私のSS、時系列飛びまくりですいません。
ただ、あまり話に繋がりはないのでこれ単話で読んでいただいて大丈夫です。
いつもの発作なのであまり内容はないよう。
今回はトット他新米組はお休み。
それはちょっとした違和感だった。
ルドルフが・・・・なにやらちょっとピリついている気がする。
彼女は隠すのがうまいのであくまで”気がする”程度なのだが・・・これでも何年も連れ添っている彼女のパートナーだ。
おそらくだが外れてはいないと思う。
まぁ、勘違いの可能性もないわけではないが・・・それならそれでよい。
さて、どうしたものか。
隠している以上彼女が素直に話してくれるとも思えない。
・・・・ちょっとカマをかけてみるか。
「ルドルフ、ちょっと後でいいか?」
いつものトレーニング終わり。トット他3名と共にストレッチをしているルドルフに声をかける。
「トレーナー君?なにかな?」
「後でトレーナー室に来てもらいたい。着替えた後でいい。」
「わかった。」
ふーむ。やはり・・・少しおかしい。
いつものルドルフなら「ちょっと後でいいか?」→「わかった。トレーナー室にいけばいいかな?」だ。
そんな些細な・・・と思われるかもしれないが、この些細な”間”が気になるのだ。
俺と会話するのに一呼吸入れる必要・・・その間を使って冷静になる必要があるんじゃないのか?という疑惑が拭えない。
考えすぎとでも過保護とでも、なんとでも言えばいい。
どうせ俺はルドルフには甘いんだ。わかってるさなんとでも言え。
ーーーーーー⏱ーーーーーー
ここはトレーナー室の前。
正直・・・今はあまりここに来たくはない。
トレーナー君に会えるのはもちろんうれしいのだが・・・ここには”アレ”がある。
私は一度深呼吸する。
ーーーまさか、感づかれてはいまいが。
精神を集中し、理性をコントロールする・・・・よし。大丈夫だ。
コン、コン
「トレーナー君。入るよ。」
「どうぞー」
中に入るとトレーナー君のにおいとコーヒーの香りが鼻腔をくすぐってくる。
今日はコーヒーか。トレーナー君は気分を落ち着けたいときはコーヒー、集中したいときは紅茶を好む傾向がある。ふむ・・・考えすぎか?
「それで・・・どのような要件かな?」
極力部屋のある一角を見ないようにしながら話を進める。
これは彼に・・・感づかれるわけにはいかない。
「・・・要件・・・ね。要件がなきゃ呼んじゃだめかい?」
彼がソファに座るよう促してくる。
彼と私は・・・いわゆる恋人同士だ。確かに用がなければ呼んではいけない関係ではない。
ルドルフもコーヒーでいいかな、という彼の問いに適当に相槌を打ちながらソファの方へ移動する。
・・・彼のPCデスクの片隅を視界に入れないようにしながら。
しかし・・・彼が明確な要件もなしに私を呼びつけるのは珍しい。彼は公私の区別をかなりはっきりつけるタイプだ。話の流れで甘やかしてもらったり、チェスを打ったりすることはあっても彼からプライベートな内容で彼の就業時間中に呼び出されることはほぼない。
確かに私たちは恋人同士だし、二人で会いたいと思って呼んでくれたのならうれしい限りだが・・・
・・・ん?まて。
二人で会いたいという理由で彼が・・・・私を”トレーナー室”に呼ぶだろうか?自室ではなく?
