海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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 どうも、メーメルです。今回は一つ一つのパートが短いですが、ご容赦ください。では、どうぞ。


第二十六話 首都の記者

帝国暦453年2月27日 帝国本土 軍務省の一室

ハンス・E・シュテファン大佐

 

 やっと提案書が出来た。ゾンタークスキントと連絡を取るための方法は当初の計画段階に於いては"危険が大きすぎる"だったり、"必要性が希薄である"という理由で却下されていたが、前に訪ねてきた伯爵閣下は幸か不幸か彼らに大きな期待を抱いてくれているようだし、技術本部や宇宙艦隊総司令部も噛んできた以上は少し位の無茶が認められてもいいだろう。いざとなればあの高慢な伯爵のせいにでもすればいい。ああいう人間はいろんなところで無茶を言うであろうし、責任の取り方なり握りつぶし方なりはちゃんと心得ている事だろうから心配することはない。

 その問題さえ解決してしまえばあとは何も難しい事は無い。やる事は物量作戦で、フェザーンの駐在武官に情報Ⅲ課所属の工作船を使わせてひたすら反乱軍領域方向に向けて超光速通信の暗号通信を送り続ける。あの艦の傍受能力であれば2週間も続ければ確実に傍受ができるだろう。最初に送る座標だけの通信文が向こうに届けば、後は何か伝えたい情報があればその座標に暗号通信を送り続ければ一方通行にしろこちらの意思を向こうに伝えることができると言うわけだ。

 

「しかし、あの伯爵は"役に立ってもらいたい"などと言っていたが本気で有人惑星襲撃なんぞやらせるつもりなのかな?元貨物船にそんなに大きな期待を持って貰っても嬉しくもなんともないんだがな。」

 

 なんにしても、私の頭の上を飛び越えて命令を出すなんてことをして欲しくは無いものだが、基本的に爵位の高い貴族は命令系統を無視するきらいがあるから困る。ある意味帝国の伝統というようなものだし、それを原因としたダゴンやドラゴニアのような歴史に残る大敗があっても改められないんだから平民の私が今更うるさく言ったところで劇的な変化が見られるわけはないだろうし…

 

「おお、大神オーディンよ、願わくばあの伯爵閣下が変な気を起こしませんように、そしてそのまま我々の存在を忘れてくれますように…」

 

ーーーーーーーーーー

宇宙暦762年 3月2日 レイダー捜索隊 戦艦モンジュ艦内

A・ビュコック少佐

 

 『先行した情報収集艦から連絡が入りました!読みます!"当該宙域気に機雷多数確認のため掃宙艦の要ありと認む"との事です。』

 

 機雷があると言う事は敵がいたと言うことだ。予想は的中したと言って良いだろう。しかし、敵が機雷を装備しているというのは更にレイダーの危険性を増幅させる。もしバーラト星系にまで進出されて機雷原なんてものを作られた日にはハイネセンポリスの住民が干上がってしまう可能性も出てくる。まったく帝国は厄介な奴を送り込んできてくれたものだ。

 

『艦長、あの小惑星群に機雷が確認されたと言う事は我々の目的とする敵艦はおそらくはもう別の宙域に移動していると考えられます。近くで通商破壊に適する場所はそう多くはありませんので、とりあえずは次に近い、このガス惑星が候補に挙げられると考えられますが。』

 

『…分かった、そちらに戦隊の進路を取らせよう。君も大変だね少佐。司令部付き副官だから暇だろうと思われてるんだろうが、そうではない事はよく分かっているよ。大方機嫌の悪い准将の目の前を通ってしまったとか、そんなところだろう?』

 

 どうやら艦長は私がいやいやながら謎の船の追跡任務をやらされていると思っているらしい。…ここで否定して摩擦が起きるのも嫌だし、同調しておく事にしよう。

 

『これも軍人の給料の内ですから仕方ありませんよ。謎の敵艦を探すのと、前線で敵と戦うのとどっちがマシですかね。』

 

『それは後方で追いかけっこの真似事をやってる方が楽でいいさ。私もティアマトの時は本部護衛隊の駆逐艦に乗っていてね、ちょうどあのハードラックが被弾して、2次爆発が起こる瞬間を見たんだ。神様みたいなカリスマだって死ぬ時はあんな一瞬でその他大勢の一部として死んでしまうような所より、今のように自分の死にも何か重要な意味があるんじゃないかと思える小さな職場の方が生きている甲斐もあるというものだしな。少佐も仕事をやる以上は嫌なものでもこなせる様に給料以外の価値観を持った方が精神の均衡が保てると思うぞ。』

