海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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考えてみれば平均2000字ちょっとというのは少ないですね。今回からは少し長くしてみます。
因みに艦名は「ゾンタークスキント」、日曜日の子供という意味でして、転じて「幸運児」という意味です。これもまた長いのは私の趣味です。厨二ですね。
今回登場する面々はもしかしたらメインキャラになるし、もしかしたらこの話限りの登場になります。出来るだけキャラが立つようにしていきたいですね。その点も御助言お願いいたします。


第三話 準備と募集と

軍務省 情報Ⅲ課 シュテファン分室

 

「おはよう中佐。かけたまえ。気分は良いかな?」

「はっ、先日は大変申し訳ございませんでした。帝国軍人らしからぬ言動と不見識をお許しいただければ幸いであります。」

「あぁいいんだ。そんなに畏まらなくても。私はある意味君の上司ではあるが、君の任務は軍務尚書閣下から来たものだから、ただのメッセンジャーに過ぎないといえばそうだしな。」 

 

「ありがとうございます。」 

 

 平民出身の高級士官といえば、貴族の若年士官に対して僻みから高圧的に当たるか、退役後のために媚びてくるかのように感情的要素の入る人が多数だと思っていたが、この人は何というか、本当に仕事を仕事と弁えている感じがする。 

 

「それで、これが今作戦の計画書だ。作戦名は『ベイオウルフ』。」

 

 渡された計画書に目を通す。「人狼」とはなんの捻りもない作戦名だ。もし叛乱軍の諜報機関に少し頭の回る奴がいたら作戦名だけで内容を予想してしまうだろう。内容としては大体大佐から聞いた通りで

・フェザーン回廊を通過して叛乱軍支配領域にて通商破壊を行う

・フェザーン通過時や作戦巡航中はフェザーンの独立商船に偽装する

・武装は最低限に抑えるので、敵との接触があった場合は戦闘を避ける

・叛乱軍の捕虜に関しては帝国には移送せず、現地で解放する

・乗組員は偽装の関係上、叛乱軍標準語、フェザーン訛りを日常会話レベルで操れる者を選定すること

 

「フェザーン訛りですか。私は幼年学校にフェザーン出身者がいましたので大丈夫ですが、そう多くいるものでしょうか。」

「それなんだがね、『乗組員は』とあるが、実際に喋れるのは敵の臨検やフェザーンの管理局の立ち入りを受けた時に応対する者、つまり書類上の乗組員だけでいいんだ。中佐を含めて2、30名位かな。他の砲術や装甲擲弾兵、ワルキューレ搭乗員なんかの連中は隠れていればいいんだからな。」

「2、30名ですか。それでも十分多いと思いますが…」

「社会秩序維持局から特別防諜任務という形式で既に軍内部でフェザーン訛りを喋れる者はリストアップしてある。本人達には伝えていないから、基本的にはこの中から君が選ぶようになる。」

 

 ずいぶん手際がいい事だと感心しながら再び渡されたリストをパラパラめくっていると、また思い出したように大佐が話し出す。

「それから、ちょうど今日をもって君は戦死扱いだ。一応お父君と兄君にだけは真実を伝えてある。だから君は今日からその乗組員選考が終わって出撃まで、この名前で通して貰う。」

差し出された名刺に書かれていたのは、

 

『軍務省特任船舶検査官 フェラックス・フォン・エックマン少佐相当官』

 

「戦死したのに降格からの軍属扱いですか。結構ですな」

「まぁどうせ仮の名前だし、使うのも出撃までの4ヶ月だ。我慢したまえ《少佐相当官》。乗組員の選考方法については君に一任する。面接しても良いし、なんなら探偵をつけて素行調査をしても構わない。慣熟期間を考慮して…そうだな、2ヶ月のうちには決めてくれるかな?」

「かしこまりました。では、失礼致します。」

 

 戦死扱いになっている以上、軍務省でうろうろする訳にもいかないので官舎でリストをめくる。

「取り敢えず門閥系と爵位が高すぎるのはダメだな。言葉の端々に高慢さが出てしまうし、何より機密保持の点で信用が置けない。爵位を持っているにしても自分と同じ子爵家以下か、帝国騎士級かに絞るか…」

 

〜翌日〜

 

