海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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 私が一番好きなラインハルトさんの顔はシヴァ星域会戦の際、エミールが持ってきたコーヒーに口をつけた瞬間、接敵報告を受けた時の顔だったりします。話数でいうと107話ですね。では、どうぞ。
 


第二十二話 通貨とタンカー

帝国暦453年 2月15日 ゾンタークスキント艦内 

フォン・オイレンブルク中佐

 

「やはりあいつは航路を変えないか?」

 

「だめですね、2隻がぴったりひっついて航行してます。まるで金魚のフンみたいに。」

 

「そうか…今回は諦めるしかないな。見逃してやろう。」

 

「了解しました、艦長。戦闘配置を解除します。」

 

 5日ぶりに見つけた船は2隻組で行動している。せめてもう少し離れてくれていたらやりようはあるんだが…

 

「全く、気分はお預けを食らった犬だな。釣りで肝心なのはかからない釣り場に執着しない事だと聞くし、そろそろポイントを変えてみるか。候補はいくつか上がっていたな?」

 

「はい、現在宙域より1光月ほど行った所にタンカータイプが常用しているルートがあります。ここにも小規模ですが小惑星群があるようでして、隠れながらの待ち伏せに適しているかと。」

 

「タンカーか…拿捕品は期待できそうにないが、通商破壊の目的には一番適当なものだろう。よし、そのポイントに向かう。ワルキューレを収容させろ。私は少し休ませてもらう。」

 

 あまり同じ宙域に留まって余計な疑念を招くのもよろしくないし、今後はちょくちょく釣り場を変えていくのもいい手だろう。水産資源は大切にせねばならないしな。そんなことを思いつつ部屋まで戻ろうとすると、正面からバクスター氏がやってくるのが見える。

 

『やぁ、艦長さん。ちょうどお伺いしようかと思っていたんです。少しお時間を頂けますか?』

 

『結構ですよ。では部屋へどうぞ。コーヒーでもよろしいですかな?』

 

『あぁ、ありがとうございます。この艦のコーヒーは本当に美味い。長年紅茶を扱ってきましたが宗派替えしようと思うくらいです。帝国軍の軍艦はみんなこうなんですかな?』

 

『いや、この豆はブルートフェニッヒからの物を使ってましてね、安い割に美味いので重宝してるんです。もうなくなりそうなんですがそうしたら貴方の船の茶葉を使わせてもらう事になるかも知れません。』

 

『そうなったら帝国軍が我々の紅茶の顧客になるわけですか。これは生産規模を拡大せねば…おっと、申し訳ない。ご相談というのはSPUの事でして、ここの所、料理の心得のある者が食堂を手伝って報酬を頂いてるというので皆から羨ましがられていまして、もちろん彼らも独り占めなどという浅ましい事はしませんから大きな問題にはなっていませんけれども、それ以外の連中も何か一芸を活かしたいという者がいてですね。』

 

『一芸というと、例えばどんなことですかな?流石に艦の運航の手伝いなどはご遠慮したいところなのですが…』

 

『はい、その辺りの分は弁えています。彼らが言うには、何か艦に対して貢献する事、ここは各々がまた考えるでしょうが、それがあった時に軍票のようなものを出して貰って、それを主計科に持っていって報酬と交換するような仕組みを作って欲しいとの事なんですが…』

 

『別にそんな事をしなくても、必要があるなら嗜好品の類は差し上げますよ?SPUの催し物なんかは乗組員も楽しませて貰っていますし。』

 

『いや、艦長さん。それでは商人の矜持が保てません。働き盛りがただ無為に過ごして物を貰うだけというのは精神衛生上もよろしくありませんし、なんとかお願いできませんか。』

 

『そこまで言うのでしたら、主計科と相談して軍票の発行は決めましょう。インフレのような事が起こらないようにしないといけませんし、支払う量の基準なども決めないといけませんから、SPUの方からも何人か話し合いには参加してもらいますよ。』

 

 かくして、ゾンタークスキントの艦内では通貨までが発行されることになってしまった。やる気の原動力が生まれるのはいい事であるし、こうなれば不公平なんかも抑止できて不満の芽吹きの予防にもなるだろう。しかしこうなってはとうとう一つの国みたいになってきた。今の状況を社会秩序維持局の狐野郎がみたら帝室に対する反乱ととられるかもしれないな。まぁこの艦の中にはそんな陰険なこじつけをつける奴はいないし、私の帝国に対する忠誠も揺るぎないものだ。客室がいっぱいになるまでは領主ごっこを続けてみるのも悪くないだろう。

 

ーーーーー

2月18日 ゾンタークスキント艦橋

 

