ビュコックさんの口調については、流石にまだ36なので爺さん言葉ではないだろうという判断です。お許しください。では、どうぞ。
帝国暦453年 2月13日 ゾンタークスキント艦内
フォン・オイレンブルク中佐
「考えてみれば、叛乱軍も我々と同じような作戦を実行した可能性はないのかな?フェザーン回廊さえ抜けられれば帝国軍だって辺境艦隊しかいないし、上手くいく作戦だと思うがな。」
待ち伏せ中余りにも暇なので当直をしていたクンツェ中尉に話しかけてみる。向こうも欠伸をかみ殺していたところだったから丁度いいだろう。
「どうでしょう。SPUの連中から叛乱軍の事は時々聞きますが、多分そんなことはしないんではないかと思いますね。」
「それはまたどうしてかね?」
「一応彼らの戦う理由というのが帝国からの防衛戦争ですしね。実際、向こうから積極的にこちらに侵入を図ってきた事はありませんし、ティアマトで我々に勝った後だって退いてしまったじゃありませんか。いくら総司令官が死んだからとはいえ、戦果拡張のチャンスをフイにするというのは、やはりそういった野望というか、考えがないからなんでしょう。」
「そうだな、しかしこちらも放っておくわけにはいかんものだしなぁ。最初に叛乱軍なんて大層な名をつけてしまったから討伐なり、攻撃なりしないと帝国の面子が危ないことになってしまった。いっそ今の前線辺りにガイエスブルクのような要塞でフタをすれば楽なんじゃないか?」
「それは無理がないですか?要塞を造るのはいいにしても、建造している間に敵が放っておいてくれる訳がありません。それくらいの危機管理能力は向こうにだってあるでしょう。」
「それもそうか。…まぁ、我々が歴史上初めての偉業をやっているであろうという事が再確認できただけでもよしとしようか。」
さっきから何分経った?…まだ3分しか経っていないじゃないか。襲撃している時なんかは10分が10秒に感じる時もあるというのに…
「そういえば今日のSPUの催しはなんだったかな?」
「えー、今日は、"超伝導物質の構造理論学習会"とありますね。主催はホワイト嬢、参加自由とあります。」
「学業は疎かにしないという訳か。学生たちも研修旅行の延長だと思っていたら場所が変わっただけとは哀れなもんだな。…まぁ、10代の時間は人生で一番価値ある時間だ。せいぜい学生諸君には励んでもらうとしようか。」
敵の未来の技術者育成の成功を祈るのはおかしいことな気もするが、若者の将来を敵とはいえ台無しにしてしまうのは年長者のするべき事ではない。帝国にだって優秀な若者はいる。そう、例えばあの優しいシャフト青年だって、未来の新技術の担い手になるかも知れないんだ。敵は強大な方がやりがいがあって良いだろう。それに比べて、今は暇をどう潰すかを考えるしか脳みその使い道が無いとは…
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2月14日 同盟軍巡航艦 イソタケル艦内
ビュコック少佐
昨日の出撃以来、ずっと戦隊全艦の臨検通過記録に目を通しているが、今のところ怪しい船は見当たらない。まぁ、明らかに怪しい船は後ろめたいところがあるものだから捕まるなり拒否なりされて、そもそも通過記録に残らないものなんだが…
『やはりエル・ファシル方面から抜けてきたのかな?それともかのアーレ・ハイネセンよろしく辺境のどこかでスパイが恒星間宇宙船を建造したのか?…無理があるな。それこそ御伽噺の類だ。』
『まだそんなものを睨んでるんですか?もうすぐ夕食ですよ。』
『ヴィドック、君が臨検を担当した船の中で何か印象に残った船はないか?』
『印象ですか?私も1ヶ月しか経験がないですが…そうですね、一番最初に臨検で乗り込んだフェザーンの貨物船の船長は優しかったのを覚えていますよ。奥さんもいたんですが、結構な美人でして、「お若い士官さん」なんて言ってくれて…』
『臨検は女性見物の為にやるもんではないんだがなぁ。そのくらいしか覚えてないようじゃ望み薄だな…これか?「マレタ号」ね、テラフォーミング資材か。良い荷を積んでるな。』
『ええ、外見は古い船でしたが中は案外ちゃんとしてましてね、ああいう細かい所に船長の人柄が出るんでしょうな。第一、奥さんが…』
『人妻趣味はやめた方が身のためだぞ。刺されてから気づくんじゃ遅いんだからな。私の友人にも一人大層な女好きがいたが、修羅場に巻き込まれて軍を辞めるまでになったんだ。そうはなりたくないだろう?』
言いながら、もう一度「マレタ号」とやらの臨検書類に目を通す。テラフォーミング資材は宇宙で1、2を争う高額商品だ。自治領主府からジャムシード宛、問題はないな、しかし独立商人でこんな大役を任せられるとは随分信用のおける人物なんだろう。一つ調べてみるか。
端末に情報を打ち込んでいく。出た。現在の船主はゴッドベルガー氏、なんだか陰険そうな顔つきだな。35歳ね。んん?
