こんにちは。
スリヴァッサもロイヤルコロネットもウマ娘のアプリ内で色々なレースにちょこちょこ出ています。(皐月賞とか、有馬記念とか)
良かったら見つけたときは応援してあげてください。
暑い・・・・
暑いぃぃぃぃぃ!!!!
ここトレセン学園はレースに出場するウマ娘の養成機関としては全国最高峰を誇る。
もちろん、講義や加圧トレーニングを行う校舎は冷暖房完備。
しかし、基本的にトレーニングは外だ。
外には冷房も扇風機もない。
プールのトレーニングが恋しい・・・暑い・・・溶ける・・・・
今はもう夏真っ盛りといっていい時期。梅雨も明け、絶好の晴天。絶好の干物日和だ。あっつぃ。
もうすぐ日も落ちるというのに、一向に涼しくなる気配はない。
「スリヴァッサー、無理すんなー。クーラーボックスに冷たいのあるから戻ってこーい。一気飲みはすんなよー。」
トレーナーから休憩の合図が入る。
休んでる場合じゃない・・・・と言ってられる体温じゃなくなってきた。
休憩もトレーニングのうちだ。
体力回復しないと・・・
まだフラフラとまではいかないが、すでに排熱があまり機能しなくなった体を押してトレーナーの元へ向かう。
この時期のウマ飛びキッチー・・・・・
「スリヴァッサ。一所懸命のはなにも悪い事じゃないが、ちょっと無理しすぎだ。今根をつめてもしょうがないぞ。」
「いえ、トレーナー。この時期に根性だけでも鍛えないと。あたしには、トット先輩やコロネットのような明確な武器はないんスから。」
「うーん・・・気持ちはわかるんだが。だが、お前にはお前にしかない武器があるだろう。焦る必要はないぞ。」
「ルドルフ先輩と同じ武器じゃ、地力の差でルドルフ先輩に絶対勝てないじゃないっスか。今のあたしとルドルフ先輩には差がありすぎるっス。」
「おまえ・・・相手は7冠バだぞ・・・」
トレーナーに言われなくとも、わかっている。片やトゥインクルシリーズを駆け抜け、すでにドリームトロフィーに挑戦しているアスリート。しかも、納めた成績は前バ未踏。あたしはメイクデューすらしていない。
ハナから勝負をする土台にはいないと。
・・・・だが。
「トット先輩は・・・そんなこと考えてないっスよね。」
「う、うーむ。いいことではあるんだが・・・なぁ。」
体力回復のためにトレーナーの横で座りドリンクを飲みがら、ターフの方に視線を移す。
そこでは・・・トット先輩とルドルフ先輩がまさにデットヒートを繰り広げていた。
今のルドルフ先輩は前の模擬レースのような発汗スーツは着ていない。
ガチだ。ガチの皇帝シンボリルドルフだ。
当然の事だが、トット先輩はルドルフ先輩に全敗。ただの一勝のあげていない。
ここ数日、ずっとだ。
ずっと負け続けている。
・・・・まったく諦めていない。
「ヴァニィちゃん、休憩~?私も休憩~・・・もうダメ~・・・・・」
ノルマの周回を終えたコロネットも戻ってきた。
こいつもこいつだ。
最近・・・走りにさらに磨きがかかってきた。
もう、1800m(9ハロン)から2200m(11ハロン)のすべての中距離で彼女は調整が可能だ。
ゆるーい感じでしゃべるがまったく油断ならない。
今日も絶対まだ走る気だ。
くそ・・・あたしだってまだだ。まだいける。
「トレーナー・・・もう一本いくっス。」
「ダメだ。あと10分休め。体がうずくならストレッチでもしてろ。」
許可が下りなかった。・・・・しかたない、ストレッチしてるか。
「あ”ー!!!!!また負けたぁ!!!ぐぬーーーーー!!!」
「トット。君はスパートに頼りすぎだ。君のスパートは脅威だが、脅威には対策をされるものだぞ。私に限らず、だ。」
ターフで熾烈を争っていた二人も帰ってきた。
クールダウンをするのだろう。
トレーナーの取り決めてトット先輩とルドルフ先輩の併走は一日2本までと決められている。
そうでもしないと何回でもトット先輩がルドルフ先輩に挑戦してしまうのだ。
先程のが2本目だったので今日はもう終わりだろう。
時間的には今日はもうこの2人はストレッチして終わりかな。
しかし・・・この二人、今はどうなっているだ・・・?
先日のトット先輩ストーカー事件。
最終的に警察沙汰にまで発展し、数日の間トット先輩もトレーニング復帰できないような事態になった事件。司法の観点から言えば、まだ終わってすらいない。
その事件当日の様子から、あたしはルドルフ先輩とトット先輩の関係の悪化を危惧していた。
トット先輩をトレーナーとデートさせるという作戦の中で、トット先輩は明らかにルドルフ先輩を煽ってしまうほどトレーナーにべったりだった。
端から見ても、ルドルフ先輩はトット先輩を最愛のトレーナーを奪おうとしする敵と認識していたのが見て取れた。
そして最後のトレーナーに対するキス。
完全に修羅場を予想していた。
それがどうだろう。いざトット先輩が休養明けにチームに戻ってきたら、なんだか様子がおかしい。
まず、なんでか前より仲が良くなってる気がする。
あたしはてっきり、ルドルフ先輩はトット先輩を排除しようとすると思っていた。あたしの分析できた範囲で、ルドルフ先輩はこと、トレーナーに関する事には一切の慈悲がない。
彼を自分から奪おうというする事柄に関しては彼女はあらゆる手段を用いて事にあたる。
恐らく、だが。自身の生徒会長とのしての立場を利用することすらなんら躊躇しないのではないかと思う。
あたしは、トット先輩の復帰後、それをどう取り持つのかが当面の課題かと思っていた。
それが蓋を開けてみたらならば。展開は予想とは正反対。
明らかに以前より二人でいる時間が長くなっている。
そして・・・なんだかトット先輩からルドルフ先輩の距離が近い。物理的に。
ルドルフ先輩にしても、それに関して特に言及するような素振りがない。
さらにやたらトット先輩がふっかけて勝負をするようになった。
以前からトット先輩は打倒ルドルフ先輩を掲げていたが、こう毎日じゃなかったはず。
・・・・さっぱり状況がわからない。
状況がわからないといえば・・・・
トレーナーを含めた関係もだ。
あたしは現場に居合わせたので見てしまった。
トレーナーにキスするトット先輩も。
そのすぐ後に、なぜかルドルフ先輩にまでキスしていたトット先輩も。
何故だか言動が幼くなっていたルドルフ先輩も。
この目でははっきりと。
ルドルフ先輩にまでキスしていたことについてはまったく意味不明だが、トット先輩がトレーナーにキスしていたのはもう動かし用がない事実だ。
だが、トット先輩の復帰第一声で事態が膠着してしまった。
『ごめんなさい!みなさんご心配おかけしました!あの、スタンガンを当てられた後から私まったく記憶が残ってないのでいつの間にやら解決していて申し訳ないですけど・・・ありがとうございました!』
・・・・その修羅場に発展するであろう事柄を、トット先輩はまったく覚えていなかった。
おかげでトット先輩の真意は闇の中。トレーナーも覚えてない本人に言及することもできず、3人の関係は薄氷の上での綱渡り状態で元の形に復帰している。
あたしの計画では、ルドルフ先輩にしても、トレーナーにしても、もっと時間をかけて攻略するつもりだった。
こんな、地雷原でタップダンスを踊る事態は想定していない。
もう、夏合宿がすぐそこだ。
だ、だいじょうぶなのか・・・これ・・・・・
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「う、み、だぁーーーーーーーー!」
バスから見える景色に大はしゃぎのトラットリア。
隣にはマイペースに酢昆布をもぐもぐやっているコロネット。
その後ろではトットを宥めるルドルフと寝てるスリヴァッサ。
学園手配なので他のチームのウマ娘も同乗しているバスの中、一路毎年恒例の合宿所へ移動中だ。
通常、ジュニアクラスのトラットリアや、未デビューのコロネット、スリヴァッサは合宿には参加権がない。
だが、今年からうちはチームを組んでいるので、合宿参加のルドルフに同行という形で参加が可能になっている。
先日の件でちょっとナーバスになっていた俺としても、この合宿はありがたい。いつもと違う場所で心機一転、トレーナー業にも気合が入るというものだ。
先日の・・・先日の件・・・・思い出したら凹んできた・・・・
それは、先日、月に一度のルナの日の日程調整をしようとルドルフの都合を聞いた時だった。
『今月の”ルナの日”なのだが、トレーナー君、すまない。今月は・・・中止にしてもらえないだろうか。』
おぅっふぅ!!思い出してしまいトレーナーに8500のダメージ!
