人生万事、塞翁がウマ娘   作:tadas

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ルドルフ、デートの尾行をする。

 

 

 

・・・また、だ。

 

 

まるで観察されているような視線。

 

 

私は注意深くウマ耳を使って周囲を警戒する。

 

 

 

ーーーつけられているような様子は・・・ないな。

 

 

 

 

私、リトルトラットリアは、今日はトレーニングがオフだったので商店街で買い物を楽しんでいた。

そして今は商店街から寮への帰り道。

まだ寮の門限には随分時間があるけど、あたりは少しずつ夜へと姿を変えていく時間だ。

 

 

 

そんな中、本日、何度目かになる違和感を感じ、自然と警戒を強めながら帰路を急ぐ。

 

この視線に、私が感づいていることを悟られない方がいい気がする。慎重に・・・

 

 

 

 

 

視線、とはいっても具体的にどちらの方向からとか、そういったことがわかるわけではない。

違和感を感じる、程度だ。

 

 

 

 

最初は自分の勘違いかと思った。

 

まさか、自分にそんな事が、うぬぼれすぎじゃないかと。

 

 

 

だけど・・・こう何度も同じ違和感を感じる以上、これを勘違いで済ませるのはいくらなんでも不用心がすぎる気がする。

 

それに・・・この視線・・・なんか、かなり気持ち悪い。

 

 

 

 

 

あまり考えたくはないが、ある推測が頭をよぎる。

 

自然と帰路を急ぐ足も早くなる。

 

 

 

 

・・・・・私、もしかしてストーカーに狙われてるかもしれない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「・・・・・ってことがあったんだけど。みんなどう思う?やっぱり自意識過剰かなぁ?」

 

 

いつものトレーニング終わり。

 

私、スリヴァッサは唐突に投げ込まれた話題についていけず、思わずフリーズしていた。

 

 

それは、コロネットやルドルフ先輩、それにトット先輩とシャワールームで着替えているときだった。

 

トット先輩からまるで、世間話のついでのようにこの話を聞かされたのは。

 

 

いつもは寮の夕食の話題や座学のテストの話題などそれこそどうでもいい、と言えるような話題に華を咲かせながらワイワイ着替えている時間。

 

少なくともこんな飛んでもない話題をぶち込んでくるようなシリアスな時間じゃない。

 

 

 

「・・・・え?先輩・・・・マジで言ってるんスか?」

 

なんとか返した返答がこれだ。

 

 

「あ、やっぱり自意識過剰だよね!ごめん、忘れて!忘れて!」

 

慌てて話を流そうとするトット先輩。えぇ?もしや・・・わかってないのか?この先輩は。

 

 

「いや、そっちじゃねーっス。・・・先輩、自分の立場わかってます?」

 

「・・・・へ?」

 

あ、これ、わかってない顔だ。

 

 

 

「トット。スリヴァッサのいう事はもっともだぞ。君は自身に対する世間の評価をきちんと認識した方がいい。」

 

ルドルフ先輩もすぐに同意を示してくれた。そーっスよね?これ、自意識過剰とか思ってるトット先輩の方がおかしいっスよね?

 

 

 

 

 

 

少し前の話になるが、今年も日本ダービーが行われた。例年にもれず今年も様々なドラマがあり、クラッシックレースの一大イベントに相応しい、熱い初夏の祭典だった。

 

そして、ダービーが終わると世間はその結果に賛美を送りながらも話題は次の事柄へ移っていく。

 

すなわち、次の”菊花賞”の話題と、”来年のダービー”の話題だ。

 

 

そして・・・次の日本ダービー。つまり来年のクラッシック3冠。次世代を担うことになるウマ娘たち。

その手の話題で最近は割と目にする名前がある。

 

 

”リトルトラットリア”

 

 

つまりトット先輩だ。

 

 

 

 

トット先輩は先日のG3殴り込み以降はオープン特別のレースにしか参戦していない。

 

 

しかし。

 

そもそも学園内の選抜レース未勝利、どころか入賞すらしたことがないウマ娘が重賞と取っている事態で、もはや異常事態なのだ。

 

 

 

そして、それはすぐに学園内で話題になった。

 

当然だと思う。選抜レースで結果を残し、順調にトレーナーがついたウマ娘ですら重賞で一勝もあげれずに引退することなど珍しくない。

 

それが。

3年間も学園内で結果を残せずにいたウマ娘が、新バ戦を一着で駆け抜け、さらには重賞で勝利を納めた。

 

しかも、2位と8バ身差という大勝で。

 

 

 

学園内の選抜レースの結果など、世間での目で見れば些事でしかない。

注目しているのはレースの関係者か在籍中の学園生くらいのものだろう。

 

しかし、今もって学園での選抜レースで結果を残せず、トレーナーがついていないゴマンといるウマ娘にとっては些事どころか大事件だった。

 

 

 

 

最初は学園内に在籍する生徒間のウマッターでの話題が中心だった。

 

選抜レース未入賞のウマ娘にトレーナーがつき、しかも重賞をとった。

まだトレーナーすらついていないウマ娘にとっては”希望”ともいえるニュース。

 

”すごい” ”かっこいい” ”いつか私も” 

 

最初はそんな憧れが多かったと思う。

 

 

 

そしてそれはSNSを通して次第に学園の外へと拡散していく。

 

 

その投稿を目にして次に注目したのはトレセン学園に入学するも芽が出ず、自主退学した元生徒。

自分の限界を悟り、アスリート以外の道を選んだウマ娘達。

 

そんなウマ娘達にとって、トット先輩ほど応援したくなるウマ娘もそうはいないと思う。

 

 

自分と同じ苦汁を舐め続け、それでも諦めずにレースで結果を残したウマ娘がいる。

しかも、まだシニアクラスなどではなくジュニアクラス。

 

クラッシックという大舞台がまだ控えているのだ。

当然応援にも熱が入る。

 

 

 

まだSNSが中心とはいえ、そこまで世間の応援に熱が入れば当然、マスコミだって飛びついてくる。

 

今ではそのスパート時の地を這う低い姿勢や群を抜く加速力から超低空ミサイルの名をとって”リトル・シースキマー”などという二つ名までつけられている。

 

 

 

つまり・・・・自意識過剰どころの騒ぎではない。むしろ注目度で言えば、話題の中心にいるウマ娘の一人と言っても過言ではないのだ。この先輩は。

 

自分が先日、ジュニアクラスでありながら雑誌の取材まで申し込まれていたのをもう忘れているのだろうか?

 

 

 

 

「先輩・・・・これ、即刻トレーナーに相談して指示を仰ぐべき案件っス。マジで。」

 

「え・・?え・・・?でも、そんな、こんな勘違いかもしれないことでトレーナーさんを巻き込むわけには・・・」

 

「先輩~?それ、トレーナーさんに言ったら割と本気で大目玉くらいますよ~?試してみます~?」

 

コロネットも笑顔で圧をかける。いいぞもっとやれ。この先輩、危機管理甘すぎだ。

 

「あ・・・じゃあ、今回のこれ、初めてじゃないんだけど、それは言わない方がいいのかな?」

 

 

 

 

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

 

 

全員言葉を失った。

 

 

 

 

「先輩・・・いつからっスか?」

 

「3週間くらい前からかな?学園の外に出ている時だけだからホント最初は勘違いかと思ってて・・・」

 

「先輩。大目玉くらってください。」

 

「え?ええ?それ・・・・内緒にするわけには・・・・」

 

「いかないな。犯人に3週間も猶予を与えてしまった。トットが気づく前から狙われている可能性もある。事態は一刻を争う。この後のミーティング、予定を変えてもらおう。[[rb:戮力協心 >りくきょくきょうしん]]にて対策が必要だ。」

 

ルドルフ先輩の意見にあたしとコロネットが頷く。

 

 

先輩・・・もうちょっと自分の注目度とか意識してください・・・・

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「なるほど。そしてそれは少なくとも3週間は前から・・・ということか。」

 

「はい・・・・」

 

 

こ、怖い・・・トレーナーさんが・・・怖い。

私、リトルトラットリアは今まであまり見たことがない雰囲気のトレーナーさんに完全にたじろいでいた。

 

 

 

今は、着替えも終わり、いつものトレーナー室でのチームミーティング。

 

ミーティングテーブルを囲って私、トレーナーさん、ルドルフ先輩、ヴァニィちゃん、コロちゃん、ぱかプチルドルフ(大)が顔を突き合わせている。

 

 

いつもは今日の練習の講評から今後の予定に合わせた調整、他のチームの動向やレースが近い場合は対抗バの対策などに使われている時間だ。

 

 

しかし、ルドルフ先輩からの直訴を皮切りに本日は私のストーカー対策本部と化している。

 

な、なんか・・・申し訳ない気持ちに・・・・

 

 

 

「でもトレーナーさん、私の自意識過剰の可能性も多分に・・・」

 

「ない。」

 

 

 

・・・・へ?