違和感を感じたときは既に私はソファーに腰をおろさんとする寸前だった。
まずい、これは・・・
「座ったな。ルドルフ。まぁ、直前で気づいたようだが・・・。それで、なにを隠している?」
コーヒーを片手に、いつものデスクチェアではなく、私が座るソファの隣に座ってきたトレーナー君。
まさか、とは思っていたが・・・感づかれていたのか・・・
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『それで・・・どのような要件かな?』
この時点で半ば確信した。特にカマをかける必要もなかった。
ルドルフが俺に呼び出されて、いの一番に要件を聞き出そうとする。
遠回しに”ここには長居したくない”と言っているようなもんだ。
態度、表情、口調、はては尻尾や耳の動向まで。
すべて完璧に自己をコントロールしていることは驚嘆に値する。普通では気づかない。
・・・が、相手が悪い。何年おまえを見てきたと思っている。誤魔化せると思うなよ。
「それで、なにを隠している?」
俺の問いかけに驚愕や焦りが顔にでていれば、もう確定のようなものなのだが・・そこは流石にルドルフといったところか。
焦りなど微塵も感じさせずに平然と切り返してきた。
「なんのことかな?トレーナー君。私は君に隠し事などしていないが。」
だが・・・耳をコントロールしきれていないぞ。左右がバラバラに動いている。それはウマ娘が不安を感じている時に見せる仕草だ。
「そうか。俺には言えないことか。」
「つっ・・・・と、トレーナー君・・・それは・・・」
「いや、いい。俺に隠しておきたいこともあるだろう。悪かった。」
「う・・・・」
ルドルフは、かなり頭がいい。ゆえに状況を瞬時に分析し、その時々の最適解を一瞬のうちに叩き出してしまう。つまり、彼女が状況を把握しきれていないうちに畳みかけないと彼女を揺さぶることはできない。
ダメ押しの一手だ。
「悪かったな。隠しておきたいことを暴こうとして。この話はここまでにしよう。」
ルドルフは、難解な性格のようでその実、かなりわかりやすい。
俺が普段のように自分のPCデスクの椅子を引っ張ってこずに、彼女の隣に座ったのもそのためだ。彼女はこういった”腹を割って話そうか”という態度にでられるとほぼ逃げられない。いや、逃げる、適当に誤魔化す、という選択肢を選べなくなる。親しくなればなるほどその傾向は顕著になる。
そして・・・先ほどの彼女にとってはかなり卑怯な話の切り上げ方だ。
ルドルフは・・・こういう風に話を切られると、自身自身の性格も相まって『私はあなたを信用していないのであなたに話せることはありません』と、俺が受け取ってしまうことを危惧する。
ーーールドルフが本気で隠そうとしているのであれば俺もここまでして聞き出そうとは思ない。
だが、彼女のここまでの態度を見ている限り、隠そうとしてるのは確かだが心のどこかで”バレてもいい”と思っている節が伺える。
・・・少しくらい甘えてほしい。
「く・・・トレーナー君。すまいない・・・君に隠していることは・・・ある。」
そのくらいの度量は示させて欲しい。
ーーーーーー⏱ーーーーーー
どのくらい時間が経っただろうか。
トレーナー君は私の右手を両手で握りながら静かに私の言葉を待っている。
ーーーーまさか感づかれているとは思わなかった。
そして、おそらく、それがさほど深刻な内容ではなく、それでいて彼に感づかれたくない。でも、心のどこかで彼にわかって欲しい・・・そういった内容であることもバレている。
幼少より英才教育を受け、現在も皇帝、そして生徒会長として完璧にセルフコントロールできていたつもりなのだが・・・彼にはいつも見透かされてしまう。
それが悔しくも・・・うれしくもある。
ただ、今回も今回としてどうも逃げ場はないようだ。
「・・・・・・プチ」
「ん?」
これを彼に言うのは死ぬほど恥ずかしい・・・言わないと逃げられないのだろうが。
「ぱかプチ・・・最近ここに来ただろう。私の。」
「ああ・・・・あのデカいサイズのやつか。」
プライズの景品として高い人気を誇るウマ娘の”ぱかプチ”
実は最近、このトレーナー室に私のぱかプチがやってきたのだ。ビックサイズの。
私のぱかプチは以前から・・・皐月賞を勝った時点でもうできていた。
ただ・・・・その頃はトレーナー君に世間からバッシングの嵐が吹き荒れていた時期で、メディアからの取材もかなり厳選していた。
そしてちょうどその時期にサンプル品を持ってこようとしていたメーカーの申し出も保留にしてしまっていたのだ。
実に2年近く経ってから、「そろそろ・・・どうでしょうか?」と連絡してきたメーカーの忍耐力には頭が下がるが、そのような経緯でやってきたのだ。私のぱかプチが。ここに。
「そのぱかプチ・・・置き場所に困っているようだね。トレーナー君は。」
なにしろサイズがでかい。ソファーにいたり、彼が席を外しているときは彼のデスクチェアーに座っていたりと場所を転々としている。
今はPCデスクの実に1/4のスペースを使って鎮座している。
「ん?ああ・・・困っているというほどのことではないのだが、まぁなんせデカいからな。床には置きたくはないし。」
そう、彼は私のぱかプチをとても丁重に扱ってくれている。場所を転々としているくせに、床に転がっていることは見たことがない。
「この前のチームミーティングの時には・・・君の膝の上にいたな。」
「・・・・・・」
聡い彼だ。
もう・・・バレただろう。
「私は・・・君と、トレーナー君と二人っきりでいられる時間が・・・減ってしまった。チームを立ち上げた時点でそれ自体は覚悟していたし、納得している。だが・・・そのぱかプチは、ずっと君と一緒にいるな。」
顔から火が出そうだ。
そう。
私は嫉妬していた。あろことか、自分を模したぬいぐるみに。
とてもじゃないがトレーナー君に感づかれるわけにはいかなかった。こんな・・・子供じみた嫉妬など。
・・・・なのにこんなに簡単にバレるとは。
沈黙がトレーナー室を包む。
先に口を開いたのは、トレーナー君だった。
「かわいすぎる・・・お持ち帰りしたい・・・・・」
「?!」
と、トレーナー君?今なん・・・???