『いや、君は悪くない。まったく。私の・・・個人的な都合だ。少し、考えなければいけないことがあってな。』
ぶっふぁ!!トレーナーに追加5000ダメージ!
『君は・・・気にしなくていい。私の問題だ。すまない。トレーナー君。』
ごふぅ!!さらにスリップの状態異常!毎ターン1000ダメージ!
これはやっぱり・・・先日のトラットリアとのキスの件だろうか。それしか思い当たる節がない。
それは事実だ。俺は彼女とキスをした。
それに、あの時は怒りに我を忘れていたとはいえ、じゃあ絶対にそれを避けれなかったのかと言えば・・・今思えば言い切れない。
俺にはトラットリアを拒絶できなかったのだ。
トラットリアは俺にとって大事な存在ではあるが、そこに恋愛感情があるかといえば断じて否だ。
俺が好きなのはルドルフだけだ。
だが・・・男として、年頃の見目麗しいウマ娘にキスされてなにも感じなかったのかといえば・・・
”あれは、飼っていた猫にチューされたようなもんです。なにも感じませんでした”
などとは言い切れないのも事実であって・・・・
きっとそうだ。男とは薄汚い生き物なんだ。こんな俺の腐った性根をルドルフに見透かされたに違いない。
ルドルフだけに生涯の愛を誓ったというのに、年頃のウマ娘に何度もキスされて”あ、気持ちいい”とか”ルドルフと違う匂いがする”とか思ってしまった俺を見透かされたんだ。
すまない・・・二心は。二心はないんだ・・・・
・・・スケベ心はどうなんだと言われると、痛い。
その事をルドルフに責められるなら、謝れるならまだ良かった。
だが、これでは腹の切りようがない。
すまん、すまんルドルフ・・・俺が、俺が悪いんだ・・・あ、凹む・・・・・・
合宿だ。恒例の夏合宿。夏の太陽。焼けた砂浜。
俺は、チームメイトだけではなく、俺のこの腐った性根も叩き直す必要がある。
見てておいて欲しい、ルドルフ。俺は、必ずおまえに相応しい男となってみせる。
「コロちゃん!海!海だよ!」
「先輩~もう30分くらいずっと同じ景色ですけど・・・海見るの、楽しいです~?もぐもぐ。」
「うん!」
「トット!わかった!もうはしゃぐのは仕方がないとして、いいからとにかく座ってくれ。この先結構揺れるんだ。舌を噛むぞ。」
「うん!!わかった!ルドルフ先輩!海だよ!海!!!」
「本当に、わかったのだろうか・・・」
なにやら姦しいチームメイトと、不退転の決意をキメた俺を乗せてバスは合宿所へ。
今日から2か月近く。
夏の・・・強化合宿だ!
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「じゃーとりあえず部屋割りな。ルドルフとトラットリアが1105号室、スリヴァッサとコロネットが1106号室だ。俺は教員棟の方の108号室になる。緊急時や見回りは別だが、基本的に生徒棟と教員棟は行き来禁止だ。」
「あれ?てっきりトレーナーさんとルドルフ先輩は同室なのかと思ってました・・・」
「いやトット。どう考えてもそれはおかしいだろう・・・」
「トレーナーさんと先輩の部屋に遊びに行くの、楽しみにしてたのに・・・」
「そういうのは生徒同士でやってくれ。生徒間の部屋の行き来については特にルールはない。ただ、あまり夜更かしはするなよ。起床は5時、着替え、朝食等を済ませて6時からはトレーニング開始だ。朝の涼しい時間は貴重だからな。」
「今日はトレーニングなしっスか?」
「無しだ、スリヴァッサ。少し体を動かしたい奴は入念にストレッチやってからにしてほしい。長距離のバス移動で体が固まってるはずだ。ただ、荷解きも今日中に済ませて欲しいからほどほどにな。海とか見てきてもいいぞ。夕食後に今後に関する簡単なミーティングをやる。20時からだ。予定しておいてくれ。」
現在は16時少し前。
私にとっては毎年恒例。新人組にとっては初めての夏季強化合宿。
もう3度目ともなると流石に私に新鮮味はないが、それでもここに来るとやはり気分が高揚する。
我が学園の施設としては年期が入っている方だが、ここの雰囲気は好きだった。
それにして・・・トットと同室か。
意識・・・しすぎだろうか?
「ルドルフ先輩!お部屋行きましょう!ん~楽しみ!どんな部屋なのかなぁ!かわいいといいなぁ!」
「トット、少なくともかわいい部屋ではないことは保証するよ。」
「やっぱりかぁ・・・」
トレーナー君から鍵を預かり、割り振られた部屋へ移動する。
トットは物珍し気にあたりのものを観察しながら私の後ろをぴょこぴょこついてきているようだ。
むぅ・・・・やはり意識しすぎだな。
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その後は荷解きや部屋の整頓などをし、これからの2ヶ月の生活に備えた。
私は例年、合宿期間中の休養日は読書に充てることが多かったので書籍を何冊か持ってきている。
それらが傷まないよう、キャビネットの片隅に並べていると、トットも嬉しそうに自分が持ってきた本を見せてくれた。
”磯のいきもの図鑑”
今年は・・・あまり読書に割く時間はないかもしれないな。
・・・・それも、楽しみだ。
そして、初めてずくしで興奮している新人組と共に入浴、夕食を済ませ、トレーナー君とのミーティングも滞りなく終わった。
今日はもう、あとは寝るだけだ。
二人で部屋に戻り、少しトットと雑談をしていたが、明日の為に今日は早く寝ようという結論になった。
「トット。消灯するよ。」
「はい!大丈夫です!おやすみなさい!ルドルフ先輩!」
部屋の明かりを落とし、布団に入る。
私はレースでの遠征などで長距離移動は慣れている方だが、それでもあまり足を伸ばせるわけではないバスでの長距離移動は少し疲れた。
布団のなかで思いっきり足を伸ばしてみる。
・・・うむ。気持ちいい。明日からは本格的にトレーニングスタートだ。早めに就寝しよう。
なんだかんだでトットも1日興奮しっぱなしだ。疲れもあるだろう。
きっと彼女もすぐに寝てしまう。
そう、思っていた。
・・・ゴソゴソ・・・・ゴソゴソ・・・・
明かりを落として20分ほど経ったあたりだろうか。
トットの様子が・・・少しおかしい。
興奮して寝付けないのかと思ったが、それにしては呼吸が変だ。
しきりに深呼吸している。
・・・寝付きが悪い、というより何かに耐えているような・・・?