 

私の意見を遮っての即答。いや、ないこともないんじゃないかと・・・・

 

 

「トット。今日まで報告がなかったことには百歩譲る。だが、今後に関してはダメだ。おまえ、俺にとっておまえがどんなに大切か全く理解できてないな。いいか。今後はおまえの勘違いなどの事態は一切想定しない。次、自分を軽んじた発言をしたら俺の逆鱗に触れると思えよ。」

 

 

「ん・・・あ・・・はい///」

 

 

と、トレーナーさん・・・気持ちはわかりましたので、その、言い方もう少し気を使ってもらえると・・・

 

トレーナーさんの真剣な表情と言葉に顔に熱が集まってくるのを感じる。

 

 

 

ああぅ・・・!ルドルフ先輩がこっち見てる!見てるぅ!!!

 

 

 

 

「でも、具体的にどうしましょう~?今の段階では、警察も警備も動きようがないですよね~?」

 

 

コロちゃんが具体的な対策について言及を進めていく。

 

ん~・・・たしかに。

 

まだ”視線を感じる”程度の話なのだ。実害はおろか、尾行された形跡すらない。

だが・・・この視線がはっきり言って気持ち悪い。

 

まるで・・・なにか私の行動パターンを研究されているような・・・・

 

 

「学園の方には俺の方から報告を入れておく。だが・・・コロネットの言う通り、犯人逮捕などに動いてもらうのはキツイだろうな。精々が見回りなどの警備体制の強化だろう。しかも事態は学園の外だ。学園ができることも限られる。」

 

「生徒会からも呼び掛けてみるが・・・今できる対策は一緒だと思う。トットが不用意に外出しないのが効果としては得策だが、今後ずっと外出しないというわけにもいかないだろう。故郷から両親がお見えになることもあるだろうし、ずっと一人で外出しないというのは現実的ではないな。」

 

ルドルフ先輩もすぐに気持ちを切り替えてくれて具体案に参加してくれている。

 

うん、さっきの私悪くないもんね!トレーナーさんにあんな言い方されたら誰だって赤くなるもんね!

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

その後、様々な意見を出してもらうが・・・一様に問題になるのが今の被害状況だった。

今の段階で公的な力に大々的に介入してもらうのは難しい。

なにせ、「よくわからないけど、気持ち悪い視線を感じる」程度の話なのだ。

 

 

だけど・・・トレーナーさんをはじめ、みんなは様子見などをするつもりは一切ないようだった。

真剣に今できる対策を考えてくれている。

 

ほんと・・・みんないいヒトたちだなぁ・・・・

 

 

 

 

 

 

「いっそのこと・・・おびき寄せるのはどうっすか?実害があるレベルまで」

 

「ん?ヴァニィちゃん、どうゆこと?」

 

「トット先輩を襲わせるんス。警察も警備も動かざるをえないように。」

 

「え”?」

 

 

 

あれ?いいヒトたちだと思ったばかりなんだけど・・・・?

 

 

 

え?私・・・襲われるの・・・?

 

 

 

 

「アリ、かもしれませんね~。少なくともすでに3週間経っているわけですし。もし犯人がトット先輩になにか危害を加えるつもりなら、もう準備が終わってる可能性もあります~。」

 

 

コロちゃんがヴァニィちゃんの意見に同意を示す。

 

えぇ・・・か、考えすぎじゃない?相手はこのトットですよ?!

 

 

「・・・アリだな。今の段階ではそのストーカー野郎がどの程度のことを企んでいるかわからないが、行動に移してもらえばそれも把握できる。なにより、襲われるとわかっていればこちらもそれ相応の準備をもって当たれる。」

 

 

トレーナーさんまでヴァニィちゃんの意見に同意する。

 

い、言ってることはわかるんだけどぉ・・・でも、あの視線、かなり気持ち悪いんだけど・・・

 

 

・・・なんかどんどん私が襲われる方向にいってる気がしません?

 

 

 

「トットを襲わせるとして、具体的にどうする?いままで行動に移していない犯人だ。そう都合よくトットを襲ってはくれまい。それに、流石にトットが1人の時に襲わせるわけにはいかない。とはいえ、ウマ娘が複数いるときには流石に襲ってこないのではないだろうか?」

 

ルドルフ先輩まで私が襲われる仮定の話をつめている・・・

 

 

私のためにみんなが私を襲わせようとしてる・・・

 

 

 

「あ、それは単純に効果がありそうな方法でいきましょう。犯人は学園の外、しかも今はただ観察を続けて様子をみている。そして、まるで先輩の行動を把握するかのような気持ち悪い動き・・・これは、犯人はウマ娘じゃなく、膂力で劣るヒトの男性がトット先輩に恋慕に近い執着をもっている可能性が高いっス。つまり、その方向で煽ればいいっス。犯人を。」

 

「冷静に分析されるとますます気持ち悪い・・・で、具体的にどうするの?ヴァニィちゃん。」

 

「さっきも言った通り、単純な方法っスよ。トット先輩がトレーナーとデートすればいいっス。すんごい濃厚なやつ。犯人がおもわず飛び出してくるような。」

 

 

 

 

 

「「ええぇ?!!!」」

 

 

 

 

あ、ルドルフ先輩・・・被った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・・こちらアルファ。ブラボー、チャーリー、首尾はどうスか?」

 

『こちらブラボ~!準備いいですよ~』

 

『こちらチャーリー・・・・おい、ほんとにこの軍隊ごっこは必要か?』

 

「気分っスよ!気分!トレーナーだって最初ちょっと乗ってたじゃないっスか!」

 

『いや、こう現場に出てみるとな・・・ふざける場合じゃないな、と。』

 

「途中で裏切るのはナシっスよ。でもそうですね・・・・気を引き締めていきましょうか。」

 

 

 

 

 

 

・・・・私は・・・一体何を見せられているのだろうか?

 

眼前では私の大切なトレーナー君と後輩のトットが二人でデートの真っ最中だ。

 

 

 

もちろん、抵抗はした。

 

別にデートの相手はトレーナー君ではなくて別の男性でも良いのではないかと。

 

 

 

 

 

・・・トットに。トレーナー君の他に懇意にしている男性がいなかった。

 

 

仲が良い、という括りで遡ると次に該当するのは故郷にいる幼少の頃によく遊んだ男の子だそうだ。

ちなみに、顔は覚えているが名前はわからないらしい。

まさかそんな相手に「トラットリアがピンチだから体を張ってほしい」などとは言えるわけもなく・・・

 

必然的にトレーナー君以外に選択肢がなかった。

まぁ、トレーナー君も、自分の教え子が襲われるであろう事態を誘発する今回の計画を、他のものに任せるとも思えないが・・・

 

 

 

私とスリヴァッサが今いるのは商店街の入り口付近にある喫茶店の中。

古い木目調で落ち着いた佇まいの、いかにも下町の喫茶店だ。

個人的に来たこともある。

 

もちろん、入店直後に怪しい客がいないのは確認済だ。

 

そしてトレーナー君とトットは窓ガラスと道を挟んで商店街の向かい側。

今は、雑貨屋でなにやら物色している。

トットの休日の行動パターンとして、この雑貨屋は最初によく訪れるらしい。

 

 

 

私たちはイヤホンとマイクを使い、常にオンラインで全員同時に連絡が取れるようになっている。

 

 

 

「ちょ、チャーリー・・あれ?ブラボーだっけ?・・・ええいまどろっこしい!トレーナー!固い!固いっス!なんすかその距離感!デートっすよデート!いつもルドルフ先輩相手でもそんなっスか!甲斐性なしっスか!」

 

 

・・・そして今はスリヴァッサにトレーナー君がダメ出しをされているところだ。

 

 

 

『無茶言うな。ルドルフじゃないだろうが・・・』

 

「無茶でもやるんスよ!トレーナー絶対に犯人に顔割れてるんだから必要以上にイチャつかないと、ただのトレーナーと担当ウマ娘の買い出しっスよ!手を握れ!肩を寄せろ!ちょ、ルドルフ先輩もなんか言っていやってくださいよ!あのへっぴり腰!」

 

「スリヴァッサ・・・ここでトレーナー君がなんの戸惑いも見せずにトットとイチャつきだしたら、それはそれで私は複雑なのだが・・・」

 

