海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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どうも、メーメルです。
続いてしまった第二話になります。



第二話 軍艦……軍艦!?

首都星オーディン 第15軍工廠AF12番中型艦船渠

オイレンブルク中佐

 

…考えてみれば当然の話だ。昨日は浮かれていたからつい頭から抜け落ちていたが、15軍工廠といえば軍用艦といっても補給艦や工作艦の類を主に造るところで、前線用の戦闘艦を作るような場所ではない。そこに考えが至っていればこんな失望をすることもなかったろうに……

 

〜2時間前〜

 

「さて、身支度はこんな所と、入場許可証に身分証。よし」

 

 どうも最前線の空気に慣れすぎたせいもあって技術屋には苦手意識がある。別に整備基地や工廠が安全だから、というわけではなくただ単に戦闘で大中破した艦に対して文句をつけられるのにいい気分がしないだけだ。別に好きで壊してきたわけではないし、艦が壊れるというのは戦死者が出ているという事だ。その辺に気を回してくれたのはあの技術学校を卒業したての特務曹長だけだった。確か名はシャフトとか言ったか。まだ18だったが、彼も技術屋の空気に呑まれてしまうのだろうか。

 

「まぁ今回は新造艦の新責任者だ。建艦担当は技術中佐だというし、あまり気を張らなくてもいいかな。」

 

「はい、オイレンブルク中佐ですね。…虹彩認証、声紋認証、指紋認証、全てOKです。担当者を呼びますのでこちらでお待ち下さい。」

 

前線にはない丁寧な対応に感心していると横の気密スライドドアが開く。

 

「オイレンブルク中佐でありますか?小官はバルマハ…いや仮称艦名HK1の艤装主任を勤めております、ライネファルト技術中佐であります。短い間ですが、お見知り置きを。」

 

まさにインテリという言葉の枠にピッタリハマるような外見の男がやけに高い声で挨拶してくる。

 

「オイレンブルク中佐です。よろしく。」

 

「ではさっそくですが中佐の艦にご案内致します。こちらへ。」

 

中佐の艦、私の艦、良い響きだ。録音しておきたい位だな。そんなことを考えながら彼のやや前傾した背中について行くこと数分、AF12と掠れた字で書かれた扉の前に着く。

 

「こちらの船渠に仮称艦名HK1号、中佐の艦が艤装中です。では扉を開けますので、少し離れて下さい。」

 

興奮のあまり開閉線を踏み越えてしまっていたようだ。平常心、平常心だマックス。いきなり叫びでもしたら面子どころの話ではなくなってしまう。

そしていやに遅く扉が開き、私の目に飛び込んできたのは、

 

パス・デア・バルマハ…?

 

そう白いペンキで書かれた150万t級の中型貨物船だった。そう、貨物船、、、

「ラ、ライネフェルト中佐、これは…」

 

「ええ、軍務省から承っております。『幼年学校用の練習艦』ですな。

生徒用580人分の寝台と、教官用ブース、演習砲、緊急用大型気密室、

試験用補助追加機関…」

 

あまり彼の説明は耳に入っては来なかったが、私が軍艦を任されたのではない事だけははっきりした。私が指揮するのはこの古い貨物船だ。

 

「本日はありがとうございました中佐、私はこの後上司と会う予定がありますので、命名の件はまた後日連絡するのでまた」

 

言いながら、昨日ひたすらに考えていた艦名が自分の中で崩れていくのを感じた。西暦時代の海賊由来の名、故郷の星の景勝地の名、初恋の幼馴染の名、全てが一気に白紙に戻っていく。

 

「どういうことでありますか大佐!」

 

「落ち着きたまえ中佐、情報Ⅲ課の壁は厚いからといって、そのような大声で怒鳴られると隣から苦情が来るぞ」

 

「はっ申し訳ありません。ですが大佐、私は軍人です。大佐も昨日仰っていたではないですか。『我々は名誉ある帝国軍』であると。帝国軍は貨物船で戦わなければならんのですか。しかも、あれは15年は前のものでしょう?軍属の星間輜重隊でもアレより良い艦を運用していますよ!」

 

「言っただろう、フェザーン回廊を通過する、つまりはあくまで外見は民間船でなくてはならん。それには一から作るよりある意味年季の入った中古船の中身を取り替えた方がいいんだ。偽装、ペイロード、文句なしだろう?」

 

「しかし、しかし大佐」

 

「"中身"は確かに軍艦だ。人間、組織、食べ物、フネ、あらゆるものは見た目より中身が大切なものだ。これは宇宙の中でも数少ない真理の一つだと私は思うがね。」 

 

「はっ、しかし…」

 

「まぁ命令は命令だ。君はあの艦で任務をこなす。乗員の選定もある程度は任せる。少なくとも半年は一緒に過ごすんだからな。それから艦名もな、流石に旧船名は消してしまうから、良いのを頼むぞ。もし拒否する事になったら門閥の坊っちゃん辺りが趣味の悪い名をつける可能性もあるからな。では退出してよろしい。」

 

「はっ、失礼いたしました。」 

 

なんだか言いくるめられてしまった。だが大佐の言う事にも一理ある。

「中身が大切、か。」

 

そういえば親父も昔同じような事を言っていた気がする。

 

「どれだけ妙なフネでも一度生死を共にすれば愛着が湧く。肝心な時に赤熱する機関も、戦闘のたびに必ず倒れる艦橋遮音力場発生装置も、何かしら欠点があった方がいいじゃないか。第一言うだろう、『美人は3日で飽きるが不美人は一生飽きない…』」

 

正直後半の美人云々は関係ないと思うが、それもそうかと考える。思えば自分が最初に任官した駆逐艦も相当汚かった。あれが大破して廃艦処分になる時には胸が締め付けられるような感じがした。

 

「見た目は貨物船、中身は巡航艦、短い人生の1ページとして、そんな最高に妙な艦の指揮官となる、……結構じゃないか。命令は、命令だしな。」

 

そうと決まればあとは艦名である。中身は巡航艦だから考えといた名でもいいかな、「シュテルテベーカー」「フェルテヴェンツラ」「ローザ」、……いやせっかくだから何か新しい名を…

 

  翌朝、サイドテーブルの上の小さなノート

 

『襲撃巡洋艦 Sonntagskind』

 

登場人物

マックス(略)オイレンブルク  32歳

子爵家3男。長兄はパランティア星域会戦で戦死。子爵家は次兄が継ぐ予定。

 

クルト・フォン・ライネファルト   34歳

帝国騎士(ライヒスリッター)出身。受勲歴は青銅勤続章・四等戦功勲章・ゼッフル粒子取扱徽章。

 

書いた人

平民の三男。漢検5級。

 

 




アムリッツァの前にキルヒアイスが沈めた同盟の軍用輸送艦が1000万t級だったらしいので艦サイズは大分小さめにしてみました。
調子に乗って原作キャラを出してみたり史実を入れ込んでみたり、こういうのを蛇足と言うんでしょうか。

まだ航海が始まらない件に関しては私の愛読書でもある「海の鷲」でも3分の1位がルックナー伯の過去話なので、原作?リスペクトという事でご寛恕願います。でもこういうのはタイトル詐欺でBAN対象になったりしてしまうんでしょうか?
出航はあと3話くらい先になる見込みであります。
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