海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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危ない危ないギリギリセーフです。今回、ゾンタークスキントはおろか、帝国人だって出てきません。今彼らは受信点にむけて移動中なので…
では、どうぞ。


第三十話 悪意

宇宙暦762年3月17日 シュパーラ5 同盟軍哨戒基地 司令室 ヴィルヌーヴ准将

 

『はっはっはっはっ!…おい大尉!どういう事だこれは!』

 

何食わぬ顔で出撃報告書の束を持ってきた大尉を怒鳴りつける。こいつはビュコックと違って生意気な事は言わないが、何しろ持ってくるのが悪いニュースばかりだ。それにしたってもっと申し訳なさそうな顔をして持って来ればいいものを平然と出してくるから余計腹が立つ。淹れる紅茶も妙に渋いし。

 

『はい、その…例の義勇艦隊がですね、不審船の発見通報をひっきりなしに送ってくるんです。軍としては無視する訳にもいきませんからその度に緊急出動をかけていたらそのようn』

 

『だから!だからといって、たった3日間で59回だぞ!59回!ここは最前線じゃないんだぞ?いや最前線だってこんな頻繁に出動してないだろうに、それで成果は上がっているのか!?』

 

『いえ、申し上げにくいことですが、それらしき発見報告はありません。およそ半分が岩塊やその他デブリの見間違いと思われる誤報や他の民間商船の誤認、残りは、えー、この第3008戦隊の報告によりますと"当該宙域に船影、又はそれに類するものなし。義勇艦隊の興奮と緊張、愛国心が生み出す幻影と認む"とありまして、要するに…』

 

『はっきり言ったらどうだ!"ズブの素人がなにもない宇宙空間で錯乱して艦隊に無駄足を踏ませただけです"と!これだから嫌だったんだ、素人が専門家に余計な口出しをするのは!義勇軍なんて大層な名前をつけておいて、実際にやってることは軍の指揮系統の混乱に作戦妨害!ある意味利敵行為じゃないか!59回分の緊急出撃でどれだけの物資と予算が無駄になったか…!3ヶ月後までの物資消費計画が全ておじゃんだ!ただでさえ臨検小隊の編成と捜索隊の連中の出動に予備費まで出してギリギリだというのに…』

 

大尉は黙ったまま私の話を聞いている。もはやこうなると基地内に残してある艦隊をそんな素人の通報のために動かす訳にはいかなくなる。いくら辺境とはいえ一応は国境地帯であるし、ある程度の即応打撃部隊は必要だ。これ以上こんな予想外の出費が続くようであれば我々はいざ召集がかかった時にも動けないような張りぼて同然の集団になってしまう。何か手を打たなければ…義勇艦隊の通報を無視するのは簡単だが、後からあのジャムシードのポマード野郎に文句を言われるのも癪だしな…いい手…そうだ!

 

『おい、今捜索隊のモンジュはどこにいる?あの《有能な》ビュコック君にビッグニュースを届けてやろうじゃないか。』

 

ーーーーー

翌日 レイダー捜索隊 戦艦モンジュ艦内 A・ビュコック少佐

 

『喜べ、捜索隊に増援を送ることになった。第7戦艦戦隊からフガンとゼンケン、第8からヤクシと、巡航艦が9隻だ。一気に戦力は倍増したというわけだな。ここまでしたんだから是非とも早く例の帝国艦を見つけ出してくれたまえ。…それから、追加の命令書は増援隊の編成表と一緒に送るので目を通し、必ず遂行するように。伝達は以上。』

 

捜索隊の出撃から2週間以上が過ぎ、最初に目星をつけた小惑星帯に機雷の残置を認めてからこっち、レイダーそのものはおろか、奴の痕跡すら見つけられていないからそろそろ司令官から催促なりお小言なり、あるいは中止命令でも飛んでくるか、と思っていた矢先の司令部からの超光速通信で身構えてしまったが、蓋を開けてみれば終始気持ち悪いほどにこやかな司令官が旧式の戦艦を中心とした二線級戦力とはいえ一気に今の倍の兵力をポンとよこしてくるとは…欲を言えば1隻しかいない情報収集艦がもっとあった方が捜索範囲も広がっていいんだが、くれたものに文句をつけるのは軍人のやる事ではない。

 

『ありがとうございます司令官。ご期待に添えるよう更に捜索宙域の絞り込みを進めます。』

 

『そうかそうか。余り気張らずやってくれたまえ、ビュコック少佐。睡眠と適度な休息は健康のもとだからな、では。』

 

…なんだか嫌な予感がする。いつも私と喋る時は不機嫌か怒っているか、ネガティブな反応をする司令官が私の健康を気遣う…?

