人生万事、塞翁がウマ娘   作:tadas

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いつも読んでいただき、ありがとうございます。

モブウマ娘主人公回です。


銀の翼で翔べ!!

 

 

 

「わー すりばっさちゃん、またいっとうしょうだね!すごいね~」

 

「ふふーん!あたしは”もくひょう”があるからな!はしるのはまけないよ!」

 

「もくひょうって・・・なーに?」

 

「え? えーと・・・あの・・・あ・・・そ、そうだ!ゆめのことだ!そういってた!」

 

「ゆめ~? すりばっさちゃん おおきくなったら なにになるの?」

 

「へへっ!あたしはなぁ!おっきくなったら”とれせんがくえん”にはいって、おとなのレースでもいっとうしょうになるんだ!」

 

「わーすごいね~!すりばっさちゃん とってもはやいもんね!きっとなれるよ~」

 

「えへへ。みてろよ~!あたしはだれにもまけない、いっとうしょうに・・・」

 

 

 

ガバッ!

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

 

 

 

ーーー久しく・・・見てなかったんだけどな・・・・

 

 

この夢をみるときは、大体・・・あたしが現実に"希望"を抱いてしまったときだ。

 

 

 

・・・まぁ、他の悪夢に比べたらこの夢はずいぶんマシな方か。

 

起きた後に自分がみじめになるくらいだもんな。

 

 

思わず自嘲気味な笑みが顔に浮かぶ。

 

そう警告するな・・・わかってるさ。今の・・・自分のことくらい。

 

 

 

それに・・・きっとこれが最後だ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「今度、模擬レースを行うよ。」

 

 

 

はい!リトルトラットリアです!

 

今はチームミーティングの最中ですね!

 

ルドルフ先輩にスリヴァッサちゃん、ロイヤルコロネットちゃん、全員参加です。

それにしてもトレーナーさん、また無茶言ってません?

 

 

「はい!トレーナーさん!」

 

「はい、トラットリア君、どうぞ。」

 

「実力が違い過ぎてレースにならない気がします!」

 

 

まだ記憶に新しい私のメイクデビュー戦。確かに私はトレーナーさんに必殺技ともいえる新しい走法を授かりました。

 

ですが・・・あとから判明したのですが、なんとこれ成功率が半々くらいだったのです。

 

トレーナーさん、私の出走前は「俺はなにも心配しとらん」みたいなこと言ってましたが実はわかっていたみたい。

要は私が成功する方にオールイン・ベットしていただけでした。なんと無茶な。

 

そんな新人の私と、メイクデビューもまだな新人2人がルドルフ先輩と走ってもレースになるわけがないですよ?

 

 

 

「よく気づきましたね。トラットリア君。廊下に立ってなさい。」

 

「はい!・・・・ええ?!なんで?!」

 

「冗談だ。んで、トットの質問も最もなのだが、今回は別に4人で模擬レースするわけじゃない。」

 

「はい~!ルドルフ先輩とぉ、私たち新米組がそれぞれ併走の形でレースをする、ということですかぁ~?」

 

「正解だ。ロイヤルコロネット君。理由は2つ。1つ目は君たちの今後の育成方針を固めるためにレースの形で君たちを見たいこと。もう1つはルドルフの”勘”に刺激を与えるため。レースという形式でな。」

 

「それは・・・ルドルフ先輩、出走方針決まったんスか。」

 

「感がいいな。スリヴァッサ君。ルドルフは直近のサマードリームトロフィーは見送ることにした。次のウィンタードリームトロフィーで優勝を狙う。」

 

「優勝!!」

 

私をはじめ新米3人がざわざわし始める。私たちにとってみればルドルフ先輩はいわば雲の上の憧れの存在。やっぱり動向はとっても気になってしまう。ちょっとミーハーだけど。

 

 

「この方針はルドルフとも良く話し合った結果だ。サマードリームを見送った理由の一つに君たちの育成もある。」

 

「え・・・じゃああたし達のせいで先輩のスケジュールが遅れ・・・」

 

「スリヴァッサ、それは早合点だ。確かにおまえたちの育成に俺のリソースは割かれる。だが、そんなことで彼女のスケジュールに影響など出さん。まぁ結果としてサマードリームを見送った猶予でルドルフにお前たちの育成を少し手伝ってもらうことにはなるんだが。」

 

「はい!トレーナーさん!難しくて全然わかりません!」

 

「よしトット、廊下に立ってろ。というかまだ説明の途中だぞ。」

 

トレーナーさん・・・そんなに私を廊下に立たせたいんだろうか・・・

 

 

「君たち3人には、ルドルフがウィンタードリームトロフィーで追い込みをかける時期までに、ルドルフとある程度、実践形式で張り合えるようになってもらう。」

 

 

「「「 ?!! 」」」

 

 

「もちろん、まだそのくらいの時期では通常のレース形式でおまえたちがルドルフに張り合えるとは思ってない。だが、ちゃんと鍛えればおまえらの持つ武器はかならずルドルフにも通用する。」

 

 

「そういうわけだ、後輩諸君。そして私もこのところは少し気が抜けていたと言わざるを得ない。やはり目標があるのとないのとではな。精励恪勤、トレーニングに励む君達との模擬レースは私にとってもいい機会になる。よろしく頼む。」

 

つまり・・・ルドルフ先輩は”おまえたちが強くなる手助けを少ししてやるから、強くなって私を倒しにこい”と。そういうことだろうか。たぶんそうだ。

 

ええ・・・・なにそれ、かっこいい・・・すき・・・

 

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「ヴァニィちゃん!コロちゃん!一緒にかえろう!」

 

 

ミーティング終了後、トラットリア先輩が声をかけてきた。

 

というか・・・またヴァニィって・・・・

 

 

「トラットリア先輩。スリヴァッサです。」

 

「え~いいじゃん。かわいいし・・・」

 

「わたしも~いいと、思いますよ~」

 

コロネットまで同調してきた・・・

 

トラットリア先輩は少し苦手だ。彼女は距離が非常に近い。

ある時期を境に友達を一人残らず切ってしまい、ほぼ2年間孤独でいたあたしには少々付き合いにくい。

 

それに・・・先輩にこういうことを言うのはすごい失礼なのだが。

 

少々頭が弱いというか・・・いや、さすがに本当に失礼だな。野生と感性で生きている節がある。頭でっかちの自分とはあまり感覚が合わない。

 

 

「あたしにかわいいとか似合うわけないじゃないスか。それに一緒にといっても、寮すぐそこですし。あたし二人と寮別ですし。」

 

「んん~・・・・つれない~~」

 

「大丈夫っスよ。先輩今日も腹筋つってたじゃないスか。」

 

「え~!今それ言う?!言っちゃう?!」

 

 

 

誤解しないでもらいたいが、私はトラットリア先輩を尊敬している。

 

私は幸運にも今のトレーナーの指導を受けれるようになってから、もう二か月弱が経った。

そして、トラットリア先輩も直接トレーナーに見てもらえるようになってからの時間はさしてあたしたちと変わっていないらしい。

 

にも拘わらず。トラットリア先輩に課せられていたトレーニング内容は・・・傍目で見て常軌を逸していた。

先輩は私たちと同じく学内選抜レースでは勝ち星なし。あたしとコロネットよりさらに一年余分に結果を出せず、苦汁を舐めていたらしい。

 

そんな先輩は、エリート中のエリート、学園の頂点たるシンボリルドルフ先輩とほぼ同じ内容のトレーニングを課せられていた。体幹に関するトレーニングなどそれ以上だ。

 

片や学園の自主退学まで片足を突っ込んでいた落ちこぼれ。

片やレースで常勝の七冠の皇帝。

 

比較するのもバカらしいが、トラットリア先輩は一度だって音をあげなかった。そして・・・それをこなせないまでもついていった。

 

 

その結果が・・・先輩の新バ戦だ。

 

私は後でレースの映像を見せてもらっただけだったが・・・正直、すごかった。

 

これがただの一度も選抜レースで勝てていなかったウマ娘なのかと。

特に最後の直線、次々に前をいくウマ娘をごぼう抜きにぶち抜いていく先輩には鳥肌がたった。

 

ーーー自分も。いつか。あんな風に。

 

そう・・・思わずにはいれなかった。

 

 

そんなわけで、あたしにとってトラットリア先輩は”尊敬するちょっと苦手な先輩”というなんとも微妙なポジションに納まっていた。

 

「あたし、先に行きますね。それじゃ、また明日。」

 