もしやとは思うが・・・私には思いあたる事柄があった。
「・・・トット。オグリんは置いてきてのか?」
「あ、先輩・・・うるさくしてごめんなさい。あの、流石に荷物になるかと思って・・・」
オグリん。彼女の部屋にある、トレーナー君に取ってもらったというオグリキャップのぱかプチ(大)だ。
無類の活躍をしている同じ葦毛であり、スパート時の姿勢が彼女と近いということなどからトットはオグリキャップのファンなのだ。
ただ、ぬいぐるみが恋しい、程度の話なら私も特に声はかけなかった。
だが、以前に世間話の中で私はトットから聞いてしまっていた。”ストーカー事件後、オグリん抱いてないと寝れなくなった”と。
恐らく、普段と違う環境のここなら大丈夫だと踏んで置いてきたのだろう。
トレーナーに取ってもらった憧れのウマ娘のぬいぐるみ。それに身を預けないと怖くて意識が手放せない。
・・・本当に。本当にあのストーカーには業腹だ。
少しだけ、思案する。これが正しいのかはわからない。
だが・・・どうせ私は彼女を放って自分だけ寝れはしないだろう。
ならば、考えてる時間が無駄だな。
意を、決した。
私は、少しだけ起き上ると、心なしか震えている気さえする様子のトットに声をかけた。
「・・・トット。こちらに・・・来るか?」
「え・・・いいん・・・ですか?」
月明かりに照らされて、目を見開いてこちらを見ているトットが見える。
トットは私の事が好きだという。トレーナーの事もだが。
そんな彼女に対してこれが・・・正しいのかは私もわからない。
だが、普段からこんなに頑張っている娘が。いつも一生懸命努力しているウマ娘が。わけがわからない男の影に怯えて満足に寝ることもできない。
そんなことは・・・許容できない。私には。
「・・・おいで。」
そっと布団の端をあげて彼女を呼ぶ。
トットは、いつのまにやら握りしめていたカンガルーの小さなフィギアを枕元に置くと、おずおずと私の布団に入ってきた。
「先輩・・・ありがとうございます。あの・・・先輩は、私のこと、避けないのですね。」
これは・・・先日の、あの時の事を言っているのだろうか。
あまりにも翌日からトットが普段通りだったので言及することなくそのままになっている・・・私への告白の。
「避けられると・・・思っていたのか?」
「・・・少しだけ。」
「私も・・・どうしたらいいのか・・・わからないのだがな。だが、避けようとは・・・思わなかったよ。」
「・・・はい。」
トットはそういうとそのまま私の方へ摺り寄り、少し遠慮がちに抱き着いてきた。
・・・なるほど。オグリんの代わりになるということはこういうことか。
「トット。君は・・・何故、みんなに”うそ”をついた?君は覚えているはずだ。スタンガンを当てられたあとの事を。」
私も、中々聞けなかったトットの真意を雰囲気に任せて聞いてみる。
トットが覚えていない、そう言ったことで事態はかなりうやむやになった。
それが目的であろうことは理解できるが・・・真意がわからない。
「今・・・私がトレーナーさんに真剣に恋してるのがバレちゃうと・・・私、拒絶されちゃうと思うんです。トレーナーさん、ルドルフ先輩のこと、大好きですから。」
肩の上あたりにかかる彼女の吐息がくすぐったい。私を抱いて寝ているトレーナー君もこんな気持ちなのだろうか。
なにを・・比べているんだ。私は。
「私には・・・伝えたのにか?」
「トレーナーさんが好きなことは、もうバレちゃってましたしね。だったら、先輩への気持ちも伝えないと今度はルドルフ先輩に拒絶されちゃうかなって。だから、伝えた結果、先輩に・・・避けられるのは・・・覚悟の、上で・・・した・・・」
合点はいった。トットなりに・・・いろいろ考えた結果らしい。
まぁ、おかげで私は大混乱なんだが。
普段と違う、ほぼ0と言っていいお互いの距離。邪魔の入りようがない静かな空間。
今までどう扱っていいかわからなかった彼女の気持ちを聞くには、同室なのは良かったかもしれない。
同衾までは予想していなかったが。
「トット。もう一つ聞きたいことが・・・トット?」
ここぞとばかりに彼女に質問しようと試みたのだが・・・トットは返事どころか身じろぎひとつしない。
静かになった後輩の様子を確認してみる。
・・・寝てる、な。
早くないか?
先ほどまで暗闇に怯えていた様子だったトットは、私にしがみついて安心したのだろうか。
ものの5分でくぅくぅ寝息を立て始めた。
まぁ、疲れていたのは間違いないのだろう。
そっと彼女から目を離し、天井を仰ぎ見る。
先日、ルナの日を中止にして欲しいと伝えたとき、トレーナー君は少なからずショックを受けた顔をしていた。
いつまでもこのままというわけにはいかない。
それに、こんなうじうじした自分のせいでトレーナー君に捨てられるようなことになったら、私は正気を保っていられる自信がない。
また、私にしがみついて心底安心してたような寝顔の後輩を見る。
でも・・・もう、この後輩を突き放すことも・・・私は・・・・
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「カニ・・・カニだ。カニだよ、コロちゃん。カニ。」
「カニ・・・ですねぇ。トット先輩、カニは初めてですか~?」
「私・・・山育ちだから。サワガニとかテナガエビは捕まえて良く食べたんだけど・・・こんなに甲羅が固そうなカニは初めてだ・・・」
ん~?サワガニって・・・食用でしたっけ?
