俺:知ってる。(おまえのことだ)
僕:知ってるよ。(君のことだね)
足腰もしっかりしてきて、二足歩行が出来るようになった。
この世界の言葉も読んだり喋ったりできるようになってきた。
両親を守り抜くと決めて、まずどうしようかと考えた。
生前では何が足りなかったのか。
知識が足りなかった。助け合える友達がいなかった。世間を知らな過ぎた。心が未熟だった。
父さんを、助けることができなかった。母さんを…支えてあげられなかった…。
ブンブン、と顔を振る。
違う。必要なのは後悔することじゃない、今の家族を守ることだ。
必要なのはまず知識。周辺に危険な人はいないか、危ないものはないか調べる必要がある。
また、魔法についても勉強して身に着ける必要がある。最優先は治癒魔法だ。
(もう二度と…目の前で家族を失ってたまるものか…)
家族を守るには、情報が一番大切だ。敵を知り己を知れば、百戦危うからずってやつだ。
次に友達。前世のような一方的に与えるだけの関係ではなく、互いを大切にしてどちらかが危なくなったりしたら助け合える、そんな関係を目指す。
…できるかな。あんまり自信ないや。とりあえずは一人、友をつくることを目標にする。
そして戦う力。これは前世では必要なかったが、父さん…じゃなく父さまが剣を振っていることから察するにこの世界は剣を扱えなければならない程には危険があるのだろう。
…戦うのは怖い。怖いが、家族を守るには必ず必要になるはずだ。四の五の言っていられない。どれだけの力が必要かわからないが、自分が持てる全力で強くなる努力を進めよう。
と、必要なものを挙げたが、その実1歳児に出来る事は多くない。
抱き上げられればあっという間に寝てしまうぐらいにはできることが少ない。
メイドさんの豊満な胸は僕をものの数秒で眠りに誘う。
寝起きに見るメイドさんの微笑みに感じる暖かさは母さまのものと相違ない。
きっとあのメイドさんは子供好きに違いない。
戦う力をつけるために体を鍛えることは必要だが、一歳児がトレーニングなどしたら逆効果になるだろう。
今はまだできない。運動は後回しにするしかない。
なので第一目標の知識を得るため、まずは文字を覚えようと家の本を読み漁った。
語学は大切だ。
人は目で見た情報や耳で聞いた情報を文字で表すことでより効率的に知識を記憶することができるからだ。
日本語で記憶することもできるが、いちいち頭の中で翻訳し続けるのは不毛だろう。
よって、この世界の文字を覚えることを、最初の課題とした。
___
家にあった本はたった6冊だ。
おそらくこの世界の本は高価なのだろう。
パウロやゼニスが読書家ではないことも理由の一つかもしれない。
前世では母さんが小説家だったため割とたくさんの本がうちにはあった。
ほとんどは母さんが好きなラノベで、僕もよく読んでいた。
たった6冊とはいえ、文字を読めるようになるのには十分だった。
この世界の言語は日本語に近かったため、すぐに覚えることが出来た。
もっと時間がかかると踏んでいたから肩透かしを食らった。
文字の形こそ全然違うのだが、文法が全く一緒だ。
単語を覚えるだけでよかったので楽だった。
父さまや母さま、メイドさんに何度か本の読み聞かせをねだったら快く読んでくれたから、より単語をスムーズに覚える事ができた。
幼少期の物覚えの良さも関係しているのかもしれない。
文字がわかれば、いざ本を読んでみる。
前世でも勉強は嫌いじゃなかったが、これは勉強というよりゲームをしている感覚に近い。
決して遊びのように気軽にやっているわけではないのだが、なんというか本気でゲームをやる感覚に近いのだ。
本気でやるゲームが面白くないわけがない。
それにしても、父さま達がたびたび僕を見て驚いているように見えるのだが…何故なのだろうか。
本を読んでいる時や、抱きかかえられる時に多いのだが…。
うーん、わからん。
まぁそれはともかく、家にあったのは下記の6冊だ。
・世界を歩く
世界各国の名前と特徴が載ったガイド本。
・フィットアの魔物の生態
フィットアという地域に出てくる魔物の生態と、その対処法。
・魔術教本
初級から上級までの攻撃魔術が載った魔術師の教科書。
・聖ミリス教本
聖ミリスを開祖とする宗教の教えが書かれている。
なんでもミリス様は魔王を倒し砂漠を恵みの大地に変えたとか。
僕は正直、宗教はあまり興味がなかったのだが、上位の治癒魔術はミリス教が独占しているらしいので、学ぶ必要があるかもしれない。
・魔神殺しの三英雄
