ルドルフもトレーナーも脇役です。完全に自己満足です。
時間軸は2話目から2週間後です。
はい!リトルトラットリアです!
わたしを知らない人はムーライト賞HARDに結構私いますよ!たぶん別人ですけど!
2週間ほど前からチーム・カマル所属のウマ娘です!
チームに!!所属しました!!
つまり・・・私にもトレーナーさんがついています!まだ夢のようです!
というか私以外に選抜レースで入賞すらせずにチームに所属できたウマ娘なんかいるのでしょうか?
なにかトレーナーさんとルドルフ先輩はそのあたりも”変えていく”という話なさっていましたが・・・まぁ、その、あまり頭が良くないので、にこにこして聞き流しました!
そしてこの2週間の間に私のトレーニングメニューはだいぶ見直されました。
ただ、今はトレーナーさんがスカウト活動に取られる時間も多く、どちらかというとルドルフ先輩が私のトレーニングを見てくれています。
ルドルフ先輩はとっても優しいです。トレーナーさんが書き起こしたメニューの一つ一つの意義を教えてくださり、私のトレーニングがトレーナーさん不在でも意味があるようにしてくれています。
でも時々コワイです。
具体的にはトレーナーさんが絡んだ時だけコワイです。独占欲がむき出しです。ただ、皇帝シンボリルドルフは完璧ウマ娘だと思い込んでいた私にとってはそんな先輩も親近感が湧いて大好きです。
それに・・・いまさら私がトレーナーさんにどうこう・・・ないと思うんですけどね。その前にやらかしすぎました。
いや、トレーナーさんは素敵ですよ?! 顔はアイドル系の正統派イケメンという部類には入らないと思いますが、なんというかこう、枯れたかっこ良さというか・・・トレーナーさん、絶対、将来私のお父さんみたいなカッコイイ男性になるんだろうなぁ、とは思います。私はイケメンだと思いますよ。えへへ。
・・・どうこうないですよ?
今日は、スカウト活動がひと段落ついたという事でトレーニングは早めに切り上げ!
ミーティングの時間を長めに取るそうです。
実は、チームミーティングというのは私初めてです。とりあえずこのメニューこなしといて、状態だった私の話も出てくるのでしょうか。出てくるといいなぁ・・・
ーーーーーー⏱ーーーーーー
「それじゃあチームミーティングを始める。とりあえずルドルフもトラットリアもトレーニングお疲れ様。しばらくほったらかしにしてすまなかった。スカウト活動の方は大体落ち着いてきたんで・・・ん?おーい、トット?」
「はい!ちょっとミーティングの場に参加している自分に感動しているのでしばらくお待ちください!」
「お、おう・・・・」
「トレーナー君、そのまま進めても大丈夫だよ。トットはたぶんこの状態できちんと聞いていると思う。理解しているかは別の問題なんだが。」
「わ、わかった・・・・。んで、スカウトの方の報告だが、うちのチームにはあと2人入る。」
「決まったのか。どんな娘なのかな?」
「あとで資料をまわすよ。ただ、ちょっと選抜レースが近くなりすぎてしまった。今のタイミングでの所属は悪目立ちしてメリットの方が少ないから所属は選抜レース後だな。」
「ああ・・・それであまり目立たないように動いていたのか。確かに選抜レース直前で所属となると他からはなにか裏があるように取られかねないな。」
「そそ。特にうちは7冠バいるからね。新鋭チームにしては目立ってるんだ。」
「なるほど。ということは今日の話のメインは私とトットの話か。」
「話が早くて助かる。とりあずルドルフの方だが・・・サマードリームトロフィーは・・・正直まだ迷っている。聞いたか?マルゼンスキーの話。」
「ああ・・・・あのスーパーカーが”入着すら逃した”と」
「そうだ・・・正直、今のルドルフが通じないとも思えないが・・・俺の方の調査が盤石ではない。俺はルドルフに”とりあえず力試ししてみよう”などと言うつもりは一切ない。出るなら優勝を狙う。もう少し時間をくれ。」
「わかった。君には全幅の信頼を置いている。トレーナー君に任せる。」
・・・・わぁ・・・・会話がかっこいいなぁ・・・・・なに言ってるのかちんぷんかんぷんだけど。
とりあえず、”なんかすごい話をしている”ということは理解できた。あとマルゼンスキーさんは好きです。すごく優しいんだもん。
ルドルフ先輩の紹介で最近少し交流があるんだ!またドライブ誘って欲しいなぁ・・・パトカーに追いかけられながら湾岸線ぶっとばしてくの、楽しかったなぁ・・・・
「それでトット。」
「はい!」
やった!私の話だ!