私コロネットとトット先輩は今、合宿所から少し離れた海外の岩場に遊びに来ています。
今日はここにきて三度目の休養日。
一度目と二度目はトレーナーさんの猛特訓の疲れを癒すので精一杯でしたが、さすがに少し慣れてきたので休養日に遊ぶ余裕も出てきました。
慣れるまではちょっとキツかったです。トレーナーさんはそれぞれに沿ったメニューを用意してくれていましたが・・・筋肉の急な負荷に弱い私も浮力が強い海水を使った加圧トレーニングでただいま絶賛筋肉痛です。肉離れじゃなくて筋肉痛になったのは生まれて初めてです。ちょっとうれしいな。
「おーい、ここはあまり海の近くに行くとウツボやガンガゼがいるらしい。潮だまりの中だけにしよう!」
ルドルフ先輩とヴァニィを見送ってきたトレーナーさんが帰ってきました。
お二人はここから少し離れたところからシュノーケリングをしに行っています。
それにしても・・・バッキバキですねぇ・・・
「おかえりなさい~トレーナーさん。今、トット先輩がカニを見つけたところです~」
トレーナーさんは今日、いつもと違いトランクス型の水着にビーチサンダル。麦わら帽子に、上はアロハシャツを羽織っただけという、かなりラフな格好をしています。
前を閉じてないアロハシャツからはおのずと普段は目にすることがない彼の素肌が見えます。
・・・・腹筋、バッキバキです。
ここに来て、なぜかトレーナーさんは私たちのトレーニングの面倒を見ながら、自分にもトレーニングを課しはじめました。ちょっとヒトがやるには強すぎる気がする内容の。
夏合宿はそういうものなのかと思い、他のトレーナーも見てみましたが、そんなこと始めたのはうちのトレーナーさんだけなので、そういうわけではないようです。
もともとそれなりに引き締まった体をしてはいましたが3週間も私たちと共に体を練り上げたトレーナーさん。今では格闘家もかくやというほど、バッキバキに仕上がってきています。
すごく・・・おいしそ・・・
・・・おっと。はしたないですね。
ちなみに、ルドルフ先輩とヴァニィは脱いだトレーナーさんを見て、真っ赤になっていました。なにを想像したんでしょうね?逃げるようにシュノーケリングに行きましたが。
トット先輩だけ、いつもと変わらずに腹筋つんつんしてました。こっちはこっちでブレないです。
「トレーナーさん!見て!カニ!釣れた!!!」
帰ってきたトレーナーさんに見つけたカニを見せようとトット先輩がカニを釣り上げたようです。
・・・・初めて見ました。自分の小指でカニ釣るヒト。
「トット先輩・・・痛く・・・ないんですか~・・・?」
「い、痛い!すごく痛い!!」
それでもカニを振りほどこうとしないあたり、本当にトット先輩らしいです。落としたらカニ、怪我しちゃうかもしれませんからね。
「お、おいトット。おまえ、血!血出てるぞ!ちょっとカニ降ろせ。な。」
「うん・・・カニ、釣りあげてごめんね・・・」
カニは岩場に降ろされると、そそくさと岩陰に隠れてしまいました。
「トット。けっこうデカいカニだったな。あのサイズを磯で見たのは初めてだ。よく見つけたな。」
小指の手当てをしながらトット先輩を褒めるトレーナーさん。うれしそうなトット先輩。
あートレーナーさん。そーゆーとこですよ。トット先輩に懐かれる理由。
手慣れた様子でトット先輩の止血を始めるトレーナーさん。流石、プロです。
ですが、しばらくすると手際よく動いていた手が止まってしまいました。
「あ・・・しまった。耐水のカットバンがきれてる・・・トット。まだ磯遊びしたいか?」
「うー・・・・したい・・・」
「あ、それでしたらトレーナーさん、上の車道を少し歩いたらコンビニがありますよ~そこなら置いてあるんじゃないですか~?」
さっき来る途中にウマートフォンのナビで見た情報を渡す。
・・・褒めて、くれるでしょうか。
「抜かりないな、コロネットは。流石だ。よし、近いし行くか。・・・・ついでにアイスでも食べるか?」
あらあら、褒めてもらった上にアイスまで付くようです。
「アイス!わたしガリガリ君!」
「ふふふ~太っ腹ですねぇ~」
「別にダッツとかでもいいんだが・・・いいのか、ガリガリ君で。あ、ただし今いない二人には内緒だぞ。俺たちだけで食べたのがバレたら怖いからな。この秘密を墓まで持っていく誓いを立てれるものだけにアイスを買ってやる。」
「立てる!立てます~!」
「私もです~!」
外で磯遊びしてアイスの買い食い。
実家にいた頃には考えられないことです。
ふふふ・・・・楽しいですね~。
ーーーーーー⏱ーーーーーー
3人でコンビニ向かい、耐水カットバンとアイスを物色し。
それは、コンビニのレジで会計待ちをしていた時のことでした。
なにかじっとこちらを・・・いえ、これはたぶん、トレーナーさんをじっと見ている女性がいます。
ウマ娘・・・ではないですね。ヒトの耳がついています。
「あの、トレーナーさん~・・・・あちらの方、お知り合いですか~?」
つんつんしてトレーナーさんを促すと、そちらの方と目が合った途端、動きが止まるトレーナーさん。
相手の方は手をひらひらさせています。
これは・・・・確実にお知り合いですね。
「おー・・・・・久しぶり。元気・・・だったか?」
「あはっ!随分他人行儀じゃん。元気・・・だったよ。久しぶり。」
そちらの方も買い物をしていたのでしょう。籠を片手にこちらに歩いてきました。
「そちらは・・・生徒?さん? 君、本当にトレーナーになったんだねぇ・・・」
「俺もたまにテレビとかにも出てるぞ。まぁ付属品みたんなもんだが。目にしたことなかったか?」
「・・・・知ってるよ。ほんとに会えると思わなかったな。ね、ちょっと会計してくる。少しいい?」
「ああ・・・少しなら。」
そういってその方はレジの方に向かっていきました。トレーナーさんもそのまま会計に進みます。
・・・・トット先輩、少し、威嚇してませんか?
それから少し。
コンビニの入り口でアイスを食べていると、先程の方が出てきました。
先程はあまりちゃんと見ていませんでしたが・・・この方、びっくりするぐらい美人ですね。
歳はトレーナーさんと同い年くらいでしょうか。
スタイルは細身ですが、出るところは出て、その上、容姿は・・・私たちウマ娘は容姿に優れると世間から評価は頂きますが、それにまったく引けをとりません。いえ、ともすればそれ以上の・・・・
「あはっ。おまたせ。・・・っていいもん食ってるね。一口ちょうだい?」
「ダメだよ。ほんとに久しぶりだな。何年ぶりだ?」
「ケーチー!・・・6年、と半年だよ。」
「もう・・・そんなにか。ここへは旅行で?」
「うん、半分そう。8日後には帰るけどね。ね、君、どこかで少しちゃんと時間取れない?話したいんだけど・・・」
「あーすまん、俺も引率で来ているからな。あまり時間は・・・」
「ここへはね。もしかしたら君に会えるかもしれないと思って、来たんだ。・・・毎年、ね、来てる。それでも・・・・ダメ?」
「・・・・連絡する。ここに一度メールかなにか入れておいてくれ。」
そんなやり取りがあり、トレーナーさんは財布から名刺を出して渡しています。
あの、これ・・・友達とかお知り合い・・・程度の関係じゃないですね・・・?
「ぅ”ぅー・・・・・・」
トット先輩に目を移すと、耳を後ろに伏せ、低く唸りながら完全に威嚇しています。
なるほど・・・トット先輩の感性が危険視するような相手・・・ということですか。
「ん。ありがと。また連絡する。必ず。ちゃんと返してよねっ!・・・生徒さんもごめんね。邪魔して。それじゃ!」
・・・・行って、しまわれました。
これは・・・もしかして、由々しき事態なのではないでしょうか?
ーーーーーー⏱ーーーーーー
私とトットの部屋にウマ耳をもつ影が4つ・・・・
私、トット、スリヴァッサ、コロネットの四人だ。
私は、トットとコロネットから今日あった出来事のあらましを聞いていた。
どうやら今日は呑気に泳いでいる場合ではなかったらしい。
「・・・以上です~。明言があった訳ではないですが、おそらくトレーナーさんと深い仲だった方かと~」
「元カノだよ。あれ。嫌な匂いがしたもん。しかも・・・まだトレーナーさん狙ってる。」
客観的な意見をいうコロネットと、かなり断定的な意見をいうトット。
だが、トットの感性は信用に足るのもでもある。
しかし・・・・その前に。
「一つ、気になることがあるのだが。トットはわかる。まぁスリヴァッサもそうだろうと思っていた。・・・コロネット、君もなのか?」
この集まりは、ただ単にトレーナー君の交流関係に対する興味本位の集まり、というわけではない。むしろ普通ならこの場には参加したくないだろう。現在トレーナー君と付き合っている私がかなり殺気立つのが目に見えているからだ。
だが、コロネットはそれを押して参加してきている。
報告だけならトット一人で事足りるにもかかわらず、だ。
それが意味するところは、一つしかない。
「ルドルフ先輩~ごめんなさい~。私も、です。」
「コロネット。やーっと認めたね。ルドルフ先輩、すいません。バレてるみたいっスけど。あたしもです。」
「私は・・・今さらかな?えへへ・・・・」
よもや、とは思っていたが。
なんということだ・・・
全員だと。全員落としたのか、トレーナー君は。
この短期間で。
なんだ、チームを設立するということはこういうことなのか?
