宇宙暦762年 2月25日 シュパーラ5 同盟軍哨戒基地
A・ビュコック少佐
ヴィドックに頼んでおいたビラの件は順調だ。捜索委員会立ち上げの翌日にはビラのデータを各宇宙港や徴用船に送ってある。彼は良くやってくれた。次は私の番だ。
『ビュコック少佐、入室します!』
『…少佐か。今日はなんの用かな?定例報告の時間はあと5時間先だぞ。』
『はっ、先日お話しした民間船の事故急増の件で新たな事実と危険が判明しましたのでご報告にあがりました!』
『……ああ、例の幻の帝国軍の話か。やはりそんなものはいなかっただろう?大体事故というのは民間船の怠慢から起こるものだ。軍が介入しても…』
『いえ、調査によって帝国軍の同盟領侵入はほぼ決定的なものであると判明しました。こちらの近辺の宙域図をご覧下さい。赤い十字が消息不明船の最終コンタクト位置と時間、その後の線が予想進路です。』
『ふん、それで?帝国艦の証拠というのは?』
『お待ち下さい。このシートには民間船舶のよく使うルートが示されています。これを先程の宙域図と重ね合わせると、殆どの消息不明船がルート上で消えているのです。』
『何を言っているのだ君は。ルート上を民間船舶が通過する、通過するならその一部で事故が起こる。当たり前の事じゃないか!』
『いえ、司令官。民間船舶のルートと言うのはその道が彼らにとって安全にかつ効率的に使用できるからルートたり得ているのです。隕石群や宇宙嵐帯などの事故原因が多くある宙域はそもそも民間船舶は避けて通ります。理論上安全なはずのこのルート上でこれ程多くの船が消えているのは人為的なものを感じずにはいられません。』
『そうかも知れないな。だが…前にも言ったが、侵入ルートがないではないか。まさかフェザーン回廊を抜けてきたわけはあるまいし。』
『それについては第26特別臨検小隊のイソタケルが怪しい船に接触しています。どうやら敵はフェザーンの貨物船偽装して同盟領に入り込んでいるようでして、名前を使われた貨物船も判明しています。このようなやり方は宇宙海賊や密輸船が使う手口ではありません。これに関しては完全に軍の過失であります。』
『…そうか。…少佐、君はあくまでも帝国艦の侵入は間違いがないと言うんだな。…もしこの件に関して、我々同盟軍が何の反応も示さなかった場合、どのような事態が発生すると思う?』
『はい、現状では中央から遠い地域の民間船舶しか被害を受けていませんし、同盟全体の船舶数から考えれば被害数も少ないものですからマスコミも議論の俎上には載せてはいませんが、もし少しでも目端の利く記者がこの可能性を嗅ぎつけたとしたら同盟政府、ひいては同盟軍の支持率や威信に直接関わってくる問題に発展する恐れがあります。』
こういう時は政府やら威信やら言うような少々大げさな言葉を使ったほうが自分の意見が通りやすい。基地の財政状況より巨大な、それこそ比較にならないほどの対象を出してやれば司令官も腰を上げざるを得ないだろう。事実、マスコミの単語を出した時点から顔が目に見えて青くなっていくのが分かった。
『それは…まずい。非常にまずいな。…攻撃部隊をすぐに出さねばならん!ちなみに、その侵入した帝国艦というのは具体的にはどのようなものなんだ?』
『はい、臨検記録によりますと120万t、3発推進の旧式船との事ですが、おそらく何らかの改造を施してあるはずです。武装についてはまるで分かりませんが、もし120万t級貨物船のペイロードをフルに活用したとすれば、ビーム砲の5、6門に加えてミサイルや、他にもかなりの副武装も十分な数を搭載できると考えられます。そうなればこの基地の旧式巡航艦が一対一で渡り合うのは危険なことになるでしょう。』
『では3隻いれば互角以上の戦いができるな。臨検部隊からも引き抜くとして、第2巡航艦戦隊と第1戦艦隊からも増援を出そう。敵艦のいると予想される地点は?』
『はい、直近ではタンカータイプがよく使うルート上で船が消えています。この辺りで隠れられる様な場所はこの小惑星群くらいしかありません。まずここを重点的に捜索してみるべきであると考えます。』
『よし、では少佐、君はオブザーバーとして捜索部隊に同行したまえ。出撃は部隊編成と補給を考えると明日になるだろう。』
『かしこまりました。では!』
捜索部隊を引っ張り出す事には成功した。あとはレイダーを見つけて、沈めるなり捕らえるなりするだけだ。できるなら捕らえて事の顛末を調べたいところではあるが、何にしても見つけてからの話だ。出撃は明朝!