 

 

 

 

トットの話を聞くかぎり、犯人は転々と移動しつつ、定位置からトットを観察しているようだ。

おそらく、ウマ娘の聴力や感性を警戒して必要以上に近づかないようにしているのだろう。

 

3週間前時点ではトットが気づいた視線は3回。2週間前時点で5回。先週はもう数えきれていないらしい。

 

・・・トットの行動を読む精度が上がっている。

 

もし、本当にトットに危害を加えるつもりだとすると、もういつ動いてもおかしくないのは確かだ。

冗談抜きであまり猶予はない。

 

 

 

それに対して、こちらの布陣はまず囮役のトットとトレーナー君。

そして捕縛役の私とスリヴァッサ。

 

私とスリヴァッサはすぐにでも二人の元に駆けつけることができる位置に陣取っている。

ただ、相手が定点で動かず観察をしている以上、私とスリヴァッサが単純にトレーナー君の後をつけるわけにはいかない。

 

そこで予めデートコースをばっちり決め、私たちはそのポイントに先回りする形で二人の監視をしている。

 

 

しかし、それだけだと先回りする都合上、どうしても移動の際に二人から目を離す時間が出てしまう。

 

 

そこを補完するのが、私たちよりさらに遠くから単独で監視をしているコロネットだ。彼女はもし有事になった際にすぐに現場に駆け付ける事が不可能な代わりに、速攻で警察と警備にホットラインを繋ぐことができるように用意している。

 

私たちとコロネットは移動する際にどちらか片方が監視をする取り決めになっているので、基本的にトットとトレーナー君はずっと誰かしらの監視下にあることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~も~。ルドルフ先輩、トレーナーになんか言ってやってください。コレ、先輩から言わないとダメっスわ。」

 

 

・・・スリヴァッサ。君は鬼か。

 

 

「あー・・・トレーナー君。私も大変不本意ではあるが・・・トットの安全には変えられない。不本意ではあるが・・・イチャついて欲しい。」

 

 

不本意と2度も言ってしまった。

 

・・・・だって不本意なんだもん。

 

 

 

 

『・・・・しかたない腹を括るか。トット。おまえも覚悟を決めろ。』

 

『ひっ!ひぁい!!よ、よろしくおねがいしましゅ!!!』

 

 

・・・トットだってガチガチじゃないか・・・・

 

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

 

あば、あばばばばばばばば

 

 

ち、近い・・・・トレーナーさんが・・・近い・・・・

 

 

手!手が!手汗が!やばい!私、今、ぬるぬるなんじゃないかな!!大丈夫かな?!

 

 

 

男のヒトとデートという事自体がそもそも初めての経験なのに。

 

手を繋いで歩くことなど想像すらしたことがなかった。

 

 

あぁぁ・・手が!体温が!あったかい!きもちいい!なにこれ?!

 

トレーナーさん手・・・男のヒトの手だ・・・

 

 

 

こんな有様でよく逆スカウトを仕掛けた時はコレ以上のことを自分から持ち掛けたもんだ・・・

あの時は完全に掛かってたなぁ・・・・

 

 

 

休日によく来る雑貨屋。かわいい雑貨をたくさん置いているのと、とある私の趣味を満たしてくれるのでほとんど常連といっていい頻度で通っている。

 

「あらぁ?あらあらあらぁ?トットちゃん、今日はかわいい恰好ね。そちらは彼氏?」

 

 

当然、店員にも顔は割れている。

彼女とはいつも訪れた際には雑談をする仲だ。

 

 

「は、はい!デートでしゅ!」

 

 

今日はフリフリのフレアスカートを着てきた。

買ったはいいものの恥ずかしくて一回しか着てないやつ。

 

それにしても・・・呂律が・・・回らないよぅ・・・・

 

 

「ふふ・・・かわい。ゆっくりしていってね。あ、そうそう。新作入ってるわよ。」

 

「ほんとですか?!」

 

 

店員のその言葉を聞き、さっきまでのガチガチだった私の緊張が吹き飛んだ。

 

わたしのウマ耳がピンと立ったのが自分でもわかる。新作!やっぱり地元の田舎より入れ替えのペースが早い!わーい!

 

 

「トット。新作って?」

 

「ガチャガチャ!」

 

 

私はトレーナーさんと手を繋いだまま急いで雑貨屋の1Fと2Fを繋ぐ階段の踊り場を目指す。

 

 

目当ては踊り場に設置してあるカプセルトイのコーナーだ。

ここは数こそそんなに多くないものの、私の琴線に触れるラインナップのカプセルトイを設置している。

たぶん感性が私とここの店長で似通っているんだろう。

 

私のとある趣味・・・ガチャガチャ集めだ。

 

 

 

「わぁ・・・・!”沈黙のカンガルー”シリーズの・・・新作だ!!」

 

「おおぅ、なんだこれ、なにひとつとしてかわいくねーな・・・トット、これがいいのか?」

 

「かわいいじゃないですか?!・・・やっていい?やっていいですか?トレーナーさん!!」

 

「お、おお・・・」

 

 

 

若干トレーナーさんが引き気味な気もするけど、気にしない!かわいい!!!

 

 

私のガチャガチャにはマイルールがある。同じ機種は1日2回まで。歯止めをかけないと簡単に散財してしまう自分を戒めるためのルールだ。

 

 

「むむむむむ・・・・一投入魂!いきます!」

 

「おまえ・・・ゲート前みたいな顔してんな・・・」

 

 

 

 

『ちょっとお二人さん!全然色っぽい雰囲気じゃないんスけど!お父さんと娘みたいになってるんスけど!修正してください!』

 

 

・・・ヴァニィちゃんから突っ込まれてしまった。

 

でもこれは回すもんね!突っ込まれちゃったから一回だけ!

 

 

 

魂を込めてガチャガチャを回す。

 

とりゃぁーーーー!

 

 

 

 

ーーーガチャガチャ・・・・コトン。

 

 

 

 

「あー寝転んでるやつだ・・・こっちの立ってるのが良かったけど・・・・仕方ないか。」

 

 

一番狙いのものは外してしまった。仁王立ちでこっち見てるやつが欲しかった。これもかわいいけど・・・・しょうがない。また今度にしよう。

 

 

 

 

「んん?300マニー?今のガチャガチャって100マニーじゃないんだな。」

 

 

あれっ?!

 

 

気が付いた時には隣にいたトレーナーさんが同じガチャガチャを回していた。

 

 

 

 

ーーーガチャガチャ・・・・コトン。

 

 

 

 

「お?これじゃないか?トットが欲しいやつ。」

 

「ええ?!あ、ほんとだ!いいなぁ!トレーナーさんいいなぁ!」

 

 

トレーナーさんは一発で私が欲しかったものを当ててしまった。

むぅ・・・物欲センサーか・・・

 

 

「いや、いいなぁ・・・ていうか。やるよ。もともとお前にやるつもりで回したんだし。」

 

「へ?」

 

突然の申し出にへんな声が。え、いいんですか?

 

「いや、”へ?”じゃなくて。デートだろう?今日。この流れで”やーい、いいだろう~?”とはならないぞ、普通は。・・・ほらよ。」

 

 

「あ・・・はい・・・ありがとう・・・ございます・・・」

 

・・・初めから、私のために・・・?

 

 

 

トレーナーさんから目当てのガチャガチャを受け取る。

 

 

 

 

 

 

・・・・・なんだろう。言葉にならない。

 

 

 

さっきまでは、ただただデートということで緊張していた。

 

異性とオシャレして出かけるのも。手を繋いで歩くのも。初めてだったから。

 

 

 

でも今・・・急に実感してしまった。

 

 

今日は。いつものルドルフ先輩が隣いるトレーナーさんじゃないんだ。

私とデート・・・私を甘やかしてくれる。ルドルフ先輩じゃなく、私を。

 

 

そこにいることを、望んだことはなかった。考えたことすらなかった。

 

その場所は・・・もう私がトレーナーさんと出会う前からルドルフ先輩が座っていた。

 

 

 

【トレーナーさんの隣】

 

 

 

今だけは、そこにいるの・・・私なんだ。

 

 

ーーー今日だけは。今、この瞬間も。

 

 

心臓が早鐘のように脈打っている。

みんな、私の為を思ってこの作戦を考えてくれたんだ。こんなの不謹慎だ。

 

わかってる。

 

でも・・・止め方が・・・わからない。

 

 

 

「あ、あの。雑貨の方も少し見ていいですか・・?」

 

「ああ、いいぞ。」

 

 

なるべく自然に彼ともう一度手を繋ぎ・・・次は指を絡めてみる。

所謂恋人繋ぎ、というやつ。

 

