海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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 こんにちは、メーメルです。とうとう評価バーに色がつくようになりました。これも皆様のお陰でございます。若輩者ではありますが、これからもどうぞよろしくお願いします。


第十八話 飽食

帝国暦453年 2月2日 ゾンタークスキント艦内

フォン・フランツィウス大尉

 叛乱軍の支配領域に入って1ヶ月、今のところ作戦は順調に進んでいる。すでに6隻の船を拿捕・撃沈して、損害は事故で失われた補助機関とワルキューレが1機のみだ。全て事故に見せかけて処分しているからもし残骸が敵軍に見つかっても怪しまれる心配もない。

 

「だからといって油断は禁物だ。昨日のような思わぬ抵抗を受ける可能性は十分ある。今こそSPUの面々は我々に友好的に接してくれているが、拿捕前の敵船は我々帝国軍に恐怖と敵愾心を少なからず持っていることを忘れないように。他の連絡事項は特になし。では、解散。」

 

 当直交代の一言を終えて非番に入る。呼び出しが入ればすぐに配置につかねばならない第2直であるので完全な休暇時間ではないが、休みは休みだ。それに待ち伏せ作戦という都合上昨日の今日でまた接敵ということもないだろう。とりあえず食堂に寄ってなにか食べる事にしよう。今日は誰が担当だったかな…

 

『ええ、いやでもそれは…主計に聞かないと、一応補給物資のことですし、あまり大きなものは…小麦粉やらは間に合うかもしれませんが、砂糖やミルクの方はどうもね…制限もありますから。』

 

『やはりそうですか…分かりました。何か他のやり方を考えてみる事にしましょう。あ、このことはバクスター船長には御内密に…』

 

 司厨長と小声で話していた彼はこちらに気づいて一礼したあと食堂を出て行く。確かあの男はバクスター氏の船の航海士の…カーターとか言ったか?

 

「どうしたんだ?食料の不足の報告は受けていないが…まさかSPUの中で闇市のようなことをやってるんじゃあるまいな。」

 

「いやー、違いますよ大尉。どうやら代表のバクスター氏の誕生日が近いらしくて、4日後とか言ってましたが、メニューにケーキのような甘味を追加できないかと相談を受けてたんです。通常メニューの増量なら出来るんですが、やはり甘味となると…」

 

「乗組員にも支給していないものをいくらゲストの代表者とはいえポンと出す訳にもいかないからな。だが、代表者としての働きを労うくらいは艦としてもやってやりたいところではある…んー、時間があったら中佐殿と相談してみよう。」

 

「ありがとうございます。大尉。それから、聞いていたかもしれませんがバクスター氏本人には内密にとのことで…」

 

「私だってそんな野暮なことはしないよ。口の軽い軍人なんて信用できたもんじゃないからな。」

 

ーーーーー

2月3日 士官食堂

 

「バクスター氏の誕生日が近いとの話がありまして、艦としても何か贈った方がいいでしょうか?」

 

 クンツェ中尉に先を越されてしまった。そういえば彼はSPUの名誉顧問とかいう役をやっていたはずだ。私は立ち聞きしていただけだし、彼らとしてはパイプ役として彼の方が適任としたんだろう。ならば私がでしゃばる必要はないか…援護射撃ぐらいに留めておこう。

 

「そうなのか?誕生日か……形になる物やあまり高価なものはまずいだろうな。となると料理か酒辺りが無難なところだと思うが、食い物の差は士気に直結する事にもなりかねないから難しいな。」

 

「では祝辞くらいにしておきますか?向こうからすれば祝いの品がないからと言って拗ねるような立場でも年齢でもないでしょう。」

 

「そうだな…なんだか帝国がケチだと思われるかもしれんが、波風立てないようにするのが最優先だ。それくらいで手を打つとしようか。」

 

と、フォルベック軍曹が駆け込んでくる。

 

「艦長!こちらでしたか!すぐ艦橋にいらして下さい!獲物がかかりました!」

 

ーーーーー

 

「待ち伏せというのもいいものだ。こんなに早く獲物がかかるとは思ってもいなかったな大尉。それにさっきまでの問題がまるっと一気に解決したじゃないか。」

 

 今回の拿捕劇は前と比べて格段に上手くいった。船名を「ファット・ヨーマン」というその名の通りの大型船だったが、十分に近づいてから威嚇射撃と警告を行ったせいもあってすぐに降伏させることができたし、43名の船員の中にも表立って帝国に憎しみや恐怖の感情を抱いてそうな人物はいなかった。それに、この船の積荷は我々全員を喜ばせるに足るものだった。ちょうど艦橋に積荷リストを携えて入ってきたツァーン少尉が口角が上がるのを必死で堪えながら報告する。

 

「ええ、艦長。すごいもんですよ。まず、フェザーンの黒ビールが1800ケース、ウイスキーも各種合わせて1000ケース、シャンパン、ジン、ウォッカ、サケ、あらゆる酒類それぞれが300ケースずつあります。それに食料もです。冷凍肉だって牛、豚、鶏に羊まで揃ってますし、新鮮な卵も料理屋が開ける位です。さしずめ、この世の美食を詰め込んだレストラン船というところですね。」

 

「少尉、艦内スペースの都合上、流石に全ては拿捕できないからな。主計長と相談して酒類の搬入については決めてくれ。…言っておくが、自室保管は認めないぞ。」

 

 おそらく考えていたことを当てられたのだろう、ツァーン少尉はぎくりとした顔でそそくさと出ていってしまった。

 

「せっかくだ。艦内で少しでも料理の心得のある者を募集してバクスター氏の誕生日祝いと、作戦1ヶ月記念のパーティーでも開こうじゃないか。そうすれば不公平なんて事もないし、乗組員の慰労もできて一石二鳥だろう?」

 

「はっ、早速手配します。SPUの中からも料理人を募ってもよろしいでしょうか?」

 

「そうだな、帝国風の味付けだけでは面白みに欠けるだろうし、主賓はバクスター氏だ。故郷の味がないというのも寂しいものだろうし、さらなる交流を図る面でもいいアイデアじゃないか。許可する。手配してくれ。」

 

ーーーーー

 

 その後、バクスター氏の誕生日に開催されたパーティーは大成功だった。ツァーン少尉が何やら複雑な立体計算までしてギリギリまで隙間なく詰め込んだ酒類に、帝国風、同盟風、フェザーン風の料理まで、まさにこの世のあらゆる食べ物が食卓に並ぶことになった。

 同盟の料理は帝国のものに比べて総じて味付けが濃く、油分も多いように感じたが、やはりこれはフロンティア料理に端を発しているからだろうか。若い舌にはこちらの方が合う。中央のテーブルを3つ合わせて作られた台上には雪を被った岩山を彷彿とさせる巨大なケーキが鎮座している。菓子職人なんて当艦はもちろん、SPUの中にもいなかったと思うが、どうしてなかなかいい出来じゃないか。最上部に据え付けられたゾンタークスキントを象ったクッキーは艦長に、その隣のSPUと描かれたチョコレートはもう1人の主賓でもあるバクスター氏にそれぞれ贈られた。ゲストからも、参加した乗組員からも万雷の拍手が送られ、まさにこの場だけで一つの国を構成しているかのようだった。

 

                    続く




 今回、襲撃シーンはカットしました。戦闘シーンのない仮想戦記とは…?自分でも正解はよくわかりません。
 今回もご意見、ご感想宜しくお願いいたします 
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