「や、すまない。失言だった。ルナ、次の休み一日開けておけ。デートするぞ。」
「?!」
その失言のあとにデートのお誘いをする君も大概だぞ?!
「なんか予定あったか?」
「・・・・ない・・・・よ?」
ーーー次の休みに彼とのデートが決定した。
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皇帝がぬいぐるみにジェラシックパーク事件から約一週間後。
私は彼との待ち合わせ場所の自分の寮の前にいた。
昨日はかなり服やらなにやらに悩んでしまい・・・・・いややめよう。取り繕っても仕方がない。
楽しみすぎてあまり寝られなかった。
それでも彼とのデート中に眠気がきてしまうのを危惧して無理やり4時間半は寝た。
これくらい寝ていれば私には特に問題はない。
・・・・出かけに服装にまた悩んでしまい、準備ができたのは待ち合わせのほんの10分前だったが。
彼が二人で出かけるときに私の寮の前を待ち合わせに指定してくることは初めてだった。
基本的には駅のホームか学園の入り口が多い。
いつもと少し待ち合わせ場所が違うだけで、なにか特別な気がしてしまう。
・・・どきどきする。
ーーーわたしの服装はおかしくないだろうか・・・・あまりこういったことを得てとしてはいないので一週間でそういった雑誌を読み漁ってはみたのだが。
しばらくすると寮の前に一台の車が横付けに停車した。
運転席にはトレーナー君が見える。
ここで待ち合わせの時点で予想はしていたが、今日は車でお出かけのようだ。
彼は自家用車はもっていないはずなので借りてきたのだろう。
なんの飾り気もない普通の乗用車。変に高級車を手配したりしないところが彼らしい。
「ルドルフ。おまたせ。・・・待たせたかな?」
エンジンはかけっぱなしのまま、トレーナー君が運転席から降りてきた。
降りて・・・・
トレーナー君の装いをみて思わず私はフリーズしてしまった。
スマートなジャケパンスタイルというのだろうか。普段の仕事着としてのスーツやトレーニングウェア姿、休日のラフな私服姿は目にしたことはあるが、そのままドレスコードのあるレストランにでも入れるような彼の装いは初めてだ。
そこには、初めて見る”大人の男性”がいた。
実際大人なのだからこの感想は失礼極まりない話ではあるが・・・・
な・・・う・・・かっこ・・・いい・・・・
寮の方からは”きゃー!”っといった黄色い悲鳴が聞こえてくる。
私が寮の前でめかしこんで立っている時点でかなり寮生の注目を集めていたのは理解していたが、寮の前での待ち合わせは失敗だったかもしれない。こんなかっこいいトレーナー君をわざわざ衆目にさらす必要はなかった。
ーーーなにやら、「トット!トットちゃんしっかりして!」という声も聞こえた。直撃をくらったか。
トレーナー君がゆっくりこちらに歩いてくる・・・き、緊張してきた。
「ま、待ってはいないよ。と、トレーナー君。それじゃ、い、行こうか・・・」
「・・・そうだな。ここに長居するとなにか写真でも取られそうだ。そんなに珍しいかな?この格好。」
・・・感想がそれだけだとすると、君もけっこうにぶちんだぞ。トレーナー君。
彼にエスコートしてもらい、助手席に座る。
私も今日は雑誌の”おすすめデートコーデ”なるものを参考にし、いつものパンツスタイルではなくコーデュロイスカートとニット、ショートブーツを合わせた、いわゆる”これからデートにいきます”という恰好だ。
待っている間に少々気合を入れすぎたかと後悔し始めていたのだが、気合を入れてきてよかった。
せっかく彼がいつも違う装いをしてきてくれたのだ。
彼はその後運転席に座り、慣れた様子で車を発進させる。
昔は結構乗っていたという話は以前聞いていた。不安を感じさせない流れるような動きだ。
ーーー運転席に座る彼を横目でチラチラ伺う。
しかし、かっこいい・・・どきどきする。
装いの違いだけでこうも変わるものか。
「ルナ。今日の服・・・かわいいな。似合ってるぞ。」
あ・・・う・・・・心臓が止まるかと思った。
「あ、ああ・・・ありが・・・とう///」
