海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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 どうも、メーメルです。ゾンタークスキントは2隻目の獲物を発見しました。よかったよかった。


第十一話 徴用船

帝国暦453年  1月10日 午前8時15分 ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「警報!総員戦闘配置!」

 

 バクスター氏の情報にあった通商ルートを逆行してみたら、ほんの1時間で接敵した。橙色の丸っこい船だ。小惑星帯を掠める形で出てきたので反応は遅れたが、まだ十分に先手を取れる。前と同じ手で行こう。

 

「敵船へ、『ハイネセン中央に株価大変動あり、意見の擦り合わせを行いたく、貴船への接舷を求む』、送れ。」

 

「返信、来ました。『我々はSC7物資補給隊である。株価は我々には関係なし。進路を譲れ。』」

 

「物資補給隊?1隻でか?叛乱軍の標章は見えないし、あのフォルムは軍用貨物船でもないだろう。大尉、艦型識別表にあんな艦型の叛乱軍艦がいるか?」

 

「大体我が艦と同じ位でしょうか。えー、100〜140万t級の輸送艦……ありませんね。徴用船か何かでしょうか。」

 

 徴用船だとすれば軍人の類が便乗しているかも知れないが、もしかしたら敵の機密の類の鹵獲が見込めるかもしれない。見たところ非武装だし、あのパラボラアンテナを撃ち抜いて、艦橋あたりに強行接舷すれば…勝機は十分にあると見た!

 

「よし、襲撃する。一旦面舵で離れた後、敵左舷方向から突進、主砲であのアンテナを吹き飛ばしたら、艦首のヒートシリンダーをねじ込んで制圧部隊を移乗させる!作戦開始は3分後!」

 

「了解しました、艦長!面舵一杯、主砲斉射用意!」

 

「主砲用意よし!」「装甲擲弾兵、準備よし!」「機関室、出し得る速力、最大戦速!」

 

 面舵回頭の後、艦首に緩衝アームを展開すると同時に、突進を開始する。

 

ーーーーー

 

10分前、徴用貨物船フィスカス艦橋 

エドワード・シドニー・キング曹長

 

『ですから、船長!小官は軍の担当官として、物資の到着時刻は遅延してはならないという事を理解して頂きたいだけなのです!』

 

『ええ、ええ、全て了解していますよ、曹長殿。しかし、先程も言ったとおり、これ以上の速度を出すと燃費の関係上、軍との契約料を超過してしまう事になるんですな。それから、あなたはなんです?』

 

『なんです、とは…積んでいる物資の責任者ですよ。』

 

『そうでしょう。つまり、あなたが責任を持つのは物資だけであって、それ以外のこと、特に船の運行には口を挟まないで頂きたいと言っているのです。お分かりかな?』

 

『しかし、私の任務はこの荷を指定された日時に…』

 

『それにしても、です。急遽我々が徴用されることになったのも、荷の追加があって搬入が遅れたのも、軍の、そちらの都合でしょう。道理としてはあなたが文句をつけたり、意見を述べるべき相手は私ではなく他にいると考えますがね。では、失礼させていただきますよ。朝食の時間なのでね。』

 

 なんと融通が効かない船長だ。少し速度を上げるか、ルートを外れて近道をすれば済む話だというのに、燃費がどうとか、安全性がどうとか色々理由をつけて、楽をしたいだけに決まっている。いくら後方宙域だといえ、戦時中に自分達だけの利益を考えるなんて…!

 

『なんだぁ、あいつ。』

 

 船員の間の抜けた発言にモニターを見ると、正面から中型貨物船が近づいてくる。と、相手からの通信が機械音声で艦橋内に流れる。

 株価の変動?接舷?そんなものに構っていたら指定時刻に遅れるどころの騒ぎではなくなってしまう!

 

『おい、返信しろ。我々は軍の命令で動いている船だから、うすのろはさっさと道を譲ってどこにでも行ってしまえ、と!』

 

『え、いや、普通こういう時は船ちょ…』

 

『黙れ!早く返信するんだ!軍の命令だぞ!』

 

『おお怖。分かりました、分かりましたよ。』

 

 全く、全く!この船は船長だけでなく船員までたるみ切っている。少しはこちらの意思を汲み取ろうとする努力はないのか。私の責任は、こいつらと比べて数段、重、重い…

 

『んー?おい、あいつ、変じゃないか。面舵で離れてくぞ。』

 

『別の船を探しに行くんだろ。せっかくの好意を蹴られて向こうもいい気分じゃないだろうしな。』

 

 ふん!何が好意だ。さっさと、なんだ、離れていくんじゃないのか。こっちを向くじゃないか。光った!?

 

『こちらは帝国軍巡航艦だ!これより接舷する!抵抗をするな!繰り返す。抵抗は無益である!』

 

 一体どういう事だ。帝国?悪い冗談だ!と、船全体が大きく揺さぶられ、思わず尻餅をつく。どうやら本当に突っ込んで来たようだ。こういう場合は、私はどうすれば…?抵抗…積荷!船倉に行かなければ!口の端にソースをつけ、慌てた様子で艦橋へ駆け込んできた船長を押しのけて階段を駆け降りる。船倉はこの先だ。非常灯がついて、正面に人影が見える。ずいぶんでかい、こんな奴いたか?