「あ~・・・また逃げられた~」

 

「ふふ・・トット先輩。私と一緒に帰りましょう~?」

 

 

トラットリア先輩には悪いんだが・・・どう接していいかわからない。私はつまらないウマ娘なのだ。

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

寮について鞄を降ろし、制服を着替える。

 

ルームメイトは・・・不在のようだ。食堂にいるのか、大浴場で入浴中か、はたまた別の部屋のウマ娘を訪ねているのか。

どちらにしてもルームメイトとうまくやれていないあたしには関係ない話だった。

 

始めからこんなではなかった。最初は仲良くやれていた。

・・・・原因はあたしだ。だからつらくはない。因果応報だ。

 

むしろ、孤独に慣れたあたしにとって今のチームの方が温かすぎて慣れない。

 

 

 

あの頃のことは・・・今思い出しても顔から脂汗がでる。

 

 

「はぁ・・・あっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

ダメだ。思い出すな。

 

・・・・また、走れなくなるぞ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

PM13:00、天気、晴れ。絶好のレース日和。

 

今日はルドルフにも手伝ってもらい、先日ミーティングで伝えた模擬レースを行う。

 

まずはそれぞれ一本ずつ。併走の形でルドルフとレースをしてもらう。終わり次第、反省を踏まえてもう一本ずつ。

距離の設定はそれぞれ新米組の得意とする距離に設定している。そしてルドルフには枷をもう一つ。

 

「トレーナー君。準備できたよ。ふふっ、この季節なのにもう少し暑いな。」

 

彼女には発汗スーツを着込んでもらった。これを着てレースをするのはスタミナの消費が倍近い。

それでもある程度ルドルフには手心を加えてもらう予定だ。

 

「ルドルフ、悪いな。勉強させてやってくれ。頼りにしている。」

 

「・・・あとで。ご褒美がもらえるかな?」

 

「もちろん。」

 

「それでは・・・・はりきらなくてはな。」

 

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

「位置について・・・よーい・・・スタート!!!」

 

トレーナーさんの掛け声を合図に、私の眼前を勢いよくルドルフ先輩とヴァニィちゃんが駆け抜けていく。

 

一走目・・・コロちゃんとルドルフ先輩のレースが終わってからインターバルは5分しか空けていない。

にもかかわらず、ルドルフ先輩にはさしたる影響は見られない。

実力差があるとはいえ、ここまでの差があるんだ・・・・

 

私は三走目の自分の出番に備えて準備運動をしながらヴァニィちゃんのレースを見守る。

 

「トット先輩~・・・ルドルフ先輩、本当に速いですねぇ~・・・こんなに差があってあの方のレースの勘を刺激できるんでしょうか~・・・」

 

「コロちゃん!お疲れ様。どうなんだろうねぇ・・?でも私、本気でやるよ。」

 

ルドルフ先輩とのレース形式の併走・・・こんなもの、学園で公募したらそれこそ順番待ちで1年先と言われてもなんら不思議じゃない。

トレーナーさんの旗の下に集まった同じチームメンバーだからこそ許される特権だと思う。

 

 

自分の実力不足などわかりきっている。でも、こんな贅沢、本気でやらない理由がない。

 

 

 

ーーー本気・・・と言えば。

 

先輩とヴァニィちゃんの今のレース。ヴァニィちゃんは本気・・・なんだろうか?

彼女は練習もすごく真面目に取り組むし、どちらかというと勝気な性格だと思う。

 

でも、今のヴァニィちゃんのレース、端から見ていても・・・覇気がない、というか。

悪くすれば、手を抜いている・・・ともとれなくもない。

 

彼女の身体能力は一緒にトレーニングしているので良く知っている。

正直、身体スペックなら彼女は私よりずいぶん上だ。にもかかわらず、ルドルフ先輩とはまるで勝負になっていない。

 

 

「ルドルフ、ゴール!」

 

「ふぅ・・・このスーツ、思ったよりもきついな。」

 

ルドルフ先輩がゴールした。ヴァニィちゃんは・・・・まだ8バ身以上後ろにいる。

 

 

 

・・・・遅れること数秒。ヴァニィちゃんがゴールした。

 

「スリヴァッサ、ゴール!」

 

「ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・」

 

あ、これ・・・。彼女の表情を見る限り、これ、ヴァニィちゃんは本気だ。

彼女の身体能力にまったくそぐわないレース結果・・・これが、彼女が選抜レースで未だ未勝利なことに関係があるのかもしれない・・・・

 

きっと、そうなんだろう。そして・・・きっとそれはトレーナーさんがなんとかしてくれる。

これは、願望じゃなくて確信だ。きっとそのために、トレーナーさんはヴァニィちゃんに声をかけたはずだから。

 

 

 

 

 

そして・・・私は今は。確実に他のウマ娘の心配をしているような場合じゃない。

 

ーーー改めて意識をレースに戻す。

 

他の事を考えていて・・・・勝負になる相手じゃない。

 

 

 

 

「トット・・・・君はもう、戦場に降りたのだったな。」

 

 

レース直後にもかわらず、まったく息が乱れてないルドルフ先輩がゆっくりと眼前に現れた。

 

明らかに・・・雰囲気がいつもと違う。さっき二人と走った時とも・・・違う。

先輩から発せられる、とんでもない重圧・・・息が苦しい。

 

 

そこにいたのは・・・まさしく『皇帝』だった。

 

 

「・・・・拝見しよう。君がトレーナー君から授かったものを。」

 

 

先日のメイクデュー戦の控室、トレーナーさんは私に言った。「そんな皇帝に死ぬほど追い回されて今更なにを緊張するのか」と。

 

違う。いや、違った。

確かに私は”おいた”をしてルドルフ先輩に追いかけまわされた。でも、いままで一度だって『皇帝』に追われたことなどなかったんだ。

 

ーーー眼前にいるルドルフ先輩は、トレーニングウェアを着ているにも関わらず、まるで勝負服を着ているかと錯覚させるほどの威厳をもって私の前に立ちふさがった。

 

 

 

呑まれるな・・・胸を張れ。

 

私だって。今までの私じゃない!!!

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「トラットリア、ゴール!!!」

 

 

「ぜぇあ・・・はぁ・・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・・はぁ・・・・」

 

ーーーこんなに・・・差があるのか・・・・

 

 

私は・・・完敗だった。

 

まず、レース序盤。わたしはルドルフ先輩のレースコントロールに翻弄され、通常スタイルでのスピードをいつの間にか普段の何段階も下のスピードと勘違いさせられた。結果としてルドルフ先輩は序盤に多大なスタミナの温存に成功してしまう。

 

そして、最後の直線、私が加速スタイルに切る変える寸前でルドルフ先輩が仕掛けたスピードの緩急の差によって私はスパートのタイミングを完全に外された。

 

私がスパートできたのはルドルフ先輩がスパートかけた実に数秒後。すでにそこにはどんな加速をもってしても追いつけない差ができていた。

 

 

・・・くやしい・・・・くやしい!!!

 

トレーナーさんに教えてもらったことが・・・なんにも活かせなかった!なにも!させて貰えなかった!

 

 

 

眼前のルドルフ先輩を見上げる。

 

まだだ・・・まだもう一本ある!!!

