人生万事、塞翁がウマ娘   作:tadas

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夏合宿後のお話です。


幕間:酔っぱらったトレーナーと介抱するふりして抜け駆けしたいウマ娘たち

 

トレーナー室のソファの上。

 

そこには艶めかしい色気をまき散らす、我らがチームカマルのトレーナーが横たわっている。

 

彼は相当酔っているようだった。話しかければ反応はするが、理解しているのかはいささか怪しい。

 

髪は乱れ、暑いのだろうか、ネクタイを大きく緩めている。空いた胸元からは普段あまり目にすることがない首元や鎖骨が覗いている。

 

上気した頬。悩まし気に目元を隠す腕。熱い吐息とそれに伴って上下する胸元。

 

 

 

・・・・劇薬だ。

 

 

いや、これの分類は麻薬か向精神薬だろう。即刻、規制すべきだ。取り扱いに資格を要求した方がいい。

 

そう、例えば。”トレーナー君と3年間トゥインクルシリーズを駆け抜けたもののみ扱いを許可する”といった具合に。

 

 

 

「ルドルフ先輩。それずっこくないです?」

 

 

うるさい、スリヴァッサ、回想に突っ込むんじゃない。

 

 

 

 

ーーーー事は、数刻前、チームメイトのトット、スリヴァッサ、コロネットとトレーナー君を待ちながら彼のトレーナー室でお昼を食べていた時にさかのぼる。

 

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

 

今日は恒例の大懇親競技会。

 

そこでまたもや即興寸劇のトレーナー枠に選ばれたトレーナー君はびっくりするくらい悪態をつきながら大講義堂へ向かっていった。

 

今回の寸劇はシンデレラ。

彼は白雪姫役だった。

 

 

よくわからないことを言っているかな?

 

私にもわからない。

 

 

 

彼は、舞台装置、配役、ストーリー、すべてがシンデレラとして用意されている中、なぜかシンデレラの代わりに白雪姫として劇に放り込まれていた。

 

理事長の粋な計らいらしい。

理由は白雪姫だとキスイベントがあるからだそうだ。

 

 

遠目に見てもトレーナー君はキレていた。

 

 

ちなみに今回、私は参加していない。人気投票で決まる出演者は、1チームにつきウマ娘は一人と取り決めがあるからだ。

 

そう、今回は私と、なんとジュニアクラスでありながらトットにも白羽の矢が立ったのだ。

 

そうなればもちろん、今後の活動などを考えて劇に出るのはトット一択だ。

 

 

彼女は立派に演じて見せていた。意地悪な姉役を。

 

”俺、白雪姫だからあんたの妹じゃないし?赤の他人だしぃ?”という無駄な抵抗をするトレーナー君を立派に苛め抜いているトットは大変見ごたえがあった。

 

・・・なぜか途中から表情が恍惚としていた気もするが。おかしな扉を開いてなければいいのだが・・・

 

 

 

まぁ、そんなこんなで、劇自体は大盛況のうちに幕を閉じた。

 

問題はそのあとだ。

 

 

トレーナー君は終劇後、上機嫌なベテラントレーナー数人に囲まれてそのうちの一人のトレーナー室に連れていかれた。

 

そこで誤って飲んでしまったらしいのだ。

ベテラントレーナーがこっそり飲もうとジュースの入れ物に移し替えて冷蔵庫に入れていた、キンキンに冷えた”強めのゼロ(9%)”を。

 

 

トレーナー君は元来、お酒はあまり強い方ではない。

 

私も何度か彼が飲んでいる場面に居合わせたことがあるが、弱めのカクテルでかなり上機嫌になっていた記憶がある。

 

 

強すぎたのだ。ゼロ(9%)は。

 

彼は、直前の劇のストレスもあったのか、かなり暴れた上、コップの中のゼロ(9%)はすべて飲み干してしまったらしい。

 

 

さて、そうなるとトレーナー君の介抱も問題だが、そもそも、いくらお祭り騒ぎの大懇親競技会とはいえ、トレーナーが勤務時間の昼間っからアルコールを摂取していたこと自体、学園にバレると非常にマズい。