「おまえは再来月デビュー戦な。」
「はい!・・・・・ぇぇぇええええええ?!」
トレーナーさんちょっと待ってください!当方2週間前まで選抜レースですら勝てない落ちこぼれです!
ちょっとスケジュールおかしくないですか?!
「ん?不服か?」
「不服はないです!私はトレーナーさんには絶対服従です!でも・・・あの・・・さすがに早くないですか?」
絶対服従とか言った瞬間のルドルフ先輩の目がちょっと怖かった。次からは言葉を選ぼう。
「大丈夫だ。・・・とういうか、トットは今3年目だろう。ウマ娘にはどうしてもピークがある。お前はすでに3年の月日を使ってしまったからなるべく早く公式デビューしたい。なに、大丈夫だ。デビュー戦くらいならおまえが3年間磨いた武器だけでも突破できる。その先は今のままでは厳しいのは確かだが・・・。まぁ安心しろ、皐月賞までにはちゃんと仕上げてやる。」
・・・・・信じられない単語が出てきました。
”皐月賞”
クラッシック路線での最高峰のG1レースの一つ、ルドフル先輩が持っている7冠タイトルのうちの一つです。
トレーナーさんは。
いままで学園内の選抜レースですら勝ち星を上げていない私が。
皐月賞に出走することをすでに予定に組み込んでいるんだ・・・・・
・・・・とんでもなくやる気が湧いてきました・・・・・・・
トレーナーさんが皐月賞に出れるというのなら!きっと出れるに違いないです!
そのためならどんなキツイトレーニングが待っていようとも!乗り越えてみせますよ!!!!!
------------------------------
「おら、トット!ルドルフにトリプルスコアつけられたら筋トレ追加だからなぁ!!!」
「あ”い”ぃぃいぃぃ!!!」
鬼だ!鬼がいます!!
お父さん、お母さん!ここに!鬼が!!!!
「トット、腹直筋を鍛えるときは背筋も意識するんだ。腹直筋だけでこなすんじゃなく、体全体を使え。」
「あ”い”ぃぃいぃぃ!!!」
ルドルフ先輩!なんで腹筋しながら普通にしゃべれるんですか?!
そういえばこのトレーナーさん、私をスカウトしてくれた時”血反吐吐かせてやる”とか言ってませんでしたかね?
比喩じゃないんですね!! あ、攣る!腹筋攣るぅ!
「トット休むんじゃねぇ!限界に達したあとのプラス10回が今日の取り分だ!それまではウォーミングアップだぞ!!!」
「あ”い”ぃぃいぃぃ!!!」
あ、攣った!攣りましたトレーナーさん!!!私!腹筋!フィッシュオーーン!
