今後ともご愛顧をよろしくお願いします。では、どうぞ。
帝国暦453年 3月5日 ゾンタークスキント艦内
フォン・オイレンブルク中佐
「…なんだかやけに頼りなく見える太陽だな。予定宙域はここで間違い無いか?」
「はい、中佐殿。あの小惑星帯が待ち伏せには好都合でしょう。すぐ前に1本と、探査範囲内ギリギリの位置にもう1本、こちらは抜け道の様な扱いらしいですがルートがあります。」
機雷を敷設したあと、当初は一番近い位置にあるガス惑星の大気圏内に潜む予定であったが、フランツィウス大尉が電子機器への負担とワルキューレの発着艦時の危険性の高さを指摘したために目的地をこの星系に変更した。確かに敵に探されているかも知れない今となっては、同じような位置に留まり続けるのは危険だろう。いっその事フェザーン回廊周辺宙域から抜け出すくらいの事はしてみてもいいかも知れない。次に拿捕した船にその辺りの情報が有れば本気で考えてみるかな。
「艦長、アンカー固定完了しました。全艦異常ありません。」
「結構、また退屈極まる待ち伏せ生活の始まりか。何か良い暇つぶしはないものかね?」
「そうですね…暇つぶしになるかどうかは分かりませんが、キング氏、あの叛乱軍の曹長だった男ですが、彼はどうやらホワイト嬢に恋心を抱いているらしいという噂が入ってきていますが。」
「恋心ぉ?なんでまたそんな事になっているんだ。一応敵艦に捕らわれている身同士だろうに、いや待て、なんだかそんな昔話があったような気もするな…囚われの姫と云々という奴が。で、当人達は実際の所どうなんだ?」
「いや、私も詳しくは分かりませんよ。クンツェ中尉からの又聞きですから…SPUの方では大分広がっている話だというのと、ホワイト嬢の方に脈は十分にあるのに対して、キング氏が、えー、いわゆる腰抜けだという事しか。」
「つまり進捗状況は0だという事だな。それならいいんだ。…だが少し、いやかなり面白い事件ではあるな。よし、私の部屋にキング君の方を呼んでくれたまえ。恋する若者と話すのも一興だ。」
ー十数分後、艦長室
『楽にしたまえ、別に君を追放するとかいう話をする訳じゃない。』
艦長室のソファーの上でガチガチになっている彼の姿を見ると、まだ軍人としての意識が抜けきっていないんだなという事が分かる。一度でも軍隊の飯を食ってしまうとこうなるものだ。私だって士官学校を出たばかりの頃は上官に対して声が裏返ってしまったり、兄や親父に対してさえ畏まってしまったほどだ。たった2ヶ月くらいのゲスト生活ではそうそう変わらないものだろう。
『今日は君に関するある噂を聞いてね、その真偽を確かめたいのと、もし本当の事なら注意して欲しい点が2、3あるのでその事の確認をさせてもらうための面談だ。』
『噂、と申されますとまさか自分がその、ホワイトさんに、という奴でありますか。』
『なんだ、分かっているのかね。なら話が早いな。で、それは本当の事なのかな。私に入ってきた情報は間に複数人挟まって伝わってきた訳だから信憑性としては薄いものなのだが。』
『じ、自分は確かにホワイトさんは素敵な女性だと思っていますし、尊敬できる方だと思います!生徒達に対する接し方も公平ですし…しかし、私はあくまでこの艦で唯一の同盟軍人です。今や400人を超えたゲストの中に1人だけ特別扱いするような方を作るわけにはいきませんし…』
『そうか、つまり君は今以上に彼女との関係を進展させるつもりはないんだな?それなら結構。いや実をいうと私は応援していたんだがね。君の方にその気が無いというのなら仕方がないな…』
『!お、応援して下さるというのは…?』
『いやぁ、艦内に一つや二つ色恋沙汰があると日常が刺激的になっていいじゃないか。時々他人のそう言った事に手だか口だか出すような不届な奴がいるが、そんな馬に蹴られて当然な輩は幸運なことに本艦にはいないしな。…それにもうすぐ収容定員に達するだろう?そうなれば君達ともお別れだ。何か一つくらい、大きなイベントでもあった方がいいと思ったんだがな。』
そのあと、何かボソボソと呟いたあと、彼は挨拶もそこそこに艦長室を出て行ってしまった。私の一言が最後の一押しとなったのか?もしそうだとしたら私は本国のお偉方が言うところの"憎き敵軍"の恋路を手伝ってやったことになるのかな?