私が最初に危惧した通りになっているじゃないか・・・
目頭が痛くなってきた・・・・・
「わかっているとは思うが・・・今現在、トレーナー君と付き合っているのは私だ。それを明言するということは、君達は全員私の排除対象という事だぞ。」
一応釘を刺しておく。
だが・・・もう、バレてるんだろうけどなぁ・・・なんでこうなっているんだ。なぜだ。
「・・・しないっスよね。先輩の言う通りなら、トット先輩はこの場にいないっス。とっくに。」
ほらね。なぜだろう・・・・なんでこうなった。
「先輩・・・この際だからあたしの思い、打ち明けますね。あたし、トレーナーとつがいになりたいとかはないです。あたしは両親が離婚してるのもあって、結婚とか、そういうの信用してないんで。だからトレーナーの隣に座りたいわけじゃないんス。でも、あたし、トレーナーの子供が欲しい。それは・・永遠たりえますから。」
「私は~たぶん独占欲ヒト並なので、嫉妬しないわけじゃないですけど~ルドルフ先輩やトット先輩なら、別にいいかな~って。なにか見てて、思いの深さ、っていうんでしょうか。敵わないなぁ・・って。たまに私にも食べさせてもらえれば、わたしはそれで~」
「あたしはダメなのか?コロネット。」
「ヴァニィはダメです~。」
・・・・頭が、痛くなってきた・・・・
1人は私とトレーナー君が相思相愛のまま両方欲しいといい、
1人はそっちは勝手にやってていいから子供が欲しいといい、
1人は我慢できるから、たまにつまみ食いさせろ、という
なんなんだ・・・これ・・・
トレーナー君・・・君は彼女たちになにをしたんだ?
なにがどうしたらこうなるんだ・・・・
「あのールドルフ先輩。あたしも一つ、いいっスか?」
スリヴァッサが頭を抱えだした私に恐る恐る質問してきた。
うん、なにかな?
これ以上私を混乱させないやつで頼みたいが・・・
「ちょっと関係ない話なんスけど。この部屋・・・っていうか、トット先輩のベットっスけど・・・これ、完全に二人の物置になってますよね?トット先輩、どこで寝てるんです?」
あ・・・・
「あ!それはね!わたし先輩といっし・・もがぐむむむむむむ」
光の速さでトットの口を塞ぐ。
やめてくれ、これ以上は無理だ。私の許容限界を超える。
「それは・・・機会があったら説明する。床で寝かしたりはしていないから安心して欲しい。」
もう、消去法で答えを言ったようなものだが、そこは無言の圧力で制する。
本題に入る前に私がパンクしそうだ。
本題・・・そうだな。本題に入ろう。
「当面の課題は・・・トレーナー君が個人でその女性と連絡を取っていて情報が入手できないこと。そして、その女性と二人で会う可能性があること。その二つだな。」
「そうっスね・・・特に、いつ会うつもりかわからない。これが痛いっス。」
スリヴァッサが乗ってきてくれたのでなんとか本線に戻れた。彼女の場合、わかってて乗ってきた気もするが。
「その元カノは~ここにはあと8日間と言っていました~。平日の可能性を潰すと・・・一週間後ですね。」
カレンダーを確認する。そこには、”みんなと夏祭り”と記載されていた。
確か・・・休養日に地元の夏祭りが開催されるので、みんなで行こうという予定になっていたはずだ。トレーナー君も、もちろん誘うつもりではいたが、スケジュールが埋まることもないだろうと思い、まだ誘っていない。
平日の夜は翌朝が早い事を考えると・・・ここは確かに怪しい。少なくともトレーナー君のスケジュールは今は空いているはず。
「夏祭りの日っスね・・・トレーナーを誘うのギリギリまで待ってみましょうか。先にその元カノに予定を入れさせた後でルドルフ先輩が誘えば、予定が入っている時間を特定できるっス。」
・・・いい案だ。
はたして、そのスリヴァッサ案は功を制する。
夏祭り2日前に誘ってみたところ、トレーナー君は私たちに同行はするが、19時前に用があるので帰る、という。
・・・人と会う、とは言わなかった。
今更ながら、先日ルナの日の件で彼につれない態度を取ってしまった事が悔やまれる。
・・・トレーナー君、まさか、ということはないと信じているが・・・ない・・・よね?
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祭りばやしに色とりどりの屋台。
今は16時少し過ぎくらいなので、今の季節だとまだ日は高い。
それでも少しずつ夕方にさしかかってきた空気が、よりノスタルジーな空間を演出している。
今日は合宿所の近くの地元の夏祭り。
流石に合宿中なので浴衣などの用意はないけれど、それでも私、トラットリアを浮かれットリアにするには充分だった。
お祭りだ・・・!しかも、チームのみんなと・・・・!!
満ちるおいしそうな匂い。楽しそうな家族連れ。はっぴを着てなにかの準備に勤しむ人たち。
うーん、お祭りってかんじ!!!
ん?あれは・・・・なんだ?
「7色クラッシュにんじんアイス・・・」
「トット先輩、食べたいんです~?でもまだ入口ですし・・・これ、けっこう大きいですよ?それにしてもスゴイ色ですね~」
うーん、流石に大きすぎる気がする。他のものが食べられないかなぁ。
「今日は好きなもん食べてもいいけど、食べ過ぎると翌日ツラいからな。自己責任でな。」
「やたっ!トレーナー、奢りっスか?」
「っと思うだろ?今日はルドルフの奢りだそうだ。先輩に感謝していけ。」
「先輩!いいんスか!」
「ああ、たまには私にも先輩風を吹かさせてくれ。ただ、トレーナー君からもあったが、食べ過ぎは注意だぞ。」
奢り・・・らしい。
うーん、でも、やっぱり大きすぎるか・・・・
その後、私たちはぶらぶらしながら、ぶどう飴を食べたり、みんなで射的をしたりしながらお祭りを楽しんでいった。
金魚はダメだって。仮にもって帰れても寮内では飼えないらしい。
和太鼓の演奏はすごかった。私の地元にはなかったので、心臓に直接響いてくるような音の嵐に感動した。
こういう低い音が中心だと、私たちウマ娘でも楽しめる。私はこれ、かなり好き。
ーーーチリーン
様々な屋台を物色しながら歩いていると、涼し気な音が聞こえ、私は足を止めた。
「あ、風鈴屋さん、ですね~。トット先輩、見ていきます?」
「うん!」
コロちゃんも気になったようで声をかけてくれた。一緒に見に行くと他の3人もついてくる。
「らっしゃい!お、ウマ娘御一行か。合宿かい?」
「ははは、毎年お騒がせしてます。」
「いいって、いいって!毎年この時期の祭りはウマ娘の嬢ちゃん達がトレーナーにおねだりして銀を落としてってくれるからよ!こちとら合宿様様よ!」
「おじさん、これ、なーに?」
私は風鈴の下に並べてある、小さな鈴がついた色とりどりの編み紐で作られたストラップのようなものが気になった。
ストラップに見えるけど・・・風鈴屋さんでストラップ?
