海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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 どうも、メーメルです。これから夏本番に入るそうですが、皆様体調にはお気を付けて下さい。では、どうぞ。


第二十四話 大佐とペテン

帝国暦453年 2月22日 帝国本土 軍務省の一室

ハンス・E・シュテファン大佐

 

 彼らが出撃して2ヶ月経とうとしているが、叛乱軍側に目立った動きがあったという情報は入ってきていない。情報収集といってもフェザーン駐在武官が怪しまれないようにやる小規模なものであるが、帝国の軍艦が自分の領内で暴れている事が分かれば流石に少しはざわつくものだろう。そんな動きもないという事は、彼らが上手く隠れながらやっているのか、それとも人知れず沈んでしまったか。

 

「そう簡単に沈んでもらっては困るんだがなぁ…」

 

 ため息をついてもどうにもならない。軍務尚書の密命で始めた作戦であるが、具体的な成果も不明なようでは報告もできない。したところで「多分生きていると思います。」だけでは内容が薄すぎるし…もしかしたら尚書閣下だってもう作戦の事は忘れているんではないかとも思ってきた。何やら近々大作戦があるとかいう噂が私の耳にも入ってきているし、何をやっているかよく分からない艦なんぞ思考の外に放り出しているんだろう。全く勝手なものだ。と、机の上の内線が鳴る。

 

「室長、今よろしいでしょうか?技術本部から室長にお話があるという方がお越しになっているんですが。」

 

 アポも取らないで来るとはなんの用事だ?技術本部…あの艦の改造理由を誤魔化して伝えていたのがバレたのか、それともスパイの存在でも発覚したか。まぁどんな用件にしろ会えば分かるか。

 

「大丈夫だ。お通ししろ。それからコーヒーを2人分頼むぞ。私のは砂糖とミルクをマシマシでな。」

 

 少しして、痩せた長身の男性が入ってくる。白髪が少し混ざり始めた頭髪の様子からして40代後半といったところか。階級は少将で胸には一級戦功勲章がぶら下がっている。

 

「貴官がシュテファン大佐だな?私は技術本部のフォン・リンダイナー・ヴィルダウ少将だ。自己紹介も済んだところで本題に入る。」

 

 リンダイナー…確か伯爵位だったかな?この高圧的でかつこちらの返答を待たないタイプの人間ははっきり言って好きではない、というか嫌いなのだが、身分も階級も上の貴族に出ていけなぞと言う訳にもいかない。

 

「尚書閣下より聞いたのだが、貴官は中々に興味深い部隊の監督をやっているそうだな。叛乱軍の領内に入り込んで通商破壊をやらせているとか聞いたが?」

 

「はい、その通りですがこれは極秘事項でありますので、できればもう少しお声を低くお願いします。伯爵閣下。」

 

「…ふん、それで貴官は近々ある大作戦の事は知っているか?」

 

「そうですな、兵站や艦隊司令部のれ、方々が最近忙しくされているのは存じておりますが、詳しくは何も。」

 

「そうだろう。これも極秘に入る事だからな。貴官も声には気を付けるんだぞ。まず、皇帝陛下は現在の軍に対してご不満をお持ちだ。出費が大きすぎる事業であるとな。そこで軍務尚書閣下と技術本部は現在の最前線から少し下がったあたりに大要塞を建設し、もって哨戒や出兵の負担を減らす事に決したのだ。どうだ?」

 

 どうだ、と言われても何を言って良いのか分からない。要塞を作るのならば主力は技術本部と艦隊司令部だろうし、防諜が目的ならそれはⅠ課の仕事だ。私のところに持ってくる話ではない。

 

「それは大事業ですな。帝国と皇帝陛下の威信を叛乱軍に示すにしても良い案であると分かります。それで、伯爵閣下がそれを私にお話しになった理由はなんです?」

 

「なんだ分からんか。案外鈍いな。つまり、要塞建設にあたっては今よりある程度は前線を押し上げなければならん。今の前線では叛乱軍の小型艦なら此方に探知されずに建設予定宙域にまで到達できてしまうからな。そうだな、ティアマトを過ぎてアルレスハイムやアスターテ辺りまでの宙域に前哨線を構築すればまず安心だろう。そのために、貴官の監督下にある部隊に役に立ってもらう。敵の正面戦力を減らし、我が軍を優位ならしめる為に敵の領内で帝国軍ここにあり、と喧伝するのだ。さすれば敵は後方に2個艦隊くらいは割く羽目になり、こちらが絶対数において有利となる事は確実だ。」