 

 

 

トレーナーさんは一瞬だけこちらチラっと見たが、特に振りほどこうとはしなかった。

 

 

 

ーーー今日だけ・・・許される。今日だけの、特権。

 

 

 

 

 

 

『おや・・・なにやらいい雰囲気になってきてるっスね。トット先輩のスイッチがよくわからないですけど・・・このままいきましょうか。』

 

『トレーナー君!ほどほどに!ほどほどに頼むよ!』

 

『いや、ルドルフ先輩。今日はがっつりイチャついてもらないと・・・』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

最初はトット先輩もガチガチだし、トレーナーは遠慮がちだしでどうなることかと思ったけど、案外デートは順調に進んでいた。

 

 

あの後。トット先輩とトレーナーの二人はしばらく雑貨屋でぶらぶら物色したあとにあたしとルドルフ先輩が陣取っている喫茶店に入店。

 

そして戦利品を並べてはしゃぐトット先輩とトレーナーはお茶を少し楽しんだあとにここを後にした。

 

 

 

今は場所を移動してかなり周囲の見渡しがきく大きな公園のベンチで二人寄り添って話をしている。

 

その様子は・・・どこからどう見ても完全にデートだ。

 

 

 

あたしたちはそこを目視できる比較的近い、公園外のカフェのテラス席。

コロネットは基本遅れて動くので今は近くのファーストフード店の3Fに移動している途中のはずだ。

 

 

 

 

今の問題は・・・こっちか。

 

 

自分の隣にいるルドルフ先輩を横目で見る。

 

今はじっとトレーナーとトット先輩の二人を見ている。

感情は・・・読み取れない。

 

 

 

ルドルフ先輩は・・・さきほどの喫茶店を出たあたりから、明らかに雰囲気が変わった。

 

 

 

そしてそれは・・・トット先輩が原因だ。

 

 

トット先輩はなにやら吹っ切れたのか、トレーナーに対して遠慮がなくなった。

今はベンチで二人で座って話をしているが・・・手は完全に恋人繋ぎ。

しかもそのままトレーナーの腕を抱き込んで、うっとりした表情で頭をトレーナーの肩に預けている。

 

見てるこっちが恥ずかしくなるくらいのラブラブカップルっぷりだ。

あんなに甘えた雰囲気を出すトット先輩をあたしは知らない。

 

 

ーーー正直、恋愛に疎いトット先輩がここまでするのは想定外もいいとこだ。

 

 

 

話をしている内容はこちらにも丸聞こえなので、別段、愛を囁き合っているわけじゃない。むしろ、他愛もない会話だ。友達がどうした、この前お母さんが、そんな内容。

 

 

でも・・・不思議と恋人同士のようにしか見えない。

 

 

そしてルドルフ先輩は・・・そんな二人を見て、明らかにそれとわかる敵意をトット先輩に飛ばしてしまった。

 

トット先輩が、ストーカーの視線と勘違いして、慌ててしまう程の。

 

 

今は、今回の作戦の意味がなくなってしまうので抑えてもらっている。言われて感情をコントロールできるこの先輩もスゴイけど・・・代わりにその他の感情も読み取れなくなってしまった。

 

 

 

 

 

実は。

 

トット先輩の今後の身の安全が第一。今回の作戦はそれがまず第一条件ではあるのだけど・・・

 

あたしは密かに今日、確認しておきたいことがあった。

 

 

 

トット先輩とトレーナーがデートしているときのルドルフ先輩の反応だ。

 

 

 

あたしは。トレーナーが好きだ。

 

あたしは独占欲があまりなく、トレーナーが幸せそうにしているのならそれを見れればあたしも幸せ。別に誰と一緒にいてくれてもいい。強いて言うなら彼の子供は欲しい。そんな願望がある。まぁ、できたら話を聞いてもらいたい、触れてもらいたい程度の気持ちはあるんだけど。

 

そしてトット先輩。彼女は恋愛関係に疎かったのでそれとわかる自覚はしていないようだったが、どこからどうみてもトレーナーに心底惚れていた。依存、と言い換えてもいいレベルに。

 

 

よくわからないが、たぶんコロネットも憎からずと思っているはずだ。トレーナーのことは。

 

 

そんなあたしたちが相思相愛のトレーナーとルドルフ先輩と今後も一緒にいるためのひとつの方法。

 

 

 

”ウマ娘の婚姻に関する特別法の行使”

 

 

ウマ娘は執着や競争心がヒトよりも強い。

それ自体よく言われることではあるが、実のところレースなどに出ていない一般的なウマ娘だとしても等しく強い執着がある。

 

子供だ。

 

子孫・・・と言い換えてもいい。

 

あたしたちウマ娘は同族では種の保存ができない。同種に・・・男性がいないのだから。

 

もし、この子孫を残す、という本能が日和っていたらあたしたちウマ娘はもうとっくに絶滅している。

恋愛観が擦れている自分にしたって、子供は欲しい。絶対に欲しい。

 

この欲求は本能に刻まれているものだ。

 

 

その分・・・競争心も強く働く。

 

つまり、荒事に発展しやすい。

 

ウマ娘同士ならまだいい。相手がヒトの女性だったり、間に挟まれた男性だったりした場合、それは怪我で済まないケースに発展することまである。残念なことに実例も少なくない。

 

そのための、特別措置。

 

 

ーーーウマ娘は、既に婚姻関係を結んでいる相手であっても、一定の条件を満たした場合、その妻と同様の戸籍を得ることができる。

 

 

あくまで結婚できるのは一人につき一人だけ。一夫一妻制を崩しているわけではない。

ただ、ここで得られる同様の戸籍とは、本当に同様なのだ。

 

具体的には特別控除などの税金の軽減以外のほぼすべての権利が妻と同様に付与される。

相続権や特別寄与、親権、離婚時の慰謝料請求、住民票の記載・・・・ほぼすべてだ。

 

事実上の重婚制度といっていい。

 

ただし、そのためには一定以上の所得や犯罪歴(特にウマ娘側の傷害罪などに関する前科の有無)など、さまざまな条件がある。

 

そして、その中の絶対条件の一つ。

 

夫婦両者の合意。つまりここでは・・・ルドルフ先輩とトレーナーの同意。

 

 

 

 

あたしたちは絶対にルドルフ先輩の、この独占欲が強い先輩の排除対象になるわけにはいかないのだ。なった時点で恐らくこの道はついえる。

 

 

 

今日、ここまでトット先輩がタガを外してしまいトレーナーに甘えているのも、それがルドルフ先輩をここまで煽ってしまうのもあたしにとっては想定外だ。

 

 

事態としては・・・結構まずい。

 

 

 

ただ・・・ルドルフ先輩を攻略するキーとなるもの・・・あたしはトット先輩だと思っている。

 

他力本願だとは思うけど、あたしには。コロネットにもきっと無理だ。

 

 

深く知る術はないけど・・・トット先輩とルドルフ先輩の初対面の印象は、最悪だったらしい。

一度だけ、トレーナーが冗談半分に言ったことがある。

 

”おまえ、ルドルフまた暴走させるつもりか”と。

 

そんなことまであって、なにがどうしたらこんなに仲がいい先輩後輩の関係になるのか想像もつかないけど。

たぶん・・・それをルドルフ先輩にできるのは、きっとトット先輩だけだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

場所は変わらず公園横のカフェテラス。

 

ベンチでイチャつくバカップル(あたしが煽ったんだけど)を監視したり、ルドルフ先輩の様子を窺ったりしながらその場でアイスミルクティをたしなみつつ既に20分少々。

そろそろ次の場所へ移動かな・・・などと考えていた時だった。

 

 

トット先輩に反応があった。

 

 

体勢は依然変わらぬまま。トレーナーに寄り添って穏やかにしているように見える。

 

だが、よく見ると体がこわばり、耳が前後左右にバラバラに動いている。

 

 

・・・・・トット先輩がかなり強い不安を感じている。

 

 

 

「トレーナー君」

 

先に動いたのはルドルフ先輩だった。

さすがは皇帝の二つ名を冠するウマ娘だ。一瞬で切り替えた。

 

『ああ・・・トット。いたか。』

 

『はい・・・あの・・・いつもより、たぶん近いです。』

 

『コロネット。そこから見えるか?』

 

『ん~見える範囲に怪しい動きのヒトはいませんね~。ちなみに単独行動している男性は3人です。でも~どう見ても3人とも仕事中ですね。1人は電話してますし~あとの2人もすぐにここから立ち去ると思います~』

 