 

 

 

そこで、ベテラントレーナー達は決断した。

 

 

ーーーー面倒だし、隠ぺいしよう。

 

と。

 

 

そして、担ぎ込まれたということらしい。隠ぺいと介抱を同時に丸投げするため、ここ、彼のトレーナー室に。

 

 

 

「あーごめんな!皇帝ちゃん!君の立場だと看過できないことかもしれないけどさ。でもこれ、事故なんだ。バレたらこいつも結構マズイからさ。悪いけど大めに見てくんない?」

 

担ぎ込んできた、ダイワスカーレットのトレーナーの言だ。彼はトレーナー君の親友に位置する。

 

「あー・・・・そうそう。秘密にしてもらう代わりに・・・いい情報をあげよう。そいつな。ここまで酔うと、ほとんど覚えてないよ。その後の事。・・・・・んじゃね!」

 

 

 

・・・・悪魔かなにかだろうか。

 

スカーレットのトレーナーは、わかっててここに放り込んだのだろうか。

チームのウマ娘が全員集合しているこの場に。

 

前後不覚の上、その後の記憶が定かでなくなる担当トレーナーを預けて行くというその意味を。

 

本当に親友か?

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「と、とりあえず。学園への報告などの問題はさておいて・・・ゴクッ まずは介抱しなければ、ハァ なるまいな。このような、状態、フゥ なのだし。」

 

 

言いながら、自分でも呼吸が荒くなってるのを自覚する。

 

胸が高鳴る。なんだこの色気は・・・

 

いけない。よこしまな考えが頭をよぎる。

 

 

ーーーー食べちゃいたい・・・・

 

 

 

「いえいえ、なんかルドルフ先輩は目つきが ハァ 怪しいので、僭越ながら自分が介抱するっスよ。フゥ 先輩は、座っててもらっていいっスよ。ハァ」

 

「スリヴァッサ、まったく説得力がない。」

 

 

目が血走っているスリヴァッサを制する。

 

行かせんぞ。

 

 

「わ、このトレーナーさん、なんか見てるとドキドキ・・・してきますね。なんだろう。触っていいですか?トレーナーさん?・・・・・断ら、ない。触って・・・いい・・・?」

 

 

建前をもなにもなく彼に触りに行こうとするトット。

完全に掛かっている。

彼は今は返事ができないぞ、たぶん。

 

まずいな、この娘の雰囲気に飲まれると周りも歯止めが効かくなる。

 

 

「トット。まずは、介抱だ。そう、介抱。ほら、トレーナー君、辛そうだろう。」

 

 

「介・・抱・・・」

 

 

「そうだ。彼は今、アルコールに蝕まれている。楽にしてあげなければ。そうだな、まずは服を・・・・・・・服・・・を・・・」

 

 

ーーーゴクリ

 

 

横たわる彼を凝視し、3人が3人とも生唾を飲む。

 

脱がした方が・・・いいよな?暑そうだし。ワイシャツは寝心地悪そうだし・・・・

 

 

 

 

 

ーーー君達、座ってていいぞ。ほら、彼女は私だ。彼女の役目だろう。

 

ーーーいやいや、先輩の手を煩させるほどじゃなないっス。ここはあたしが。

 

ーーー服・・・脱ガス。服・・・イラナイ・・・・

 

 

お互いがお互いを牽制し合って動けない。

 

目で牽制しあうこと数刻。

 

 

 

スルッとトンビが油揚げをさらいにきた。

 

 

「も~みなさん、なにやってるんですか~。はい、トレーナーさん。お水ですよ~。起きれますか~?」

 

 

冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取ってきたコロネットがスタスタと私たちの前を通り過ぎ、トレーナー君が寝ているソファーの前に座った。

 

 

「ん・・・水・・・くれるの・・・?ありがとう・・・・」

 

 

水が飲みたかったらしいトレーナー君。なんとかフラフラ起き上がろうとするが、うまく体が動かないようだ。

 