 

 軍人の価値観ね。10代の頃からずっと軍隊にいて、とりあえず市民をどんな形であれ守るという軍の掲げるモットーの体現者たらんとしてきたが、それ以外のものも持った方がいいのだろうか?愛する妻は守るべき市民の内に入ってくるのだろうし…

 

『まぁとりあえずは今現在の仕事を片付けてから考えることだな。ここからその惑星までは巡航速度で順調に行けば、途中何回かのワープを挟んで30時間の距離だ。それまでは部屋でゆっくりしていたまえ。司令部から何か新しい指示でもあったら呼ぶからな。』

 

 せっかくなので自室に引き取る事にする。ヴィドックの方は初めての戦艦勤務なんて言ってうわついていたから放っておく事にして、レイダーの進路予想でも組み立てるとしよう。他の部隊も共同して包囲網のようなものを作ることができれば万々歳と言ったところだが、果たしてうまくいくかな…?

 

ーーーーーーーーーー

宇宙暦762年 3月3日 同盟首都星 ハイネセン 

パトリック・アッテンボロー

 

『なーにか面白い事件はないもんかな、ええ?』

 

『面白い事件と言ったって、あなた軍の不正とか怠慢とかの事にしか興味を示さないじゃないですか。一般的に見て面白い事件なら溢れてますよ。えー、自治大学の若きエリート、オリベイラ准教授に政界との黒い繋がりとか、ウォーリック国防委員長の汚職疑惑問題、あとはシロン星の紅茶相場が値上がりしそうだとか。』

 

 後輩の記者が紅茶を啜りながら面倒そうに答える。先輩をなんだと思っているんだ全く…

 

『いいか、俺は軍のことにしか興味がない訳じゃないぞ。軍が信用に値しないような事ばかりやっているから俺の記事が目立っているだけのことだ。他の記事だって書けと言われればいくらでも書いてみせるぞ!その、シロンの紅茶の話なんかどうだ?高くなるんだって?』

 

『そうらしいですね。組合が声明を出しているくらいですから確実でしょう。えー、"共同資金で買いつけたフェザーン製特殊肥料の未達により…"』

 

『…つまらんな。他には?』

 

『ほら、やっぱり興味がないんじゃないですか。…じゃあこんなのはどうです?"ジャムシードの呪い!消える民間船舶"』

 

『なんだオカルトか?そういう怪しげなのを扱うとうちの品位がだな』

 

『口を開けば軍の悪口言っているような人に品位なんてもう期待されてないんじゃないですか?でもこれ案外面白そうですよ。フェザーンの方で消息不明船が増えているんですって。宇宙怪獣現る?なんてのもありますが。』

 

『消息不明船ねぇ…一応商船ルートの安全確保は軍の役割だったな?』

 

『ええ、有人惑星の衛星軌道上まではそれぞれの惑星の政府の保安隊やら警察組織やらの管轄ですが、星系間をまたぐルートとなると同盟軍の辺境警備部隊あたりが管轄しているはずですよ。』

 

『辺境警備艦隊か。ここの所軍中央ばかり取材してきたし、たまには田舎の連中の事を調べてみるのも面白いかもしれないな。よし!そうと決まれば取材だ取材!ジャムシードに近い警備艦隊は?』

 

『結局軍に結びつけるんですから…えーと、シュパーラ星系に情報収集基地がありますね。戦力は1個分艦隊程度で司令官はヴィルヌーヴ准将。』

 

 ヒマを持て余すのも時にはいいがいつまでも続けている訳にもいかないし、こういう一見なんでもないような与太話から大汚職事件が発覚したりする例もある。やってみる価値は十分にあるさ。

 

    続く




 あまりにも題名をつけるセンスがないことが判明したので今回は副題というかサブタイトルをつけて見ないことにしてみました。
 パートの一番最初にあげる人物名の場所はやはりラストネームだけだと違和感があるので今回からは名前もイニシャルで省略して記述しようと考えております。
 今回もご意見ご感想お待ちしております。ぜひどうぞ!

ハードラックを勝手に沈めてしまった事をお詫び申し上げます。7月10日に修正いたしました。
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