海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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やっぱり夜勤が続くとこう言う時間になってしまいます。申し訳ありません。では、どうぞ。


第三十四話 相談

宇宙暦762年3月21日 レイダー捜索隊 戦艦モンジュ艦内

A・ビュコック少佐

 

『死体がない?1人分もか?』

 

『1人分どころじゃありません。欠片も見当たりませんでした。まるで乗員だけ蒸発してしまったみたいに…』

 

『妙だな…通信は切れていたんだったな?』

 

『はい。ラワルピンディを見つけて、その時点から何か変だとは思っていたんです。機関は停止していましたし、船橋に灯りは点いていましたが人影が見えなかったので、艦長と移乗シャトルを送ろうって話をしている時に急に爆発したんです。その後は機関にまで爆風が回ったのか一気にバラバラに。』

 

『そうか。ヴィドック、君は…私がこれがレイダーの仕業じゃないかと言ったらどう思う?』

 

『そうですね…五次元解析にもそれらしいものはありませんでしたし、レイダーは一応帝国軍です。通報を検知した段階、いやそれ以前にラワルピンディは武装していますから撃沈されていても不思議でもなんでもありません。わざわざ船を残しておいて、時限爆弾を仕掛けておくなんてまどろっこしい事をしていくものですかね。』

 

『それはそうだが、現にこうして我々は謎の爆発の調査のために足止めを食っているわけであるし、それがレイダーの狙いであるとすれば目論みは大成功だ。今頃やつは数光年の彼方って寸法だからな。更に言うなら死体がないって言うのも共通点だ。あのフィスカスもそうだっただろ?』

 

『そういえばそうでしたが…アレは爆発から時間が経ってましたし、積荷も機雷だったために見つからなかったって事になったじゃありませんか。同乗させていた曹長の殉職も認定済みですし。』

 

『確かにそうだが、考えてみれば妙な話だ。船の残骸は見つかった、レイダーがいる事を示したあの通信衛星もだ。それなのにそれには血痕1つなかったんだぞ?』

 

『では、レイダーは船を沈めるだけに飽き足らず、船員の拉致までやってると言うんですか?まさか目的は奴隷狩りなんて事はありませんよね。あの優しそうな人に限ってそんな時代遅れな…』

 

『奴隷狩りとまでは行かずとも、物流や兵站を無力化させるにあたって最も重要な事はマンパワーをすり潰す事だ。いくら高性能な輸送船があった所でそれを効率的に運用できるプロがいなければどうしようもないからな。その点では商船員の拉致というのは最適解ですらある…が、それを追いかけてる我々からすると困るな。』

 

『人間の盾を使われているも同然ですからね。もしレイダーを見つけたとしても、撃沈のみを目的として撃つわけにはいかなくなりますか。』

 

『しかしそれでこちらが不利になるのも避けたい所だしな。解決策としてはレイダーが抵抗を諦めるくらいの包囲網を敷いて、降伏を促す事位か?』

 

…考えようによっては、これまで行方不明になった商船の乗組員がまだ生きている可能性が出てきたというのは不幸中の幸いとも言える発見かも知れない。とりあえずやるべき事は戦略の根本である戦力集中だ。今回のラワルピンディの件で、レイダーは義勇艦隊にいるようなにわか作りの武装商船くらいなら1対1で降伏させられるレベルの実力があると言う事だから、彼らにはせめて2隻組の集団行動を取らせるとして、捜索隊もラワルピンディ遭難点を中心に配備し直さなければ…

 

ーーーーー

同日 ゾンタークスキント艦内

フォン・フランツィウス大尉

 

「…身体を洗う場所。3文字。」

 

「風呂場…!」

 

「またやってるのか?よくこんな長い時間持つものだな。一体何冊持ち込んだんだ?」

 

士官食堂に来てみたら、ツァーンとクンツェが透明な液体の入った瓶を挟んでクロスワードをやっていた。無論瓶の中身はただの水ではない。ツァーンの言うところの"こちら側の井戸水"だ。それにしてもこいつ時間のある時はいつも呑んでいる気がする。

 

「いや、これはSPUが作った奴の帝国語版です。中尉が貰ってきたのをやらせて貰ってるんですが、語彙は簡単なものながら中々考えられてると言うか、面白いものもありましてね。えー…これなんかいいですよ。初恋の人。」

 

「…誰のだ?」

 

「ただ、初恋の人です。6文字ですね。」

 