「来ました!やはりタンカーですね。船体中央部に8つも球形タンクが付いてます。こういう風に分かりやすく船籍を表示しといてくれれば毎回確認するのも楽なんですが…」

 

 例の待ち伏せポイントに到着して、ワルキューレをまだ出さないうちにレーダーが船影を捕捉した。ほぼ真上にいるので敵船の模様がよくわかる。アレはこれまでにも幾度か見てきたジャムシードのマークだ。ご丁寧に船名まででかでかと書いてある。「ストリンダ」…妙な名前だな。

 

「だが位置が難しいな。真下を反航する形で向かってきているわけだから…急降下して敵側面に出れるか?」

 

「はい、あと2分以内なら衝突回避コースをとるのも間に合うでしょう。やれます!」

 

「よし、周囲に他の反応はないな?では、襲撃だ!」

 

 重力制御装置のおかげでGなど感じないはずなのに、モニターに映る景色が急速度で変化していくのを見ると足が床についていないような錯覚に陥る。これが慣れていない者だと宇宙酔いになる所だが、この艦にそんなビギナーはいない。さて、そろそろ光パルスが通じる距離だ。

 

「敵船との回線開け。よし、『あー、こちらはフェザーン商船マレタ号、ご機嫌はいかがですかな?』

 

『…!驚いた。急になんです?なにか市場に関するニュースでも?』

 

『まぁ、ニュースと言えばそうでして、そうですね、当船をよく見ていただけると分かると思います。』

 

 一番最初の襲撃で使った手だ。襲撃するだけなら威嚇射撃して警告して終わりでもまるで問題ないんだが、少しくらい茶目っ気を出した方が作業感が薄れていいじゃないか。…案外私もロマンチストだったのかな?相手の目がこちらを向いたタイミングでボタンを押せば、艦体に現れたるは堂々たる双頭の鷲章にS.Nの信号旗!

 

『我々は帝国軍だ!機関を停止して指示に従え!電波の発信は許可しない!』

 

急に通信が切られる。スピードは上げていないようだが止まる気配はない。一発必要になるかな?

 

『すぐに機関を止めろ!砲撃するぞ!』

 

すると、音声だけの通信が入ってくる。

 

『分かってるよ!帝国人は待つことも出来ないのか!?こっちは一人でやってるんだから待て!抵抗の意思はない!』

 

電波が発信されている様子もないし、抵抗の意思がないのは結構な事だが一人でやってるとはどういう事だ?恒星間宇宙船の自動操縦なんてものはまだ帝国でも実用化できていないはずだが…

 

「艦長!敵船から脱出ポッドが射出されました!…あ、しかしアレは自力航行できないタイプですね。どうしたんでしょうか?」

 

なるほど、船員に一足先に逃げ出されてしまったという訳か。ならば仕方ない。向こうの船長が仕事を終わらせるまで待ってやる事にするか。

 

ー暫くして、接舷口から自分の荷物を携えた船長が移乗してくる。

 

『やぁ、お見事なお手前でしたね。おかげでこっちは大混乱ですよ。皆あの紋章を見た瞬間には逃げ出してましてね、あなた方、軍というからには武装しているんでしょう?私としては、あの漂っている忌々しい脱出ポッドを撃ち沈めたところで何の抗議もしませんよ。自分でやりたいくらいだ!』

 

『いや、我々はそんな非人道的な事はしませんし、しっかりポッドも回収しますよ。それにしても、あなた、何か船員から不興を買うことでもしたんですかな?』

 

『いや、私としてはなんの落ち度もないと思っていますよ。一つあるとすれば、払うカネをけちって給金の安い亡命者の連中を船員として雇ってしまった事くらいですな!』

 

『ははぁ、亡命者ですか。通りで、ね。とりあえずあなたには専用のキャビンがありますから、どうぞ。この少尉がご案内します。』

 

 そのあと、回収した脱出ポッドから出てきた船員達は口々に助命の言葉を並べ立ててきたが、私としてはもちろん彼らを殺すつもりはないし、故郷を捨てたことが罪になるとも考えていない。敵前逃亡なら別であるが、民間人だし、それなら帝国内にわざわざ連れ帰る必要もないだろう。あの船長との関係は悪いままだろうが、幸いゲストの先輩もたくさんいる事だし、慣れてくれることを祈るしかないか。

        

              続く

 

 




 脱出ポッドは複数人乗れるような、アポロチョコのような形状のものを想定しています。「奪還者」でヘルクスハイマーの死の原因になったポッドも自力航行はできなそうでしたが、逃げれる成算でもあったんでしょうか?
 今回も、ご意見、ご感想お待ちしております。是非どうぞ!
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