『今の時点で犯人を男の単独犯に限定するのは良くないが、他に候補がなければ一応マークしていてくれ。ルドルフ、スリヴァッサ。ここだと周りに目が多すぎで恐らく犯人はなにもしてこない。場所を移動する。次はトットがよく行くカフェだ。先回り頼む。』

 

「「了解(した)」」

 

 

 

 

トット先輩のこの反応・・・

 

普段、ふわふわしているので見込みが甘かった。自分の観察眼の無さが悔やまれる。

 

先輩、相当不安を抱えこんでる。

 

 

トレーナーが隣にいてよかった。かなりの不安を軽減してくれるはずだ。

 

 

 

 

トット先輩をこんなに怖がらせるなんて・・・

 

 

ーーー改めて、怒りが・・・湧いてきた。

 

 

隣を見るとルドルフ先輩も同じ感情のようだ。

 

 

・・・ストーカーめ。ぶちのめしてやる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

公園からカフェに移動しながら、平静を装うように強がっているトラットリアの手を強く握る。

 

さっきまで。隣で幸せそうにおしゃべりしていた。

 

雑貨屋にいたときも。喫茶店でなにやらムキムキなカンガルーを並べてはしゃいでいたときも。

 

本当に楽しそうだった。

 

 

トラットリアは普段、あまりへんな見栄をはらないし、思ったことはすぐ口に出す。

楽しいときは本当に楽しそうにする。

 

 

そんなトラットリアが、今は自分の不安を俺に悟られまいと必死に無理して引きつった笑顔を浮かべている。

 

選抜レースで結果を出せないと一人でがむしゃらに頑張り、泣いていた頃のトラットリアでさえ、こんな顔はしていなかった。

 

 

ーーー絶対に、許さん。

 

 

 

「と、トレーナーさんは・・・大丈夫でしたか?あの、今日の視線、いつもよりずっと気持ち悪かった。たぶん、トレーナーさんにも向けられていたと思うんですけど・・・」

 

「あーすまん。トラットリア。ヒトはウマ娘ほど感性が良くないんだ。視線とか、そういうのはよほど武術とか、戦場にいた経験でもなければわからない。」

 

「あ、そうだったんですね・・・よかった。」

 

よくは・・・ないだろ。

 

思わずトラットリアにきつく当たりそうになった自分に辟易する。

 

違うだろ。これを向ける相手は・・・なにをやっている、俺は。

 

 

「と、トレーナーさんは、自分に危険が及びそうならすぐ逃げてくださいね。私はウマ娘ですから、トレーナーさんよりずっと丈夫ですし。」

 

「おまえは・・・気にするな。そんなことは。大丈夫だ。ルドルフやスリヴァッサもいる。その後ろではコロネットも。・・・大丈夫だ。」

 

 

トラットリアの肩を抱くように引き寄せる。

 

・・・震えている。

 

 

「トット。とりあえずランチにしよう。次はお前がよくいくカフェだ。・・・デートだからな。好きなもん頼め。」

 

「えへ、えへへ・・・いいんですか?後から制限かけるのはダメですよ?」

 

 

少しだけ・・・トラットリアが普通に笑った。

さっきまでの楽しそうなトラットリアには程遠いが。

 

 

「おまえは知らないだろうがな・・・俺は結構高給取りなんだぞ。お前が本気だしたくらいじゃ屁でもない。」

 

「ふふ・・・いいましたね?」

 

 

公園からは少し離れた距離とはいえ、元々徒歩圏内のカフェだ。もうすぐ着く。

 

少し・・・落ち着けてやれるといいのだが。

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「ごめんなさい、トレーナーさん・・・ここ、もういます・・・」

 

 

カフェについて席に座った直後、震えそうな声でトラットリアから報告があった。

 

時間帯、場所からコースを読まれたか・・・にしても。

公園を出る寸前まで、その気配はあったらしい。

 

同時に出たとして・・・なんで先回りが可能なんだ?

 

 

『コロネット。俺たちが公園を出たあとで走り出したやつなんかいたか?』

 

『いません~。公園内なのでランニングしている人はいましたけど、明らかにトット先輩の方を見ていたヒトはいませんでした~。』

 

「了解した。ルドルフ、スリヴァッサ。いるか?」

 

『すでに来ているよ。同じカフェ内の奥の方の席だ。入口付近の席のトレーナー君からは見づらい方向だろうが、こちらからは確認できる。ちなみに・・・私たちが入店後、ここに来たのはトレーナー君たちだけだ。』

 

「店内にはいないということだな。・・・トット。なにか食べれるか?」

 

「ごめんなさい・・・せっかく・・・ご馳走してくれるって言ってくれたのに・・・ちょっとここでは・・・」

 

「お前が悪い訳じゃない。気にするな。・・・各員、もうトラットリアが限界だ。ここでは俺だけ飲み物を頼んで10分後に移動する。予定より早いが決着をつけよう。場所はB地点にする。」

 

 

今回の計画の最終プラン。いくつか候補地を決めてあるが、いずれもホテル街の路地裏だ。

デートで散々煽っておき、その流れのまま、俺とトラットリアはラブホテルが隣接する地区に向かう。

 

そして、ホテルに入る前にまるで我慢ができなかったかのように路地裏にしけ込む寸法だ。

 

そこでストーカーをおびき寄せることができれば、場所は路地裏。

 

予め待機してるルドルフとスリヴァッサで挟み撃ちにできる。

 

それと同時にコロネットが通報するので、その場で犯人をどうこうしなくても、足止めさえしておけばジエンドだ。

そのためにコロネットは即通報できるよう、すべての候補地の地番を丸暗記している。5分も足止めすれば十分なはずだ。

 

 

『了解っス。トット先輩・・・あとちょっとっス。頑張りましょう。』

 

『トット。がんばれ。私たちがついているぞ。』

 

『わたしはカフェに入らず、外で待機してからB地点に移動しますね~。トット先輩。頑張りましょう~。』

 

「みんな・・・ありがとね。うん。がんばる。」

 

 

一抹の不安は・・・先ほどからのトラットリアの様子にどうも掛かっている雰囲気がする他のウマ娘3人だ。無茶・・・してくれるなよ。

 

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

『トレーナー君、B地点に到着した。いつでも大丈夫だ。』

『準備完了っス!』

 

「了解。・・・トット。移動するぞ。大丈夫か。」

 

「はい。・・・がんばるって、言いましたから。」

 

 

トラットリアを連れ立ってカフェを出る。・・・ここは、今度もう一度連れてきてやろう。

 

 

 

 

ーーーさて、勝負はここからだ。

 

 

「トット、これからの行き先はストーカーの予測範囲外のはずだ。先回りに動かれてはこちらも空振りになる。後をつけさせる必要があるから、思いっきり俺の腕にしがみつけ。」

 

「はい!」

 

ちょっとうれしそうだな・・・

 

ガシッ!っと音がする勢いで俺の腕にしがみつくトラットリア。

傍から見たら昼間っから目を背けたくなるようなイチャイチャバカップルの誕生だ。

 

密着することにより必然的に腕に当たる柔らかい膨らみ。

 

・・・意識するな。俺。正念場だぞ。

 

 

『・・・・・・・・』

 

 

無言で抗議を飛ばしてくるルドルフ。無線なのにどうやってんだ?

 

 

 

そして、その体勢のままB地点に向かう。

 

うあ・・・動くと余計に・・・

 

 

 

『・・・・・・・・』

 

 

ルドルフ!不可抗力だ!

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

 

「どうだ・・・?後、つけてきているか?」

 

「はい。所々視線が途切れはするのですけど・・・今はいません。」

 

「コロネット。俺たちの後をつけているやつ、いるか?」

 

『それがですね~いないんですよ~。ただ、私はかなり距離を取ってるので度々お二人の姿が見えなくはなるんですけど~』

 

「市街地だからな。距離をとっている以上、仕方がない。」

 

 

ここからB地点まであと10分程度。

 

こちらの方向にはあと、歓楽街とホテル街くらいしかない。

俺たちがどこに向かっているかなどは検討がついているはずだ。

確実に・・・ついてくるはず。

 

だが、不可解な点も気にかかる・・・そもそも先ほどのカフェ、どうやって先回りを・・・

 

 

 

「あ、トレーナーさん、また・・・・え?きゃーー!」

 

 

トラットリアが俺に報告をしようとしたのであろうその時だった。

トラットリアの言葉を遮って、白い軽自動車が俺たちの横をすり抜け、進路を塞ぐように車を止めた。

 

そして蹴破るようドアを開け、中から真っ赤な顔をした男が。

 

 

 

 

ーーーーしまった!!!!