 

 

「トット・・・やはり君は。地面に(こうべ)を足れずに私を見上げるのだな。」

 

「つ・・・ハァ・・・ハァ・・・ルドルフ・・・先輩・・・・・」

 

「・・・トット。息を整えながら聞いて欲しい。私は、先ほどのレース、君と5バ身(・・・)以上の差をつけて勝利するようレースを組み立てた。今の結果は・・・・3バ身差(・・・)だ。」

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・」

 

「君の加速力は私の想定を超えていた。・・・喜ぶといい。次も、本気(・・)でお相手しよう。」

 

 

先輩・・・いつかその余裕の表情・・・くずして・・・見せますから・・・!!!!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

明らかにあたしやコロネットと走ったときは違うルドルフ先輩の雰囲気・・・

 

これが、今のあたしとトラットリア先輩との差か・・・

 

 

 

併走にすらならなかった自分といくらハンデを負っているとはいえ、ルドルフ先輩の本気の目を引き出しているトラットリア先輩との歴然の差を目の当たりにしてひどく心がぐちゃぐちゃになるの感じる。

 

これが・・・今のあたし。今のスリヴァッサの実力だ。

 

こんな・・・こんなにか。

 

 

 

「おーい、ルドルフ、流れ切って悪いが講評が先だ。」

 

「む、すまない。そうだったな。」

 

「とりあえず四人ともドリンク飲めー。特にルドルフは多めに飲むんだぞ。」

 

 

とりえあず、もらったドリンクを飲みながらトレーナーの講評を聞く必要があるようだ。

・・・正直、聞きたくないけど。情けない自分をこれ以上さらに指摘されるのは心に刺さる。

 

「まず、コロネット。おまえは次のレース、ルドルフと勝負するつもりは捨てずに、ルドルフを一切気にせず走ってみろ。」

 

「トレーナーさ~ん、流石に無理ですぅ~」

 

「無理でもやれ。おまえの方針が見えてきた。あと、次回は最後スパートかけるな。おまえ、肉離れ起こすぞ。」

 

「!!! バレちゃいました?」

 

「俺に隠すんじゃねーよ。たぶん勝負にならないだろうが、今はそれでいい。次、トット。」

 

「はい!!!」

 

「どうだ。本気のルドルフは。これでもルドルフ、まだレース勘は全然取り戻せてないぞ。」

 

「はい!!!むちゃくちゃくやしいです!!」

 

「その意気だ。全力で胸を借りて来い。最後、スリヴァッサ。」

 

「はい!」

 

「・・・おまえは、ルドルフとの2本目。悪影響の方がでかいと判断した。悪いが今日はここで切り上げだ。」

 

・・・・!!!

 

「あと、終わったあと、トレーナー室で話がある。すまないが時間取ってくれ。」

 

「・・・・・わかり・・・ました。」

 

 

舞台に上がることすら・・・叶わないのか。あのトレーナーは優秀だ。見破られてしまったのかもしれない。あたしは、”それ以前”なのだと。

 

 

 

 

「今日は次の2本目終わったらトレーニングは終了だ!怪我のないように頼むぞ!」

 

「「「はい!!!」」」

 

そのあと、各個人に細かい調整内容を伝えているトレーナーの声がどこか遠くに感じる。

 

 

 

・・・・終わったあとに、話・・・か。

 

きっと・・・いい話では・・・ないな。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

コン、コン、

 

「お疲れ様です。スリヴァッサです。」

 

「はーい、どうぞー」

 

 

模擬レースも終わり、各自ストレッチや片づけをした後。あたしは先ほどの招集に応じ、トレーナー室を訪ねていた。

 

話か・・・内容は想像がつく。不甲斐ないレースだった。

ともすれば、”やる気がない”と取られても仕方がないほどの。

 

・・・・除籍、も、あるかもしれないな。

 

 

 

「すまないな、時間をとってもらって。何か飲むかい?」

 

「いいえ、だいじょう・・・いえ、すいません、スポーツドリンクか水があったらいただけますか。」

 

 

言いながら気づいたが、もうすでに口の中が緊張でカラカラだった。彼との面接以来だ。この緊張。

 

 

「ほい、ちょっと待ってな。・・・・さっきはすまないな。俺、ターフの上だと結構気を張ってるからさ。言い方、きつくなってしまったかな、と」

 

「大丈夫です。あたしは厳しくしてもらった方が性に合っていますし。それに・・・厳しい言い方ではなかったと思います。」

 

「ま、それでもさ。座ってくれ。」

 

「はい。」

 

促されてトレーナーの対面のミーティングテーブルに座る。飲み物はスポーツドリンクを用意してもらったようだ。

 

 

「すいません、いただきます。」

 

緊張を和らげるためにもスポーツドリンクのキャップを開け、口をつける。

・・・よく冷えていておいしい。少しだけ、落ち着いてきた。

 

 

対面に座ったトレーナーも熱そうなコーヒーに口をつけている。別段イケメンというわけでもないが・・・ひどく絵になるな。このヒトのこういう雰囲気は。

 

 

 

「二人っきりで話すのは面接以来だな。」

 

「そう・・・ですね。」

 

面接のときのことは・・・実はよくは覚えていない。あまりにも緊張してしまい記憶が所々飛んでしまっていた。なにせ相手はあの七冠バのトレーナーだったのだ。

 

ただ・・・なんであたしに声をかけてきたのか、何をもってあたしを評価してくれたのかはわからないが、とにかく必死だったのは覚えている。あたしにとっては、このチームに所属できることは、たった一つ残された最後の希望のように思えた。

 

・・・それは、今も変わらない。

 

 

 

「今日は・・・すいませんでした。不甲斐ない走りをしました。」

 

とりあえず、先に謝っておく。今日のこの呼び出しの前、トレーナーは他のメンバーに”帰る”ように言っていた。わざわざヒト払いをしてまでの話・・・これだけで終わるはずもないが。

 

除籍は・・・いやだ。それは・・・・いやだな・・・・・

 

 

 

 

「いや、スリヴァッサ。すまないが・・・想定通りだった。おまえは不甲斐なくはない。ルドルフにそうなるように仕向けたのは俺だ。むしろつらい思いをさせてすまなかった。」

 

 

ハッとして顔を上げる。

 

・・・想定通り?

仕向けた?!まずい!まずいまずいまずい!これ、気づかれて・・・!!

 

 

「担当直入に言う。スリヴァッサ、おまえPTSD(心的外傷後ストレス障害)だな。」

 

 

バレた・・・・バレてしまった。あたしが・・・・ターフで競えないことを。

 

 

 

 

 

 

ーーーーきっかけは、入学の一週間後に行われる一回目の選抜レースだった。

 

あたしは入学テストの結果や周りの同級生を見て、正直慢心していた。どの娘も難関と言われるこのトレセン学園に入学してきたのだ。安い相手など一人もいないのはわかっていた。

それでも、自分は絶対その中で見劣りしていない・・・むしろ、周りより抜きに出ている自信があった。

 

事実、レース前のウォーミングアップ時点で、あたしより速い同級生はいなかった。

 

一位で選抜レースを抜け、あたしにはトレーナーがつき、輝かしいクラシックへ。

 

そんな道をなにも疑っていなかった。

 

そんなもの、目の前のレースにすら集中できていないものに訪れる訳はないのに。

 

 

まだレース慣れしていない新入生のレースだ。それはたまにあることだった。

スタート直後、掛かってしまった同級生が転びかかり、思わずバ群の中で前の娘を押してしまったのだ。

 

問題はそのあと。押されてよろけた娘が私の進路を塞いだ、その後だ。

 

あたしはその時、輝かしい未来を夢想し・・・レースに集中できていなかった。

 

止まることも、避けることも、受け身を取ることも叶わず、ただただびっくりしただけだったはあたしはその娘に激突した勢いでそのまま転倒した。

 

・・・・右手首と左脚の骨折。全治半年。

それが、私の最初の選抜レースの成績だった。

 

 

 

そして・・・それはその後も、あたしに暗い影を落とす。

 

あたしは・・・ターフで他のウマ娘と接触できなくなってしまった。

 

厳密には接触するであろう可能性を察知すると、体が恐怖で固まるようになってしまったのだ。実際には進路妨害で失格になるような事柄だ。ターフで接触することなど、他のウマ娘と衝突してしまうことなどまずない。そんなことはいくら頭で言い聞かせてもダメだった。

 

後ろのウマ娘がスパートをかけてきたら自分から進路を譲ってしまう。前を行くウマ娘の隣を抜けていくことができない。恐怖で近づけない。

 

しばらくはレースそのものすら恐怖の対象となってしまい、レースに出れなかった。骨折の治療に半年。その後、無理やり自分を叱咤してレースに出れるようになるまでにさらに半年。

 

あたしは荒れに荒れた。友達も、ルームメイトもいっぱい傷つけた。

 

もう・・・今では誰も私の周りにはいない。

 

 

 

 

 

 

 

「はい・・・そうです。すいません。隠してました。」

 

致命傷と言える傷だ。

 

これがバレたということは・・・終わった、ということだ。

 

 

もうトレーナーの顔を見る事はできない。あたしは面接でもなにも言わなかった。騙していたようなものだ・・・こんなの。

 

 

 

「申し訳・・・ございません・・・でした。荷物は、今日中にまとめますので・・・」

 

もう、ここに私の居場所はない・・・そう・・・思っていた。

 

 

 

「スリヴァッサ。すまない、気づいていたのは・・・最初からだ。厳密には面接をする前から。まぁ今日まで確信は持てていなかったのだが。おまえの経歴は全部、隅から隅まで見ている。」

 

 

 

トレーナーが不思議なことを言い始めた。

・・・面接をする前から?それでは、このトレーナーはPTSDの可能性があることがわかった上であたしの面接をしたのか?