 

「伯爵閣下、それは買い被り過ぎです!任務中の船は巡航艦といえども数は1隻だけですし、武装だって駆逐艦と同等かそれ以下です。とても2個艦隊など相手にはできませんし、叛乱軍も1隻にそんな大兵力は振り向けないでしょう。そもそも連絡手段も無いんですぞ!」

 

「連絡手段はなければ作れば良いではないか。艦隊にしても商船などの小目標ばかり襲っていないで有人惑星を襲撃するなりすれば衆目を集められるだろう。自分の仕事には自分の頭を使え。では、私は次の予定があるのでな。」

 

 こちらを振り向きもせずに少将は部屋を出て行く。責任がないからと思って言いたい放題言ってくれるものだ。上級貴族というのはアレだから苦手なんだ。だが、他のことはともかくとして連絡手段についてはやってみる価値があるかも知れないな。元々自由にやらせるつもりだったが、Ⅲ課が入手した情報やなんかを流してやれれば彼らも助かるだろう。方法は…一応計画段階で用意してあるものがあるから、それを上手いこと尚書閣下にねじ込めれば大丈夫だろう。

 

ーーーーーーーーーー

同日 ゾンタークスキント艦内 

フォン・オイレンブルク中佐

 

「見えました!テンカータイプだと思われます!」

 

 "襲撃部屋"からのフランツィウス大尉の報告で夢の世界に落ちかけていた意識が一気に現実へ引き戻される。彼は商船学校出だけあって時々特有の訛りが出るが、こちらとしては分かれば問題ないので何も言わない。

 

「またタンカーか、船籍照合は?」

 

「既に大体の目星はつけてあります。後部にエンジンが3つに、一体型のタンクと側面の圏内翼、間違いなくT3型ですね。フェザーンでこのタイプを使っている組織はありませんから、船足は速いですが襲撃対象には違いありません。」

 

「よし、襲撃だ。それにしても高速か…止まらなかったら追いつくのに苦労するな。一つまた劇場でも開こうか。"赤の場合"でいこう。準備してくれ。」

 

 敵船が目視圏内に入ると同時にゾンタークスキントの側面で爆発が起こる。もちろん本物の爆発ではなく、マグネシウムと発煙剤を放出しているだけなのだが、これが中々リアルで面白い。同時に艦全体に非常灯と警報を鳴らさせる。これで下準備は完了だ。あとは向こうからの通信を待てばいい。そらきたぞ!

 

『一体、どうしたんだ!?援助が必要なら…』

 

 モニターに姿を見せた太った船長は早速助けを申し出てきた。やはり宇宙の男というのはこうでなければならない。そんな男を騙すのは良心が痛むが、軍人というのは人をペテンにかけるのが仕事みたいなものだ。詐欺師とどっちがマシかな…

 

『分からない!フェザーンから積んできたモノが急に…ウワッ』

 

 ここで敢えて通信を切る。向こうから見たらさぞ船内で重大なアクシデントが起こっているように見える事だろう。

 

『おい!聞こえるか!シャトルを送っている余裕はないようだから接舷するぞ!いいな!』

 

 予想以上の反応だ。シャトルを送ってくれば足は止まるから十分だと

思っていたが、まさか自ら接舷までして窮地の我々を救おうとしているとは。ゲストになったらSマルクとは別に残り少ない410年物を進呈するとしよう。

 

 その後は向こうの船にとっては酷い有様だった。接舷口から人命救助のために乗り込もうとしたらそこにいたのは帝国の装甲擲弾兵だったのだから。最初、彼らは「フェザーンの荷物に隠れていた帝国軍が船の乗っ取りを図っている」と考えたらしいが、逆に自分らの船に突入されるとどうしたらよいか分からずに突っ立ったままになってしまった。太った船長は最初はひたすらに驚いていたが、その後に出てきたのは『人が死んでいないようならば良かった』という言葉だった。最後まで他人の心配とは、全く大した男だ。

 こうしてまたも我がゾンタークスキントには素晴らしいゲストが増え、拿捕・撃沈した船も10隻になった。2桁になれば作戦は十分成功だろう。まだまだ満足はしていないが、未来の士官学校生の頭痛の種くらいにはなれるかな…?

 

   続く

 




 元商船乗りが「タンカー」を「テンカー」と訛って発音するというネタはUボートものの小説で知ったんですが、本当かどうかは不明です。
 今回も、ご意見・ご感想お待ちしております。ぜひどうぞ。
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