだ。ここは俺達の『胃の中』とは言ったが正確には『空間の狭間』だ」
「狭間……?」
レギオンさんの言葉に、シアさんは思わず首を傾げる。
「俺達は自らの意思で無限に増殖と分裂を行える。それに加えて、どんな環境にあっても生存が可能かつ意思の疎通が出来る」
「…嘘でしょ?」
「……まさか」
レギオンさんの言葉に、僕と八重樫は思わず言葉を漏らす。そして、僕達の予想は当たっていた様で、レギオンさんはニタリと笑いながら、再び話を始めた。 その笑みは何処か狂気じみていて、思わず背筋がゾクリと震えた。
「俺達は迷宮中に広がり、侵食し、全てを掌握したのさ」
レギオンさんは、まるで自慢する様にそう言った。その笑みは、まるで新しいおもちゃを貰った子供の様だった。
「ここは迷宮と俺達の体内との間に生じた空間だ」
「つまり、ここはレギオンさんの体内と迷宮を繋ぐ『道』って事ですか?」
「そゆこと」
レギオンさんは、僕の答えがお気に召したみたいで陽気に鼻歌を歌いながら、先頭を歩き続けている。
「……っと、この辺りか」
そう言ってレギオンさんは足を止めた。そして、そのまま壁を右手で触れると、壁がまるで液体の様に蠢き、レギオンさんの手を取り込む様に包み込んだ。
「ッ!?」
思わず身構えてしまう。が、レギオンさんはそんな僕を見てケラケラと笑いながら、壁を左手で触れた。すると今度は壁がまるで水の様に波打ち始めた。そして、そのまま壁が横に裂けて、人が通れるくらいの道が出来上がる。
「この先が目的地だ……覚悟は出来てるな?」
レギオンさんはそう言って、先導してその道へ入っていく。僕達は互いに顔を見合わせると頷き合い、レギオンさんの後に続いた。
「此処が目的地なんですか?」
「……地獄の釜にしか見えないわね」
僕達は壁から顔だけを出す形で周りを見渡す。階層自体は直径三キロ程で辺り一帯はマグマの海で、所々に足場に出来そうな岩場があったり、中央の方に小島があるのが確認出来る。
「……まさかとは思いますが、あの小島に行くとか言いませんよね?」
「そのまさかだ」
エトさんがマグマの海を見下ろしながらレギオンさんにうんざり顔で聞いたが、答えは耳を塞ぎたくなる様な物だった。もう一度マグマの海を見る。時々マグマが弾け、火柱が上がる。更にはマグマの海の中を何かが動き回っているのが感じ取れる。
「じゃ、行くぞ」
「ちょ!?」
レギオンさんは、まるでハイキングにでも行くかの様な軽い口調でそう言って壁の亀裂から飛び降りてしまった。
「レギオンさん!?」
僕は咄嗟に飛び出し、レギオンさんの姿を探そうとする。が、視界に入ったのは、溶岩の海に二本足でしっかりと立ち、ゆっくりと中央の小島に向かっていくレギオンさんの後ろ姿だった。
「おーい!早く来いよ!」
レギオンさんは僕達に向かってそう叫んだ。そして、そのままマグマの海をゆらゆらと歩く。まるで悪夢を見ているような感覚に襲われる。
「……私達も行きましょうか」
エトさんはそれだけ言うと亀裂から飛び降りてしまった。エトさんの姿を見て、少しだけ呆然してしまったが、意を決して飛び降りる。
「『錬成』」
落下する途中で壁に手を付き、即席の足場を作り落下して行く。マグマの海の熱で肌が焼ける様な感覚に襲われるが、何とか着地する事が出来た。
「あついですぅ!」
「⋯⋯肌が焼ける」
「流石にこの熱さは堪えるものがあるのう」
少し待っているとユエ達が足場の飛び降りて来た。全員が飛び降りたのを確認してから目的地である小島に向かう。
「あ、あの......大丈夫なんですか?」
「ん?あぁ、この程度の熱量なら問題無い」
シアが恐る恐ると言った感じでレギオンさんに聞く。レギオンさんは、まるで常識でも教えるかのようにそう言った。
「ゴォアアアアア!!!」
「ッ!?」
マグマの海からいきなりそんな咆哮が聞こえ、すぐさまホルスターからドンナーを抜き構える。咆哮の聞こえた方を向く。
「あれは……」
視線の先には大口を開けた巨大な蛇がマグマの海からこちらを凝視していた。思わず冷たい汗が背中を流れる。レギオンさんは、そんな僕達を気にも止めずに、マグマの海から出て来た蛇に近づいていく。
「大丈夫だ、こいつらは敵じゃない」
レギオンさんは蛇の頭を撫でてペットをあやす様にしている。蛇はレギオンさんの手に頭を擦り付けている。
「な、なんだか……可愛いですね」
シアがポツリと呟いた。確かに、この巨大な蛇はどこか愛嬌があるように見えなくも無い。
「頼むぞ、お前たち」
「クルルル」
レギオンさんはそう言うと僕らの居る足場に飛び移った。マグマ蛇は小さく唸り声を上げ、足場の周りをぐるりとその巨体で覆った。
「⋯⋯さぁて、仕事の時間だぞ」
「え?」
ーーズドォオオオオオオオオ!!!!
レギオンさんの一言に疑問の声を上げた瞬間に頭上から極光が降り注いだ⋯⋯が、マグマ蛇の巨体のおかげで何とか無傷で居られた。
「一体何が!?」
「やっぱり待ち伏せされてたかぁ⋯⋯」
「グルルルルッ⋯⋯」
慌てる僕と、頭上を忌々しげに睨み付けるレギオンさん。そして、威嚇する様に低い唸り声を上げるマグマ蛇。
「⋯⋯レギオン、敵は?」
「魔人族が一匹に灰龍が50匹、白龍が一匹だ」
エトさんがレギオンさんにそう聞くと、レギオンさんは目を瞑り、集中して聞くようにしている。
ーードドドドドドドドドドッ!!!
再び頭上から極光が降り注いだ。が、マグマの蛇がその巨体で防いでくれる。
「HAHAHA!俺たちに対する殺意が高いねぇ」
レギオンさんが楽しそうに笑いながらそう言った。その間にも極光が降り注ぐ。が、マグマ蛇の巨体によって防がれている。
「レギオン、行けますか?」
「あぁ、問題ねぇ」
エトさんはレギオンさんにそう聞くと、マグマ蛇の背を撫でた。すると、マグマ蛇は首を上に持ち上げ、頭上にいる敵に向けて雄叫びを上げた。
「グォオオオオオオオオ!!!」
『ッ!?』
マグマ蛇の咆哮が空間全体に轟き渡る。咆哮を無防備にも食らった龍達は身体を硬直させ、フラフラと僕らの頭上を漂っていた。
「さて、反撃開始だ」
レギオンさんはそう言うと、マグマ蛇の背を足場に空へ飛び上がり、そのまま上空に浮遊している灰龍の首を刎ねた。
またまたお久しぶりです。就活等で投稿が遅れました。やっとこさ落ち着いてきたので定期的に投稿出来るように頑張ります。