 

 

やっと理解した。

 

徒歩の俺たちを先回りできた理由。後方から監視していたコロネットが見つけられなかった理由。

 

免許資格のない学生と普段ほとんど車に乗らない俺が立てた作戦だったのですっかり選択肢から抜け落ちていた。

 

こいつ・・・ずっと車の中からトラットリアを観察してやがったのか!

 

 

 

真相にたどり着いたが、状況は良くない。

 

ルドルフとスリヴァッサはB地点で待機中。ここまでウマ娘の脚で走っても5分はかかる。

 

後方のコロネットはそれより早く着くだろうが、あいつの筋肉は争いごとに向いていない。

無理させたら今度はコロネットの方が全身肉離れだ。

 

 

「おまえ・・・おまえ、トットちゃんをどこに連れてくつもりだよ!!おまえ、トレーナーだろ!トットちゃんとなにするつもりだよ!!おまえ!おまえぇぇ!!!!$%&'*#$###%&$'&&!!!!」

 

 

そうこうしているうちに、なにやら雄たけびを上げながら俺に突っ込んでくるストーカー。

 

まずい、あいつが腰だめに持ってるのは・・・

 

 

 

「トット!下がれ 「だめーーーーーーーー!!!」 」

 

 

 

ストーカーは・・・スタンガンを所持していた。

 

それをバチバチ鳴らしながら俺に突っ込んでくるのを見てしまったトラットリアは半狂乱で俺を突き飛ばしてしまう。

 

おい!そんなことしたら・・・・

 

 

 

 

 

 

 

バチィ!!!!

 

 

「があっ!かっ・・・はっ・・・・・」

 

 

 

 

結果、ストーカーのスタンガンは俺の代わりにトラットリアの脇腹に命中してしまった。

 

いくらウマ娘とはいえ、こんなものを食らえば無事では済まない。

 

 

トラットリアは脇腹を抱え込むように膝からその場にうずくまってしまう。

 

 

 

「おい!トット!トット!!!!」

 

 

 

すぐさまトットに駆け寄る。

大丈夫だ。スタンガンに殺傷能力はない。大丈夫。必死に自分に言い聞かせる。

 

 

「と・・・とれ・・・・」

 

 

よかった。意識はあるようだが・・・・とてもじゃないが動いてよさそうには見えない。

 

 

「大丈夫だ。トット、俺は大丈夫!無理するな!座ってろ!大丈夫だ!」

 

 

無線からはひっきりなしに状況を確認するルドルフとスリヴァッサの声が聞こえる。

 

走っているようだからこちらに向かっているのだろう。同時にコロネットが通報している声も聞こえる。

いい判断だ。

 

 

「な・・・俺、今はトットちゃんに当てるつもりなんか・・・おまえが、おまえが避けるから!!!」

 

 

ーーー今は(・・)

 

 

トラットリアにスタンガンを当て、動揺しているストーカーの言葉に血管がブチ切れそうになる。

 

 

今は(・・)??おまえ、それをいつ(・・)当てるつもりだった?

 

 

ーーーなんのためにそのスタンガンを用意したっ!!!!!

 

 

「てめぇ・・・!」

 

「ひぃ、ひぃーーーー!!!」

 

 

 

バチィ!!!!

 

 

 

俺が起き上るより早く、ストーカーが俺の背中にスタンガンを打ち込む。

背中にまるで焼きごてを押し付けられたような熱と痛みが走る。

 

電流で全身が強制的に強張る。身体が自分の意志の通りに動かない。

 

 

既にトラットリアに一度放電した上、さっきからずっとバチバチやっているのでかなり威力が落ちているはずだ。

その一撃でこの威力。

 

 

 

こいつ・・・こんなものを。

 

フルパワーのこんなものをトラットリアに当てやがったのか!!!

 

 

 

 

「トレーナー君!!!!」

「トット先輩!!!」

 

 

俺が、スタンガンを打ち込まれるのと同時刻。ルドルフとスリヴァッサが到着した。

まだ俺たちとは距離がある・・・が、状況は見えていたようだ。

 

 

 

「貴様・・・なにをしている・・・今、何をしたぁ!!!」

 

 

ブチ切れたルドルフがそのまま鬼の形相で突っ込んでくる。

 

 

 

 

「くそっ!なんだよ!なんなんだよこいつら!くそ!くそ!くそ!」

 

 

ストーカーはそんなルドルフに動揺しながらも、腰につけたポーチの中をなにやらまさぐっている。

 

 

「くそ!くそが!邪魔するなよ!俺とトットちゃんの邪魔をするな!!」

 

 

 

そしてストーカーがポーチから何かを取り出した。

 

小さく黒い筒状の・・・・

 

 

 

 

な・・・まさか・・・・

 

 

 

 

 

 

「ルナ!ヴァニィ!耳を塞いでその場に伏せろ!!!」

 

 

 

 

俺はあらん限りの力を振り絞って叫ぶとその勢いで立ち上がり、そのままストーカーの腕を握りつぶすつもりで掴みかかった。

 

 

 

「うあ!おまえ、なんで動け・・・いた!いったたた!いたい!」

 

 

ゴトン

 

 

手首を折らん勢いで掴まれたストーカーは痛みに負けて簡単にそれを手から離した。

 

足元に転がるそれを確認する。

 

 

 

ーーースタングレネード

 

 

 

閃光と爆音で周囲のものを行動不能にする、非殺傷性の爆弾だ。

これは、恐らく市販で手に入るトレーニング用のものだろう。

 

 

だが、トレーニング用のものだって、100デジベルを超える大音響を出すはずだ。

 

ウマ娘を無傷で無力化するにあたって、これほど都合がいいものはないだろう。

 

 

ウマ娘はヒトより何倍も耳がいい。

こんなもの。近くで炸裂されたウマ娘は行動不能どころでは済まない。

 

悪くすれば、後遺症まで残る。

 

二度と、レースに出れないような。

 

 

 

 

 

 

 

視界が真っ黒に染まる。

 

 

ーーー人生で。俺は今以上の怒りを感じた事がない。

 

 

 

俺はストーカーの手首をとったまま、力任せに腕力だけで腕の関節と逆方向にストーカーをぶん投げた。

 

地面に叩きつけられたストーカーは、何やらヒジを抑えてのた打ち回ってるが知ったことか。

大方、ヒジの関節でも外れたのだろう。

 

 

 

その程度で何を騒ぐ。

 

 

 

 

 

おまえ、今トラットリアになにを当てた?

 

ルドルフとスリヴァッサに向かって、なにを投げようとした?

 

 

 

このスタングレネードやスタンガンを使って、おまえはトラットリアに、なにをするつもりだったんだ!!!

 

 

 

 

頭に血が上りすぎて眩暈がする。

 

 

 

 

おい、誰か俺を止めろ。

 

こいつ・・・・殺してしまうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフとスリヴァッサは俺の怒気にあてられたのか、耳を抑えたまま地面に伏せて、こちらを見ながらフリーズしてしまっている。

 

動けたのは・・・一人だけだった。

 

 

 

「・・・あげま、せんよ。」

 

 

怒りで狭くなっていた俺の視界。

 

それいっぱいにトラットリアの顔が映る。ん?トラットリア?

 

 

 

 

 

 

「んっ・・・・」

 

 

続いて、唇になにか、やわらかい感触。

 

あれ・・・?

 

 

 

・・・・・俺。キスしてないか?

 

 

 

「ん・・・ふ・・・んん・・・・」

 

 

トラットリアは体に力が入らないのか、俺の首にしがみつき、俺の身体にもたれ掛かるようにしながら俺に何度もキスをする。

 

 

 

 

・・・・・え?

 

 

 

 

「えへへ・・・トレーナーさんに・・・あげちゃい・・・ました。私の・・・ファーストキス。」

 

 

そしてそのまま、トラットリアは、俺にしがみついたその体勢のままで、体をひねってストーカーの方を向いた。

 

ーーーー振り返ったトラットリアは、トラットリアとは思えないほど、冷たい目をしていた。

 

 

「あげません・・よ。なにも。あなたにあげるものは、なにもないです。私、処女もこのヒトにあげます。それに・・・トレーナーさんの人生だって。なにひとつ。あなたにあげるものなんか・・・ないです。」

 

 

 

 

 

ストーカーは・・・

 

ヒジを抑えながら、うずくまってショックのあまり泣き始めた。

 

 

 

 

・・・そうか。俺は、トラットリアに止めてもらったのか。

 

 

でもなんか、今聞き捨てならない爆弾発言を聞いたような気もするんだが・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーーー!チューした!私のトレーナー君と!!!今、チューしたぁ!!!!!」

 

 

 

ーールナ?!

