海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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お待たせしました。同盟軍側の動向がマンネリな気がするんですが、彼らも頑張ってはいるんです。今回、ちょっと話が前進します。では、どうぞ。


第三十二話 放射能恐怖

宇宙暦762年3月20日 午前9時20分 レイダー捜索隊 戦艦モンジュ艦内

A・ビュコック少佐

 

義勇艦隊からの通報を受けて分派していたイソタケルが戻ってきた。…戻ってきたと言う時点で成果はあげられなかったことが分かるが、一応回線を開く。

 

『どうだったウィドック?』

 

『ええ、今回も見事に空振りです。通報にあった"不審な光点"は隕石群に光が反射したもので…せめて見間違えるにしてもただの岩を船だと思ってしまうのはどうにかなりませんかね。』

 

『敵を探して特定するというのはプロの軍人でも難しいからな。艦型照合システムやレーダーも最低限のものしかないんじゃ仕方ないだろ。君だってレイダーを無害なフェザーン商船と見間違えた訳だし、他人の事は余りとやかく言えないんじゃないか?』

 

『それは確かに落ち度ですが、でも個人的にはまだ信じきれない部分があるんですよね。帝国軍に女性兵の制度がないはずなら、あの船に船長夫人が乗ってたのはおかしいじゃないですか。』

 

『…女装でもなんでもそれくらいの小細工はいくらでもやりようがあるさ。何にしても、第1小隊は次の捜索ポイントに移動だ。ウィドック少尉は次の通報に備えてイソタケルに残留すること。以上。』

 

それにしてもここの所、民間船の被害報告は2月末の小型船が通信を絶ったというものだけだ。被害が出ていないのは良いことだが、1、2月で10隻以上の船が消えたのに対して明らかにレイダーの活動は鈍化している。事故でも起こして勝手に沈んでしまったのか?それともまたフェザーン回廊を抜けて逃げ帰ったか?いや、それはない。あらゆる危険を犯してフェザーン回廊を抜けてきたのに、ビラの一枚程度で弱腰になるようでは意味がないだろう。ではなぜ…?

 

『少佐。いいかね。また義勇艦隊から通報だよ、しかも2つ同時だ。片方は"航路上に不審船発見、増援を求む"で、もう片方は…随分遠いが"船の残骸らしきものを見つけたから来てくれ"だとさ。またイソタケルを分派しなくちゃならんな。で、本艦はどっちに行く?』

 

『ありがとうございます艦長。…どちらかといえば残骸の方が個人的には気になりますね。通報したのは… プルクワ・パ?ですか。この船は誤報にしてもとんでもない見間違いが少ない印象ですし、無いに等しいかも知れませんが、可能性がありそうな方に戦闘力の高い本艦が行った方が良いのではないかと思います。』

 

『よし分かった。ではイソタケルの方には不審船とやらの方に行ってもらうとしようか。会員2号の少尉くんもいる事だし、もし向こうが本命だったらすぐ分かるだろう。では君は休んでいたまえ。通報点に近くなったらまた呼ぶからな。そうだ、イソタケルとの中継ブイの周波数はまだ合わせてあるから自由に使ってもいいぞ。リアルタイム通信とはいかないが作戦会議位には使えるだろ。では、な!』

 

…モンジュの艦長はある意味貧乏くじを引かされ続けている訳なのに不平の一つも言わない。ここのところの唯一の救いはあの艦長と一緒に仕事が出来ることかな。

 

ーーーーー

帝国暦453年 3月20日午前8時 ゾンダークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「別にあり得ないルートでもないからな。商船がいたって不思議ではないが、それにしても妙な動きだな…何をやってるんだあいつは?」

 

次なる待ち伏せ地点への移動中、逆探に反応があったので確認しにきてみたら、妙な動きの商船を発見した。少し進んではぐるりと周り、また少し進んでは周りを繰り返している。

 

「まだ向こうにはこちらは見えていないはずですから回避運動ではありませんね。掃宙艦なんかはああやって面制圧しますが他に僚船は見当たりません…船外作業員の救助活動中ですかね?」

 

「それなら救助活動灯がついてるはずだろう…何か船腹に書いてあるな、ラ、ラワ…ラワルピンディ…船名かな。会社名や船籍番号はなし。久方ぶりの獲物とするかどうか…」

 

「そうだ、測量船なんかこういう動きをよくしませんか?だとすれば1隻だけでこんな辺鄙な所にいるのも説明がつくと思いますが。」

 

「測量船か、それならレーダー波を出していた説明もつくな。…よし。襲撃する。総員戦闘配置、ジャミングは向こうがレーダー波を出している関係上、標的からのアクションがない限り使用しない。速力4分の3!」

 

ーーーーー

 

「艦長、そろそろ向こうの視認範囲内に入ります。標的の動きは変わらず。並航戦にしますか?」

 

「そうだな。面舵20、下げ舵10!」

 

「面舵20、下げ舵10了k」

 

「!緊急!標的より電波発信あり!」

 

「…!内容は分かるか!?」

 

「はっ、発信軸方向がずれていて、内容は不明です。発信の短さからして定時報告の類かも知れませんが…」

 

「いや、分からんぞ。今、9時14分だな。キリのいい時間じゃない。…怪しまれても構わん!機関最大戦速、ジャミング開始!砲術どうか!?」

 

「主砲1、2番ともエネルギー充填率正常。側砲も充電及び装填完了。いつでもどうぞ!」

 

と、向こうの船から通信が入る

 