「こちら側の人気女優の知識なんてないぞ。もっと帝国人にも分かりやすい問題にしてくれ。」

 

「いや、これは全宇宙共通の事だと思いますがね、ヒントを出すと、前から3文字目は"T"でクロスしてます。」

 

「Tで初恋…?ああ!母親(mutter)か!」

 

「正解!で、5枠が埋まって解答は…S、O、ゾンタークスキント、ですね!ふー、それで、大尉殿は昼食休憩ですか?」

 

「まだ10時だぞ、全く頭にあるのは食う事と呑む事だけか。今我々は敵に追い回されてる最中なんだぞ?そもそもそんな時によくその"井戸水"が喉を通るものだな。」

 

「いや、これは…男子は3日会わなかったら大変だみたいな格言があるじゃないですか。だから大変な事にならないように、予防措置を取ってる訳です。それに私だって艦の事を考えているんですよ?」

 

「その格言は意味を誤解している気がするが、まぁいい。で、少尉の考える本艦の為になる事とは?」

 

「今日もその相談をSPU名誉顧問たる中尉としていた訳です。それでですね、Sマルクの市場価値?とやらが目減りしていくと困るわけです。特に学生連中が増えてから酒その他の嗜好品が出ていくペースが上がってまして…」

 

「本当か中尉?酔っ払いの言い訳に付き合わなくてもいいんだぞ?」

 

「いいえ!それについ、ついては本当であります!大尉殿!小官が!少尉に!SPUの些事について!専門家たる少尉にぃ!相談を!持ちかけたのでありまぁす!」

 

と、クンツェは席から立ち上がって立派な敬礼をしてみせる。どうやら酔っ払い具合ではこっちの方が重症らしい。さっきから黙っていたのはこのせいか。

 

「分かった分かった、で、何をアドバイスしてたんだ?」

 

「いや、中尉が今後嗜好品の減少を考えて、強い酒なんかに関しては少し薄めた形での支給に変更したらどうかって言うものですから、自分は嗜好品管理担当としては反対の立場を表明して、中尉は中尉で水で割るくらい大丈夫だなんて言いますんで、じゃあって事で水で割ったのとストレートの飲み比べをして貰ったらこんな事に。」

 

「それで落ち着くまでクロスワードで遊んでたって訳か。で、反対の理由はなんなんだ?理由によっては結局呑むことを考えてたって事になるが。」

 

「これでも考えてるんですよ。伊達に艦長副官を拝命してません。真面目な話、誰か教科書に載っているような人が言った言葉ですが、悪貨は良貨を駆逐するって事です。歴史を紐解けば金貨の金含有率は経済に様々な影響を与えてますからね、ゾンタークスキントではそれが瓶の中に占めるアルコールの含有率になる訳だと思うわけですよ。」

 

「…そんなものかね。SPUの連中に関してはアルコールの含有率が減った所で別に不満はないんじゃないかと思うがね。」

 

「別にSPUだけの事でもありませんよ。艦内には私を含めてですが、こいつらを娯楽として信仰している者が相当量います。もし彼らに本物を渡してSPUには水割りとか、若しくは逆の事になれば余計な亀裂の発生を招きかねないですし、そう言う点から考えても、嗜好品の質の低下は個人的には阻止したい訳です。まだ在庫がカツカツになりつつあると言う話でもありませんしね。」

 

「…これは脱帽だな。すまん。はっきり言ってみくびっていたよ、そう聞くとやはり私も少尉派閥に味方せざるを得ないな。」

 

「そうですか!では大尉殿も一献。」

 

「アホか。私はまだ当直任務中だし、朝から呑むような趣味はないぞ!」

 

やはりツァーンは理由を色々考えつくだけで、最終的には呑む事しか考えていないんじゃないかと思うが…色々考えた過程の中に有用なものが有ればそれでもいいのかな…?

 




軍艦内での飲酒についてですが、ベルゲングリューンも初登場時、一本+結構な量をあけてますし、ゾンタークスキントでもOKって事にしました。ツァーンももちろんところ構わず呑んじゃうような不良ではないですし。

ここからは謝罪なんですが、読み直すと誰が誰の事をなんと呼んでいるかがバラバラなので、修正していこうと思います。基本的には
ゾンタークスキントメンバーは艦長の事を「艦長、艦長殿」と呼び、装甲擲弾兵関係者は「中佐殿」と呼びます。
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