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同日 ゾンタークスキント艦内 士官食堂
フォン・オイレンブルク中佐
「どう思いますか?今回の拿捕船のデータに入っていた物を印刷してみました。これまでの敵軍にはなかった動きですが…」
今日の朝拿捕した小型船は積荷は大した事なかったが、興味深いものを我々にもたらしてくれた。それがバウディッシン中尉の掲げる一枚のビラだ。爆発する貨物船とドクロを背景にして『宇宙海賊に注意!』とある。これだけならまだいいが、問題はその横で笑っている海賊の姿だ。服装は西暦時代の海賊そのものだが、その顔はカイゼル髭にモノクルをつけ、鼻は異常に高く、全体的に胸を張った姿で描かれている。こちらの風刺画でこんな人物をよく見る。言ってみれば、帝国軍人のステレオタイプと言ったところか。
「これは…海賊として描くにははあまり適切ではない人物に見えますね。」
「そうだな、少尉。こいつが帝国軍人をイメージして描かれている事は明白だ。これは我々の活動が敵にバレているという事だと私は思う。」
「そうでしょうか。叛乱軍にしてみれば宇宙海賊も帝国軍も敵対勢力には違いないでしょうし、それらが混同しただけの事ではありませんか?我が間は今までの所、襲撃した船を逃した事はありませんし、爆破処分に関しても全て事故に見える形で行っています。露見するなんて事は…」
「そうだ。我々は証拠隠滅に関しては細心の注意を図って行ってきたつもりだ。しかし、今朝拿捕した船を合わせれば姿をくらました船は全部で11隻と言うことになる。中々に不自然な段階に入ってきた頃だとは思わないか?さらに言うなら、この辺りの宙域で海賊の情報なんか拿捕した船から一度も入手出来ていないのに、このタイミングで叛乱軍がこのビラを発布した。偶然にしては出来すぎているな。」
「確かにそうですね。では敵に我々の存在が露見しているとして、どの程度の情報が判明していると?」
「それはわからん。何か民間船舶の脅威となり得る存在がいるかもしれないと言う程度かもしれないし、もしかしたらスパイか何かの情報で我々の武装から何から全ての情報が相手に渡っている可能性もある。とりあえず、今やるべき事は現在地からの移動だな。」
「かしこまりました。それなら、艦長、考えていた事があるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだね?新たな待ち伏せ地点についてなら艦橋で…」
「いえ、もし我が艦の存在が敵軍にバレているとするならば、敵は捜索部隊を出してくるでしょう。いや、すでに出しているかもしれません。とすれば、ここ一週間で最も消息不明船が出たこの宙域を重点捜索ポイントとするのは確実と思われます。そこで、奴らにとって素敵な置き土産をしていきたいと考えたのですが。」
「なるほど。バレているならもう取り繕う必要はないか。小惑星にワイヤーか何かで固定しておけば流出する心配もないな。よし、早速やってくれ。そのあと移動だ。」
さて、どうなることやら。これからはスリルが3倍マシくらいになるかな…?
続く
シュパーラ哨戒基地に配備されている軍艦は1個分艦隊、2500隻程度を想定しております。
この話までは毎日投稿を心がけてきましたが、1週間後あたりに個人的なイベントがありまして、少し更新が遅れることになると思います。大変申し訳ありません。
今回もご意見、ご感想お待ちしております。ぜひどうぞ