海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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 お気に入りが50人を超えまして、心がタップダンスを踊っております。ありがとうございます。そろそろ機関長に名前をあげなくてはならないですが、どうぞ。


第十七話 待ち伏せ

帝国暦453年2月1日 ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

 やはり補助機関は修理不能だそうだ。岩塊が衝突したあとエネルギー伝達ブロックが丸ごと行方不明になってしまったらしい。機関部員は全力を尽くして代替品を探したりバイパス方法を探ったらしいが、どうしても応急修理はいけないと機関長が泣きそうになりながら渋い顔で報告してくれた。無理に回して放射能漏れでも起こしたら元も子もないし、潔く諦めて襲撃手段の方で工夫するしかないだろう。なに、ゾンタークスキント同様、作戦だって兵器より中身ややり方がモノをいうのだ。

 

「で、やるとしたらこれまでの様な哨戒・索敵からの追尾より待ち伏せの方が有効であると考えたのだが、皆の意見を聞きたい。」

 

 士官食堂に集めた少尉以上のメンバーの前で発言を促す。私が全て1人で決めるのでも軍法上は何の問題もないのだが、艦のメンバーは皆将来ある人材だし、艦長や指揮官のなすがまま、というのでは一個部隊の指揮官としての能力が育たない。こういう実戦の場で後進の育成をやるのも佐官の任務の一つではないかと思う。

 

「私は賛成です。もし見つけても、追いかけられずに見逃すという事があったのではエネルギーの無駄ですし、そうなれば兵士やSPUの士気にも関わってきます。」

 

フランツィウス大尉が口火を切る。流石はナンバー2を任せているだけあって常識的な視点から意見する。こういう場における斬り込み役の重要性もわかっているんだろう。

 

「しかし、ある程度哨戒は続けるべきではないでしょうか。接敵率が下がれば連動して拿捕率も下がるわけで、まず敵船を見つけられなければ士気の問題以前にエネルギーや食料問題が発生しかねません。」

 

「接敵率についてはバクスター氏からの情報を元にして待ち伏せでも効果の出る宙域を策定すれば解決すると思うが…どうかな?ツァーン少尉。」

 

「確かにそうですが…ではワルキューレを併用する形にしましょう。2機に減ってしまったとはいえ、その分ローテーションにも余裕ができるでしょうから24時間2機体制での監視も可能になるのではないですか?」

 

「確かにそれはいい。1機分の修理部品が出来たわけだから機体の方は少しくらい無理が効くだろう。では、他の者も待ち伏せ作戦自体には賛成という事でいいかな?……よし。では、次はバクスター氏のルートの内、何処を選ぶかだが…」

 

 その後、動いていない船影が相手のレーダーに映っても不審がられないように、小惑星帯ギリギリに艦を寄せ、前方4光秒の位置に2つの航路、すなはちジャムシード行きとバーラト方面行きの航路を同時に監視できる場所を確保した。思えばこの感じは釣りをする時にいいポイントを見つける時に似ている。我々は海賊であり、騎士であり、そして今は釣り人にもなった訳だ。随分な兼業ぶりだな…

 

ーーーーー

 

「考えてみたら年明けからの期間に作戦期間を重ねたのは失敗だったかも知れないな。計画書には別に出撃時期の理由なんて載っていなかったから早めにしただけだろうが…こっち側の繁忙期は年末とハイネセンの夏…5〜6月か、その辺りだろう?もしその時期に来ていたら1週間で10隻位捕まえられていた可能性だってあるぞ。」

 

「いや、その頃は向こうだって船団を組んだりして輸送効率の上昇を図るでしょうし、そうなったら手が出せません。案外今と変わらないことになったんじゃないですか?」

 

「それもそうか。どちらをとっても結果は同じ、そんな昔話があった気がするな…小説だったかな?」

 

題名はなんだったか…道がどうとか…老化の第一歩は固有名詞を思い出せなくなることかららしいが、32で老化?いやそんな…

 

「艦長!バーラト方面の1番機より、敵船1隻がこちらに向かうときました!」

 

…老化うんぬんの話はまた後で考えることにしよう。さぁ仕事だ!

 

「よし、機関始動。1番機には詳細を報告させろ。2番機は邪魔が入らないようにそのまま監視飛行を続行。あとはいつも通りに。」

 

…いつも通りという命令で済むのは練度が高い証だ。あまり危機に慣れすぎて油断を誘うのも問題ではあるが、そこは大尉なりがしっかり締めてくれる。私が戦死してもやっていけるくらいに…まぁ、私は100まで生きてひ孫の結婚に文句をつける予定だから死ぬつもりは毛頭ないが。

 

「詳細、来ました。敵船は武装なし、小型の筆箱様の船型。後部にタンクらしきものを2つ牽引中。」

 

「そんなものを引き連れていたのでは無理な機動は出来ないな。正攻法でやろう。正面から近づいて、威嚇射撃と警告のあと移乗だ。バウディッシン中尉は待機しているな?」

 