ペルギウスという召喚魔術師が、仲間たちと一緒に魔神と戦い世界を救う勧善懲悪のお伽話。
・三剣士
流派の違う三人の天才剣士が出会い、深い迷宮へと潜っていく冒険活劇。
三銃士の異世界版だろうか。あれも銃士と言いつつ基本的にレイピアで戦っていたからあまり変わらないかもしれない。
下2つの御伽話はさておき、上4つは勉強になった。
特に魔術教本は面白い。
魔術の無い世界からきた自分にとって、魔術に関する記述はまるで物語の世界に入り込んだみたいで読んでいるだけで楽しい。
読み進めていくと、いくつか基本的なことがわかった。
まず、魔術は大きく分けて3種類しかないらしい。
攻撃魔術と治癒魔術、そして召喚魔術だ、
もっと色々なことができそうなものだが、教本によると、魔術というものは戦いの中で発展してきたものだから、戦いや狩猟に関係のない所ではあまり使われていないらしい。
もったいないな。生活魔法のようなものはないのだろうか。
次に、魔術を使うには魔力が必要であるらしい。
逆に言えば、魔力さえあれば、誰でも使うことが出来るらしい。
魔力を使用する方法は2種類。
自分の体内にある魔力を使うか、魔力の篭った物質から引き出すかだ。
大昔は自分の体内にある魔力だけで魔術を使っていたらしいが、世代が進むにつれて魔術も研究され、複雑になり、それに伴って消費する魔力が爆発的に増えていったそうだ。
そこで、昔の魔術師は自分以外のものから魔力を吸い出し、魔術に充てるという方法を発明した。
魔術の発動方法には2つの方法がある。
詠唱と魔法陣だ。
詳しい説明はいらないだろう。
呪文を唱えて魔法を発動するか、魔法陣を描いて魔術を発動させるか、だ。
大昔は魔法陣のほうが主力だったらしいが、今では詠唱が主流のようだ。
というのも、大昔の詠唱は一番簡単なものでも1分~2分ぐらい掛かったらしい。
とてもじゃないが戦闘で使えるものではない。
逆に魔法陣は一度書いてしまえば、何度か繰り返し使用できた。
詠唱が主流になったのは、ある魔術師が詠唱の大幅な短縮に成功したからだ。
一番簡単なもので5秒程度まで短縮され、攻撃魔術は詠唱でしか使われなくなった。
もっとも、即効性を求められない上、複雑な術式を必要とする召喚魔術は、未だに魔法陣が主流だそうだ。
そして肝心の魔力だが、個人の魔力は生まれた時からほぼ決まっているらしい。
ほぼ、というからには多少は変動するようだが……。
魔術教本には魔力の量は遺伝すると書いてある。
一応、母さまが治癒魔術を使えるので素養はあるはずだ。
とりあえず僕は、簡単な魔術を詠唱して使ってみることにした。
熟練した魔術師は、詠唱がなくても魔術が使えるらしい。
口に出さず頭の中で詠唱したりするのだろうか。
戦いの中で発展した、と言うからには標的に何の魔法を使うかバレたら意味がないしな。
まぁそれはおいといて、俺は魔術教本を片手に、右手を前に突き出して、文字を読み上げる。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、
清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール」
何か暖かいものが右手に集まっていくような感触があった。
それが押し出されるようにして、右手の先にこぶし大の水弾が出来る。
「おおっ!」
魔法だ!本当にできた!と、感動した次の瞬間、水弾はバチャリと落ちて、床を濡らした。
むむむ、魔法には集中が必要なようだ。
集中、集中……。
体を覆う暖かい何かを右手に集める感じだ。
再度右手を構え、先程の感覚を思い出しながら、頭でイメージする。
自分に魔力がどれだけあるかわからないが、そう何度も使えないと考えたほうがいいだろう。
必ず成功させるつもりで集中する。
まず頭でイメージして、何度も何度も頭の中で繰り返して、それから実際にやってみる。
「すー……ふー……」
深呼吸を一つして。
体を包むすべての暖かい何か…魔力を右手に込めるような感じで力を溜めていく。
そしてそれを、手のひらから水として解き放つようなイメージで……。
慎重に慎重に、少しずつ、少しずつ……。
水、水、H₂O、H₂O…。
感じる魔力を水に変換して、空中に出現させる。
「ハッ!!」
瞬間、手のひらの上に再び水球が現れた。
…ん?あれ?今詠唱したか?
あっ、水球は浮力をなくして落ちてしまった。
あれ、ていうかなんで質量をもった水が浮いていたんだろうか。
いやそれより、今、詠唱しなかったよな?
んんー??