私は・・・今日、一日もつのだろうか。
もう彼の顔はまともに見れず、彼がシフトレバーを操作する手をじっと凝視することしかできなくなってしまった。
・・・手もかっこいい・・・・
ーーーーーー⏱ーーーーーー
初めのうちこそ俺の見慣れない恰好に緊張させてしまったようだが、30分も車を走らせると流石に慣れたようで普段のルドルフに戻ってきた。
いや・・・戻ってもないか。
「トレーナー君!海だ!海だよ!」
隣には耳をパタパタさせ、尻尾をゆらゆらさせてる・・・”ルナ”がいた。
今日車を出した一番の目的がこれ・・・彼女をルナとしてお出かけに連れていってやりたい、ということだった。
どうしても人の目があると彼女は『すべてのウマ娘の上の立つもの』としての無意識を外せない。
先日の”自分のぱかプチに嫉妬していた”事件、俺は結構重く受け止めていた。
彼女に・・・それだけ余裕がなかったということなのだ。
誰だって、現実の自分と理想の自分。そのギャップを埋めるために仮面を被る。
ヒトに好かれるため、仕事をするため、夢を叶えるため、理由は様々だ。
だが・・彼女の被る仮面は、自身に”完璧”を要求してくる。
そして、高すぎる大志のために彼女は自身の”自分の消費”に気づけない。
彼女をとりまく環境はここ数年で目まぐるしく変わった。七冠を戴き、URAファイナルズを制し、いままでの生徒会長としてのみだった頃の責任より遥かに重い責を自分に課しているはずだ。
だから必要なのだ。今の彼女に”ルナ”としての休息は。
彼女に定期的に、ルナとして休息を取らせる必要がある・・・そのことは少し前から考えていた。彼女は自身の摩耗にあまり気づけない。
それ自体は別の案があるが・・・まぁ当面、今日はルナとして一日リフレッシュしてもらおう。
ーーーしかし、それにしても・・・かわいい。
「合宿所で見る海ももちろんきれいだが、こうして湾岸線を走りながら見る海はまた違うのだな!上から見るからかな!水面がキラキラして・・・きれい・・・・」
きれいはおまえだ、いい加減にしろ。
もう動きがいちいちかわいい。
普段の落ち着いた雰囲気とは違い、今は完全にはしゃいでいる。
彼女は二人っきりの時に甘やかすと少し幼くなる傾向があるが、今日はあまりのギャップの激しさにこちらに入るダメージが一桁違う。なんだこれ。”甘える”に”はしゃぐ”が合わさると別枠乗算なのか?
「トレーナー君、今日はありがとう!どこに行くのかは聞いていないけど、今日君のとなりでこうしてお話しながらドライブしているだけでも、私はもう満足だよ!」
ーーーーそしてこの笑顔である。
やめろ。事故る。かわいすぎる。
自分で連れ出しておいてやめろもないものだが、破壊力が想像より遥かに上だ。
ほんともうやめてあげて・・・俺今日、君を無断外泊させるつもりないんだけど・・・・・
心を静めるために車のオーディオに自分のスマホを繋いで音楽を流してみた。
「トレーナー君・・・この曲は・・・君が好きな曲なのか?」
流れてくる曲はひと昔前のポップな洋楽だ。スマホにいつ入れたのかも定かではないが、トレーナーになる前はかなり多趣味だったのでそのころのものだろう。
「ああ・・・もっとディストーションばりばりのロックなのも好きなんだけどね。俺がやってたのはそういう曲だったし。」
「そういえば、トレーナー君の部屋にはギターがあったね。私は音楽はクラッシックの方が造詣が深いんだが・・・」
「クラッシックか。トランペットくらいなら吹けるぞ。さわり程度だけど。楽曲のほうは少々わかるくらいかな。バッハの小フーガト短調みたいな雰囲気の曲が好きなんだが、今度なんかおススメしてくれ。」
「・・・君とはクラッシックの話もできるのか。本当に・・・君といるのは楽しい。」
ーーー流れていた曲が終わり、次の曲に切り替わる。
たしかこれはかなり昔の映画の主題歌になっていたやつだな。なんか隕石に落ちてくるやつ。
「あ・・・!トレーナー君!この曲は私も知っているぞ!」
『I could stay awake~♪ just to hear you breathing~♪』
な・・・歌い・・・だしただと?!