「エックマン、エックマン、私はエックマン…」

官舎に届いた新しい軍属用勤務服と『変装用』という名目で付いてきたつけ髭を整えながら自己暗示をかける。今日はこれから昨日連絡した候補者との面接だ。こっちが緊張してどうする。平常心だマック、いや、フェラックス…

 

第15軍工廠 特別検査官室 ボート・フォン・フランツィウス大尉

 

「フランツィウス大尉、参りました!」

「どうぞ」

 部屋に入ると、30代くらいの船舶検査官がわざわざ立ち上がって迎えてくれる。

「私が今日、君を呼んだフォン・エックマンだ。急にすまんね。」

一応軍属とは言え少佐相当官にいきなり丁寧な態度を取られて面食らうが、それ以上に気になるのは余りに似合わない彼の口髭である。威厳を出す為に髭を伸ばす軍人はよくいるが、それにしてもこれは道化の類だ。何故あのように横にピンと伸ばしているのだろう…

「今日は君にいくつか質問をする。これは軍務省の人事課からの依頼でね、なんだったかな、『将兵の忠誠と勇気と向上心を測りもって軍の統一と強化を云々』という名目だが、まぁ、気楽に答えて欲しい。」

なるほど、最近大きな戦闘がないから人事の方も暇なんだろう。なんとか仕事を捻り出して予算確保なり勲章申請なりの出汁に使う気だな。

「まず大尉、君の現在の所属は近衛第一驃騎兵艦隊の巡航艦”ズィーベルV”の副長であっているかな?」

「はい、一年半前の定期移動で着任いたしました。」

「ん、では、君は祖国のために宇宙の塵となる覚悟があるかね?」

「小官は商船学校出ではありますが、祖国愛と義務感については幼年学校組や士官学校組にも負けるつもりはありません。」

「結構、では所謂”後顧の憂い”はあるかな?」

「はい、その、一年前に婚約した方がおります。佐官になれたら身を固めようと考えております。」

「うん。羨ましい限り。結構。では、演劇やそれに類するものの経験はあるかね?」

「はっ演劇、でありますか。」

まずい、これはアレか、この前酒の席でやった軍務尚書の物真似の話が漏れていて、それを聞かれているのか。

「?どうしたね大尉?」

「いっいえっ特に演劇は経験しておりませんが、その、声帯模写などは得意であります。」

「…結構。では次からは専門的な話になるが……」

 

〜30分後〜

 

「では、失礼いたします。」 

 

 敬礼し、扉を閉めて、一息つく。結局何を目的とした面接だったのだろうか。何故か商船学校の話や恋愛経験まで聞かれたが、まさかとは思うが義父となる方の内偵だったのか?それにしては航宙や戦術判断、人員管理等の専門技術に関する質問もあったし、どうも不思議な経験だ。

 

大尉退出後 特別検査官室 エックマン少佐相当官(仮)

 

なんとか一人目の面接が終了だ。手応えは良好。軍内部には後顧の憂いがあると怯懦になるとかいう言説もあるが、個人的にはそういうものはあった方が生きて帰るために能力を出し惜しみしないし、自暴自棄になる事もないので良い兵士になれると思う。演劇経験はないとの事だが、そこは訓練なり慣れなりで補えるだろう。採用すれば大尉だから副長か三課長のどれかだな。それにしてもあの入室時の顔はよかった。変装用だと舐めてかかっていたが、どうやらこの髭は威厳を出すのに効果的面のようだ。いっそ本当に伸ばしてみてもいいかもしれんな…ふふ…

 

                        続く

 

登場人物

フェラックス・フォン・エックマン少佐相当官

オイレンブルクの偽名。軍属なので勲章の類はないが、いろんな資格は持っているという設定。ちなみに名前の元ネタは「海の鷲」より

 

ボート・フォン・フランツィウス大尉  28歳

辺境の男爵家の4男。受勲歴は黒鉄勤続章・救護者徽章・三級双頭鷲章・装甲擲弾兵予備資格者バッジ。

 

書いた人

平民。英検3級。

 

 

 




銀英伝が原作なのにその要素が全くないのは自分としても遺憾であります。もう少ししたら出撃します。
フォン・エックマンはあのルックナー伯がゼーアドラーを造る時に使用した偽名です。
今回も、感想やご指摘お待ちしております。
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