「も~ダメですよ~。無理しないでください~。」

 

起き上がろうとするトレーナー君を介助しようと彼を支えるため、コロネットが膝立ちになるのと同時。

 

「お?」

 

起き上がるための支えにした彼の右腕の位置が悪かったのだろう。トレーナー君がバランスを崩した。

 

咄嗟に左腕で近くのものに捕まろうとする。

 

 

 

 

 

むにゅ

 

 

 

「やん///」

 

 

近くにあったのはコロネットの胸だった。

 

 

 

・・・鷲掴みだ。

見事な鷲掴み。トレーナー君は猛禽類だったのだ。

 

 

 

「ん・・・ごめん?」

 

いまいちよくわかっていなそうなトレーナー君。

 

「も~だいじょうぶですか~? ふふふ・・・んっ///」

 

まったく払いのける様子も引き離す様子も見られないコロネット。そのまま揉ませている。

 

 

 

「ちょ、コロネット?!」

 

慌ててトレーナー君の元に集まる3人。

 

く・・・先を越された・・・・!!!

 

 

 

 

 

 

「別にそのままでもよかったですのに~」とかなんとか言っているコロネットを無視してトレーナー君を彼女から引き離し、ソファに座らせる。

 

 

コロネットが持ってきたペットボトルのキャップの蓋を開けて手渡すと、トレーナー君は両手を使ってコクコク飲み始めた。

 

そして、そのソファの周りに体育座りで座り、彼を凝視するウマ娘4人。

 

 

う・・・・かわいい・・・・

 

 

普段、どちらかというと無骨なトレーナー君。そのトレーナー君がなにやら小動物みたいな飲み方で喉を潤している。

しかも、うまく飲めないのか、口の端からは少しずつ水が。

 

 

「あ、トレーナー。ちょっとこぼれてるっスよ。」

 

持っていたハンカチで水を拭こうと立ち上がったスリヴァッサが手を伸ばし・・・

 

 

 

「ワイシャツに・・お水が・・・そうだ、服、イラナイ・・・服、脱ガス・・・」

 

・・・その下で、完全に目が座ったトットが彼のワイシャツのボタンを外し始めてしまった。

 

 

 

手を伸ばしたまま固まっているスリヴァッサとダメだと思いつつトットを止められない私とコロネット。

 

 

「うんしょ・・・うんしょ・・・・」

 

 

彼女以外が無言の空気の中、血走った目をした3人をしり目に、一人で懸命にボタンを外すトット。

 

 

 

 

ーーーいけない。これはいけない。

 

 

わかってはいるのに、誰も止めない。

 

 

 

 

 

時間にして数十秒程度。

 

結局誰もトットを止めなかった。最後まで。

 

 

 

御開帳されるトレーナー君の上半身。

 

まだ、ワイシャツ自体は着ているのではだけているのは正面だけだ。

 

 

だが、それで十分だった。

 

 

 

 

遮るものがなくなり、ダイレクトに脳を刺激するトレーナー君の匂い。

 

それと共に現れた、なぜか夏合宿中に極限まで鍛え抜かれている腹筋。

私たちの方が筋力自体はあるのだろうが・・・私たちは鍛えてもこうはならない。

 

 

それはとても・・・とても蠱惑的に映った。

 

 

よくわかってないのか、不思議そうな顔でなおも水を飲もうとするトレーナー君。

 

いけないとわかりつつも誰も咎めるものがいない。トレーナー君本人はわかってない。

ブレーキは・・・かからない。

 

 

「ゴクッ・・・と、トレーナー・・・ダメっスよ。水・・・こぼれて・・ますよ・・・」

 

 

スリヴァッサは水を拭くふりをしているが、あれは完全にトレーナー君を触りにいっている。そんな腹筋の方まで水こぼれてない。

 

 

 

普段の私なら目の前でトレーナー君をベタベタ他のウマ娘が触るなど、到底許される行為ではない。

 

 

 

だが、私は今はそれでころではなかった。

 