バカな・・・俺の方を落ち着けるために音楽をつけたはずだ。なぜルナの方の破壊力が増していく??
大はしゃぎのルナとどんどん瀕死になっていく俺を乗せて車は湾岸道をひた走る。
大丈夫だ。忍耐力は皇帝の杖をやっていた頃にだいぶ鍛えたはずだ。
『Don't want to close my eyes~~♪』
・・・・・はずだ。
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その後、途中のサービスエリアで彼とごく簡単な軽食を済ませ、湾岸道を降りて進路は山道へ。
そこから一時間ほど進むと彼が目的地としていた場所に着いた。
「さて・・・着きましたよ。お嬢様。」
「ふふっ・・・ありがとう。」
実は私はもう彼とのドライブの時点でかなりデートを満喫しており、このままUターンして帰ります、と言われてもなんの不満もなかったのだが・・・彼曰く、まだデートはまだ序盤だそうだ。
しかしここは・・・・
「・・・・すごいな・・・・・」
見渡す限りの庭園、というのだろうか。
ここに来るまでのかなり長い時間、雑木林を抜けてきたからここはおそらく山の中腹あたりだろう。
にもかかわらず、駐車場から見える範囲はすべて庭になっている。
庭に対してそんなに広くない駐車場にはトレーナー君の車だけなので今は他にはヒトはいないのだろうか。
「ははっ、すごいだろう。ここ。このまま奥に行くと小料理屋があってな。実はここの山自体がその小料理屋の主人の持ち物なんだ。」
「山全部が・・・?」
「そそ。んでこの庭はそのご主人の趣味。すごいよね。今見える範囲は和風庭園だけど、奥に行くとフランス式もあるんだぜ。」
「詳しいんだな・・・・何度か、来た事が・・・?」
・・・・しまった。ちょっと棘がある聞き方になってしまったかもしれない。
「料理人を目指していた学生時代の友人の師匠がここの主人でね。その昔何度かは。彼は今、兄弟子の所で修行中だからしばらくは来てないけどね。・・・ここに、女性を連れてきたのは初めてだよ。ルナ、エスコート、させてくれないかな?」
その返しは・・・ずるい。断るわけがないのに。
彼に手を引かれて庭園の門をくぐる。庭園自体は低い垣根で囲われていたので中までは良く見えなかったが・・・・これは・・・本当にすごい。
まるで御用邸かなにかのようだ。
趣味、で片付けられる規模ではない。中には水も引いてあり、小規模だが小川と池も見てとれる。
樹木もよく手入れされており、今は季節がら花をつけているようなものは少ないが、もうしばらくしたらさぞ美しい色とりどりの庭園になるだろう。
「トレーナー君・・・・すごいね・・・ふふっ、こんな綺麗な場所を今はトレーナー君とわたしで独り占めだ。」
「まぁ、貸し切ったからな。」
・・・・・は?
「え?トレーナー君、貸し切りって・・・」
中に小料理屋があると聞いて、てっきり私はたまたま昼食とも夕食とも外れた時間に来れたので運がいいのかと思っていたんだが・・・・
「予約したらたまたま今日は他に客がいなかったからな。そんなことより、ちょっと中を散歩してみようぜ。俺もちゃんとした客できたのは今日が初めてだから探索してみたい。」
え・・・今さらっと流したが、この規模の料亭を貸し切ったのか・・・君は・・・?
これ以上聞くのも野暮なんだろうが・・・そもそも怖くて聞けない。
・・・君、いくら使った?