ーーーーーー⏱ーーーーーーー
「トット、歩くなー!ゆっくりでもいい、フォームを崩さず走れ!レース中は限界に達してもフォーム崩したら負けるぞぉー!!!」
「あ”・・・い”ぃぃいぃぃ・・・・・」
「ルドルフ!手加減すんなぶっちぎれ!あと3人はとにかく自分の限界を知れ!あとトット、おまえは特別に追走決定だ!走れ走れぇ!!」
私が本格的にトレーナーさんに指導を受け始めてから少し。
選抜レースが終わり、あとの2人が合流してきました。
スリヴァッサちゃんと、ロイヤルコロネットちゃんです。
2人は私より学年は一つ下。そしてなんと、二人とも選抜レース未勝利だそうです。
トレーナーさん、どこから見つけてくるんでしょう・・・・
「了解!悪いなトット。これで周回遅れ5周差だ。」
「あ”・・・い”ぃぃいぃぃ・・・・・」
ルドルフ先輩は本当にすごい。たぶん、これでもある程度私たちに合わせ流してるんだと思う。
すれ違うたびにみんなにアドバイスをして回ってるみたい。
たぶん私含めた3人がリレー形式で走ってもルドルフ先輩が1人で勝ちます。
今は正直毎日キツイです。
トレーナーさんにも言われました。突出した武器以外が平均以下の私たちは最初トレーニングに慣れるまで無茶苦茶辛いぞ、と。
でも・・・・
でも、トレーナーさん。私、楽しいんです。うれしいんです。
トレーナーさんのトレーニングは常に限界ギリギリです。
大胸筋・腹斜筋・腹直筋・憎坊筋・脊柱起立筋・広背筋・・・・私が苦手な筋肉はすべて一から再構築すると言われました。
比喩抜きで血反吐を吐く毎日です。
でも、なぜそれが必要なのか。トレーナーさんはちゃんと示してくれます。その先の”勝利”へと続く道筋と共に。
ずっと。
3年間ずっと1人ぼっちで黙々とトレーニングしてきた私にとっては・・・・・
トレーナーさんがいつもちゃんと見守っていてくれて。
先輩が気にかけてくれて。
チームメイトと一緒にがんばれて。
終わったあとに「今日もきつかったねー」なんて励まし合って。
1人ぼっちだったあの頃に比べたら。
毎日折れそうな自分の心と戦っていたあの日々に比べたら!!!
こんなの・・・・ただキツイだけなんて・・・・へのかっぱです!!!!!!!
わたしは!このくらいじゃへこたれないですよ!トレーナーさん!!!!
「トット!歩くなぁ!!!!」
「あ”ぁ・・・い”ぃぃいぃぃ!!!!!!!!」
------------------------------
「デビュー戦です。」
「どうした?トット。」
「トレーナーさん!ここはどこですか?!」
「中京レース場だけど・・・・」
「そうです!ここは中京レース場です!トレセン学園じゃないです!公式の!レース場です!!!!」
「今更どうした?」
「トレーナーさん!!!わたし!一か月間トレーニングしかしてないんですけど!!!!!!!模擬レースも!なにも!」
「え・・・うん・・・・」
「トレーナーさん!私最後に走ったレース、7着だった選抜レースが最後なんですよ!!!」
「いや、知ってるが・・・・?」
「あ”あ”あ”あ”!伝わって!この不安!」
「いや、最後一週間の調整期間の間にちゃんと走り方のコーチング、したじゃんか。」
「一度もターフでちゃんと試してないですよぉぉぉぉ!!!!!」
「トレーナー君、トレーナー君。あの食べ物はなんだろうか??」
「あーあれは”ソトクソトク”だ。ソーセージに餅が巻いてある。うまいぞ。」
「そうか・・・買ってきてもいいかな。」
「ああ、俺の分も頼む」
「あ”あ”あ”あ”ぁぁ!」
今日は中京レース場で開かれる新バ戦。いわゆるメイクデビュー中京です。私の脚質的に少しでも長い方が良いということで1600mに挑みます。
さきほどからソトクソトクに夢中になっているルドルフ先輩は本当に忙しい中にも関わらず私のメイクデビューについてきてくれました。大好きです。
・・・・なんか”君とトレーナー君の二人っきりで遠征させるわけないだろう?”みたいな事言っていた気もしますし、若干トレーナーさんとのお出かけではしゃいでいるような気がしますがたぶん気のせいです。
ああ、それにしてもとうとうきてしまいました、デビュー戦・・・・
あばばばばばばばば
ーーーーーー⏱ーーーーーーー
ーーーー控室
さて、今日は俺が1カ月みっちりしごいたトラットリアのデビュー戦だ。
・・・・なんだが・・・なんかデジャヴ感。
「あー・・・・リトルトラットリア君?」
「ひゃぁい!!」
「・・・・ガチガチだな。おまえ。」
「ひゃぁい!!」