「おー嬢ちゃん。そりゃ、根付つーもんだよ。本来は着物の帯につけて使うもんなんだけどな。まぁ、ストラップだと思いねぇ。」
ストラップだった。
・・・欲しいなぁ。
「おう、トレーナーの旦那。どうだい、うちの根付は全部手作りで、しかも紐の素材からこだわってる。ちーと他のとこより値は張るが、ものの良さは保証するよ。ここは一つ、財布軽くしてでも男っぷり上げてみるってのは。なぁ、嬢ちゃん。」
「トット。そんな目で見るな。・・・全員一個ずつだ。ルドルフ、ここは俺が出す。おまえも一つ選べ。」
「おうおう、いいじゃねぇか、旦那!即決とは上げる必要もなく男だねぇ。おっしゃ俺も男を見せるか。1個おまけだ!おい、嬢ちゃん、旦那の分も選んでやんな!」
うー尻尾がぶんぶんする。
うれしい・・・かわいい根付もそうだけど・・・これ、みんなでお揃いだ!
「ふむ・・・鈴の部分も色々な色や形があるのだな・・・・」
「悪い事は言わねぇ普通の形にしときな。こっちのは国産だけど猫だのなんだのの形のやつは海外の工場製よ。強度もないし、音が違う。うちの値段だと割に合わねぇよ。・・・お?嬢ちゃんはなんか見た事あるな。」
「ははは・・・」
みんな思い思いの根付を選んでいく。
私は、緑色の紐のものにした。
そして最後にみんなでトレーナーさんの分を選んだ。
「まりどありー!」
えへへ・・・お揃い・・・みんなとお揃い・・・・
ーーーーーー⏱ーーーーーー
ーーーチリン
「・・・いい音。」
目の前に根付を持って鳴らしてみると、澄んだ綺麗な音がする。
「トット。随分気に入ったんだな。」
「はい、トレーナーさん!えへへ・・・宝物です・・・・」
「・・・良かったな。」
宝物です・・・・本当に。
「お、こんな時間か。すまない、事前に言ってあったが俺は抜ける。ルドルフもいるし、大丈夫だとは思うが、あまり羽目を外しすぎないようにな。ルドルフ、頼んだぞ。」
「ああ、まかせてくれ」
その後、時計を確認したトレーナーさんはそう告げると来た道を戻っていった。
・・・・浮かれすぎて忘れてた。ミッション、スタートだ。
「・・・・行ったっスね。あとをつけましょう。各自、さっき買った鈴、鳴らないように気を付けてください。」
慌てて、紐ではなく鈴の部分を掴む。
ヴァニィちゃんに言われなきゃ尾行の途中に鳴らしてたよう・・・・
ーーーーーー⏱ーーーーーー
「やっぱり・・・帰らない・・・ね」
トレーナーさんは帰る、とのことだったが、来た道を戻る途中、合宿所とは別の方向に曲がった。
あっちは・・・海かな。
「ここからはかなりヒト気が減るな。物音に充分注意してくれ。」
ルドルフ先輩は少なからず殺気立っている。
わたしは・・・今はまだ大丈夫だ。
でも、あの女のヒトを目の前にしたら・・・わからないな。
あの人は嫌な匂いがした。
私たちから・・・トレーナーさんを奪おうとしている匂いが。
「・・・ストップっス。トレーナーさん、止まりました。あ、やっぱりいますね。あの女のヒト。」
浜辺のど真ん中だったら近づきようがなかったが、比較的入口あたりで会うようだ。
近くにあったボート小屋の陰に隠れて話が聞こえる辺りまで歩みを進める。
幸い、風は海からの向かい風だ。ある程度距離があっても、私たちの耳なら聞こえる。
『ありがとね。来てくれて。一週間ぶり。』
『ああいう言い方されたらな・・・あいつらには帰るって行ってきたんでな。手短に頼む。』
『生徒さんとお祭り行ってたんだっけ。私に会うって言ってないの?』
『そんなこと言ったらついてくるぞ。』
『モテモテじゃない。』
ーーーギクゥ
ごめんなさい、トレーナーさん・・・ついてきてます・・・・
『そんな話をしに来たんじゃないだろ。・・・あの時のことは、俺はもう気にしてない。謝りにきたんなら、俺は大丈夫だ。』
『気にしてない・・・か。私は、気にしてる。私、謝りに来たんじゃないの。私は・・・君とやり直したい。ねぇ、ダメかな?私、もう一度君と付き合いたい!』
『おまえ・・・そんな、もう6年以上も・・・』
『あの時は!あの時の事は・・・私も反省しているの。意地になっちゃったけど、本当に別れたいわけじゃなかった。こんなに・・・忘れらないと思わなかった。』
ーーーやっぱり。元カノだ。
6年以上前。そんな昔のトレーナーさんを知っている彼女。
当時のトレーナーさんは彼女に愛を囁いたんだろうか?・・・体を、重ねたんだろうか?
話の流れだと、元カノの方がトレーナーさんをフッたんだろう。
なのに今更?
ダメだ。視野が暗くなる・・・苛立ちを抑えられない。
そっか。これが嫉妬か。
ルドルフ先輩相手には抱かない、暗い感情に支配されるのがわかる。
先輩、こんな感情といつも戦っていたのか・・・
『ダメだ。俺は、おまえとそういうつもりはない。そういう話なら悪いが・・・ここまでだ。俺は帰る。』
『まってよ!』
帰ろうとするトレーナーさんの手を元カノが掴む。
『・・・離してくれ。』
『いやよ!私だって・・・私だって、君がトレーナーの試験に合格して!落ち着いたらすぐに会いにいくつもりだった!なのに、君は担当したウマ娘とすぐに有名になって!どんどん有名になっちゃって!今行ったら・・・今、もう一度付き合いたいなんて言ったら、君が有名人だからヨリを戻したいようにしか見えなくなっちゃって!だから偶然にかけたの。毎年ここに来てたの。・・・今離したら、君はもう私の手には、届かない・・・これからずっと・・・・』
そういった元カノはトレーナーの手を思いっきり引っ張りながら自分の顔をトレーナーさんに近づける。
あ・・・・と思った瞬間だった。
トレーナーさんがキスされる・・・そう思った瞬間、とんでもない瞬発力で飛び出したルドルフ先輩がトレーナーさんの両肩をもってトレーナーさんを元カノから無理やり引き離した。
あっけに取られる元カノをしり目に、なんだか予想していたようなトレーナーさん。
「ルドルフ・・・今のは俺も避けれたぞ。」
「どうかな。君はトットの時は避けなかったからね。」
「う・・・まぁ、しかし。いるかもとは思っていたが・・・他もいるんだろ。出て来い。」
言われてぞろぞろと物陰から姿を現す私とヴァニィちゃん、コロちゃん。
・・・・流石に、バツが悪い。
「生徒さんたち・・・それにあなたは。彼の最初の担当バの・・・」
心底驚いた様子の元カノ。
まぁ、そりゃそうか。
「シンボリルドルフだ。トレーナー君の、元カノさん。」
「そう・・・でもごめん。私も引けないんだ。大人の話に、首をつっこまないでくれないかな。」
「こちらも。はいそうですかと引き下がるわけにはいかない事情があ・・・・」
ルドルフ先輩と元カノが火花を散らし始めたときだった。
トレーナーがそっとルドルフ先輩を手で制した。
「おまえとはもう、そういうつもりはない、と言ったな。紹介する。彼女は俺の婚約者だ。」
「「「えぇぇぇええ?!!」」」
私とヴァニィちゃんとコロちゃんから同時に驚きの声があがる。
付き合ってるのは知ってたけど・・・婚約してたの?!