ずるい、私もなんとか触りたい。なんとか大義名分を作って今すぐトレーナー君を触りたい。

 

 

 

 

しかし、そんな私はすっかり忘れてた。

 

うちのチームには一人、そんな大義名分など考えずに思ったことをそのまま行動してしまう問題児がいたことを。

 

 

 

「トレーナーさん、頑張ったんですね。すごい・・・腹筋・・・」

 

彼の正面に座っていたトットはうっとりした表情で彼の腹筋を両手でぺたぺた触ったあと、ソファに座っているトレーナー君のそこに顔をうずめてしまった。

 

 

ーーー絵ずらがまずい。

 

 

 

 

「トット!アウトだ!それはアウト!!」

 

 

もはや介抱でもなんでもない。その大義名分を捨てると、ここは混沌に飲み込まれる。

 

 

 

 

だが、普段なら素直に顔を離したであろうトットは、じっとそこに顔を埋めたまま動かない。

 

 

「・・・・トット?」

 

 

嫌な予感がした私は彼女の肩を掴むとゆっくりと起き上がらせる。

 

 

「えへ、えへへへ・・・・あ、ルドルフ先輩・・・なんか・・・気持ちいいです・・・・」

 

 

濃艶な笑みを浮かべ、誘うような目で私を見てくるトット。

 

 

 

まずい・・・トレーナー酔いだ!

 

 

彼の濃厚すぎるフェロモンに中てられたのだ。

無理もない。あんなとこに顔突っ込んだんだ。

 

 

そのまま私にしだれかかってくるトット。

 

「せんぱいもぉ・・・いっしょに、きもちよく、なりません~?」

 

 

なにか対象が私に移った。

 

 

私だって少なからず今のトレーナー君のフェロモンには中てられている。

それに加え、今は至近距離からトットも強烈なフェロモンを発してきていた。

 

いかん・・・頭がクラクラする・・・・

 

 

 

 

「はい~じゃあ脱ぎましょうね~」

 

そんなトットに意識を奪われてしまった私は、スリヴァッサとコロネットの動きを牽制できていなかった。

 

 

ソファの周りに座っていたはずのスリヴァッサとコロネットはいつの間にやらトレーナー君の両隣りに腰掛け、彼のワイシャツを脱がしている。

 

二人は思いっきりトレーナーに体を押し付けているため、トレーナー君はかなり脱ぎにくそうに一生懸命ワイシャツを脱ごうとしていた。

 

当然、肘やらなにやらが彼女らの身体に当たるわけだが、二人はまったく自らの身体を守る素振りも避ける素振りもない。むしろ当ててる。うれしそうに。

 

 

 

「アウトー!アウトだよ二人とも!」

 

「あらぁ、介抱ですよ~・・・ほら、これ。」

 

そういうとコロネットはいつの間に取ってきたのだろう、着替えと思われる彼のトレーニング用のTシャツを私に見せる。

 

 

 

うそだっ!そもそも二人に挟まれてそんな狭い空間で着替えなんかできるかっ!

 

「んっ/// トレーナー・・・腕もすっご・・・」

 

スリヴァッサなんかこっちを見もしない。

 

 

「ダメだよ!ダーメー!そもそも、二人ともまだ私に勝ってないじゃん!トレーナー君は私のだもん!二人はそんなにべたべた触っちゃダメだもん!」

 

「でも・・・ルドルフ先輩もウマ娘ならわかるっスよね?こんな匂い・・・我慢できるわけ・・・トレーナー、脱ぎにくそうっスね。手伝うっスよ・・・」

 

そう言いながらさらに体を押し付けるスリヴァッサ。さらに首筋のあたりをすんすん嗅ぎだした。

 

どんどん遠慮がなくなってきている。

 

 

 

 

トットを引き離しながら指摘するも、まったく意に返してくれない。

 

 

「ん~・・・なにか、ルドルフ先輩、幼くなってません~?」

 

「あ、ルドルフ先輩たまにこーなるんだ。かわいいよね。あ、トレーナー腕こっちっスよ。ふふふ・・・」

 