・・・・・だめだこれ。
「・・・・ルドルフ」
「了解」
ルドルフがトットの尻尾を強めに握って引っ張る。
「ひゃふぅ!」
「・・・・・落ち着いたか?」
「はい・・・すいません・・・・」
これで落ち着く原理は俺にはわからん。尻尾、ないからな。
「さて、ガチガチのトットよ。おまえ、なにをそんなに緊張している?」
「さっきも言ったじゃないですかぁ!わたし、レース形式自体がすごい久しぶりなんですよ!?しかも!負けた経験しかないですし!」
ふーむ。思ったより苦手意識ができてるのか。ま、どっかで勝たなけりゃならんのだし、別にいっか。さして心配してないし。まぁサービスだ。少し[[rb:上げ>・・]]といてやるか。
「トット。おまえ、つい10日前もなんかやらかしてルドルフに追いかけられてたな?」
「はい!トレーナーさんが脱ぎ捨ててたジャージがいいにおいだったので嗅いでいたらルドルフ先輩に死ぬほど追いかけられました!」
・・・なにやってんだこいつ・・・・
「あー、ま、それは今はいいや。いいかトット。ここには
「え?!・・・・あ!!」
「改めておまえがいつも一緒にトレーニングして、あまつさえアドバイスまでもらっているウマ娘の名を教えてやる。”皇帝・シンボリルドルフ”。レース競技の歴史上初めて7冠を制し、URAファイナルズを治めたトゥインクルシリーズにおけるウマ娘の頂点だ。」
「・・・・トレーナー君。褒めすぎだ///」
「そいつに死ぬほど追いかけまわされて、今更なにに緊張しているんだ?チーム・カマルの新星、リトルトラットリア。」
そうだ・・・・おまえがいつも一緒にトレーニングを受けている相手は。
『皇帝』だぞ。
おまえが緊張する必要がある相手など、この場にはいない。
「私は・・・皇帝と・・・・一緒にトレーニングしてきた・・・?」
「そうだ。それにな。お前に指導してきた俺は。”皇帝のトレーナー”だ。おまえ、一度でも・・・俺のトレーニングメニュー、サボったか?背いたか?」
「ありません!!!私は!トレーナーさんのトレーニングだけは!なにがあっても!どんなにきつくても!それだけは絶対ありません!!!!」
「ならば胸を張れ。俺がおまえに課したトレーニングは普通のウマ娘なら逃げ出すような代物だ。おまえなら必ずこなすと思ったから俺はおまえに課した。そしておまえはそれに応えた。俺は今日のレースはなにも心配しとらん。」
「!!!」
「見せてこい、おまえの才能を。」
「はい!!!」
まぁ、ほんとは別の意味ではちょっと心配してるけど。
さて・・・・ターフには魔物が潜む。
あとはこいつ次第なんだが・・・どうなるかなぁ。
------------------------------
「トレーナー君は。出走前にナーバスになっているウマ娘にはああして声をかけるのだな。」
トットはトレーナー君の激をうけてやる気を絶好調にし、なにやら雄たけびをあげながらターフへ向かっていった。私はああいう風に声をかけてもらったことはない。
「まぁ、あの状態でもゲート前になったらまた緊張してガチガチなんだろうけどな。なんだルナ。やきもち?」
「・・・まったく本当に人たらしだな。君は。私がトットに声をかけてもああはならないよ?」
「だが、トットは少なくともルナが今日来てくれた事をかなり心強く思っているよ。君は本当に彼女に慕われている。」
「ふふっ。最初は君にちょっかい出さないか不安で監視していただけなんだけどね。ああも慕われるとやはり悪い気はしないよ。それに彼女は基本素直だからね。思ってることは全部口にだしてしまうようだし。」
正直、今迄の経緯からここまで慕われるとは思っていなかった。彼女は誰かにトレーニングを見てもらえること自体がよほどうれしいのだろう。トレーナー君がスカウトに集中していた二週間の間にだいぶ懐かれてしまった。
「ルナ、この際だからちゃんと言っておくが、俺はトット含め、今の3人を育てるのはとても楽しい。トレーナーとしてのさがだろうな。あいつら全員伸びしろの塊だ。比較するようなことではないが、デビュー時点である程度完成していたルナとはまた違った楽しさがある。」
「君の目を見ていればわかるよ。そうだな・・・正直少し焼ける。」
私も出走前にナーバスになっていたらああして激を飛ばしてもらえるのかな?っと考える程度には。
「ルナの出走前はどちらかというと俺の方がいつもナーバスになっているしな。すまない、こればっかりはどうしようもない。だがルナ。愛してるのは生涯おまえだけだぞ。」
な?!