 

普通は解雇だ。バレた時点で。バレるどころか最初から?

 

・・・どういうこと・・・?

 

 

 

 

 

「普通はな、スリヴァッサ。レースでPTSDになったウマ娘は・・・出れないぞ、レースには。」

 

未だに顔を見れないでいるあたしに、トレーナーが優しく語りかけてきた。とても・・・安心する声色だ。

 

 

「その症状は、心的外傷の原因になったことを、心が避けようとするはずだ。これは、根性とか、やる気とか、そういう次元の話ではない。普通は無理なんだ。そのままターフに上がるなど。」

 

実際、あたしもしばらくレースには出れなかった。心が、体が。全力でターフを忌避しようとした。

今だってレースに出るためには崖から飛び降りるような覚悟が必要だ。

 

 

「それを・・・おまえ、どれだけの恐怖を抱え込んだまま、今までターフに立っていた?さっきのルドルフとのレース、おまえは、彼女と走るのにどれだけの勇気を振り絞ったんだ?」

 

尚もトレーナーが優しく話かけてくる。

 

 

ーーーあんたに・・・あたしの何がわかる。

 

 

「おまえ・・・今も全然ちゃんと寝れないんじゃないか・・?」

 

 

ーーーなんで・・・・わかってくれるんだよぉ・・・・

 

 

 

「・・・でも、こんな役立たずじゃチームにも迷惑をかけて・・・・」

 

 

 

 

ガタンっ!!!

 

「なにが・・・なにが役立たずなことがある!!!!!」

 

 

 

突然大声を上げてトレーナーが立ち上がった。

 

びっくりして私も顔を上げ、改めてトレーナーの顔を見る。

 

 

 

「スリヴァッサ、ウマ娘がレースで怪我を負って!心に傷を抱えて!それでも自分を奮い立たせてターフに戻ってきて!今も押し潰されそうな恐怖をかかえながらも、それでも、夢を諦めないでいてくれて!」

 

 

ーーーなんで・・・あんたの方が泣きそうなんだよ・・・

 

 

「役立たずは俺たちトレーナーだろうが!!なにも気づけない、なにもケアできない、俺たちトレーナーの事だ!役立たずは!!!!」

 

 

 

 

・・・・こんな・・・こんなトレーナーが・・・いるのか。

 

 

 

涙が頬を伝わって両の手に落ちる感覚。

・・・そんなもの、とっくに枯れたものだと思っていた。

 

 

だって、トレーナー、隠してたのはあたしだ。気づかれないようにしていたのは、あたしなんだ。

 

それなのに・・・こんな、こんなことを言ってくれるトレーナーが。

 

 

 

なにもかもなくしたあたしの、最後に残った希望だった。このチームは。

 

体中を巻き付いて離れない重い鎖。もがけばもがくほど体が雁字搦めになって自分ではもう、どうしたらいいのかわからない。

 

 

あたしの望みは、たった一つだけだった。

 

もう一度。もう一度、あたしもターフでちゃんと走りたい。競いたい。・・・・レースがしたい。幼いころのあたしが夢見たみたいに・・・もう一度あの場所を目指したい。

 

 

 

 

 

でももう、あたしじゃ・・・・どうすることも、できない。

 

もう、あたし、独りでは・・・・

 

 

 

 

 

「トレー・・・ナー・・・たのむ・・・たす・・・けて・・・・・」

 

 

 

 

 

ーーー全部彼に預けよう。あたしの全部を。すべてを。彼はきっと・・・あたしを見捨てない。

 

 

 

お願いします・・・この重い鎖を・・・こわして・・・

 

 

 

 

 

 

 

そのあと。

 

私は泣きながらトレーナーに自分の話をした。

 

ぜんぶ話した。絡みつく恐怖も、情けない自分も、幼き頃の夢も、ずっとちゃんと眠れない夜のことも。

 

トレーナーは・・・ずっとあたしの頭を撫でながら、話を聞いてくれた。

 

 

 

その夜。あたしは本当に久しぶりに・・・・夢を見なかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーーヴァニィちゃんがPTSDである。

 

模擬レースから3日後。チームミーティングでのトレーナーさんからの話は衝撃でした。

このことはトット先輩はおろか、ルドルフ先輩にも伏せられていたようで、お二方もすごく驚いていました。

 

「力不足で申し訳ないが・・・これの治療は俺ひとりじゃ無理だ。すまない、どうか君たちの力も貸してほしい。」

 

深々と頭を下げるトレーナーさんと、ヴァニィちゃん。

ヴァニィちゃんは・・・泣いていました。普段の勝気な様子など微塵も感じさせず、ただただ、深々と頭を下げていました。

 

私をスカウトしてきた時点でかなり不思議に感じていましたが・・・そうか。このトレーナーさんは、そうなんですね。自分から茨の道の飛び込んだんです。このチームを作った時点で。

 

「トレーナーさ~ん、ヴァニィちゃんも。私はできることならなんだってしますよ~ここにいられるのもあなたのおかげですし~」

 

ん~なぜでしょう。どうも、私が話をすると緊張感がなくなる気が・・・・

 

 

「私もだ。トレーナー君。私にできることは言って欲しい。」

 

「わだ・・わだじも・・・でぎるごと、じます~・・・ヴァニィぢゃん・・・つらがっだね・・・」

 

あ~トット先輩・・・また泣いてる。ヴァニィちゃんよりもベショベショですね・・・?

 

 

 

 

 

やはりPTSDの治療というとそう簡単ではなく、彼女はあまり大事にならないようにトレーナーさんの知り合いのドクターに秘密裏にかかりながらトレーニングに参加するそうです。

 

そしてトレーナーさんが私たちに頼みたいことは1つ。

 

それは私たちが、なるべく多くヴァニィちゃんと模擬レースをすること。

 

彼女の治療の特効薬は、彼女にターフは怖くないと信じさせること。

そのためには絶対に自分に悪意のない、信頼のおける仲間と模擬レースを繰り返すことが一番の近道になるそうです。

 

今後の基本方針として、トレーニング終了後、毎日各一本ずつヴァニィちゃんと模擬レースをすることになりました。

 

トレーニングの時には気づきませんでしたが・・・そうか。彼女もなんですね。

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

「ヴァニィちゃん。帰る前に・・・少し、お話しませんか~?」

 

「コロネット・・・いいよ。ターフの方・・・行こうか。」

 

 

その日の帰り、私はヴァニィちゃんを誘って寄り道しました。

ターフの少し上、そのレース場に沿った遊歩道。

そこに設置されているベンチに二人で座ります。

 

もう施設は消灯間近。ターフには誰もいません。もうしばらくしたらターフの夜間照明も消え、遊歩道の常備灯だけになるでしょう。

 

「コロネット・・・びっくりしたよな。ごめんな・・・迷惑をかけるとわかっていても・・・それでも諦めきれねーんだ。ごめん。」

 

「はい~びっくりしました。それでですね。わたしも・・・びっくりさせますね~」

 

 

ひとつ、深呼吸する。だいじょうぶ。彼女だって自分をさらけ出してくれたんだ。だいじょうぶ。

 

 

「あの~私ですね。スパートをかけられなんです。筋肉切れちゃうので~」

 

「え・・・・??それは、どういう・・・・」

 

「そのまんまです~。筋肉がですね、極端に引っ張り応力に弱いんです~」

 

彼女もある程度気づいてはず・・・私の筋力トレーニングだけ、他のメンバーと明らかにやり方が違うと。他の方が必死にウェイトトレーニングをしている間、私だけヨガみたいなことをしているのだから。

 

 

「わたしですね~スタミナには自信があるんです~。それこそ、長距離と言われる3000mの3倍、10kmのレースがあったとしても、私、走れるんです~。」

 

これは誇張でもなんでもなく事実です。でも・・・そんなコース、URAにはないんです。残念ながら。

 

 

「実家のドクターからは~なんかシリコンゴムみたいな筋肉だって、言われました~。衝撃に強くて、疲労もしない・・・でも引っ張ると切れちゃうんです~・・・・」

 

「実家のドクター・・・?コロネット、実は結構いいとこの出なのか・・・?」

 

「まぁ、そこそこですけどね~それこそメジロ家みたいなとこと比べたら庶民と変わらないんですけど~。でも私、そこで・・・出来損ないって呼ばれてました~」

 