とりあえずもう一回、と思ったが
なんとなく体を覆う魔力が減ったように感じる。
あと何回出来るだろうか。
なくなったらどうなるのだろう。
「まぁ我慢できるわけもなし。死にはしないだろう」
おそらく最悪でも気絶するぐらいだろう。なくなって死ぬようでは魔術師なんてやってられないだろうし。
「というわけで、もう一発」
と、右手を前に出してみると、妙にだるい。
ランニングの後のような気だるさだ。心拍数も少し上がっているかもしれない。
すごい疲労感だ。
しかし、これからも魔法を使っていくのならこれくらい慣れなければいけない。
むむむむむ…。
「よし!来い!」
気合を入れて魔法を発動したところ、水球が出てすぐあえなく気絶してしまった。
___
「もう、リオンったら、眠くなったらちゃんと呼ばなきゃダメでしょ?」
起きた時には、読書中に居眠りして、そのままおねしょをした事になっていた。
恥ずかしい。
いやまだ二歳なんだし普通と言えば普通なのだが、魔法の跡をおねしょと勘違いされるとは…不覚。
次の日は、水弾を四つ作っても平気だった。
五つ目で疲れを感じた。
「あれ、これ確実に増えてるな……?」
昨日の経験から、次の一発で気絶するとわかっていたので、ここでやめておく。
で、考える。ふむ。
魔術の教科書には魔力は増えないと書かれていたが…。
もしや幼少期に使用すると増えるのだろうか。
いや、まだ単に魔力が成長途中という可能性もあるか。
明日の使用限度回数でどちらかわかるだろう。
___
そして翌日。水弾を作れる回数が増えた。
十一個だ。
この二、三日にこれだけ増えたことを考えると、どうやら使えば使うほど増えるようだ。
もし本当にそうなら、明日は二十一回になっているはずだ。
翌日、やはり作れる数が二十一個になっていた。
予想通り使った分だけ増えていくと考えて間違いないようだ。
(子供のうちにしか魔力は伸びない…?)
魔術教本に書いてあることを鑑みるに、可能性があるのはそれだ。
普通に考えて、二歳児は魔法を使えないだろう。
理論を理解できるとも思えないし、第一危ない。
魔術教本に書いてある常識と自身との差を考えて真っ先に思いつくのがそれだ。
いや、そう結論付けるのはまだ早い。早いし、尚且つ魔力を限界まで伸ばして安全ともわからない。増やしすぎて身体に不具合を起こすようでは本末転倒だ。
それに、僕だけ特殊体質という可能性も大いにある。
なんたって転生者だからな。
とりあえずはこの習慣を日課として続けるが何かしら異変があったらすぐにやめよう。
少し増やすだけでも危険という可能性もないではないが、そんなことを言って、結果家族を守れなかった、では話にならない。
この世界だって、魔力だなんだとファンタジーなものが存在しているが、人間の体の構造は変わらないはずだ。
人間は自爆するほど弱くはない。
なら、やることは一つだ。
成長期が終わる前に慎重に魔力を鍛えられるだけ鍛える。
___
翌日から、限界まで魔力を使っていく事にした。
同時に、使える魔術の数を増やしていく。
感覚さえ覚えれば、無詠唱で再現することは簡単だ。
とりあえず、全系統の初級魔術は完璧にしたいと思う。
目標は生活に活かせるぐらいスムーズに、尚且つ精密に扱えるようにすること。
基本をおろそかにすると、必ずあとで問題が起きる。
基本を極めることが大成への第一歩となる、と父さんにも教えられた。
ちなみに初級魔術というのは、文字通り攻撃魔術の中で最も低いランクに位置する。
水弾や火弾はその中でも、特に入門的な位置づけにある初級魔術だ。
魔術の難易度は七段階に分かれている。
初級、中級、上級、聖級、王級、帝級、神級。
一般的に一人前と呼ばれている魔術師は、
自分の得意な系統の魔術が上級まで使えるが、
他の魔術は初級か中級までしか使えないらしい。
上級より上のランクを使えるようになると、系統に応じて火聖級魔術師とか水聖級魔術師とか呼ばれて一目置かれるのだとか。
しかし魔術教本には、火・水・風・土系統の上級の魔術までしか載っていなかった。
聖級以上の魔術が書かれた本はないのだろうか…。
いや、まだ上級すら使えるようになるかわからないのだ。
先のことを考えるのはそれが扱えるようになってからでも遅くない。
教本に書かれている水系統の初級魔術は、水弾、水盾、水矢、氷撃、氷刃の5つだ。
氷も水系に含まれるらしい。
ひと通り使ってみたところ、攻撃するなら氷の方が便利だと感じた。
また、魔術は生成、形成、射出の3段階で発動することが分かった。
詠唱をすると、生成する属性、生成したものの形、射出速度が一定で発動する。
相当慣れなければ戦闘中に無詠唱で発動はできないだろう。
なぜなら無詠唱でやる場合は、それらの過程を手動でやる必要があるからだ。
生成では想像力を必要とし、形成では精密な魔力操作を必要とし、射出では速度や方向などの演算能力を必要とする。
奥が深い、そして難易度は高い。
しかし、だからこそやりがいがある。
家族を守るうえでこの鍛錬は必ず役に立つ。
それに、魔法が使えるという事実が僕に無限にやる気を起こさせる。
現実に魔法が使えるんだ。やらない理由はない。
課題は、魔力総量を上げること、息をするように無詠唱で魔法を使えるようになることの2つ。
これも家族を守るため、そして魔法を自由に使うため、僕は鍛錬を開始した。
そうして、僕は毎日、気絶寸前まで初級魔術を使い続けて過ごした。
私:いや前世に何があったんや、リオン君。
俺:自分のことおれって言ったり僕って言ったり、父さんだったり父さまだったり、せわしないやっちゃなぁ。
僕:(なんでみんな似非関西弁?)ていうか、リオン君、冷静すぎる上に賢すぎん?
主人公のチート
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