トレーナー君、不意打ちは卑怯だと思うぞ?!
「勘違いしてしまう前にちゃんと言おうと思ってな。トレーナーは俺の職業だ。そして俺にとってそれは天職だと思っている。だが、トレーナーとして抱く大志と、俺個人の感情は別の・・・」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれトレーナー君。続きは今度君の部屋にいるときでいいかな?これから観客席にいくのだろう?そのまま続けられると私は人前に出れない顔になるんだが?!」
「いや、改まると俺もちょっと恥ずかしいんだけど・・・勢いで今言いたい。」
君の言うトゥインクルシリーズにおける頂点が観客席でデレデレの顔をしているわけにはいかないだろう?!
ーーーーなんとか説得により思いとどまってもらった。
・・・・私も愛しているよ。トレーナー君///
ーーーーーー⏱ーーーーーーー
控室を出て観客席へ。今日はまだメイクデビューだ。流石に人はそこまで多くなく、比較的簡単に最前列を陣取れた。
「トレーナー君はトットにああ言っていたが、実際君の見立てでトットの勝率はどのくらいを予想している?」
「うーん・・・半々かな。50%だ。」
「ふむ・・・・思ったより低いな。」
「あいつの場合は敵は周りじゃなくてあいつ自身だけどな。教えた走り方をあいつがちゃんとできるかどうかが50%だ。ちゃんと走れれば・・・・100だな。」
驚いた・・・・トレーナー君の事だからメイクデビューとはいえ対抗バはちゃんと調べているんだろう。それにターフには魔物が潜む。想定通りになど中々いかない。そんなことはトレーナー君も百も承知だ。そのうえで・・・100%だと言い切った。それほどか。彼女の才は。
「ふふっ・・・私も楽しみになってきたよ。」
ちょうどトットがゲートインを始めたターフを見やる。ああ、やはりまた緊張しているな。
「あいつまたガッチガチだな。まぁ想定通りだし別にいいけど。」
「出遅れても問題ない、と?」
「ああ。俺は最終的にはトットの適正は”長距離の差し”だと思っている。あいつの脚の筋肉は長年積み重ねたオーバーワークをまったく問題にしないような、とんでもない疲労耐性がある。まぁ、いくら脚が残っていようと今は先に心肺の方が悲鳴を上げるから宝の持ち腐れなんだが。」
「それでトットは他のメンバーより余分に走らされているのか。」
「そゆこと。お、始まるようだぞ。」
各バ、ゲートインが完了したようだ。
ーーーー始まる。リトルトラットリアのメイクデビューだ。
------------------------------
『各バ、一斉にスタートしました!!!』
俺とルドルフが見守る中、トットがゲートから飛び出す。
トットは・・・・やはり少し出遅れたようだ。そして遅れたことによる焦りもあるのだろう。走り方が昔のものに戻っている。
「トレーナー君、トット、元に戻ってないか?」
「ああ・・・だが、たぶん大丈夫だ。あいつはこの一か月本当に真剣にトレーニングしてきた。であれば。あの走り方は・・・もうあいつの走り方じゃない。」
恐らく、走っているうちに”昔の走り方”に違和感を覚えたのだろう。走り方が教えたものに変わっていく。たぶん頭の中は真っ白なんだろうが。そうだ。そこで意識しないでも走り方を修正できるのはお前が一か月頑張った成果だ。
「ふむ・・・お、確かに修正したな。今は・・・7位か。」
先頭を筆頭に一斉に第一コーナーに入る。トットは必死に食らいついている風だ。
「トレーナー君、余力があるようにも見えないが・・・ここから差せるのかい?」
「あいつには先週一週間で”必殺技”を教えてある。だが、あれはここでは出せん。というか、今のトットはその走り方だとカーブを曲がれない。今はこの順位をキープできればいい。」
バ群にもまれながらも必死に食らいついていくトット。走り方の矯正はしたが、今の彼女の走り方は彼女の剛脚を速さに活かす為のものではない。
どちらかというと、脚への負担は一切考えず、心肺や上半身に余力を残すための走り方だ。あいつのバカげた脚の耐久力あってこその走法ではある。
いずれその走り方で速さを出すこともできると思うが、今の彼女には無理だ。とにかくここは食らいつければいい。
・・・・がんばれ。がんばれトット!