だから・・・飛び出しました。そしてトレセン学園に入ったんです。実家は学費の負担はしてくれています。でもそれだけです。トット先輩のような温かい家庭とは違う。学費の負担も・・・家のメンツの為だと思います。事実、ここに入学してから一度たりとも連絡はないのですから。

 

 

 

「なんで・・・その話をあたしに?」

 

「ヴァニィちゃん、私ですね~、実は昨日、個人面談で、トレーナーさんから、その、”希望”をもらいました~。」

 

「希望・・・?」

 

「はい、今のあなたと同じです~。私、長距離目指すの辞めたんです。これからは私の目標は中距離です~。」

 

「そんな・・・そんなにスタミナがあるのに???」

 

「私も、そう思ってました~私の長所を活かせるのは長距離だって。でもですね~長距離に求められるのって10km走れるスタミナじゃないんです~3000mを一番早く走れる速さなんです~」

 

うすうす感じていましたが・・・それは上に行けば行くほど顕著だそうです。3000m走り切ったあとにスタミナなんか残ってなくてもいいんです。そこで1番速くゴールを通過できれば。そして、3000mを走ることにおいて、トップのスレイヤー達はスタミナになにも不安は抱えていないと。スタミナの差は・・・勝ちにはつながらないのです。

 

「わたしですね~・・・実は絶望してました~。ほんとに・・・出来損ないだったんだなって~」

 

「コロネット・・・」

 

「でもですね~昨日トレーナーさんに言われたんです~。『おまえの筋肉は急激な負荷に耐えらない。でも、緩やかにかかっていく負荷なら耐えられる。それも強靭に。だから、お前が今後考えるのは長距離でいかにスパートを使わずに走りぬくかじゃない。中距離だ。中距離でスパートをかけろ。スタートから同時に。中距離の全区間を使った超々ロングスパートだ。疲労に強い筋肉、規格外の心肺。おまえにしかできないことだ””って~』

 

「ぷっ・・・・トレーナーのセリフだけ、やけに上手に似せるな。コロネット。」

 

「普通に話すとこうなるんです~・・・よく緊張感がないって言われます~・・・」

 

でも・・・ほんとうに光が差したようでした。長距離で強みを活かせないならそんなものは捨ててしまえ。そんなものにしがみつかなくても、俺が別の戦い方を見出してやる。そう、言われたようでした。

 

「ヴァニィちゃん、私たち、同級生で~チームの同期で~そして同じトレーナーさんから光をもらった仲間ですね~」

 

「ん・・・・そうだな。」

 

「私ですね~なんかヴァニィちゃんとは一生の付き合いになる気がしてるんです~」

 

「あたしも・・・そんな気がしてきたよ。」

 

「えへへ~がんばり、ましょうね~」

 

「ああ・・・がんばろうな。」

 

「ふふっ・・・さっきの質問の答えですが~私、あなたとちゃんと友達になりたかったんです~チームメイトとしてだけじゃなく~、きっと・・・一生の付き合いなんですから~」

 

「あたし・・・本当にあたしに必要なもの、自分からみんな切ってたんだな・・・そしてあたしは今こんなにも恵まれている・・・・ルームメイトや他のヒトにも、ちゃんと謝らなきゃな。」

 

 

 

 

それにですね、トット先輩ばっかりにいいとこもってかれるの・・・悔しいじゃないですか。

 

きっと私たちも本気にしてみせますよ・・・あの皇帝だって。

 

 

 

空には満天の星。

 

これから・・・春も終わり、季節は夏になっていきます。

 

暑い・・・夏に。

 

 

[newpage]

 

 

「ヴァニィ!今のは引いていい!無理するな!トットが悪い!!!トット、てめぇ、お前のスパートはタメが必要なことなんざ始めからわかってるだろうが!今のはお前の進路妨害だぞ!」

 

「ごべんなざいぃーーー」

 

ああ・・・・とうとうトレーナーまでヴァニィと呼ぶようになってしまった・・・・

 

 

 

 

あのチームミーティングから2か月が経った。

 

あたしの症状は・・・驚くことにチーメンバーと走る時はもうほとんど回復してきていた。今も、トラットリア先輩とあわや接触となりそうだったが、ほとんど恐怖にとらわれることはなかった。

 

本当に・・・みんなには頭が上がらない。

 

 

まだ、チームメンバー以外と走るのは怖い。想像すると体が固まる。

 

でも逆に言えばチームのみんなと走るときは以前のような・・・怪我をする前のスリヴァッサに戻れつつあった。

 

 

 

トラットリア先輩やコロネットも随分と変わった。

 

トラットリア先輩はあの後、オープンレースに参加し、ものの見事にスパートを失敗。最下位という結果に泣いた。

そしてその後、間髪入れずにG3重賞レースにエントリー。

 

そこで2位と8バ身差という結果を叩き出し、会場を沸かせた。

本当に打たれ強いというか・・・不屈というか・・・

 

あの先輩の本当の強さってこういう所なのかもれしない。絶対に折れない。いや、まったく折れないわけじゃないんだけど・・・たとえ折れかけてもトレーナーに励まされるとすぐ復活してくる。不死鳥のごとし。結果として彼女は折れてない。

 

 

コロネットは大幅な適正修正のためにかなり四苦八苦していた。ただ、今では中距離の全区間を全部同じペースで走れるようになっている。

ここからさらに、全区間で徐々にスピードを上げ、ラスト200mでトップスピードまでもっていけるように現在トレーニング中だ。

 

こちらは、当初の想定としては思わぬ武器としても機能するようになっていた。

 

コロネットはレース中、基本的に自分の事しか考えない。対抗バが早かろうが遅かろうが、自分のベストとなる走りしかしない。いや、できない。相手に合わせて作戦を変えることなどできないのだから仕方がない。

 

逆に言うと彼女には駆け引きの類が一切通用しない。彼女に勝つためには、常に彼女のベストを抜く以外に勝つ方法がないのだ。

 

そして彼女のベストは日を追うごとにどんどん更新している。

今ではいいライバルだ。

 

 

 

トレーナーは・・・私たちのメイクデューも見えてきた、と言った。

 

私に残る最後の課題・・・・チームメイト以外とのレースの克服。

 

トレーナーの・・・あたしはあいつの期待に応えたい。

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

「あんた・・・スリヴァッサよね。ちょっと、ツラ貸してくんない?」

 

それは、あたしがコロネットやトラットリア先輩を待ちながら1人で中庭で昼食をとっていた時だった。

 

相手は・・・3人。その中の1人は見覚えがある。私が選抜レースで勝てないでいた頃・・・何回か入賞していたはずだ。確か一度は勝ちをさらったことがある気がする。

 

「なに・・・?あたしこのあとトレーニングなんだけど。ここじゃダメなわけ?」

 

「いいから来なさいよ。あんたに意見は聞いてない。」

 

明らかに悪意を持って話しかけてきている。ついていく義理はないけど・・・問題をおこしてトレーナーに迷惑をかけるのもあたしにはできない。それに・・・自分でまいた種である可能性が高い。

 

ついていくしかないか・・・・

 

 

 

 

 

ドンっ!

 

校舎の陰に連れ込まれたあと即、あたしは突き飛ばされた。

 

悪意をもっているのはわかってたけど・・・ずいぶん攻撃的じゃないの。

 

「あんた・・・全然勝ててないのに、なんでまだ学園にいるのよ。いえ・・・それはいいわ。あんた、チームカマルの席。私に譲りなさい。」

 

 

 

これはこれは。あたしが荒れていた時期に迷惑をかけた相手かと思っていたが・・・別件かよ。

 

 

「一応聞くけど・・・あんた、トレーナーに振られたクチ?」

 

「つっ!!!振られてない!!!なんであんたなんかが採用されてるのよ!私より全然、選抜の成績下のくせに!!!」

 

 

トレーナーは・・・一時期、毎日のように大量の逆スカウトを受けていたと聞いたことがある。大方、その頃に逆スカウトをかけた一人なのだろう。

 

それで、どんな奴が採用になったのかと思ったら、自分よりはるかに成績が下のやつだったので我慢できなかったと。そんなところか。

 

 

こういうやっかみがあるのは理解していたが・・・実際に行動を起こしたやつは初めてだ。

 

いや、もしかしたらコロネットやトラットリア先輩は受けたことがあるのかもしれないな。

・・・ずいぶん、器の小さいことだ。

 

 

「それ、決めたのはあたしじゃなくてトレーナーなんだけど。あたしじゃなくてトレーナーに言えば?」

 

「ほんとクッソ生意気・・・・いいわ。知ってるのよ、私。・・・あんた、怪我が怖いのでしょう?」

 

あたしを突き飛ばしたウマ娘が、不敵にニヤリと笑った。

 

 

 

 

背筋に悪寒が走る。

 

後ろの二人がおろおろしているのを見る限り、実際に行動を起こす気はないんじゃないかという気はする。

 

でも・・・あたしは・・・恐怖で固まってしまった。

 

怖い・・・どうしよう。怖い!!!

