海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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 お気に入り登録が60人を超えまして、1個小隊が編成できるまでになりました。ご愛顧、誠にありがとうございます。少し遅い時間になりましたが、18章です。どうぞ。


第十九話 大所帯

帝国暦453年 2月8日 ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

 拿捕した「ファット・ヨーマン」は危険物を積んでいなかったため、小惑星帯まで曳航して爆破処分した。証拠隠滅をする犯罪者の気分だが、実際戦争というモノはいくら正当化しても人類が背負う大罪なのだ。今更どう取り繕った所で仕方がない。その中でも、出来るだけ"義賊"と呼ばれるような事がしたいものだ。

 

「さて、当面の仕事は終わりだな。食料の心配はしなくていいし、エネルギーも補助機関が無くなったのと待ち伏せのおかげで大分節約できている。また暫くここで引きこもるとするか。」

 

「はい、中佐殿。係留アンカー固定します。…それで、乗組員の一部から陳情というか、意見が出ているのですが。」

 

「やはり待ち伏せに対する反対案か?能動的に動いてこそ戦いだと考える層もいるだろうからな…きちんとした説明の場を設けるべきだったかな。」

 

「いえ、本艦と艦長の方針そのものに異を唱える乗組員はおりません。皆艦長のお気持ちを分かっています。意見というのはもっと、こう、本能の範囲に属することでありまして…」

 

「本能?ああ、大尉の部屋の書物だけでは不足だったか…まさか有人惑星の放送圏内まで入る訳にもいかないし、敵船から拿捕するにしても…いささか格好が悪いな。」

 

「い、いえ!そちらの本能ではなく、食欲の方でありまして、2日前にパーティーをしましたでしょう?そうしたら司厨長の方に、"同盟風の味付け"を要求する者が増えまして、どうやら普段触れ合う事のない味付けが、予想以上に気に入られた様なのです。それで食堂で味付けに慣れているSPUの面々から力を借りたいと…」

 

「なるほど、一応捕虜の労働は軍法でも認められている所ではあるが、うちの場合は"ゲスト"だからな。何か報酬があった方がいいだろうが、それについてはどう思う?」

 

「この前、ツァーン少尉が言っていましたが、それこそ拿捕品の中でも酒類のような消費できるものを報酬とすれば良いのでは?セネット氏のような前例もあります事ですし、嗜好品ならこちらの懐が直接痛むことはありません。基準については少し検討が必要になるでしょうが…」

 

「そうだな、正当な働きには正当な待遇と報酬が原則だ。その辺りの事を分かっていないから門閥の領地経営は皆失敗する、おっと、関係ない悪口が出てしまったな。基準についてはツァーン少尉と主計長と相談しよう。他には何かあるかね?」

 

「後はいつも通りです。イシュタム号の一等航海士も順調に回復していますし、ああ、そうでした、今日のSPUの出し物は素人オペラらしいですよ。別の意味で面白くなりそうですね。」

 

ーーーーー

2月10日 ゾンダークスキント艦橋

 

「どっちだと思う?フェザーン籍か、獲物か。」

 

 机の上に置かれた偵察写真を前にして、集まった士官に問う。フェザーン方面担当の2番機から送られてきたものだが、遠距離写真だけあって大分不鮮明だ。わかるのは中型という事だけ。

 

「速力は中速域との事ですから、どちらの可能性もあります。…船尾にある白い部分は模様ですかね?字のようにも見えますが。」

 

「会社名か、船名ではないですか?両側面にあるようですし、模様ならもっと幅があるでしょう。これが判明すれば絞れるんですが。」

 

「では2番機にこの部分の再撮影をさせましょう。張り付いて撮るわけにはいきませんからヒット&アウェイ方式で、連写すれば今よりはいい情報が得られるでしょう。」

 

数分後、20枚の写真が送られて来る。連写だけあって掠れているものやぼやけているものもあったが、数枚には「J.P.C.S.Co.Ltd」の文字が見てとれた。

 

「何の略号だ?株式会社はいいとして、JPCSか…大尉、企業名艦に同じような略号のは載ってないか?」

 

「えー、フェザーンの船主組合に"ヨアヒム・ピーチ貨客"というのがありますが…これでしょうか?」

 

「なに?……んー、違うんじゃないか?資本金が少なすぎる。これでは星系内飛行クラスの船じゃないと維持できないだろう。」

 

「ジィ、ジェ、…ジャムシード!"J"はジャムシードの頭文字ではありませんか?とすれば、残りは貨客輸送サービスで当てはまります。」

 

