海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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1日空いてしまいましたが続編になります。半年サボっているうちに、このスペースに何を書いていいのか忘れてしまいました。では、どうぞ。


第三十一話 新たな命令

帝国暦453年3月18日 ゾンタークスキント艦内 

フォン・オイレンブルク中佐

 

「うん、大丈夫だな。このポイントで間違いない。それにしても立派な連星だな。後はここで通信を待てばいいという事になっているが…大尉、どんなものだと思う?」

 

「そうですね、本来暴れるだけ暴れて弾薬その他が尽きたり鹵獲品がたまれば帰ってこいというレベルの任務でしたから、ここでわざわざ呼びつけて帰還命令を出す訳ではないと思います。任務の追加だとすると、この宙域の叛乱軍兵力を探ってこいとか、位しか思いつきませんね。まさか叛乱軍の首都星に突撃しろなんて事は言われないでしょうし。」

 

「そうだな、もしかしたら単独敵中にある我々に御嘉賞を賜るなんて事があるかとも考えていたが、わざわざ受信点を指定するような手の込みようだし、それもないかもしれんな。…あまり無茶な事を言われても限界というものがあるんだがなぁ。」

ゲストの人数も大分増えてきた事だし、もし危険な任務…大尉の言うような首都星への突撃程ではないにしても、叛乱軍を標的にしたゲリラ戦やらをする事になってしまったら困る。向こうとしては艦全体が敵だからいいようなものの、こちらとしてはなんだか"人間の盾"を使っているような気分になる。もし本当にそんなリスクの大きな命令が来るようになればSPUの人々をどうするか…

 

ーーーーー

 

 

「……!艦長!来ました!…随分と長い文章ですね。…モニターに出します。」

 

ほー、これは凄い。暗号化が3重になってるじゃないか。という事は御嘉賞なんて事は万に一つもないな。それにしても暗号解読作業というものは時代が進めど最終的には手作業だから面倒なんだが…

 

「印刷してくれ。どうやら私宛の様だ。自室で解読してくる。」

 

ーーーーー

 

Gが…aで、a12がHK…ゾンタークスキントだな、ここまで来ればあとは消化試合のようなものだ。…これは、なかなか…難しいことを言ってくれるものだな。過小評価されるのは嫌いだが過大評価も内容によっては頭痛の種だ。とにかく士官連中には知らせてやらなければ。

 

「全艦、こちらは艦長だ。士官・准士官は5分後までに全員会議室に集合する事。その他乗員は通常配置にて勤務を続行せよ。以上。」

 

ーーーーー

 

「よし、全員揃ったな。では今回、本国から送られてきた追加命令を読み上げる。まず、"諸般の事情及び戦況の変化により、ベイオウルフ作戦に一部変更を加える。で、次から本文だ。一、ゾンタークスキントは、作戦区域をフェザーン国境方面より変更し、より重要と思われる宙域へ移動、引き続き叛乱軍への通商破壊活動を遂行すべし。二、ゾンタークスキントの帰還時にはイゼルローン回廊を使用する事。また、その際には敵前線の補給網・通信網を撹乱若しくは遮断し、帝国主力の正面圧力を直接に減ずる事。三、これ以上の交信については危険性が大きいために基本的には行わない。よって、貴艦のイゼルローン回廊通過時の支援は行えないものとする。…以上だ。」

 

「あながち首都星への突撃と変わらない事になりそうですね、これは。」

 

「そうですか?フェザーン回廊だってあんな嵐にはあったものの無事通過できたんです。同じ回廊ですし、イゼルローンの方だってなんとかやれるんじゃないですか?」

 

「はぁー…少尉、フェザーン側は叛乱軍の方も油断していただろうし、第一展開している戦力の量も質も桁違いだぞ。それに回廊自体の長さだって軽く3倍は見ておいた方がいいな、その中を叛乱軍の注目をわざわざ集めながら突破せよというわけだ。艦にクリームを塗りたくってもスムーズにこなせるか怪しいとこだな。」

 

「クリーム?何の話です?」

 

「ジョークだ、ジョーク!…艦長、取り敢えずの方針はいかがしますか?」

 

「そうだな、大尉の指摘した通り、イゼルローン回廊の突破は非常な困難を有するものだ。そんな大事業を疲れ果てた乗組員にやらせるのも余り良い考えだとは思わない。訓練期間を合わせればもう全員5ヶ月も直接家族と会っていないからな。まだ今のところ戦果と敵中にただ一隻で潜行している興奮とで士気は保つことができてはいるが、だからといってあと1年も2年もこちら側にいた後で更に回廊突破を行うのは難しいのではないかと思う。…だから、回廊方面に徐々に近づいていく形で作戦を続けていき、聖霊降誕祭…6月半ばには突入体制を取れるようなスケジュールを組もうと考えている。少し前の海賊のビラの件以来音沙汰がないが、反乱軍のほうも規模は不明ながら我々を探しているようだし、宙域を変えるのも良いタイミングだろう。それにはまず新しい航路図を入手しなければならないが…」