ーーーーーー⏱ーーーーーー
小料理屋の方の予約は16時かららしい。今は14時。
「それで昼食は軽食で済ませたのだな。」
「ああ、帰る時間を逆算するとあまり遅い時間に予約するわけにもいかなくてな。」
「じゃあ・・・あと2時間はトレーナー君とお散歩デートだ。ね?」
「はは、緊張してしまうな。」
うそばっかり。
しかし・・・本当に綺麗な場所だ。
もちろん、見た目にもきちんと整備された庭園は嘘偽りなく綺麗だ。
ただ、それ以上に・・・ここは空気が澄んでいた。山の中だからだろか。
私たちウマ娘は鼻がいい。といっても私は生まれた時からウマ娘なのでヒトがどういう風に感じるのかはわからない。
わからないが・・・澄んだ空気の匂い、緑の匂い。川の匂い。土の匂い。そして・・・君の匂い。
心の底から落ち着く、というのはこういうことなんだな、と思う。匂いに不快なものがなにひとつとしてない。
景色を五感で味わう。本当に・・・綺麗だ。
しばらく彼と散歩を楽しんでいたが、しばらくすると入口からずっと手を繋いで隣を歩いてくれているトレーナー君の方が気になってきた。
・・・なんか、たまらなくなってきた。彼の体温が欲しい。
「トレーナー君・・・ちょっと座っても・・・いいかな?」
「いいよ。ちょうどそこに座れるところがあるな。」
少し先のあたり、池を一望できる場所に屋根付きの座れる場所がある。
・・・ここ。誰もいないんだよね? だって貸し切りだって。
彼と一緒に木製の長椅子に座る。
「おー・・・池もきれいだなー・・・」
彼は池の澄んだ水に意識を奪われているようだ。そんな彼に密着するように座り、彼の腕に体を絡ませる。
「ルナ?」
「トレーナー君・・・好き・・・だよ・・・」
そっと目を閉じ、彼の方に顔を向ける。
こんなはしたない真似、普段のルドルフでは絶対にできない。
でも・・・今はいいんだ。だって、トレーナー君がそれを許してくれるから。絶対の皇帝ではない私を、彼は認めてくれるから。
「ルナ。俺もだよ。」
そっと私の後頭部に手を添え、待ち望んだ熱をトレーナー君が私の唇に落とす。
唇から彼の体温が広がり・・・それは瞬時に私の胸をいっぱいまで満たしてくれる。
と、同時に。それが呼び水になり訪れるさらなる渇き。
もっと・・・もっと欲しい。
「ん・・・ふ・・・トレー・・ナー・・・くん・・・・・・もっと。」
腰にまわされたトレーナー君の力が強くなる。
もっと・・・もっと強く抱きしめて。
だいじょうぶ、私はウマ娘だよ。ちょっとやそっとじゃ、いたくないよ?
ーーーーーー⏱ーーーーーー
「おー坊主!よく来たな!」
「主人もお変わりなく!ご無沙汰してます!」
予約をした16時。
小料理屋の方へ向かうとトレーナー君とご主人は開口一番、がっしりと抱擁していた。
歳は・・60前後といったところか。繊細な庭園の風景からもっと物静かな人柄を想像していたが、思ったより豪快な方のようだ。
「本日はご厄介になります。先にあなたの庭園を堪能させて頂きました。本当に素晴らしかったです。」
私は初対面なのでがっしり抱擁というわけにいかない。それにしても見事な庭園だった。
「おーようこそおいでなすった。坊主が初めて連れてきた女とあっちゃ・・・・あん?」
私の顔を見るなりご主人の動きが止まる。
「おい、かーちゃん!ちょっと来てみろ!坊主が婚約者連れてくるとかいうから気合入れて待ってたらシンボリルドルフ連れてきたぞ!」
・・・さすがにバレるか。しかし、ご主人には私が婚約者だと説明していたのか。ちょっとうれしい。
「ちょっとあんた!お客様呼び捨てにすんじゃないよ!」
しかし、奥からできてた女性を見て私の方も驚愕する。
ーーーー奥様、ウマ娘だ!