まぁ、彼も進展はするとして、男女の恋愛の最終段階まで進むなんて言う性急な事はしないだろう。ワープがそういった女性の体に与える影響を知らないわけでもあるまい。健全なお付き合いと言うのならばそれこそ目の保養になっていいじゃないか…
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宇宙暦762年 3月7日 同盟首都星 ハイネセン
パトリック・アッテンボロー
『見ろ!ジェニングス!これは大変な特ダネになる予感がするぞ!いいか、題して"国境地帯の軍の緩み、帝国軍は既に隣人となりつつあるか?"だ!』
取材ノートを突き出してやると後輩は目を細めて仰反る。いつでもカチンとくる反応をする奴だ。
『なんですか薮から棒に…ああ、例の民間船が消えてるって言う話ですか。今度はどんな手を使って無理矢理軍との関係性をひねり出したんです?まさかこの前みたいに軍内部の地球教団の陰謀とかと結びつけて書くつもりじゃないでしょうね。』
『お前、前々から思っていたが俺に対する尊敬の心とか信頼とかはないのか?人をデマゴーグの達人みたいに言いやがって…』
『いえ、ちゃんと先輩の事は尊敬してますよ。我が社の期待の星ですし、最近の購読者投票でもNo3にまでいったじゃないですか。自分だって、別に悪く言っているつもりは毛頭ありませんよ。ジャーナリスト精神に則って本当の事を言っているだけです。』
『…どうだかな。まぁ今は許してやろう。それよりもこのネタだ!読んでみたまえよ、真実を探究するジェニングス君。』
『えー、…消息不明船の予想航路に通信途絶点、例年の平均よりは高いですが…どこに軍の怠慢なんて指摘する要素があるんですか?』
『分からないか?じゃあ教えてやろう!まず、このフィスカスとかいう徴用船だ。これについて例の基地に関係者のフリをして問い合わせたら、"調査中"ときた。軍隊という集団は身内の事に関しては対応が素早い連中で構成されているというのに、2ヶ月前の船について"機密なので答えられない"でもなく"調査中"というのはやる事がない地方の基地にしては不自然だな。次に、消えた船は全て独航船で、2隻以上の船団を組んで航行してるのは全て目的地に着いているか、コンタクトを保っている。整備の問題や危険宙域なんかが消失の原因だとすれば独航船だけに不幸が降りかかるなんて事はおかしいな?次だが…』
『まだあるんですか!?』
『次が一番大事な所だ。いいか?"度重なる不明船"、"独航船のみが消えてる"、"何か隠している軍"、前2つだけなら宇宙海賊の可能性があるから軍が隠す必要はない。逆に犯人を公開して自らの功を誇るまであるからな。つまり宇宙海賊ではない独航船の消える原因があるわけだ。なんだと思う?』
『まさか、帝国の工作員が入り込んでいて、通商破壊をやる為に船に爆弾を仕掛けてるとか…ですか?』
『それだったら何も地方で集中してやる必要はないだろ。事故宙域だって分散させた方が露見しなくていい。つまりだ、帝国軍の軍艦があの辺りで暴れている可能性はないか?という事だな。そうなれば軍はその事実を隠蔽して民間船が襲撃されるのを放置している事になる。責任問題どころの話じゃなくなるなこれは。』
『中々に理論が飛んでいる気もしますが…真っ向から否定できないのも確かではありますね。で、それ、いつ発表するんですか?』
『明日出る週刊フリートタイムズの編集長にねじ込んできた。つまり〆切まではあと3時間しかない!おまえにも手伝ってもらうからな!』
不平の声を上げる後輩を尻目に机に向かう。最初はつまらないネタかと思っていたが、やはり大事件というのは世間に隠れているだけで、ある所にはきちんとあるものだ。それを白日の下に晒すのはジャーナリストの使命だし、市民が求めている事でもある!やはり検閲や発禁なんかがないのは同盟の美点の一つだな。同盟憲章万歳ってところだ。
続く
キング君を出したくてやってみたんですが、なんかコケた感じがします。
アッテンボローの親父さんはジャーナリストとのことでしたが、フリーなのかどこかに所属してるのかは分からなかったので、今の時点では出版社に所属してる事になってます。ダスティが生まれたのは769年で、彼が第四子との事ですので、まだ20代の若手って感じですね。爺さんの方のダスティと殴り合ったくらいでしょうか?
今回もご意見、ご感想お待ちしております。