 

「では次の目的地はこの星系にするのはどうでしょうか?SPUからの情報では長距離旅客便等の行動範囲の比較的広い船がよく使用するルートとのことです。もしそういった船を捕獲することができれば、ある程度広範囲、それこそイゼルローン回廊周辺の航路図の入手の可能性も出てくるのではないかと考えます。」

 

「分かった。大尉の提案を採用する。他に疑問点や意見具申のある者は?…よし、大丈夫なようだから今回は散会する。それから、もしかしたら回廊突破を不安に思う者も居るかもしれない。下士官・兵にはまだ宙域を移動するという事のみを伝えるように。」

 

「「「はい、艦長!!」」」

 

ー困難な任務?結構!私には素晴らしい艦と、帝国随一の部下たちがついている!やってできない人向けは一つだってない事をみせてやる。

 

ーーーーー

3月19日 帝国本土 軍務省の一室 ハンス・E・シュテファン大佐

 

「で、これが例の艦に送った命令文の原稿かね。全く、わざわざこんな場所まで足を運んだというのに失望したよ。なんだこの『より重要な宙域へ移動』というのは。それに最終目標が回廊突破だと?貴官はこんなぬるいもので叛乱軍の2個艦隊を引きつけられると本気で思っているのか?」

 

またもやアポも無しにいきなり訪ねてきだと思ったら早々に文句をつけ始めた。相変わらず貴族しぐさの教科書通りの見本を見せてくれる伯爵閣下だ。第一、失望したとか言っているが情報Ⅲ課は技術本部の使い走りではないし、この伯爵にベイオウルフ作戦に関する命令権はない。勝手に興味を持って首を突っ込んできて、責任もないのに文句を並べ立てているだけだ。そう考えると腹が立ってきたな。

 

「はい。いえ、伯爵閣下。私としましても、さすがに2個艦隊を引き付けられるような内容であるとは考えておりません。しかしながら、明確に彼らに必死行じみたことを命ずるのは…」

 

「わかっているのならばすぐに実行したまえ。前にも言ったように有人星系でも派手に襲撃させれば民主共和性などという劣った思想を奉ずる叛乱軍のことだ、それなりの反応は期待できるだろう。そもそも、くだんの要塞建設は皇帝陛下の信任厚く、私の友人でもあるリューデリッツ閣下の面子に関わる問題だ。商船を改造しただけのような木っ端軍艦の1隻くらいは捨て石にするようでなければいかん。」

 

「…ゾンタークスキントはその様な小型艦といえども、畏れ多くも!皇帝陛下の勅命によって行動し、全帝国軍艦艇の中で最も敵に近いともいえる独立部隊であります。いかな伯爵閣下といえども、彼らを『捨て石にする』というご発言は、陛下の御意に反する不見識なものではないかと拝察いたしますがいかに!」

 

「なにぃ!?平民風情が陛下の名を騙りおって!……もういい!貴様にはもう期待せんからな!」

 

そんな捨て台詞を吐いて伯爵閣下はまたもやこちらを振り返る事もなく出て行ってしまった。やはりああいう手合いの貴族にはそれより上の名前を出してやるのが特効薬ともいえる対応の仕方だ。…まぁこれで私の頭の上を飛び越えて勝手に命令を捩じ込む等というようなことはしなくなるだろう。常識で考えてみれば、イゼルローン回廊の単艦での突破だって必死任務と言ってもいいくらいの難しさだ。あんな啖呵を切ってはみたものの、実は私の方こそ御意に反するようなことをしているのかもしれないな…

 

続く

 

 

 

 




文中のイゼルローン回廊の話ですが、あの回廊は「イゼルローン要塞があるからイゼルローン回廊という」のか、「イゼルローン回廊にある要塞だからイゼルローン要塞という」のか分からなかったので、本文では要塞ができる前から「イゼルローン回廊」と呼ばれている事にしました。でもケンプ(提督の方)が「ガイエスブルク回廊、いや、ケンプ・ミュラー回廊かな?」とか言っているあたり、あの宙域の名前はそこにある建造物依存な気もします。その点、ご存じな方がいらっしゃれば修正いたします。
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