 

 

 

 

怪我は・・・いやだ。ここまで私を支えてくれたトレーナーを、チームのみんなを裏切るのはいやだ!

 

怪我は・・・走れなくなるのはダメだ。いやだ!

 

 

 

自身の制御が効かない。感情が塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

怪我・・・やだ!怖い!!怖い!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あなたたち、なにしてるの?」

 

そんな中・・・流れをぶった切って一人のウマ娘が現れた。

 

 

 

・・・トラットリア・・・先輩・・・

 

 

 

「聞いているんだけど。私の後輩に・・・なにしてたの?」

 

「あ、いや・・・リトルトラットリア先輩、誤解ですよ。先日の重賞、すごかったですよね!おめでとうございます!」

 

「質問に・・・答えてないよね?」

 

 

後ろの2人は完全に青ざめている。

トラットリア先輩はメイクデビューの胸がすくような逆転劇、そして先日のG3圧勝で徐々に学園内で知名度を帯びてきていた。重賞に出た事すらないウマ娘にとっては、そのレーススタイルからもう憧れになっているものもいる。

 

あたしにつっかかってきた奴も、目に見えて焦っているようだ。

 

「え、ええと・・・こんな、レースでやる気がないやつより、私の方がチームに貢献できるよ、って。そういう話をしていただけなんですよ!ほら、こいつ、トレーニングじゃいい成績納めてるくせに、レースはあんまりやる気ないじゃないですか!そんなやつより・・・」

 

 

 

「ヴァニィちゃんを・・・・スリヴァッサをバカにするな!!!!!!!」

 

 

 

普段の・・・トラットリア先輩からは想像もつかない声量だった。

 

「あなたたち・・・なにも、ヴァニィちゃんの苦しみも、努力も、何も知らないくせに・・・やる気がない?!あなたの方がチームに貢献できる?!・・・・喧嘩を売ってるなら相手になるよ。私、怒ったよ。本当に怒った!!!」

 

 

 

トラットリア先輩が・・・・キレている。

 

普段は泣き虫で。すぐ流されて。いつも笑顔で。あたしたちを励ましてくれて。

 

 

そんなトラットリア先輩が・・・あたしのために・・・本気でぶちキレてる。

 

 

 

普段のふわふわした雰囲気から忘れがちだったけど。

 

トラットリア先輩は、かの『皇帝』に真っ正面から勝負を挑むほどの度胸の持ち主だ。そしてその皇帝と何度もターフでやりあっている。

 

場の空気が彼女一人に制圧される。誰も・・・しゃべれない。動けない。

 

 

 

 

 

ーーーー硬直破ったのは・・・もう一人のチームメイトだった。

 

「あの~加勢しますよ~先輩。ヴァニィ、泣かしたの、あなたたち?」

 

 

コロネット!泣いてない!あたしまだ泣いてないよ!

 

こっちもこっちで目が完全に座っている。

 

 

でも、まずい・・・こんなこと、トゥインクルシリーズにすでに参戦しているトラットリア先輩を巻き込むわけにはいかない。なにか問題になるようなことになったら、あたしはそれこそ後悔で死んでしまう。

 

 

あたしが・・・あたしがなんとかしなきゃ。場を納めなきゃ!

 

 

「トラット・・・トット先輩。すいません、大丈夫です。ねぇ、あんたたち。こんなところじゃなくて・・・どっちが正しいのか。ターフで決着をつけよう?」

 

 

無我夢中だった。

 

 

 

決着は、ターフで。

 

速い方が、真実。

 

 

 

ウマ娘にはふさわしく・・・・今までの私では絶対に想像もできないセリフ。

 

でも・・・引くわけにはいかなかった。

 

 

 

 

トット先輩・・・・あたし。

 

 

 

勝ちます。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ね、ねぇ!!さっき!ヴァニィちゃん、私の事・・・トット(・・・)先輩って、トラットリア先輩じゃなくて、トット(・・・)先輩って、そう呼んだよね?!聞き間違いじゃないよね?!」

 

 

ぐいぐい来る・・・・すっごいぐいぐい来る・・・・

 

呼んだよ・・・呼びましたけど・・・すごいっスね、先輩。そこ、そんなにっスか・・・・

 

 

 

さっきまでの激おこトラットリア先輩はどこへいったのか。ターフへ移動している間にすっかり元のトット先輩だ。

 

 

・・・でも、この先輩怒らすのはやめとこ。

ちゃんと考えたことなかったけど・・・そうだよな。

 

元落ちこぼれが正面切って学園最強ともいえる皇帝に、威圧感だけで戦意が喪失しそうな本気の皇帝に怯みもせずに挑みかかる。

 

普通の訳がなかった。よく考えろ。あたしに同じことできるか・・?無理だろ。

 

 

 

「ふふ~良かったですねぇ~トット先輩。」

 

「うん!やっと、やっとだよ!やっとトットって呼んでもらえた~」

 

 

後ろの3人・・・先輩の豹変に困惑してますけど。いいんスかねぇ・・・・

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「じゃあ、おさらいね!審判は私、リトルトラットリア。レース参加者は5人。あなたたち3人と、うちのチームからはヴァニィちゃんとコロちゃん。チーム所属の件はトレーナーさん抜きじゃなんとも言えないけど・・・ただし、私含めて今回の件はこの勝負の勝敗で矛を納める。異論はなし。いいね!?」

 

「「「はい!!」」」

 

 

 

 

 

 

準備運動を終えて、ターフの上。

 

 

今更ながらに・・・脚が震えてきた。指先に感覚がない。

 

 

チームメンバー以外とのレース。勢いでここまできたけど、勢いで克服できているわけでもなく。

 

逆に・・・チームメンバー以外とのレースが久々なのもあって私の脳裏には、以前の、あの記憶が駆け巡っていた。

 

 

ーーー突然塞がれる進路、なにも反応できないあたし。反転する世界。左足と右手首の激痛。

 

 

 

 

「ヴァニィ・・・だいじょうぶ?」

 

心配そうにコロネットが覗き込んでくる。・・・大丈夫、とは言い難い。

 

いまの状態は・・・精神力で抑えることができる。それは以前と同じだ。

でも・・・以前と同じだとすると・・・レース中にこれを抑えることは・・・・

 

今から走るのは、信頼している仲間じゃない。

久々にのしかかるその事実に、心が逃げ出しそうになる。

 

 

顔から脂汗が出てきているのが自分でもわかる。

くそ・・・今日までのみんなの協力を、努力を・・・無にするつもりか・・・スリヴァッサ。

 

 

 

いくら言い聞かせても体が言うことを聞いてくない。

 

久しく感じていなかった、体中を重い鎖が這って行く感覚。

 

 

 

 

ダメだ・・・怖い。

 

 

どうしよう・・・怖いよ、トレーナー・・・・・

 

 

同じ映像がぐるぐると頭の中を回る。心が恐怖で塗りつぶされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ??トレーナーさん?!」

 

そんな中、素っ頓狂なトット先輩の声で私は我に返った。

 

 

いる・・の・・・?トレーナー・・・?

 

 

 

 

 

『パ~パパ、パパパパ~♪ パパパパ~♪ パパパパ~♪』

 

 

 

 

ーーー突然、何の前触れもなく、ターフに”ファンファーレ”が鳴り響いた。

 

 

 

・・・え?ファンファーレが?学園(ここ)で?!