あいつの努力は見てきた。自分でもオーバーワークギリギリのトレーニングを課してきた自覚はある。
でも、トットはただの一度も音をあげなかった。手も抜かなかった。
ただ、愚直に。
俺が言ったことをがんばれば勝てるんだと信じてついてきた。
・・・・だからこそ。フォームの切り替えさえ失敗しなければ、あいつに負けはない!
ーーーー先頭から各バ一斉に最終コーナーに入る。トットは今6位。教えた通り外から回った!
あいつの今の走法は残り400mからの上りはまったく問題としない。
そこを超えれば残りは最後の200m、直線のみ。
登り切った・・・今だ・・・ここだ!!!!!
「トットぉーーーー!!!!上だ!!!上を向けぇーーーーーーー!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「上を向けぇーーーーーー!!!!」
・・・・直線に入り直後の大上り、右も左もウマ娘が本気の形相で走っている中、なんとか振り切られずに必死に食らいつく。
そして登り切るかどうかの瀬戸際、トレーナーさんの声が聞こえた。
上・・・・・そうだ、上だ・・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「必殺技?ですか?」
「そうだ。それを今からお前に教える。」
地獄のトレーニング期間が終了し、レースへの調整期間として設けられた一週間の初日。
私はトレーナーさんに呼び出されてターフの端っこにいた。
「トット、お前に今まで教えてきた走り方は、お前の才能を真に活かすための走り方ではない。これから教えることを活かすための走り方だ。それをこれから教える。」
「ええ???!トレーナーさん、もう一週間前ですよ?!!!」
「わかっとるがな。ただ、この走り方には準備の方が重要なんだ。そしてその準備に必要ものが今までのお前にはなにもなかった。ここへきてようやくだ。ようやくお前に教えらえる。いつものフォーム取ってみろ。」
言われていつもの、トレーナーさんに教えられたフォームを取る。状態を軽く起こし、細かく、脚の回転数を上げる走り方だ。本来は坂路を走る走法だと聞いた。その走り方と標準フォームの中間のような走法が私の今の走り方だ。この走り方をするようになって心肺は格段に楽になったし、カーブなどでもバランスがとりやすくなった。
「よし、ちゃんとできるてるな。それじゃ、俺が支えてやるから、めいっぱい上体を倒してみろ。」
言われて上体を倒す。トレーナーさんが支えてくれているので倒れは・・・近い!!むっちゃ近い!!!
「トレーナーさん!!!おっぱい触るときは言ってくださいね!!さすがに心の準備がいるので!!!」
「あほか!触るか!ちゃんと避けるわ!!!いいから倒せ。もっとだ!」
言われてさらに体を倒す。もう、この段階では自分の力では体を支えきれない。
「トット。もっとだ。もっと倒せ。」
さらに倒す・・・地面が・・・近い。
「ここだ。この姿勢がお前の武器を活かせるお前の”本来の走り方”だ。」
感覚としてはもう地面と平行だ・・・・こんな走り方・・他で見たこと・・あ!
あ、ある!あの人だ!!