「なってないもん!!」

 

 

なおもトレーナー君の着替えを手伝う2人。手伝いというか邪魔しかしていない。

それどころか、脱げかけても二人が元に戻してしまうので永遠に脱げない。

 

トレーナー君は何度も脱ごうとした結果、今は腕がひっかかってしまい困った顔をしている。

 

 

 

 

 

「そうなんです・・・かわいいんです。ルナ先輩。とても。ね、せーんぱい///」

 

目を離した隙に一度引き離したトットにまた距離を詰められた。

 

トットはうっとりした表情で私の顔に右手を添え、下から上目遣いで見上げてくる。

膝立ちなので押し倒してくるようなことはないが、腰に左手を回されているので私もうかつに動けない。

 

さっきより近い。

 

恐らく距離を取ろうとしたらそのまま倒れこんでくるつもりだ。

 

 

 

「トットも!君だってまだ私に勝ってないからね!ダメだからね!そーゆーの!ダメ!」

 

「えーダメ・・・ですか?先輩だってこんなにいい匂いさせるのに・・・」

 

 

私も自分に歯止めが効いていないらしい。確かに身体が熱い。喉が渇く・・・

 

だが、トットは素直にもそれ以上は踏み込んではこなかった。

耳がぺたん、と垂れている様子から、こんな状態でも私のいう事は聞くようだ。・・・なんかぞくぞくする。

 

 

い、いかん。とりあえず、あとはこっちの2人を・・・・

 

 

 

 

 

 

ーーーーびりぃ!

 

 

 

そっちの2人に目をやった直後。

 

一生懸命頑張った結果、トレーナー君の筋力にワイシャツが臨終した。

悲しそうな顔のトレーナー君。

 

トレーナー君!トレーナー君は悪くないよ!ワイシャツ脱げなかったのはその両隣のウマ娘のせいだよ!

 

 

 

だが。

 

明らかに状況は悪化している。

 

ーーー破れたワイシャツ、覗く素肌、濡れた身体、物憂げな表情・・・・

 

 

・・・鼻血・・・出そう・・・・・・

 

 

これは両隣にいたスリヴァッサとコロネットにも効いた。

今はショックで動きを止めているが、動き出したら恐らく手に負えなくなる。

 

 

 

 

 

わたしは急いでトレーナー君を救出すべく彼の眼前に移動する。

 

そんな私の様子をじっと見つめているトレーナー君。

 

 

う・・・そんなに見つめられると・・・私も自制心が・・・・

 

 

今のトレーナー君はお酒の匂いに加え、両隣を興奮したウマ娘で挟まれているためかなり熱いのだろう。汗と共にとんでもなく甘い匂いを漂わせている。

成人男性から甘い匂いというのもへんな話だが、私にはそうとしか感じられない。

 

 

う・・・・ダメダメ。とにかくスリヴァッサとコロネットが再起動する前に、救出を・・・・

 

 

 

 

 

 

ふと、彼と目が合う。

 

わたしをじっと見て・・・・・

 

 

 

 

「あ、ルナだ。おいで・・・ルナ。」

 

 

急に私を認識したトレーナー君が私の手を引っ張り、ソファに座る自分の上に私を乗せた。

 

 

 

え・・・・あ・・・・え?

 

 

「どうした、ルナ。なんか困った顔をしているな。なにか嫌な事があったのか?」

 

そのままやさしく私の頭を撫で始めるトレーナー君。

 

 

 

 

私は・・・ウマ耳の先から尻尾の先まで歓喜に打ち震えた。

 

 

まだアルコールが抜けたわけではないだろう。明らかに普段と雰囲気が違う。まだ酔ってる。

周りの状況だって把握できていないだろう。

それどころか、両隣のスリヴァッサやコロネット、そこで指をくわえているトットだって恐らく認識できていない。

 

 

 

私だけだ。

 

私だけが、アルコールに蝕まれ、前後不覚に陥っているはずのトレーナー君の酩酊に打ち勝ち、認識してもらえた。名を呼んでもらえた。

 