 

『おいウィドック、どう思う?あの司令官の態度を。何かいい事があったとは思えないが…』

 

ちょうど送られてきた編成表と追加の命令書とやらに目を通していたウィドックに問いかける。なんだ、やけに真剣な顔つきで…

 

『司令官が上機嫌、というかニヤニヤしてた原因はこれですよ。いや、向こうにしてみればこれは確かに上機嫌にもなりますよ。肩の荷を下ろせた上に、その荷物を丸ごと、あー…苦手な人に押し付けられるって事ですからね、いいですか、命令。捜索艦隊は前命令の通り、侵入の予想される帝国艦の捜索を全力を挙げて続行すること。また、我が軍に協力を申し出る義勇艦隊よりの不審船舶発見の通報は全て捜索艦隊に転送するため、その協力と情報を有効に活用し、義勇艦隊を危険に晒さぬよう考慮して行動すべし。…ですって。』

 

『義勇艦隊の通報…?そんなものにいちいち構っていたらそもそも怪しい宙域をしらみ潰しに捜索していく今の方針が崩れてしまうじゃないか!いくら使える艦が倍になったと言ったって、今のように3隻1組で動かしていたらどう考えても数が足りないぞ!』

 

『しかも手が混んでますね、まぁ色んな戦隊から引っ張ってきてると思ったら、見事に旧式も旧式な艦ばかりですよ。この3010所属のタイシャクなんかすごいですよ。フォルセティ会戦の武勲艦ですって。私より年上です。』

 

『…どうやら敬愛する我らが司令官閣下は面倒事を丸投げするのがお得意らしいな。こちらの意図とは関係なく勝手に動き回ってくれる義勇艦隊に、艦隊行動の邪魔になりかねない屑鉄戦隊を一纏めにしてプレゼントくれるって訳だ。ありがたくて涙が出そうだよ。知っていたが、それで、もしもレイダーと撃ち合って撃沈される艦が出る可能性とかいうものは考えていないのかな?しかし、命令された事は仕方ない。捜索隊の皆には大分負担を強いる事になるが、義勇艦隊の通報には1隻ずつ向かわせて、できるようなら3隻1組で運用するしかないかな。わざわざ"危険に晒さぬよう考慮して"なんて余計な一言をつけるのは通報を無視するなって事だろうし…最優先目標がレイダーの発見なんだか素人義勇艦隊のお守りなんだか分からなくなってきたなこれは。』

 

出撃した時はさっさと見つけて包囲してやればいいと思っていたんだが、そうもいかなくなってきた。限られた実力しかない戦力ではできる工夫も限られてくる。やはり工夫というのは必要に迫られてやるものではなくて余裕があるのをより良くしようとしてできるものなんじゃないだろうか…?

 

ーーーーー

同日 同盟首都星ハイネセン 

パトリック・アッテンボロー

 

『何をそんなにイラついているんです?フリートタイムズの記事がコケたからですか?それともまた義理の親父さんに痣を作られたから?』

 

『両方だ!両方!分かってるのにわざわざ言語化するんじゃない!いや、正確に言えば前者の方の比重が重いな。痣の方はもう慣れた。』

 

『まぁ3時間の突貫工事で書いたような短い記事でしたし、第一反響にならないものなんてこれまでにもあったじゃないですか。2ヶ月前の軍用レーションがカビてるって内部告発が実はバニラビーンズの見間違いだった奴とか。』

 

『ジェニングス!』

 

『はいなんでしょう?』

 

『お前、何で俺の失敗談とかの黒歴史とかに対してだけ謎の記憶力を発揮するんだ!?アレか?実は俺が親の仇だったりするのか?』

 

『いえ、そりゃあ先輩、あなたのファンだからですよ。でもなけりゃ締め切りまで3時間だ30分だなんて無茶振りする人の下についてないでさっさと転属願いでもなんでも出してます。』

 

『…世辞は好きじゃないが、今回は素直に受け取ってやろう。更に大サービスで不機嫌の理由も教えてやる。見ろ!ジャムシードの日刊紙だ!"帝国艦侵入の可能性により出航した義勇艦隊は…"なんてデカデカと書いてある。このネタを最初に嗅ぎつけたのは俺だぞ!それが本人の記事は与太話扱いされてて、それを膨らませた田舎もんの記事は艦隊を動かすまでになってるなんて…くそっ!ハイエナ共め!』

 

『仕方ないですよ。何たって向こうからしてみれば近所の事ですが、ハイネセン市民にとってはジャムシードの事なんか、名前すら知らない人だっているくらいでしょ?』

 

『…ジェニングス。お前今急ぎの仕事あるか。』

 

『そりゃあ山ほど、と言いたい所ですが、生憎月末誌の記事は書き終わって、週刊の方は今出してきたとこです。優秀なので。』

 

『よぉし!出張旅行だ!一度噛み付いた獲物を他人に攫われたままにしておくのは俺の趣味じゃない。お前も愛すべき後輩として俺がスクープを手にする瞬間の目撃者にしてやるからな!目的地はジャムシードだ!』

 

『出張と言ったって、先輩まだ昨日の国防委員会の議事録まとめ終わってないじゃないですか!締め切り明日ですよ。』

 

『ファンにとって1番の喜び…それは対象に喜んでもらう事だ。つまり…手伝ってくれ!後半部だけだから、な!』

 

続く

 

 

 

 

 

 




ヴィルヌーヴさん、軍人向いてないんじゃないですかね?大尉も別に悪いわけじゃないのに怒りをぶつけられて…ゾンタークスキントがあのままどこかで待ち伏せを続けていたらビュコックさんの事ですからもう見つけられていたかもしれません。危ない危ない…
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