 

 

 

ルドルフが、いつのまにやら伏せていた体勢から起き上り、こっちを指さしながら叫んでいる。

 

 

 

そしてそのまま、すごい勢いでこっちに走ってくるルドル・・・あ、ルナだ。これ完全にルナだ。

 

 

 

先ほど咄嗟にルナ呼びしてしまった上、立て続けに起きた衝撃の反動だろうか。

 

ルドルフが吹っ飛んでルナが出てきている。

 

 

「トレーナー君が!私のまえで!チューしてたぁ!私見たもん!う”ぅぅ~~~!」

 

 

そして至近距離から、俺にしがみついているトラットリアを挟んで俺を非難してくるルナ。

 

ごめん、ごめんだけどちょっと整理させて!ちょっとだけでいいから!

 

 

 

 

 

「ごめんなさい・・・ルドルフ、先輩。トレーナーさんに、ばっかり・・・」

 

そんな混乱の中、俺にしがみついていたトラットリアがふいにルナの方に向き直る。

 

そしてそのまま・・・・力なくルナの方向にダイブした。

 

おい、ちょっとあぶな・・・・

 

 

 

 

「え、まっ・・・・んん?!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・チューしてるな。

 

 

 

 

・・・・ええ?

 

 

 

咄嗟に飛び込んできたトラットリアを受け止めたルナは・・・そのままトラットリアにチューされていた。

 

事態が飲み込めない。たぶんルナも飲み込めてない。

 

 

「えへへ・・・大丈夫です。私・・・ルドルフ先輩も・・・大・・・好・・き・・です・・・よ・・・」

 

 

そしてトラットリアは・・・そのままにっこりと笑って意識を手放した。

 

 

「お、おいトット!」

 

 

棒立ちのルナに変わり咄嗟にトラットリアを抱きかかえる。

 

 

 

「・・・・・・・zzzzzzZZ」

 

 

 

・・・寝た。

 

 

・・・まぁ、仕方がない、一番疲弊しているのはこいつに間違いない。

 

 

この混乱を極めた場をどうするんだと言いたい気持ちはグッとこらえる。

 

俺の代わりにフル充電のスタンガンを食らってるんだ。安静にできるならそっちの方がいい。

 

 

 

 

 

『こっち!こっちですぅ~~!!!』

 

 

イヤホンを通して警察の応援と合流したと思われるコロネットの声が流れてくる。

 

対処が的確で素早いし、感情で優先順位を間違えない。

 

コロネットを後方支援に回したのは正解だった。

 

 

 

 

 

・・・・それにしても。

 

 

腕の中には、すぐにでも病院に連れていきたいトラットリア。

 

目の前には棒立ちでフリーズしているルドルフ、もといルナ。

 

足元にはいまだにむせび泣いているストーカー。

 

少し離れてまだ伏せってフリーズしているスリヴァッサ。

 

 

 

何を・・・どこから、どう説明すればいいんだ・・・これは。

 

 

 

チラっと未だにうずくまって泣いているストーカーが目に入った。

 

 

・・・イラッ

 

 

どかっ!

 

 

「ぶひぃ!!」

 

 

とりあえず、むかついたので警察が来る前にストーカーのケツを思いっきり蹴り上げておいた。

 

 

 

 

この程度で済んだんだ。

 

トットに感謝しろ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

事件から数日がたったある日。私のウマートフォンに一通のメールが届いた。

 

『ルドルフ先輩、先日は心配をおかけしました。トレーニングの後、少し二人でお話しませんか?』

 

送り主は、あの事件後いまだトレーニングに参加できていないトットからだった。

 

『わかった。トレーニングが終わり次第連絡を入れる。』

 

すぐさま返信をし、そっとウマートフォンのディスプレイを落とす。

 

・・・・トット。私も君には話がある。

 

 

 

あの事件の当日、コロネットは警察と同時に学園にも連絡を入れており、トットはまさに飛ぶ勢いで現場にかけつけただづなさんに病院に連れていかれた。

 

そしてそのまま検査入院。学園はすぐさまご実家に連絡を入れていたのですぐにご両親もかけつけた。

 

検査の結果は体の方に大きな異状はなし。ただし、休息は必要。トットはご両親が大変心配されていたのもあり、退院後、数日ほどそのまま実家ですごす為に一度帰省した。

 

 

ストーカーはもちろん逮捕。

 

ここからは実際に警察の対応をしたトレーナー君から聞いただけの話だが・・・ストーカーは本当にトットを連れ去る計画を立てていたらしい。

 

トットが1人の時を見計らい、用意したスタングレネードで彼女を無力化。その後スタンガンで気絶させて車で連れ去る計画が犯人の自宅から出てきたそうだ。

 

その話を聞いたときのブラックトレーナー君がつぶやいた「やっぱ殺しておくべきだったか・・」という言葉がまだ耳に残っている。

 

トレーナー君、君はたまに言動が荒いと思っていたが・・・やっぱり昔、結構やんちゃだったのではないか?

 

 

 

どちらにしろ、誘拐未遂に加えて実際にスタンガンでトットやトレーナー君を襲っている。実刑は免れないだろう。

 

これも聞いた話だが、ストーカーは目の前で焦がれた相手が他の男にファーストキスを捧げている光景がよほどショックだったのか、今はほとんど無気力になり、すべての罪を認めているとのことだった。ほどなく塀の向こうへ行くだろう。

 

 

 

昨日、トットとそのご両親が学園に見えてトレーナー君に挨拶していた。今日からはトットも学園に通常通り復帰しているはずだ。明日からはチームのトレーニングにも戻れるという。

 

余談だが、トットの誘拐を未然に防いでくれたと思っているトットのご両親と、トットを守り切れなかったと罪の意識を感じているトレーナー君とでの挨拶はひどくちぐはぐになってしまい、間に挟まったトットが右往左往していた。

 

 

 

 

 

トレーニング後、か・・・・

 

 

トット・・・君は。私の敵となるのか?

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「おまたせ・・・しました。」

 

トレーニング終了後。着替えもチームミーティングも終了してあとは帰寮するのみ。

 

彼女のからの呼び出しに応え、学園レース場に沿って設置されている遊歩道。

私とトットはそこのベンチで事件後、久しぶりに顔を合わせた。

 

 

顔色は・・・いいようだな。

 

「いや、今ちょうど来たばかりだよ。トット、先日は大変だったな。大丈夫か?」

 

「その節はご迷惑を・・・じゃないですね。ありがとうございました。みんなが動いてくれなかったら、私今頃どうなっていたのか・・・」

 

「今思えばもっといい案もあったのかとも考えてしまうけどね。犯人の用意していたものがこちらの想定より遥かに上だった。君を必要以上に危険な目に合わせてしまう結果になってしまった。」

 

「先輩・・・結果論ですよ。私は・・・みんなには感謝しかしていません。」

 

「そうか・・・体調はもういいのか。」

 

「はい。お腹の火傷のあとは・・・少し残ってしまうみたいなんですけど。トレーナーさんが気にしないでくれるなら、自分では気になる程度では。」

 

 

ーーー思ったより、早く切り込んできたな。

 

 

トレーニングに使用する学園指定の水着では腹部は見えない。トレーナー君が彼女の火傷痕を目にするような機会は普通ないだろう。

 

・・・・自分から見せない限りは。

 

そういえばこの娘は思慮より感性に極振りだった。建前は不要だな。

 

 

 

 

「トット・・・君は。トレーナー君が欲しいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ざぁ・・・と風が吹き、トットと私の髪を揺らす。

 

 

夏の静かな夜に沈黙が流れる。

 

 

 

 

私が・・・彼女に聞きかなければならない質問。

彼女のトレーナー君に対する態度は、心酔とか、崇拝とか、それに近いものであることはもうずいぶん前から認識していた。そして彼女自身がいままでは恋愛に疎かったことも。

 

だが、今回の件で。

トレーナー君と二人でデートをして彼女自身、自分の気持ちをはっきりと認識したように思える。

 

いままで通りとは・・・彼女自身、もうできないはずだ。

 

 

しばらく・・・・どう切り出すか考えているような素振りをしていたが、彼女も言葉を決めたようだ。トットの目にしっかりした意思が宿る。

 

 

 

 

 

「はい・・・・欲しいです。私、今回の件で男のヒトが少し怖いです。トレーナーさん以外の。私、無条件で私のすべてを投げ出せる男のヒト、もうトレーナーさんだけかもしれません。」

 

 

 

 

はっきりと。彼女は口にした。トレーナー君が、彼が欲しいと。

 

 

そうか。

 

ならば・・・私の答えは一つだ。

 

 

 

 

「ならばトット。君は・・・私の敵となるということだな。」

 

 

 

例えどんな場合であろうと、どんな相手であろうとも。トレーナー君の隣。私はその席を誰かに譲る気は毛頭ない。

こんなこと・・・すべてのウマ娘を導くなどと豪語する身として、認めてしまうのは私自身怖いのだが・・・

 

私も、彼に。トレーナー君に。たぶん・・・もう依存してしまっている。

 

少なくとも、誰かに彼を譲るなど考えるだけで気が狂れそうだ。

 

トットの願望とは、相容れることはできない。

 

 

 

 

「いえ・・・・嫌です。」

 

 

 

トットの返答は・・・私の予想していたものとは違うものだった。

ウマ娘がこうなってしまったら簡単には引けないことくらい私自身嫌というほと理解している。

 

それでも、引く、ということなのだろうか?