 

 

音の出どこを探すとそれはすぐに見つかった。

 

ターフの上、遊歩道。

 

 

 

ーーーそこでは、ルドルフ先輩を伴ったトレーナーが高らかに銀色のトランペットを吹いていた。

 

楽曲は東京・中山競バ場・G1。かの・・・有マ記念でも流れるファンファーレ。

 

 

『パ~パ、パ~パ~パパ~♪パ~パ、パ~パ~パパ~♪パパパ、パ~♪』

 

 

 

 

私を支配していた身を凍らす映像を、ファンファーレが新たな映像で押し流していく。

 

 

 

ーーーーえへへ。みてろよ~!あたしはだれにもまけない、いっとうしょうに・・・・いっとうしょうになって、ありまきねんにでるんだ!ぜったいに!ーーー

 

 

そうだ・・・あたしは。一等賞になるんだ。かつて憧れた・・・中山競バ場。幼いあたしが見た、あたしのバ生をかけてもいいと思った憧れの記憶。

 

あたしは・・・行くんだ。あそこに。絶対に!!!!

 

 

 

 

 

ーーー気づけば・・・体の震えは止まっていた。

 

 

トレーナーに・・・こんなエールまでもらって・・・

 

これで・・・これで奮い立てずに、なにがウマ娘だ!!!!

 

 

 

トレーナーがつけてくれた火が、あたしに宿る。

 

 

 

ーーー鎖が・・・・くだける。

 

 

 

 

 

あと、あたしに必要なのは・・・一歩を踏み出す、少しの勇気。

 

でもそれは・・・もう貰っている。

 

トレーナーが、コロネットが、トット先輩が、ルドルフ先輩が。

貰ったものは、すでにここにある。

 

あたしは・・・もう、独りじゃない!!!!

 

 

 

「・・・・位置について、よーい・・・・スタート!!!!」

 

 

 

 

ーーーーいま、過去(自分)を超えろ!スリヴァッサ!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

スタートの合図と共に5人が一斉にターフを駆ける。

 

 

 

序盤、わたしに突っかかってきた3人が横一列になって壁を作った。

 

知っているんだ。私が・・・・バ群を抜けれないことを。

 

いつもの私はこのまま、彼女たちの後ろにつけながらカーブで大外のさらに大外をまわって抜ける機会を探す。

 

 

 

だけど・・・たぶんここで尻込みしていたら、私は負ける。

 

こいつらじゃない。レースが始まってわかった。怖いのは・・・こいつらじゃなかった。

 

 

 

私は・・・カーブで3人が外に膨らむのを見計らって一気にインから距離を詰める。

 

走行中のウマ娘に近づく恐怖で身が固まりかけるが、一瞬だけ目を瞑り、先程のトレーナーの姿を思い出す・・・だいじょうぶだ。いける!!

 

 

 

ーーーールドルフ先輩、技、借りますね。

 

 

 

あたしの接近に気づいた一人が慌てて進路を潰そうとする。

 

 

これは・・・ルドルフ先輩がトット先輩のスパートを潰すために使った技だ。・・・本気で皇帝の喉元を食い千切りにきていたトット先輩すらも躱した技。

 

ただ、横並びになって進路を塞げば勝てると思ってるあんた達に・・・・防げるかな?

 

 

 

 

 

前方のウマ娘の背後とった直後、あたしはスピードを緩めて相手と呼吸を合わせる。

 

シンクロしたことであたしの気配が一瞬わからなくなった相手は、困惑しながら後ろの私の位置を探そうと耳が後ろ向く。

 

ーーー意識が後ろに反れた。横、がら空きだよ!

 

 

 

相手はあたしを見失っている。躱すなどわけない。

 

 

 

がッ!!!

 

 

一瞬の隙をついて瞬間的なスパートをかけ、横をすり抜けていく。

 

後ろの気配を探っていたのだ。急に横を抜けられても意識が反応できない。

相手にはあたしが消えたように感じるだろう。次に見えるのはあたしの背中だ。

 

 

でも・・・差し返せる余裕はあげないよ。・・・あたしには、そんな余裕はないからね。

 

 

 

最初のカーブを抜けたあとにはもう、3人は私の後ろだった。

たぶん、もうこの3人は脅威でもなんでもないだろう。精々がんばれ。あたしは今それどころじゃない。

 

 

脅威は・・・これからくる。

 

あの無尽蔵のスタミナが。終盤にトップスピードになるあたしのライバルが。追ってきている。

 

 

 

 

レースは膠着のまま最終コーナーへ。

 

・・・・トットットットッ・・・・・

 

なんの威圧感も、プレッシャーもない足音が迫ってくる。それが逆に怖い。

 

 

この足音は・・・カーブだろうが坂路だろうが一定のリズムを刻む。いや、リズムは少しずつ早くなっていく。

 

 

ーーーフフッ・・・ハハハ!

 

 

血が・・・沸騰しそうだ。そうだ・・・・これが・・・ターフだ。

 

 

そうだった。恐怖とはこういうものだったはずだ。あるかもわからない未来を暗示させるものじゃない。

 

今、眼前に襲い掛かってくるもの。今まさに、あたしの勝利を脅かすもの。

 

 

 

 

ーーーコロネット!勝負だ!あんたには・・・負けない!

 

 

坂路に差し掛かる。ピッチ走行に切り替えるも、速度は格段に落ちる。

 

 

くそ・・・コロネットの方は全然速度が変わってない!なんてやつだ。どういう走り方したら全区間が同じ速度になるんだ、おかしいだろ!

 

 

「ヴァニィ、追いつきましたよ~」

 

 

コロネットが横に並ぶ。まだ坂路の途中だ、ここではスパートなんかかけれない。

 

あっという間に私を抜かして先をいくコロネット。

 

 

 

勝負はラストの直線勝負だ。

 

 

そこで・・・差し返すしかない。

 

 

 

 

最後200m直線。先に坂路を抜けていたコロネットはすでにトップギアだ。

 

く・・・速い・・・追いつけるか・・・・?

 

 

 

一気にスパートをかける。あとは・・・・根性だな!

 

 

 

「負ける・・・かぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!!!」

 

 

 

 

ーーーーこれが・・・・レースだ!!!!あたしは・・・帰ってきた!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ”ぁぁあぁ~負けた~くやしいぃぃぃぃ・・・・・」

 

「フゥフゥ・・・・フゥ~~~~~。勝ちました~」

 

結果はクビ差だった。惜敗だろうがなんだろうが、結果には変わりはない。今回は・・・あたしの負けだ。

 

 

 

 

くそ・・・・コロネットはまだ未完成のはずだ・・・くそ・・・むちゃくちゃくやしい・・・・

 

 

「お疲れ様~・・・・あとの3人は・・・・まだみたいだね。」

 

 

トット先輩が迎えにきてくれた。にしても・・・

 

 

 

忘れていたが、あたしに突っかかってきた3人は・・・向こう正面のあたりで既に戦意を喪失したようだ。

今は・・・歩いてるな。アレ。レースにやる気ないの、どっちだよ・・・・

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「スリヴァッサは・・・壁をひとつ超えたようだな。」

 

 

眼前の後輩を見下ろすルドルフをしり目に、俺はひとつ胸をなでおろす。

 

間に合って・・・良かった。

 

そろそろ他チームに協力してもらい、チーメイト以外と模擬レースを。

そう考え、彼女のトラウマを少しでも軽くできないかとトランペットを借りてきていた。

 

まさかルドルフと飯食ってる最中にタレコミをもらって持ち出すことになるとは思わなかった。

 

あー久々だし、事前に練習しておいて、良かったぁ・・・

 

 

 

「なぁ・・・ルドルフ。スリヴァッサがさっきの3人組を抜いたときの・・・」

 

「ああ・・・あれは。私の技だ。彼女の前で使った事など、一度きりだったはずだがな。」

 

 

やはりか・・・

 

あれは・・・ただ緩急をつければいいというものじゃない。相手の呼吸、意識の流れ、タイミング・・・すべてを抑えなければ相手を出し抜くことなどできない。

 

にもかかわらず、先程スリヴァッサに抜かれた相手・・・あれは完全にスリヴァッサを見失っていた。

 

そもそも見ただけで真似できるようなシロモノじゃない。それを、たった一度で・・・・

 

 

「ふふっふふふ・・・・トレーナー君、単刀直入に聞こう。彼女、スリヴァッサは私と同じタイプ(・・・・・)か?」

 

 

ルドルフが・・・高ぶっている。

 

実は、レースが始まってから、隣のルドルフがちょっと怖い。

[[rb:威圧感 >それ ]]出すのターフの上にしてくれないかな・・・俺、一般人なんだけど・・・

 

ルドルフからにじみ出る威圧感にちょっと尻込みしながらも俺は答える。

 

 

「同じタイプだよ。スリヴァッサはトラットリアトやコロネットとはちょっと毛色が違う。あいつは・・・すべての事柄を高次元で行うタイプ・・・埋もれていた天才だ。」

 

さすがにルドルフの技を初見でコピーするのまでは想定外だったけど。

 

 

「他に類を見ない超加速に、無尽蔵なスタミナを使った超ロングスパート。それに挫折を知った天才か・・・ふふっははは。」

 

だから・・・怖いんだけど。隣に猛獣がいる。

 

 

 

「いいぞ・・・そのまま皇帝の座(ここ)へ来い。・・・私は、ここにいるぞ。」

 

 

 

どうやらトラットリアだけじゃなく、スリヴァッサとコロネットも認めたようだ。自分の座を狙ってくる相手と。

 

 

まったく・・・すごい後輩連中だ。まだ未完のうちからルドルフに火をつけるとは。

 

 

 

「ところでトレーナー君。そのトランペット・・・借り物のようだね?」

 

「え、ああ。うん。そうだけど。」

 

「借りた相手は女性かな?」

 

 

ちょっとまて。そういう言及をするのなら威圧感(それ)しまってくれないか?