「なるほど地名か。帝国じゃ貴族お抱えの企業位しか地名は使わないから失念していたが、こちらではそういうのも普通にあるんだったな。名鑑には載っているか?」

 

「お待ちください…ありました!"ジャムシード貨客サービス"資本金も十分ですし、これでしょう。獲物ですね。」

 

「よし、それならば躊躇する必要はないな、諸君、襲撃だ!」

 

「「「はい、艦長!」」」

 

ーーーーー

 

 十数分後、移乗待機中のバウディッシン中尉

 

『停船せよ!こちらは帝国軍巡航艦!停船せよ!』

 

 中佐殿の声が艦内スピーカーを通じて聞こえる。こちらとしてはもう半ば聞き慣れた文言だが、向こうにしてみれば懐疑と驚愕と、それから恐怖とが入り混じった人生で初めて経験する感情を抱くことだろう。

 

「敵船は降伏した。移乗部隊は通常接舷口より移乗して敵船の制圧にあたれ。」

 

さぁ、ここからは我々装甲擲弾兵の仕事だ。地上戦をやっていた時とはまた違う緊張感がある。接舷口が開いて、一番最初に目に入ったのは…女…?

 

『私は、ジャムシード第15工科学校のサラ・ホワイトと言います。私は、責任ある教師として、生徒たちの心身・生命の安全の保証をあなた方に要求します!』

 

…非常に困った。女は、特に若い女性は苦手なんだ。

 

『あー、フロイライン・ホワイト。我々は、職務上船長とまず話さねばならない。船の責任者は貴女ではない…』

 

『船の責任者は船長さんでしょうが、生徒たちの責任者は私です!もし生徒に危害を加えるようなら、ここを動くわけにはいきません!』

 

……この有無を言わさない感じは一番上の姉を思い出す。いや、この眼は三番目か?

 

「よし、班長、このフロイラインは君に任せる。『では、この軍曹がその辺りについては説明するので、通してもらえますかな?』」

 

早足で無理に通り過ぎて敵船の艦橋へ上がる。これは敵前逃亡などではなく、そうだ、役割分担というものだ。第一戦闘教範にだって、"あまりに敵が有力な場合は無理な交戦は避け、損害を〜"なんて事がかいてある。つまり教科書通りの対応だ。そうだと言ったらそうなのだ。

 

ーーーーー

 

「中佐殿、バウディッシンです。全艦の掌握と、リストの照合が完了しました。積荷はフェザーン製のスパッタリングマシンと附属部品、工具類に機械用油です。それにしても一気にゲストが増えましたね。」

 

 あのお嬢さんが言っていたように、船にはフェザーンからの研修帰りの学生が112名も乗っていた。まぁ学生だからといって解放するわけにもいかないので収容するが、問題は女性のゲストが増えた事だ。

 

「ご苦労、中尉。軍曹から聞いたぞ。敵前逃亡だって?白銀地上兵突撃章受章の英雄にも難敵はいるものだな。」

 

「も、申し訳ありません!中佐殿!」

 

「ん?いや、責めている訳ではないんだ。気にしないでくれ。こういう仕事では女好きより苦手くらいの方がちょうどいいしな。それにしても船室の割り当てはどうするかな…」

 

「幸いにも工科学校ですから、女性人数はホワイト嬢を合わせて13人です。独立キャビン2つにベッドを運び込めばなんとかなりますでしょう。他の男子学生とは離れてしまう事になりますが…」

 

「そうだな、あまり戦争という汚い仕事は女性に見せたくないものだし、特別扱いも致し方ないだろう。…風呂やトイレの時間なんかも気にした方がいいな。ツァーンのような紛い物の女性とは違うわけだし…なんにしろ、彼女たちには不満を抱かせないようにしなければならんな。」

 

 こうなったら、なんとか艦内でのエンカウントだけは避けなければならない。よく彼女らの生活エリアを把握して動く様にしなくては…これではどっちが艦の主か分からないな…

                      続く

 




 バウ中尉の上には4人のお姉さんがいるらしいです。彼が女性が苦手な理由なんでしょうか?
 工科学校の生徒たちの年齢は19〜20歳です。同盟の学業体制は大体今の地球と変わらない感じなので、大学生位ですね。下世話な話になりますが、ゾンタークスキントの兵士たちはみんな紳士ですし、南極1号みたいな緊急手段もあるので、不愉快な事態は発生しません。これだけはご安心ください。
 今回も、ご意見、ご感想お待ちしてます。ぜひどうぞ。
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