「婚・・・約・・・?ウマ娘・・・と?」
私たちも寝耳に水だったが、元カノの方も予想外だったようだ。
「ああ。籍を入れるのは彼女の卒業後だがな。だから、おまえとやり直すようなことは、ない。」
はっきりと。トレーナーさんが告げる。
ーーーー元カノの目に。暗い光が宿った気がした。
「大丈夫なの?ウマ娘と結婚って。私たちとは違う生き物だよ?彼女たち。」
「なにを・・・」
「ワイドショーとかで見るよ。ウマ娘の旦那さんが夫婦喧嘩の挙句、大怪我したとか。ウマ娘と一緒になって、一方的に傷つくの君なんじゃないの?・・・ねぇ、シンボリルドルフさん。あなた、彼と深い付き合いみたいだけど・・・一度もないの?彼を傷つけた事。」
「う・・・・」
「・・・・あるっぽいじゃん。しかも、自分の担当バでこんな有名人と・・・君、それじゃ幸せにはなれないんじゃない?」
まくし立てるようにトレーナーさんを責める元カノ。ルドルフ先輩も何も言えなくなっている。
なにを、言ってるんだ・・・このヒト。なにを。
ーーーー私は・・・がまんが、できなかった。
「ねぇ、なんでそんなこと言うの?なんで自分が好きだった・・・今ももう一度付き合いたいって言ってるヒトに、幸せになれないなんて言うの?!」
「トット・・・・」
「なに・・・あなた。あなたも割って入るの?でも事実じゃない。シンボリルドルフさん、なにも言い返してこないけど?・・・あるんでしょ。彼を傷つけた事。」
「でも真実じゃない!あなたは知らないじゃない!トレーナーさんと先輩が、どれだけ強く惹かれ合ってるか、どれだけお互いの事を思いあってるか・・・あなたが言ってることは、ワイドショーのコメンテーターと一緒だ!事実を言ってるつもりかもしれないけど、なにひとつ真実じゃない!!」
許せない。トレーナーさんを傷つけることも。ルドルフ先輩を貶めることも。
なにも知らないあなたが。知ろうとすらしてこなかったあなたが。
6年以上待ってた?ただ動いていないだけじゃないか!なにもしていない!
「なんであなたがそんなに・・・あ、そっか。あなたも彼が、好きなんだ?残念ね。彼は先輩と結婚するって。私とおんなじね。」
「・・・好きだよ!でも同じじゃない。私は、好きなヒトを・・・愛してるヒトを傷つけるようなこと、言わない!そんな事できない!あなたが今していることは、ただ単に思い通りにならなかった事に対する復讐だ!あなたが、トレーナーさんへの愛を語らないで。私の、トレーナーさんへの気持ちは、そんな安っぽいものじゃない!」
「トット・・・おまえ・・・」
そこまで言ってハッとした。
・・・私、今何を言った?
恐る恐るトレーナーさんの顔を見る。
ーーーー驚いた顔。
・・・もう、冗談では躱せない。ごまかせない・・・・
ーーーバレた。
「あ、あの、私・・・・あ、あ・・・・ごめんなさい!!」
私は・・・その場を逃げ出した。全速力で。
「おい、トット、まて」
「行かせない!まだ・・・私話終わってない!」
後ろで追いかけようとするトレーナーさんと阻止しようとしている元カノの気配を感じたが、もうそれどころじゃなかった。
まだ、言うつもりなんかなかった。
今いったらダメになることくらいわかってた。
バレちゃた・・・・バレちゃったよう・・・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「くそ・・どっちに行った・・・・」
私は、トレーナー君と元カノの取っ組み合いをスリヴァッサとコロネットに任せ、急ぎトットを追った。
海の方へ駆け出したのはわかる。
だが、潮風のせいで鼻が効かない。
こう暗くては視界だけに頼って探すのも限界がある。
せめて足跡をと思って月明りを頼りに探してみたが、もともと我が学園の生徒がトレーニングに使っている砂浜だ。足跡など無数にあり、判別がつかない。
完全に・・・見失ってしまった。
トットは・・・今、トレーナー君に気持ちを伝えるつもりなどなかったはずだ。たぶんこれで終わったと思っている。
早まって・・・くれるなよ。
とにかく手がかりを求めて目を凝らす。
なにか・・・・なにかないか・・・・
ーーーチリン
風に乗って、つい最近、聞いたことがある音色がした。
『えへへ・・・宝物です・・・・』
・・・・こっちだ。
私は、迷わず音色がした方へ向かった。
ーーーーーー⏱ーーーーーー
「ぐすっ・・・ひぅ・・・うぅ・・・・ぐすっ・・・うぇぇぇ・・・」
ーーー見つ、けた・・・・
予想以上にかっ飛ばしたらしい。先ほどの場所からかなり離れた砂浜と道路の境界。
そこの茂みで根付を握りしながら膝を抱えているトットを見つけた。
「トット・・・。」
「あ・・・ルドルフ先輩・・・・」
「トット、急に走るな。月明りしかないんだ。いくら砂浜とはいえ、危ないぞ。」
トットは顔をあげ、私をみた。
もうずいぶん泣いていたのだろう・・・この暗闇でわかるほど、目が真っ赤だ。
「ぐ・・・うぅう・・・・どうしよう、先輩。私、言っちゃいました・・・好きって・・・言っちゃいました・・・」
「トット・・・・」
「まだ言うつもりなんかなかったのに!言ったら拒絶さえることなんかわかってたのに!」
もう半狂乱に近いトットは私に助けを求めるように膝立ちのまま、しがみついてきた。
真っ赤な目の瞳孔が開ききっている。
その目に映っているのは・・・絶望だ。
「もう一緒にいてもらえない!そばにいさせてもらえない!終わっちゃった!全部!私がバカなせいで!」
なんと・・・言っていいかわからない。
「うぐ・・・ひっ・・・う・・・うぇぇぇぇーーーん・・・・・」
私はトレーナー君との将来を約束された身だ。そんな私が今のトットに言えることなど・・・
ーーーいや、ある。そうだ。彼女が好きな相手は・・・1人じゃない。
「トット・・・一つ、いいか。」
「うぐ・・・ひっ・・う・・・?」
「君は・・・私のどこが好きなんだ?私は、その・・・女だぞ。同じウマ娘だ。一般的には、恋愛対象にはならないと思うのだが。」
彼女は、私のことも好きだといった。トレーナー君と同じように。
私が・・・彼女にとってトレーナー君と同位となりえるのならば。
私も聞きたいことがある。
「女・・・?」
・・・そこ、疑問符がつくのか?私だって女の子のつもりなんだが・・・・
「あの・・・わたし、ルドルフ先輩が、男のヒトでも女のヒトでもどっちでもいいです。ルドルフ先輩が好きなんです。いつでも一生懸命で。おっきな夢を追いかけていて。トレーナーさんが全力で大好きで。そして、こんな出来損ないの後輩たちにも一所懸命に相手をしてくれる・・・そんなルドルフ先輩が。」
「男でも・・・女でも・・・」
「はい。私、ルドルフ先輩が女のヒトなら一生そばにいたくて。男のヒトでも一生そばにいたくて。違いって・・・ルドルフ先輩が男のヒトだったら、子供作れるな、とかそれくらいの違いしか・・・」
私の固定観念が・・・古いのだろうか。
男でも女でも関係ない。あなたのそばにいたい。
・・・あるのか?こんな口説き文句。
「君が・・・私とトレーナー君。どっちも好きだというのも・・・そんな感じなのか?・・・聞かせて欲しいんだ。君の気持ちを。」
私にはない概念。思い。・・・理解したい、彼女を。