 

 

 

「いや、ちゃんとマウスピースは昔使っていた自前のものだぞ?!」

 

「女性なのか。じゃあ次からは私に相談して欲しい。女性がなんの好意もない相手に自分の楽器を貸すとは思えない。借り物を私が壊してしまっては申し訳ないから、次からは私が買う。」

 

壊しちゃうの?!

 

「いいかな?トレーナー君。」

 

 

俺は無言でコクコクうなずいた。頼むからはやく威圧感(それ)しまえ。命の危険を感じる。

 

 

・・・・そうだね。大事だよね。報連相・・・・

 

 

 

ーーーーーー⏱ーーーーーー

 

 

 

「ちょっと怒られちゃったね~」

 

「まぁ、勝手にレースしてたら、そりゃダメっスよね。すいません、あたしのせいで。」

 

「でも~トレーナーさん、あんなにうれしそうに叱っても~全然効果ないと思うんですけどね~」

 

「よっぽどヴァニィちゃんが治ったのが嬉しかったんだね!」

 

「ん~・・・治った、ってわけじゃ、ないと思うんですけどね。さっきはトレーナーのファンファーレでテンションちょっとおかしくなってましたし・・・」

 

 

トット先輩とコロネットの2人とトレーニング帰り。

トット先輩の「寄り道していきたい!」という要望で今は自動販売機で飲み物を買ってターフの上の遊歩道を3人で歩いている。

 

今日のレースであたしが治った、というのは・・・やはり違う気がする。そんなに簡単じゃない。次で再発しない保証もない。

 

 

・・・でも。

今日ちゃんとレースで走れたというのも紛れもない事実で。

 

それが・・・誰のおかげかなど考えるまでもない。

 

「トット先輩。コロネット。ありがとう。まだ、治ったと胸を張って言えるわけじゃないけど、それでも今日走れたのは2人のおかげだから。」

 

「あら~素直なヴァニィも、いいですね~」

 

「ぐひっ・・・ぐすっ・・・・う”ぇぇぇ」

 

トット先輩・・・泣くの早いっス・・・今日の激おこトラットリア先輩、かっこよかったのに・・・

 

 

 

ここにはいないけど、トレーナーとルドルフ先輩にも、今度ちゃんとお礼いわなきゃな。

 

・・・トレーナーとルドルフ先輩、か・・・・

 

 

 

 

「ねぇ・・・トット先輩。コロネット。ちょっと告白があるんだけど、いいかな。」

 

「あら~愛の告白、かしら~?」

 

「うん、そう。・・・・あたし、トレーナーのこと、好きみたいだ。」

 

 

 

「えええぇぇぇぇぇ??」

「知ってましたけど~」

 

 

知って・・・そんなにわかりやすかったかな?トット先輩の方は派手に驚いてるけど・・・

 

「ちょ!ちょちょ!ヴァニィちゃん、まじで?まじなの?」

 

「残念ながら・・・まじっスね。」

 

「でででででも!トレーナーさん、ルドルフ先輩と付き合ってるよ?!あれ、完全に相思相愛だよ?!つけ入る隙たぶんないよ?!」

 

 

トット先輩の取り乱し方がすごい・・・対するこのコロネットの落ち着きよう。

 

 

「ヴァニィ、略奪するの~?」

 

コロネットはちょいちょい物言いが物騒だな・・・この娘案外あたしより闇が深い気がする。

 

 

「それは・・・しないかな。あたし、恋愛観変わってるって良く言われたけど・・・別に好きな人と付き合いたいわけじゃないんだよね。」

 

「え、えぇぇ~?じゃあ、トレーナーさんとルドルフ先輩が付き合ってる今のままでいいってこと?」

 

「そうっスね。あ、でもトレーナーとの子供は欲しいっス。べつに認知してくれなくていいんで。」

 

「こ・・・こどっ?! こ?! こ?! こ?!」

 

 

トット先輩・・・コッコ先輩に・・・

 

 

「ルドルフ先輩が~許してくれるとは~ちょっと思えないですけど。あの方、独占欲すごいですよ~?」

 

「それは・・・これからかな。トレーナーは基本的にウマ娘に甘いから、目下攻略対象はルドルフ先輩かなぁ?」

 

「こ?! こ?! こ?! こ?!」

 

 

コッコ先輩は話についていけてないな・・・こんな擦れた恋愛観のあたしより、先輩の方がよっぽど大変なはずなんだけど。

 

「コッコ先輩。がんばりましょうね!」

 

「え?わたし?あ、違うか・・・私トットだ。」

 

「いえ、先輩の事っス。先輩・・・もう少し自覚した方がいいっスよ。あたしから見たら、先輩の方がよっぽど重症っス。」

 

 

あたしは・・・たぶんまだ引き返せる。今のところ引き返す気はないけど。

 

でも・・・トット先輩は。この人はたぶんもうダメだ。おそらく、もう引き返せない。

 

 

「わた・・・し・・・?」

 

「先輩、今の関係は一生は続かないっス。少なくともあたしたちが卒業するまでです。そのあとは・・・トレーナーとは、一緒にいられないっスよ?」

 

「・・・・え?・・・・あ・・・・・」

 

 

たぶん、今を一生懸命生きている先輩はあまり先の事は考えないのだろう。

恋愛にも疎いみたいだし。

 

でもそうすると・・・きっと、この先で先輩は泣いてしまう。

 

 

「だから、先輩、いっしょにがんばりましょう。」

 

「わたし・・・トレーナーさんの事、好き・・・なのかな・・・」

 

「それは、あたしが決めることじゃないっス。でも・・・あたしにはそうとしか見えませんよ。」

 

「わたし・・・は、トレーナーさんが・・・好き・・・・?」

 

 

 

彼女が泣くのは見たくない。

あたしは・・・このちょっと苦手な、尊敬する先輩が・・・大好きなのだ。

 

 

 

ウマ娘は、執着が強い。一人のオスをめぐって殺し合いに発展しないように、婚姻に関しても特別法があったはずだ。

 

私には独占欲はない。トット先輩はわからないけど、彼女はルドルフ先輩をすごく慕っている。ルドルフ先輩さえ攻略できれば・・・・使えるかもしない。

 

彼女にはまだ時間が必要なようだけど、準備するのは早いに越したことはない。

あたしは、頭でっかちなんだ。考えるのは、あたしがやる。

 

 

 

「コロネットは・・・参加する?」

 

「・・・・・どうしましょう、ね~?」

 

「わたしは・・・する!トレーナーさんが好きかはまだよくわからないけど・・・でもトレーナーさんとはずっと一緒にいたい!わたし!」

 

 

コロネットは相変わらず読めないな。

でも・・・しない、とは断言しないんだね?

 

さて、桃園の誓い、とは至らなかったけど、あたしたちは二つの意味でルドルフ先輩を倒さなければならなくなった訳だ。

 

一つはもちろんレースで。

 

もう一つは・・・卒業後もトレーナーさんと一緒にいられる未来を賭けて。

 

 

今はどちらも何バ身離されているのか見当もつかない。

 

でも・・・きっと可能性がない未来じゃないはずだ。

 

 

 

 

だって、あたしたちは・・・可能性がない未来をこじ開けるためにトレーナーが集めたメンバーなのだから。

 

 

さて・・・忙しく、なりそうだ。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

タイトルはまた邦楽の楽曲からお借りしました。
結構大御所から借りてしまった・・・


SSの方は・・・もう自分がどこに向かっているのかわかりません・・・・
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