「葦毛の・・・怪物・・・・!」
同じ葦毛として憧れのウマ娘の一人だ。地方からやってきてその実力で中央をなぎ倒し続けている。
「知っているか・・・そういえばおまえも葦毛だったな。そうだ。これは彼女のフォームにかなり近い。」
「トレーナーさん、でも私こんな格好じゃ・・・こけちゃいますよ?」
支えてもらってる今の状況ですら気を抜くと倒れそうなのだ。こんな体勢で走るなんて・・・
「そうだ。普通は転ぶ。ルドルフだってこんな走り方はできない。笠松から来たあの怪物がこんな体勢で走れるのは彼女の極端な脚の柔軟性とバネがあってこそだ。そんなものはおまえにはない。」
「じゃあ、どうやって・・・」
「トット。おまえの武器はなんだ?」
「えーと・・・・脚の・・筋肉?」
「・・・まぁ、それで正解だ。ただ俺が今言いたいものはその筋肉がもたらすもの・・・推進力だ。お前の脚のフルパワーなら、いかに不安定な体勢だろうと重力に負けることはない。」
なんとなく。なんとなく理解する。要は転ぶ前に前に進めというのだろうか。
「だが今のお前がこの走り方をできるのは最後の直線だけだ。今日から一週間はとにかくこの体勢での走り方、特にいつものフォームからこのフォームへ走りながら切り替える方法を体に覚えさせる。」
走行中での大幅なフォームの切り替え。
きっと。こんなへんてこな走り方、私だけだ。きっと前例なんかいない。
トレーナーさんが。私のために。
私だけのために考えてくれたんだ!!
私の武器を活かせるように!私の才能を使えるように!!!
「この体勢は極端に地面に近い。目安としてはめいっぱい首をあげろ。上を向け。その時点でまだ空が見えていたらまだ倒し方が足りない。あまり時間はないが・・・会得するぞ。トット。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうだ・・・・上だ!上を向くんだ!!!!
脚にめいっぱいのタメを作り、転びそうになるのも気にせず一気に体を前へ倒す。
・・・・体中が悲鳴をあげる。体がねじり切れそうだ。でも一瞬。一瞬だけ耐えれればいい。
この一瞬を維持するためにトレーナーさんは私の体幹を鍛えに鍛えてくれた。大丈夫だ、耐えられる!
首を思いっきり上にあげる。前の娘の脚が見える。前が見える。大丈夫だ。できてる!
ーーーーーい・・・ま・・・・だぁっ!!!!
タメていた脚を一気に開放する。ここから先は全力全開だ。少しでも速度が落ちれば私はきっと転ぶ!!
思いっきり脚のギヤをあげる。
ーーー瞬間、突風が私の顔を叩きつけ、私は目を細めた。
前を走る娘も風に煽られたのか急に速度を落とし・・・や、これ、ちがう!
一瞬遅れて気づく。今のは突風じゃない。
これは・・・加速した私が空気の壁につっこんだんだ!
トレーナーさんが言っていた”私、本来の走り方”。その意味を唐突に理解した。
今まで感じたことがない、私の脚の力がすべて地面に伝わっていく感覚。まるで今まで私に反発していた大地が私に味方してくれているような。
踏み込んだ分の力がすべて前へ進む力になる。
そうか・・・これが!
「あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!!」
前の二人を一気に追い抜く。
ーーーーーお前の脚は。一級品だ。
トレーナーさん・・・・トレーナーさん!!!
続いてもう一人。
きっと。
私がこの走り方をできるのはもって十数秒だ。もしかしたら十秒満たないかもしれない。
でも。
トレーナーさんがくれたこの十秒の間は!!その間だけは!!!
私は・・・”ターフのすべてを置き去りにできる!!!!!”
「あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!!」
『さぁ、各バ直線に入り、先頭は2番、続いて1バ身差で4番!これは2番と4番の一騎打ちか?!その後ろは4バ身から5バ身離れての9番・・・・いや、8番だ!8番がものすごい勢いで上がってきている!凄まじい、凄まじい末脚だぞ!』
「いけ!がんばれ!トット!」
「いっけぇーー!ぶち抜け!トットーーーーーー!」
ルドルフ先輩の声がきこえる。
トレーナーさんの声が聞こえる。
ーーーー私の前はあと二人。ゴールまではあとわずか。
でも!
脚は・・・十分に残っている!肺も悲鳴を上げていない!
ーーー証明してみせろ。リトルトラットリア!トレーナーさんが見出してくれた才能は!彼がくれたこの翼は!
トレーナーさんが・・・見てるんだ。私の!トレーナーさんが!!!