これが、私が彼にとって特別だという証左以外のなんだというのか。

 

 

 

 

・・・・自制心か。そんなもの、そのへんの犬にでも食わせてしまおう。

 

 

 

 

もう、止められない。

 

 

 

 

「私・・・困ってるよ?あのね、まだ私に勝ってないのに好き勝手してくる後輩がいてね。全然いうこと聞いてくれないの・・・」

 

「そうなのか・・・ルナ、俺はどうしたらいい?なにかできることはあるか?」

 

「ん~ん。トレーナー君はなにも・・・なにもしなくてもいいよ。そのまま、じっとしててくれれば。」

 

 

私はおもむろに自分の制服のリボンに手をかける。

 

 

我慢できるか、こんなの。

 

いただきまー・・・・・・

 

 

 

「先輩!さすがに、ここでそれはまずいっス!それ以上はダメっス!」

「ルドルフ先輩~止まって~私たちが悪かったです~正気に戻って~」

 

 

あーあー聞こえなーい。

だって、トレーナー君からこんなに私以外のウマ娘の匂いがするんだもん。

消さなきゃ。上書きしなきゃ。

 

 

私が暴走したことにより、逆にコロネットとスリヴァッサが現実に戻ってきたようだが、そんなことはもはやどうでもいい。

 

 

後のことは後で考えよう。そうしよう。

しーらない。

 

 

状況自体は良く分かってなさそうだが言われた通りじっとしているトレーナー君。

 

いいよ・・そのまま、じっとしててね・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むー・・・二人ばっかり・・・ずるいです。」

 

トレーナー君しか映っていなかった私の視界に、突然、真横からふくれっ面のトットの顔が現れた。

 

流石に私も驚いて思わず動きが止まる。

 

 

 

でも・・・あれ・・・?

 

このソファは3人掛けだ。

真ん中にはトレーナー君。両隣にはスリヴァッサとコロネット。トレーナー君の上には、私。

 

トットが体を入れるスペースは皆無だ。

となると、トットは背もたれの後ろにいるはずだが・・・・いない。

 

 

同時に、ミシミシ・・・という木が悲鳴をあげる音と、ふわっ・・・と体が宙に浮く感覚。

 

 

 

 

結論から言うと、トットは背もたれに猫みたいに飛び乗っていた。

このソファの後ろには用具置き場とそれ用の通路がある。つまり、ソファは壁にもたれかかっていない。

そしてこのソファはもともと、私とトレーナー君が二人三脚を始めたころに中古で調達した年代物。

 

長年頑張ってきたソファも、5人分の体重には耐えられなかった。

 

 

 

 

ーーーーソファ君、両後足、骨折。

 

 

 

急に襲われた浮遊感に、私は咄嗟にトレーナー君の首にしがみつく。

 

あ、これ・・・倒れ・・・・

 

 

 

 

 

私の記憶はここで途切れる。

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

うーん・・・・

 

あったま・・・痛い・・・・

 

 

どこだ・・・ここ・・・・

 

 

 

俺はいまいちはっきりしない頭でなんで床で寝ているのかを考えるが、全然思い当たる節がない。

 

今何時だ・・・?そもそもどこだ・・・ここは・・・・

 

硬い感触から自分が床に寝ていることしかわからない。あーでもこの天井・・・・これ、俺のトレーナー室か?

 

 

段々とおぼろげながら記憶が繋がってきた。

 

そうだ、今日は俺はまたあの寸劇をやらされていたはずだ。

そしてその後、大笑いするベテラントレーナー連中に連れられてそのうち一人のトレーナー室に行き・・・

 

・・・その後、なんだ?ここまでしか思い出せない。

 

 

 

だが、今の症状には思い当たる節がある。

これは、許容量以上の酒を飲んだ時の症状だ。

 

ん~俺、飲んだのか?学園内で?昼間っから?