『おい!こち…接近…船!我々はジャムシー…義勇…ラワル…ンディだ!船名と…の内容、目的地を説…しろ!くそっ!なん…調子が悪…ぞ!』

 

ジャミングの影響で標的からの通信は途切れ途切れの状態だ。これでは長距離通信は絶望的だろう。それにしても義勇…なんとか、か。我々を探しているのは叛乱軍だけではなかったと言うわけだ。まぁ帝国内にだって貴族の私兵という名のそれなりの軍事組織はあるから、そういうのがいる事自体は不思議でもなんでもないが、これは穏便に済ます事はできなさそうだ。作戦開始以来初めての撃ち合いになるかもしれない。

 

『聞こ…いるのか!?船を…めろ!こちら…武装…るぞ!撃つぞ!』

 

とりあえず無視の方向でいこう。…よく見れば船橋らしき場所の側面に異質な箱状のものが貼り付けられているようにみえる。まさかアレが武装という奴か?撃つにしてもあの取り付け方ではせいぜい射界は前方120度といった所だ。右側背から接近中の我々は射界外…ん?

俄にその箱から白煙が上がり、赤熱した飛翔体が射出されたのが見えた。だがそれらは向かうべき標的を見つけられずあらぬ方向へと飛び去っていく。

 

「…射界も間合いも分かっておらんのか、とんだ義勇軍だな。しかし、撃たれたからには我々は戦闘状態だ!側面偽装板開け!それから、例の脅かしも試してみようじゃないか。」

 

『ご機嫌よう、義勇軍の方々!我々は帝国巡航艦だ!諸君らは今の軽率な敵対行動によって撃沈対象となった!騎士道精神の持ち主として降伏の機会を与えるがいかに!?』

 

少し芝居がかりすぎた気がしないでもないが、本格的戦闘に際して艦橋メンバーだけでも余裕がある事を見せるのは指揮官の仕事の一つでもある。

 

『帝…!?冗談じゃ…!!回頭!おも…いや…!ごくつぶし…配置に…け!』

 

こっちに聞かせるつもりがないような驚愕と恐怖の喧騒がジャミングされた通信回線に乗って入ってくる。どうやらミサイルが弾切れらしいとか、他の舟に連絡を試しているようで、降伏なんて事は頭にないらしい。では、劇場の開演だ。

 

『残念だが時間切れだ!全艦対ショック姿勢!レーザー水爆ミサイル発射用意!!』

 

もちろんそんな高価なものはゾンタークスキントには積んでいない。第一、こんな近距離で下手すれば十数隻が消滅しかねない加害範囲をもつ兵器を使えば対象と一緒にめでたく心中だ。冷静になって考えてみればわかる事だろうが、そんな隙を与えずに次の手を打つ。

 

「よし!紅の場合!」

 

言うが早いか、艦側面から大量の光と煙が噴き出す。いつか騙し討ちに使った火災偽装設備の出力をちょっといじってやれば、こんな具合に目眩しと煙幕の完成だ。向こうから見たらさぞ巨大な兵器が射出されつつあるように見える事だろう。

 

『水ば…!わ、分かっ…!降伏す…!やめてく…!頼…から核は…や…てくれ!』

 

そんな悲壮な叫びと共に船橋の窓や商船らしく側面に等間隔で設けられた舷窓からハンカチ、ナプキン、タオルに下着のようなものまで、白い布状のものを総動員して振っているのが見えた。流石に義勇軍とはいえ、宇宙船乗りなら誰でも知っている放射能への恐怖に心を折られたようだ。なんにしろ手足は義手・義足でなんとかならない事はないが、放射能に関してはそうもいかない。

 

「艦長、降伏の意思を示しているとはいえ、向こうは曲がりなりにも武装集団です。接舷は更なる威圧とこちらの安全のため、左舷のヒートシリンダーで行おうと思いますが。」

 

「よし、十分に気をつけてな。武装解除は慎重を期すこと。」

 

「かしこまりました。では行ってまいります!」

 

これから更に一悶着、なんて事がない事を願うが…それに襲撃直前の電波発信も気になる。早めに事情聴取を済ませなければ。

 

続く




色々あります。裏設定とか。
まず、モンジュが向かった方の通報をした船、アレは「プルクワ・パ?」が船名です。ビュコック少佐が聞き返してる訳ではなく、?まで入って正式名称です。フランスにほんとにいるお船でして、面白い名前だったんで出しました。
次に通信の話ですが、イソタケルは旧式なので超光速通信(以下FTL)設備がないって設定をつけました。でもそれだと他の艦隊とか、分派された時の連絡が難しいと思ったので、「中継ブイ」なるものを使用して、超光速とはいかずとも光速にまぁ近いんじゃないか位の速さで通信可能ってことにしました。義勇艦隊の他の艦もそんな感じで、タイムラグがありながらも通報ができるようになってます。あと映像とか音声とかは送れずに送れるのは文書だけとかいう縛りもあります。この辺独自設定であります。
えー、あとは…放射能恐怖について、ヴェスターラント核攻撃は確かに民間人を虐殺したという側面がありますが、貴族側陣営をひっくり返す程の衝撃を与えたのは、「核兵器」というものが遺伝子に刷り込まれるレベルの恐怖と暴虐の対象だからじゃないかと思うんです。だから、よほど銀英伝に出てくる人達は今の人類より核に対するマイナスイメージがすごいんじゃないかと思って書きました。こんなものですかね。
感想やご指摘など、引き続きお待ちしております。
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