 

『退け!船倉に用があるんだ!』

 

「中尉、叛乱軍です!」

 

帝国語?こんな、とき、に、あぁっ!

 

ーーーーー

 

同時刻 フィスカス突入口 バウディッシン中尉

 

 「なんだこいつは?気絶したのか?」

 

 ヒートシリンダーから出たあと、2班には船倉を、3班と4班には機関室の制圧を命じ、直卒の1班と5班で艦橋に向かおうとした矢先、叛乱軍の下士官らしい男に出くわした。何か叫んだ後、壁にへたり込んで動かなくなってしまったが…

 

「6班、こいつの武装解除と拘束を頼むぞ。1、5、続け!」

 

 戦斧を振りかざして『艦橋』と書かれた部屋に突入する。別にゼッフル粒子を撒いているわけではないから、火器でもいいんだが、なにしろ見た目の威圧感が段違いだ。

 

「我々は帝国軍だ!手を頭の後ろに組んでゆっくりと立て!抵抗の意思を見せた者には容赦しない!」

 

 ソースを口の端につけた、服装からしておそらく船長だと思われる男が立ち上がると、他の船員もそれに倣う。どうやら艦橋内に軍人はいないようだ。

 

「君が、ああ、『君が船長か?この船は徴用船だとの事だが、軍人は何人乗っていて、どこにいるのかね?』

 

『軍人なんて1人しかいませんよ!それもさっきここを飛び出していっちまいました。今頃脱出シャトルに取り付いているんじゃないかな。』

 

 1人、という事はさっき気絶したのがそうか。まぁこの船長が嘘をついている可能性もある。念には念を入れておこう。艦内マイクは…これだな。

 

『当船の主要部はすでに帝国軍1コ中隊の管制下にある!無駄な抵抗は即刻中止し、船員、便乗者は全員艦橋へ集合せよ!繰り返す…』

 

ーーーーーーー

 

「積荷・船員の確認と、リストとの照合が終わりました。乗員は30名と、軍から1名。積荷内容は、熱感知型の浮遊追尾機雷が400発と、組み立て式索敵衛星が15組、軍用レーションが40000パック、それに敵の軍用ベレーと軍服のセットが600箱分。階級章も二等兵から少将まで揃ってます。」

 

 船内を検索すると、見事に軍用一色の積荷が出てきた。少し過積載な位で、機雷など数発は廊下のスペースに縛り付けられている。

 

「ご苦労、中尉。こちらに移送するのは、機雷を20発とレーション、食料とエネルギーだけでいい。別に仮装パーティーはやる予定はないしな。」

 

「了解しました。すぐにかかります。索敵衛星は破壊しておいた方が良いでしょうか。」

 

「そうだな、どうせ爆発で壊れてしまう気もするが、無事で拾われるのも癪だ。入念にやっておいてくれ。」

 

 今回も上手くいった。作戦初の強行突入だったが、こちらには勿論、彼方にも死者はいない。突入時の衝撃で転んで打撲や出血をした者もいたようだが、いずれも軽傷だ。"綺麗な戦争"はまだ続いていると言っていいだろう。ただ、出会った瞬間に気絶してしまった下士官はまだうんうん呻いているばかりで意識を取り戻さない。外傷はないようだが、本当に軍人なんだろうか。

 

 機雷の爆発事故に見せかけるため、あえて持ってきた爆薬は使わずに機雷本体の自爆シークエンスを起動させる。我が軍の機雷は撒いたらそのままか、掃宙艦の人海戦術で苦労して回収するかしかないが、叛乱軍の機雷はこれさえ打ち込めば時間になったら自分で勝手に消滅してくれるわけだ。楽でいい。早いとこ終わらせて装甲服を脱がなければ。なにしろ暑くて仕方がない。

 

                       続く

 




 可哀想なシドニー君はシトレ本部長とはなんの関係もない人です。書いていて、流石に爆発物積んだ徴用船に軍人1人は不自然かなと思ったんですが、グランド・カナル事件然りで同盟軍はどうもその辺軽すぎという実例があるので、1人で便乗して貰いました。
 気絶の経緯については、精神的にアワアワしてる所に2メートルの大男がトマホーク持って非常灯に照らされながらあのドクロみたいなヘルメットでいるんですから、相当怖いと思います。怖いんじゃないですかね?
 文中でバウ中尉は1個中隊が〜って言ってますが、アレはハッタリです。奪還者のキルヒアイス突入シーンでは、装甲擲弾兵1班あたり5〜6人でしたので、それに倣って突入人数は最大36人位です。一個小隊以下ですが、艦内に予備が待機してるので、兵士じたいはもう少しいます。
 引き続き、感想、ご意見、ご指摘、お待ちしております!
 
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