 

信じがたいことだが、もし飲んでいるとすると記憶が飛んでいることには説明がつく。

 

とりあえず・・・状況確認を・・・・

 

 

そこまで整理し、起き上がろうと試みるもまったく体が動かない。

 

 

 

そうえいば・・・なんか、乗ってるな。これ。

 

重いというほどではないが、明らかに俺になにか乗ってる。

 

唯一動く首を持ち上げて確認すると、それはすぐに判明した。

 

 

 

「スヤァ・・・・・・」

 

 

ルドルフ・・・・

 

 

俺の上にはルドルフが覆いかぶさる形で寝ていた。

 

 

そして、何故かシャツがはだけている。

なんで全開なんだ、俺のシャツは。

その俺の胸元に顔を押し付けるようにすやすや寝ているルドルフ。

 

状況はさっぱりわからないが、とりあえずルドルフを撫でようと右腕を動かそうとした。

 

 

 

 

・・・・動かねぇ。

 

 

 

そちらを確認すると右腕にコロネットが巻き付いている。

 

・・・セミか。おまえは。

 

 

もしやと思い左腕を見ると案の定いた。

スリヴァッサが巻き付いている。

 

・・・おまえもセミか。

 

 

 

酒のせいかだるくなっている体の感覚を呼び起こすと、どうも右足にもセミがいる。

消去法でトラットリアだろう。

 

 

 

しかも、先程、コロネットの寝顔の向こうではソファがひっくり返っていた。

何があった?

 

 

 

・・・なんだこれ。何がどうなっている。

 

酔っぱらって帰ってきて暴れた俺を4人が取り押さえてそのまま寝たのか?

 

 

さっぱりわからない状況はそのままだが、一つ、まずいことはわかった。

先程、体の感覚を呼び起こしたのが悪かった。

 

 

 

当たっているのだ。”色々”と。

 

 

制服のまましがみつかれているので視界的にも色々まずい。

かろうじて下着やらなにやらの完全アウトなものはギリギリ隠れていたが胸元だのふとももだの、精神衛生上よろしくないものがはだけている。

 

 

 

俺は、身じろぎひとつ許されず、天井を見ているしかできなくなった。

 

 

親御さんから大事な娘を預かっている身だ。

卒業後については、先日の合宿で色々あったし、まぁ俺だって色々考えなきゃな、とは思っている。

 

 

だが、今は別だ。俺はトレーナーだ。

唯一、俺が劣情を抱いても許されるのは、婚約を済ませ、彼女の両親にも将来を誓ったルドルフだけだ。

トレーナーとして、教え子をそんな邪な目で見るなど、許されることではない。

 

 

 

つまり・・・今の俺の状態は、トレーナーという矜持を守ることにおいては、ほとんど拷問といってもいい状態だった。

 

 

ーーー無だ。無になるんだ。

 

 

健全な精神は健全な肉体に宿る。

夏合宿で極限まで鍛え上げたこの俺の肉体と精神は伊達ではない。

 

・・・はずなのだが。意識しないでいようと思えば思うほど、体のあちこちは彼女たちの感触を伝えようとする。

 

そもそもあれだ。これ、今トレーナー室に誰か入ってきたら俺のトレーナー生命、終わらないか?

 

 

 

 

 

神様よ。俺、なんか悪い事したか?

 

俺、結構がんばったじゃないか。さっきの劇だって。白雪姫だぞ?いい年した、もうおっさんと言ってもいい年の男が。

 

なぜこんな過酷な試練を与えたもうのか。

 

 

 

神様は、答えてくれない。

 

まぁ、そもそもそんなものいないんだろうが。

いたら相当サディストだ。

 

 

とりあえず、俺はトレーナー生命をかけて無になることにした。空気になれ。石になれ。俺は床だ。ただの。

 

 

 

 

 

・・・・誰か、たすけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・寝たふりしていた4人のウマ娘は思っていた。

 

次は・・・もっとプラベートな場所で酔わせよう、と。

 

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございました。
幕間でした。

地方レース場の遠征とかで危険が危ないぞ、トレーナー君。


息抜きにはなりましたが、ちょっとはっちゃけすぎた気もします。

次は本編の予定です。
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