・・・・・道を、あけろ
「どけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
『8番だ!8番がものすごい速さで先頭との距離を縮める!ゴールまで残り100m!そして今・・・・先頭と並び・・・いや、並ばない!抜いた!そのまま抜き去った!先頭は入れ替わって8番!リトルトラットリアだ!』
前を行く二人を抜き去り。そのまま後はゴールまで一直線。
ーーーーその時見た景色を。私は生涯忘れることはないと思う。
前を走る背中は誰もおらず。目に映るのは一面のターフの緑と空の青。たった2色で構成された世界。
・・・・これが・・・先頭の景色。
『2番、4番、これは追いつけない!そのまま3バ身以上の差をつけ、今!8番リトルトラットリアが、ゴーーーー・・・・・あれ?』
「あ”あ”ああああああああああああああああああああ」
『・・・・そのまま行ってしまいましたね。』
「やべ、止まり方・・・教えてねーや」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
・・・・べしゃ
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ーーーー寝ころんだ眼前に一面の青が見える。
景色が滲んでいるのでわかるのはぼんやりとした色だけだ。
脚が・・・震えている。レースで脚を使い切ったのことなど初めてだった。
でももうそんなの関係ない。
・・・・やった!!
勝った!!!私は勝ったんだ!!!!
胸の底から歓喜があふれて止まらない。学園に入学して。3年以上走り続けて。初めての。
コツ・・・コツ・・・・コツ・・・・
誰かが寝ころんでいる私に近づいてくる。
この足音は・・・・トレーナーさんだ。たぶん、もう一つはルドルフ先輩。
「どうだ?トット。勝利の味は。」
ほら。トレーナーさんだ。
「土の味がじまずぅぅぅ~」
私は起き上がってトレーナーさんを見る。私に。勝利をくれた人の顔を。
「あー・・・それは。すまん、止まり方は今度ちゃんと・・ってお前また顔面べしょべしょじゃねー「ドレーナーざーん!!!!」」
思いっきり彼に抱きついた。私は今涙と鼻水でべしょべしょだけど、一切避けずに受け止めてくれたのがうれしい。
ルドルフ先輩も今だけはトレーナーさんを貸してくれているようだ。わざとこっちを見ないようにしてくれている。
・・・でも逃がしません。私ちゃんと知ってます。今日勝てたのは、トレーナーさんのおかげだけじゃないって。
今はこっちを見ていないので・・わたしでも捕まえられます!
「ぜんばぃぃぃぃぃ!」
トレーナーさんに飛び込んだ勢いもそのまま、トレーナーさんごとルドルフ先輩に突っ込む。
「なっ?トット?!」
不意打ちをくらったルドルフ先輩はさすがにトレーナーさんと私ふたりを一度には受け止めるのは諦めたのかそのまま団子状態になってターフへ倒れこんだ。
「トット。さすがに少しあぶな・・・」
だめだ。もう。こらえきれない。
「ドレーナーざん!ルドルフぜんばい!!わだし!!かぢまじた!!!うぇぇぇーーーん」
「・・・・まったく。これじゃ何もいえないじゃないか。」
ーーーお父さん、お母さん。今夜、電話するね。わたしね・・・・勝ったよ!!!!
【リトルトラットリア】
スキルLVアップ
『固有スキル:なし⇒イグニッション Lv1』
きゅぴーん!
読んでいただきありがとうございました。
ほぼオリキャラのリトルトラットリア回でした。
ウマ娘は、こちらの世界で名を残した名馬の名を引き継いでいる設定上、こういった”落ちこぼれが頑張る!”というストーリーはあまり成立しないんですよね。ウララちゃんくらいでしょうか?
だから・・・もう、いいかなって・・・(言い訳)
ちなみに、トットちゃんの怖いところは普段から走法がピッチ走法に近いので上り坂を全然問題としないことや、直線での爆発的な加速力ではなく・・・・
愛とか恋とか、今迄ほとんど無縁で生きていたので、”まだ”色々無自覚なんですよね(時限式発火装置)
ふふふ・・・怖いですね。
次はルナちゃん出したいです。少し間が空くかもしれませんが。