「はっ、装甲擲弾兵は計4班が突入用に待機中。」

 

「大変結構!あの光点か?アレだな。主砲用意、2000で発射だ。」

 

ーーよし、シルエットがはっきりしてきたな。正面が真四角だということは大気圏突入型ではないな。ああいうタイプは宇宙ステーションなんかに使う電子機器を積んでいる可能性が高い。良い獲物だ。

 

「よし、威嚇射撃だ。発射!回線開け!」

 

ビームが四角い船首の丁度対角線を掠めて吹き伸びる。いい腕をしている。

 

『こちらは帝国軍巡航艦だ!機関を停止してこちらの指示に従え!もし逃走や電波発信があれば即座に…い!?「取り舵一杯!至急だ!衝突を回避しろ!」』

 

普通ならビームが掠めた時点で停船するものだが、あろうことか敵船は逆に速度を上げて直進してきた。もう少し命令が遅れていれば正面衝突していた所だ。

 

「くそっ、右舷砲斉射!船尾を狙え!ジャミング出力を最大に上げろ!1番機にも近づかせて援護させるんだ!2番機も呼び戻せ!至急だ!」

 

 警告を無視したからと言ってすぐに沈める訳ではないが、一度は当ててこちらの本気度を示さねばならない。大丈夫、船尾に居住区を作るような住みにくい設計はしていないはずだ。当たった!レールガンの赤熱したタングステン弾が船体に食い込むのが見える。まだ停船しないのか…!このままでは撃沈を考えなければならなくなる!本物の宇宙海賊にしないでくれ…!

 

『停船する!降伏するから撃つな!停船命令を受諾する!』

 

 随分若い声で通信が入ってくる。一安心だ。いや、油断は禁物だな。

 

『船長と航海士、それから主要航行メンバーをシャトルでこちらに送れ。乗員打ち上げ用のがあるだろう。怪しい動きをしたら今度こそ撃沈するぞ!』

 

『…分かった。シャトルを出す。少し待ってくれ。』

 

 10分程経って、シャトルが接舷した。乗組員を危険に晒した船長に真意を質すため、装甲服を着て接舷口まで出向く。と、降りてきたのは20代前半に見える男だった。

 

『君が船長か?』

 

『いえ、私は二等航海士のアンダーソンといいます。船長は、後ろに、』

 

彼の後ろのストレッチャーには、顔に布を被せられた遺体が乗っていた。枕の所には少し血が滲んでいる。

 

『……殺したのかね?』

 

『違います!…いえ、間接的にはそうかも知れません。私と、一等航海士は砲撃が当たったとき、船長を止めようとしたんです。船長は、彼は降伏するつもりはなかった!だから、後ろから押さえつけて拘束したんです。一等航海士はその時負傷しました。それで、降伏を告げたあと、船長は、自室に持って来るものがあるからと言って、それで…』

 

『自決か。ブラスターだな。』

 

『わ、私は反乱を起こした訳ではありません!船長は一時的に興奮していただけで、普段は分別のある立派な方でした!乗組員を救うにはああするしか方法がなかったんです!』

 

『分かった。では君と、他の乗組員は全員本艦で収容する。後のことはこの中尉が説明するので従うように。』

 

ーーーーー

 

 船はイシュタムという船名で、見立て通りフェザーン航路局用の半導体や電子交換部品を積んでいた。他にもエフェドリン薬液などの薬品類を積んでいたが、拿捕するのは半導体だけでいい。牽引タンクの中身は液体ヘリウムだったが、こんな危険物を引っ張って逃げようとしていたとは…そんなことにまで気が回らないくらい気が動転していたという事か…

 

 自決したトムソンという船長は宇宙葬にて葬った。乗組員を危険に晒したとないえ、彼自身の命によって十分すぎるほどその罪は贖っている。死者に最大限の礼節を尽くすのは敵とはいえ人間である以上欠いてはならない事だ。とはいえ、作戦航海始まって以来初めての死者だ。殺そうと思った訳ではないが、同じことだ。もっと慎重に近づいてから威嚇すれば抵抗の意思を挫けたかもしれない。

 いささか成功に慣れすぎた私の油断が招いた結果だ。部下に範を垂れる立場であるのにこの体たらくとは、情けないことになってしまったものだ。

 

                    続く

 




 船尾に居住区をつくらないだろうという見立ては船尾は機関もあって振動やら熱やらがひどいんではないかと思ったからです。まぁ焼き鳥製造機やら人殺し長屋やら飢えた狼の例もありますから一概には言えないんですが…
 イシュタム号の積荷リストによると、エフェドリン薬液はフェザーンの自治領首府に卸す事になっていたようです。お役所が気管支拡張剤なんか何に使うんでしょうね?
 今回もご意見、ご感想お待ちしております。
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