 

 

「身を引く、ということか?」

 

「それも・・・・嫌です。」

 

「トット。その二つは両立しな「やだ!!」」

 

 

まるで駄々っ子だ。でもトット。トレーナー君は一人しかいないのだぞ。

 

 

「ルドルフ先輩。私、この前のデートで気づいたことがあるんです。あの日は・・・私がいつもの先輩の席にいました。トレーナーさんの隣に。私だけを見てくれる場所に。」

 

「そういう・・・・想定だったからな。そこで君は自身の彼に対する気持ちを自覚したのではないのか?」

 

「はい。それは間違いないです。初めは・・・どきどきしました。幸せでした。だから、思いっきり甘えてみました。きっと今日だけだって。」

 

「正直、妬けたよ。」

 

「殺気みたいの飛んできましたよ(笑) 実は・・・私・・・先輩に妬いたことないんです。だって、初めからトレーナーさんと先輩は一緒だったから。」

 

「彼と一緒になったのは・・・実は君がきっかけなんだがな。」

 

「そうなんですか?私、実家に戻っている間もあの時間を反芻したりしてました。幸せだったなぁ、って。でもですね。なんか違うんです。結局私が最後に思い浮かべている幸せな時間って、この前の私だけを見てくれるトレーナーさんじゃないんです。ここのチームの。みんなでいるときのトレーナーさんなんです。」

 

 

きっと、この娘のバ生で初めてだっただろう。こんなに恋愛のことを考えること自体が。私はそのまま彼女の言葉を待った。

 

 

「それで、気づいたんです。私が好きなのは・・・ルドルフ先輩が隣にいるトレーナーさんなんです。ルドルフ先輩も一緒にいないとダメなんです。」

 

 

 

・・・・どうしてそうなるんだ?

 

なにか、トットが私には理解できないことを言い始めた。

普通、好きな相手は独占したくなるものではないのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「・・・そして、もうひとつ。」

 

 

そこで言葉をきると、彼女はスっと私との距離を詰めてきた。

私と触れるか触れないかの距離。

彼女の髪から漂う私のものとは違うトリートメントの香りが鼻腔をくすぐる。

 

 

・・・トット?

 

 

 

 

 

 

 

「先輩。私ともう一度、キスしてくれませんか?」

 

 

 

 

ーーーなっ?

 

 

 

何を・・・言い出したんだ?

 

 

 

 

「トット、なにを・・・」

 

「嫌、ですか?」

 

「いや、嫌というか・・・・その、そんなことを急に言われてもだな。」

 

 

予想外すぎる申し出に考えがまとまらない。どうしてトレーナー君にしてもトットにしてもこういう事柄に対して攻勢が強すぎるんだ。少しぐらい私にも整理する時間をくれたって・・・・

 

 

 

 

「もう、一度したんですし、二度も三度も一緒ですよ。・・・えいっ!!」

 

 

「んっ!!!!」

 

 

 

 

・・・して、しまった。

 

 

唇を合わせるだけのキス。

それでも、私に押し付けられる彼女のふくよかな膨らみが。強くなるトリートメントの香りが。

 

一度目はほとんど意識する間もなかったそれらが、私が今、トットとキスをしていることを訴えかけてくる。

 

 

・・・・これ、浮気になるんだろか?

 

 

 

どれくらいの時間だろうか。

私の今の頭でわからないが、たぶんそう短くはない時間、彼女と唇を合わせたあとにトットはそっと私から離れた。

唇に彼女の余韻が残る。

 

 

 

「トット・・・君はなにを・・・・」

 

「先輩。嫌、でしたか?気持ち悪かったですか?」

 

 

真剣な顔をしたトットが私に聞いてくる。

 

 

 

私は・・・脳がショートしていたので、思ったことをそのまま言ってしまった。

 

 

「嫌悪感は・・・・なかった。・・・・どきどき・・・・した。」

 

 

そう、どきどきした。

 

これ、浮気になる気がする・・・・

 

 

 

 

「先輩。私、トレーナーさんが欲しいです。でも・・・先輩も欲しいです。トレーナーさんの事を好きな先輩が。どっちか欠けるの。私、嫌です。」

 

 

 

 

・・・・むちゃくちゃな事を言い出した。

 

 

「トット・・・それは・・・二股というのでは・・・・」

 

 

「二股・・・ですかね?でも、最終的には先輩にもトレーナーさんと私をどっちも好きになってもらいたいですし・・・そしたら先輩も二股ですね。」

 

 

「・・・・30秒待ってほしい。私の理解の範疇を超えている・・・・」

 

 

 

彼女は・・・・私に宣戦布告をしにきたのではないのか?

 

なぜ私は彼女に愛の告白をされているのだ?

 

しかもここまで堂々と二股宣言をされながら。いや、私とトレーナー君は好き合ったままでいろと言うのだから、二股とも違うのか・・・?

 

ダメだ・・・考えが・・・まとまらない・・・・

 

 

 

 

「・・・・先輩。」

 

 

不意にトットに呼ばれる。

頭の整理がつかず、ぐるぐると考えている最中に不意に呼ばれてしまった私の体は正直な反応を返してしまった。

 

・・・つまり、顔を上げてしまった。

 

 

 

「んん?!」

 

 

 

チューした!トットまた私にチューした!!!!待ってって言ったのに!

 

 

 

「えへへ。自覚すると・・・止められないんですね。ごめんなさい。」

 

 

いたずらが成功したような顔をして笑うトット。

 

こんなやつばっかだ!私のまわり!バレた途端にどんどん攻め込んでくる!トレーナー君、君に言っているんだぞ!大体、君が悪い!元はと言えばこの娘引っ張ってきたのトレーナー君だ!私悪くないもん!!!

 

 

「先輩・・・いつかあなたを、私もルナ先輩って・・呼びたいです。見てて・・・くださいね。」

 

 

 

・・・・ちょっとまって欲しい。なんだこの雰囲気。

 

この娘、ここで切り上げるつもりだろうか。

 

私、全然ついていけてないのだが。置いてけぼりなんだが。

 

 

 

「先輩、今日はありがとうございました。明日から、またよろしくお願いしますね。」

 

 

あ、切り上げる気だ。

 

まるで反芻するように自分の唇をそっと撫でたトットは、嬉しそうに笑うと私にお辞儀をしてその場を去っていった。

 

私・・・待って欲しいと言ってから、なにも話してない・・・・

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。先輩、私のこと考えてくれるのはうれしいんですけど・・・まだいますからね。私の他にもカマルにウマ娘。」

 

 

 

振り返り様に爆弾まで落としてきた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・寝よう。

 

 

今日は帰って・・・・もう寝る。

 

 

 

 

みんなトレーナー君が悪い気がしてきた。

 

 

もう知らない!!!

 

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

トット・・・君はなんでそう、道のないところを行ってしまうんだ・・・・

 

うちのルドルフは恋愛に関して防御がなってないので攻められると弱いです。

 

 

今回の話、書いててたまにトレーナーとストーカーがごっちゃになるというとんでもない間違いを犯しています。

見直して気づく限り直しましたが、まだあったら教えてください・・・

 

 

一応、今のこのシリーズ、メインストーリーはあと2話くらいで完結させようかな、と思ってます。

 

 

ちなみにですが。

沈黙のカンガルーのガチャガチャはほんとにあります。

 





ここまで読んでいただきありがとうございました。

トット・・・君はなんでそう、道のないところを行ってしまうんだ・・・・

うちのルドルフは恋愛に関して防御がなってないので攻められると弱いです。



ちなみにですが。
沈黙のカンガルーのガチャガチャはほんとにあります。
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