そのあとに表示されたのは現在位置→カッファーの文字。なんだかおかしいな。1ヶ月でジャムシードからなぜカッファーに?というか旧式船のワープ間隔では間に合わない気がする。
『おい、ヴィドック。君の最初のお相手はこの船だったか?』
『ええ、こんな感じでしたよ。艦首がずんぐりしていて、そう、図鑑で見た大昔の海獣みたいだと思ったんです!あ、でも船尾に膨らみがありませんね。昔の写真ですか?』
『いや、撮影日は半年前になっている。半年で改造もできないことはないが…なんだか怪しいな。』
『怪しいなんてそんな。あの船長に限ってないでしょう。他の船の奴なんかは臨検理由を説明する時に同盟軍の悪口をいったり、無言で録音機を回してみたり、まぁ態度が悪かったですがね、あの人はこっちが緊張してるのを分かってくれたのか、「交通違反の取り締まり月間ですか?」なんてね、ああいうユーモアがパッとでる人の頭の回転というのは…』
『待て、今、今何と言った?』
『え、どうしたんですか急に。ユーモアのレパートリーに加える気なら中々使い道が限定されますから難しいと思いますよ。』
『フェザーンに交通取り締まりなんてものはないぞ。』
『え?そうなんですか。ああ、確かハイネセンでもそうでしたね!フェザーンも同じようなシステムを採用しているとは、流石宇宙の中継地と言ったところ…』
『そんなフェザーン人がパッとそんなことを言うと思うか?交通取り締まりなんて概念自体知らないだろう。』
『それは……そうでしょうが、なんですか、そんなに気になります?ただの言葉のアヤというものじゃないですか?』
『いや、この船は怪しい。すぐにカッファーに問い合わせてみないと!この艦の超光速通信室は!?』
『ありませんよそんなもの。第二次ティアマト会戦の生き残りに高望みしないで下さい。』
『なに?この艦そんなに年寄りだったのか。仕方ない、出来るだけ早く帰るために現場検証は適当に済ませるしかないな。』
これは尻尾を掴んだかもしれない。もしこのマレタ号がフェザーン商船の皮を被った帝国艦だったら、見逃したウィドックにも責任はあるが、1ヶ月も前の事を覚えてくれていただけよしとしよう。しかし、帝国艦だと分かったところで、どうやって司令官を説き伏せて捜索・追撃部隊を出すかな…
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同日 ゾンタークスキント艦内
フォン・オイレンブルク中佐
「大尉、昨日のホワイト嬢の講義はどうだったかね?君も参加したんだろう?」
「ええ、随分専門用語が多くて辟易しました。しかし、女性に教わると頭に入ってきやすい気がしますな。士官学校の特任講師にひたすら理論を読み上げる、リューデリッツとかいう人がいましたが、アレの数倍マシですな。」
「そうかね。じゃあ今度ツァーンに特別講師でもやらせてみるかな。臨検の若いのだって騙せる出来なんだから学生くらいなら余裕なんじゃないか?」
待ち伏せ中のゾンタークスキントの中にはどこか安らかな雰囲気が揺蕩っている。願わくば、この時間がより長く続くように…
続く
超光速通信装置は結構容積を取るものだと思うので、古い巡航艦には積んでいない事にしました。もどかしいですね。
今回もご意見、ご感想お待ちしております。是非どうぞ。