「・・・私・・・元々恋愛とか、疎くって。昔から、とにかく速くなりたい。レースに出たいって、そればっかりで・・・気が付いたら、こうだったのでその、うまく言えないんですが・・・」
ゆっくりトットの言葉を待つ。
トット。大丈夫だ。目の前のトゥインクルシリーズ制した7冠バも、恋愛は初心者だ。
「あの・・・やっぱり変ですか?好きな人は・・・1人に絞らなければいけませんか?どっちもずっと一緒にいたいのに。どっちも大好きなのに。好きなヒトが2人いることは・・・いけないことですか?」
ーーー強いな・・・・この娘は。
やっと・・・理解できた。
この娘・・・トットにとって、一番大事な芯は自分の気持ちなんだ。
だから、それが常識という枠組みから外れていようとも関係なく踏み込んでくる。
なんという・・・エゴイストなのだろう。
彼女の気持ちは彼女が言ったそのままだった。彼女はずっと本心を言っていた。
全部欲しい。トレーナー君も、私も。だからそのために全力を尽くす。全身全霊で。立ちはだかるものなど関係ない。例えそれが・・・常識などという概念であっても。
私には、ここまで強い自己はない。逆に理想の為に押し殺している面すらある。
ーーーすごいな。
素直にそう思った。
貫き通す意志。曲げない自己。その点においては・・・彼女は私より上だ。
・・・私にも、できるだろうか。彼女みたいに。トレーナー君も、理想の世界も。・・・大事な後輩も。
全部欲しい。
ーーーそういえば。
私がトレーナー君と婚約するきっかけを作ったのは、彼女だったか。
彼がチームを立ちあげたきっかけになったのも。
そして、今。
大事な転機にはいつもトットがいる。
・・・・不思議な縁だ。
「トット。君の気持は、わかった。帰ろう。みんなのところへ。」
ーーー全部を、手に入れる。すべてを・・・・か。
ーーーーーー⏱ーーーーーー
トレーナー君の元へトットと共に戻ると、元カノが頭を下げて待ってた。
「ごめん・・・シンボリルドルフさん。そっちの生徒さんも。私、ダメだね・・・昔、彼と別れた時と同じ間違いしちゃった。彼ね。付き合ってた頃・・・トレーナーを目指してはいたんだけどね。急にセントラル目指すっていって、私との時間が急に減っちゃってね。やっちゃったんだ。同じこと。本当にごめん。」
そう言うと深々と頭を下げた。このヒトも・・・トレーナー君のことが好きだということ自体は嘘偽りないのだろうな・・・
「あなたが言ったことは・・・肝に命じる。トットはああいったが、事実の一端であることも間違いではない。こんなことが免罪符にはならないと思うが・・・誓おう。私は今後、トレーナー君を傷つけることはない。これから先、一生、ただの一度もだ。」
「・・・敵わないな。ごめんね。私、行くね。・・・・お幸せに。」
そういうと、元カノは私たちを残してこの場を去っていった。
あとは・・・トレーナー君がこの後、どう動くかだが。
彼は、このままにはしないだろう。そういう男だ。
「トット。少しいいか。さっきの事なんだが・・・・」
私の手を握っていたトットがビクッっと震える。
彼女は今・・・死刑台にでもいるような気持ちだろう。
「俺が好きだと言っていた、あの気持ちは・・・」
「事実だ。」
「ルドルフ?」
トットの代わりに私が答える。
「トレーナー君。トットだけではない。ここにいる全員だ。全員が君の事が好きだ。もちろん、恋愛対象として。もっと言えば、全員が君と子を成したいと思っている。つまり、本気だ。」
「え、えええ?」
なんだ、全然気づいてなかったのか。君も大概だな。トレーナー君?
トットが私の手を握りながらなにやら焦り始めたが・・・知らん。私に覚悟を決めさせたのは君だぞ。
「そして、トットは私の事も好きだ。恋愛対象として。・・・そいえば、トット。君は私を抱きたいのか?そういう対象でもあるのか?」
「せ、先輩!私の経験値ではそこまで想像できません!」
「そうか。・・・まぁそれは後でいいか。」
「る、ルドルフ・・・?」
ついていけていないトレーナー君。
ふふっ・・・爽快だな。いつも私がやられていることだ。こんなトレーナー君は初めてだ。思い知ったか私の気持ち。
・・・整理する時間は、やらん。
「リトルトラットリア、それにスリヴァッサにロイヤルコロネット。私とトレーナー君の関係は先ほど彼が言った通りだ。それに関しては少しも譲る気はない。私は彼と結婚する。卒業と同時に。」
3人が息を飲むのがわかる。
私は優しくトットから手を放し、トレーナー君の傍らに移動する。
ここが私の位置だ。トレーナー君の隣だ。
脅かすものは全力で排除する。何人たりともこの席は譲らん。
だが・・・引かないのだろう?君たちは。
「君たちは、欲しいのだろう?この男が。トレーナー君が。ならば・・・レースで私を倒してみろ。3人がかりでかまわない。期限は私が卒業するまで・・・彼と籍を入れるまでだ。私たちは、ウマ娘だろう?私は従うぞ。私より速いウマ娘の言うことには。」
「ちょ、え?ルドルフ?」
「トレーナー君、すまないな。私が負けたら、君は嫁が4人だ。・・・私は、君が自分で蒔いた種だとも思うがな。」
3人の目に・・・火が付くのが見て取れる。
片や七冠バ、皇帝・シンボリルドルフ。片やジュニアクラスの有望株程度と未デビューウマ娘が2人。
しかも、元落ちこぼれ。普通は勝負にならない。
落ちこぼれ・・・落ちこぼれか。相応しくないな。
彼に。トレーナー君に見染められ、才を見出された時点で過去の成績などなんの指標にもならない。
彼女たちが普通じゃないことぐらい、もうわかっている。
ともすれば、才能はトロフィーリーグにいるウマ娘達と同程度だ。彼女たちは。
・・・かかってこい。奪い取って見せろ。ウマ娘だろう。勝ち取れ。速さで。
「ルドルフ先輩・・・それは、あなたも、ですか。勝てばあなたも手に入りますか?」
「トット。そのつもりで言った。3人がかりだろうがなんだろうが、私に勝てば、私は君のものだ。だが・・・そう、易々と勝てると思うなよ?」
私は一息いれるとゲート前もかくやというほど、思いっきり本気の威圧感を飛ばす。
・・・3人に怯む様子はまったくない。
そうだ・・・それだからこそ、君達とはトレーナー君を賭ける価値がある。
だがな・・・今は彼は私のものだ。私、一人の。
「んむ?!」
私はトレーナー君がウマ娘の膂力に抵抗できないことを承知の上で強引に彼の唇を奪う。
「ん・・・ん、は、ちょ、ルドル・・・んん・・・・」
そのまま咥内を蹂躙した。
おしおきだ。君、ちょっと自覚なさすぎるだろう。
「ぷはっ・・・トレーナー君。今月のルナの日だが。今日、今、これからだ。私もいい加減、我慢の限界なんだ。異論は?」
「・・・・ない、デス」
3人の火が燃え盛るのを感じる。
コレが・・・欲しいのだろう・・・・?
今は私のものだ。
「トット・・・悪いが二人を引率して合宿所へ戻って欲しい。私は・・・これから用があるのでね。」
「はい・・・ルドルフ先輩。あの・・・できればトレーナーさんの匂い、いっぱいつけて帰ってきてくださいね。」
「ははっ・・・ブレないな、君は。保証しよう。」
・・・・かかってこい。
ーーー私が。皇帝だ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回、メインとしては最終話です。