「いやだってよ・・・坊主、おめー確かトレーナーになったんだよな?おまえ、教え子に手を出したんか?」
「やだなー主人。手を出したのはこっちが先です。」
「おめぇ・・・よく生きてたな。」
「ちょっとあんた!失礼だね!ウマ娘全体に失礼だよ!」
成行きの話を聞いて出てくる感想が完全にウマ娘を娶ったもののそれだ。
わたしの両親もたまに似たようなやり取りをしていることを思い出した。
・・・・そしてまったく否定できない。
「こんな主人でごめんなさいねぇ。あとでデザートサービスしとくから。」
「ばっか、かーちゃん、おらぁ気合入れて待ってたって言ったろうが。食いきれねーぞ?」
「あんたウマ娘なめとんのかい?それにこっちは現役のアスリートだよ?さぁさ!いつまでお客様立たせてるんだい!お座敷に行こうかね!」
その後、私とトレーナー君はご主人の珠玉の料理を堪能させてもらった。
どれも先ほどの彼の性格からは想像できない繊細なもので、素材の良さも相まって私のバ生で1,2を争う程のおいしさだった。
ただ・・・ウマ娘の事をよく理解しているご主人が私の前にはトレーナー君の3倍の量の料理を出してくれるのには少々戸惑ってしまった。
あの・・・ご主人・・・量は丁度いいのですが・・・その・・・女性としてですね。彼氏の3倍はちょっと恥ずかしいといいますか・・・・
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俺とルナは料理を心行くまで堪能し、最後に挨拶に出てきたご主人、奥さんともかなり楽しく話の華を咲かせてもらった。
学生時代の友人に招待させれて遊びに来たときと、客として来た時ではやはり料理の格が違う。
あの頃はあの頃で、随分とうまいものをそこそこの価格で食べさせてもらったが、改めて全力のご主人が腕を奮った料理を味わうとなるほど、友人が土下座で頼み込んで弟子にしてもらったのも頷ける。
ルナを連れてこれてよかった。
ただ、ルナが随分と熱心に俺が若いころの話を聞きたがるのは少々恥ずかしかったが。
「庭園も、料理も、お人柄も。本当に素晴らしいヒト達だったな。」
「だろう?ここはな。俺のとっておきの一つだ。ルナなら気に入ってくれると思っていた。」
今は小料理屋を後にして帰り道。山道を下って湾岸道に入ったところだ。
ずいぶん話し込んでしまったので予定より少々遅くなってしまった。
しばらく無言の時が流れる。今は音楽は流していない。
ルナはまた海を見ている。夕焼けはもう沈んでしまったが、まだうっすらとオレンジの光が海にと空の境に残っている。これはこれで綺麗だ。
そして、それを眺めている、ルナも。
一言も会話がないが不快感は一切ない。気を許す、というのはこういう事を言うんだろうな。
ふと、振り返ってこちらを見るルナ。
その顔は・・・ルナとも、シンボリルドルフとも違う、いや、どちらでもあるような、そんな表情で柔らかく笑っていた。
「トレーナー君。私は・・・君と将来、あのご主人と奥様のようになれたら、と。そう思ったよ。」
柄にもなく心臓が高鳴る。
ーーーこれが彼女の本当の貌なんだろうか。
まだ、彼女のことは知らないことばかりだ。これから知っていくんだろう。あのご主人と奥さんのように。
「俺も、そう思うよ。そんな理想の夫婦だったからこそ、ルナに紹介したかったのかもしれない。」
・・・今日、俺はルナをちゃんと息抜きさせてやれただろうか。なんか結局俺の方が楽しんでしまった気もする。
「ルナ、寮まではもう少しかかるし、湾岸降りたら多少渋滞もするだろうから少し寝てもいいぞ。」
行きと比べてずいぶん静かになったルナに仮眠を促してみる。いくらウマ娘とはいえ、別に遊び疲れないわけではない。休息のつもりで疲れてしまったのでは本末転倒だ。
「あ・・・あの。トレーナー君。そ、その事なんだが・・・・・」
なんか急にルナがモジモジしだした。ルナにしてもルドルフにしてもこういった態度は珍しい。
かわいいな。これ。もじもじルドルフ。
「あ、あのね。トレーナー君が、その、”お持ち帰り”したいと言っていたからね。その・・・外泊届を・・・出してきてしまったんだが・・・・」
ほほう。外泊届を。
・・・・・そっか。
忍耐力・・・忍耐力ってなんだっけ?
ーーーーーお持ち帰り、した。
※帰りにぱかプチルドルフ用の椅子はちゃんと買って帰りました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
キャラ崩壊?なにそれしらなーい。