宇宙暦762年3月22日 レイダー捜索隊 戦艦モンジュ艦内
A・ビュコック少佐
『うん、分かった。その船団の件については私の権限で進めよう。しかし、君は軍の統制をもう少し学んだ方がいいと思うぞ。私は気にしないが、一介の少佐が基地司令官と国境艦隊司令部を丸ごとすっ飛ばしてハイネセンまで話を捻じ込むのは上司の機嫌を損ねるんじゃないかね。』
モニターの先で私の成績考課の心配をしてくれているのはタン少将、後方勤務本部の高級参事官だ。
『お気遣い痛み入ります。しかし、私としましては軍の統制から外れた行動をとっているとは考えていません。司令官は"レイダーの件についてはビュコック少佐に任せる"と言ってくれましたから、私としてはレイダーに関する事ならば自分の全力を尽くすべきであると心得ています。』
『ものは言いようだな、面白いが、だからと言ってまさか今頃になってシャー・アッバスの伝手を使ってくるとはね。懐かしいな、弾切れになって膝を抱えてた19の軍曹が今や少佐殿として謎の帝国艦を探し回っているという訳か。』
『ご迷惑かと思いましたが、知り合いでこのような問題に関して頼れる方が少将閣下しかいなかったものですから…』
『んん?こちらとしては全然構わないんだがね。ここ数ヶ月は回廊方面の衝突も大きくて分艦隊規模のものだし、この際、一気に前々から準備だけはしていた統合整備計画も進めてしまおうって事になっ…おっと、これは聞かなかった事にしてくれよ。』
相変わらず変な所で口が軽くなる人だとは思うが、それでも後方勤務本部の重鎮とも言える人だ。仕事振りには信頼が置けるし、余り言いたくはないし本人も言われたがらないが"更に上"との繋がりもある。LMF出身というのは自分が嫌でもそう見られてしまうんだから難儀するだろうな。
『分かりました。では、またハイネセンなりでお会いしましょう。』
『そうだな、そうだ!次に会う時の土産はその謎の帝国艦の艦長の首級でいいぞ。まぁ頑張れよ、少佐殿。』
…そう言えばジョークのセンスも余りないんだったなあの人。
ーーーーー
暫く後 戦艦モンジュ 第3会議室
『案外スムーズに行くものですね。当事者のはずの准将が余りにも乗り気でないからハイネセンに持ち込んでも徒労に終わるだけだと思ってましたが。』
『まぁ、な。締まり屋の准将も金と戦力は中央持ちだと言うんなら文句も…少しは言われるだろうが少ないだろ。中央にしてみてもそういう経験が欲しいって事情もあると思うしな。どれくらいの兵力で、どのくらいの船を、どのくらいの時間守れば最も効率がいいとかの事を掴むにはある程度の実践は必要だ。それに、『捜索隊に指揮権を寄越せ』まで言ったら反発もあるだろうが、もしもの時は協力してほしい、それくらいのレベルの話だからな。』
『しかし、商船に船団を組ませる位でレイダーの襲撃が止まりますかね。レイダーはレイダーで他の独航船を探して沈めるだけにならないですか?それに船団と言ったって、このモデル編成表を見る限りでは…余り頼りになる類のものでは無さそうですし、商船の方だって自由に予定が組めないって事になれば反発も出てくるのでは?』
『レイダーの動向が分からない以上、軍がまず最優先でやるべきなのは民間船とそれに乗る民間人を守る事だ。それに、いくら弱そうな魚や動物の群れだってそれなりの数が集まればそう簡単に手出しできるもんじゃない。レイダーにとっては護衛艦がミサイル艇でも哨戒艇でもその後ろに我々が控えている可能性がある訳だからな。実際には間接護衛が間に合わないような位置にいたとしても、向こうは知らない事であるし…商船側にだって船団を組むメリットを説明してやれば良い。』
『船団を組むメリットですか…?"商船にとってはいるかどうかも分からない狼に襲われない可能性が高まる"と言うだけでは弱い気がしますがね。フェザーン商人ほどではないにしても、やはり利益の追求は彼らの目的とすることでしょう?』
『そうだが、考えてみれば結構あるんだなこれが。例えば薄利多売系の商品は一度の輸送量が大きくなればなるほどコストの削減になるし、航路設定やワープ計算だって集団の中でどれか1隻できる船がいればそいつに着いて行けばいいだけだからその分の人件費の削減も狙える。もし事故が発生した場合にロスが少ないとかもあるな。まぁそれでも、商売敵を出し抜きたい抜け目のない奴なんかには通じないんだが。…あと、これはさっき言ったことと矛盾するし、軍人としては甚だ不適当な発言かもしれないがそういう層にも使い道ができてくる。』
『なんです?別に司令官に言いつけたりはしませんよ。』
『君がそんな事をする奴だったらとっくに見限ってる。まぁ、船団に入りたくない船には重要なものを積ませなければいいんだ。戦略物資や、それこそ機雷なんかを輸送するような徴用船や御用商船は船団に強制的に組み入れてしまう。そうすればレイダーが独航船を襲ったとしても奴ら自身にとって役に立たないものの為にリスクを冒す事になる。…そういう船を見捨てているようで気分は良くないが…』
『それは、そうですが…捜索戦力も限られてますからね。義勇艦隊は2隻組行動にしてから大人しくなりましたが。』
『とにかく、今レイダーがいるとすれば、ラワルピンディがやられたこの300光年四方の宙域だ。ハイネセンへ抜ける方はマルドゥク星系とブラックホールで蓋が出来ているわけだから大丈夫だとして、やはりもう一度洗い直してみるか!』
護送船団方式を取れば最悪レイダーを見つけられ無くても被害は少なくなるだろう。そうして時間を稼いでいるうちに何とか見つけ出さなければ…パターンでも掴めれば1番なんだが…ん?パターン?
ーーーーー
帝国暦453年3月25日 ゾンダークスキント艦内
ウィレム・バクスター
『今日の食事会にも来ませんか?うちのカーターが『宇宙で20番目位には美味いホワイトソースが出来た』なんて言っていましたから、失望はしないと思いますよ。なにより、皆さん貴方の話を聞きたがっていますし…』
『…すまないとは思うが体調が余り優れなくてね。暫くは食事は自分の独房で食べようと思ってるんです。お気遣いなく。』
フェルト氏はずっとあの調子だ。自分の部屋の事を独房だなんて言っていたが、部屋のつくりは私のキャビンと同じはずだからそんな表現は不適当だと思う。どうも帝国軍に対してどうしても頑なな態度を崩さないが、何かトラウマでもあるんだろうか?そういうデリケートな問題に発展しそうな事は苦手なんだがな…
『あ!船長!どうでした?あー…フェルトさんは?』
『残念だなカーター、直接感想は聞けそうにないよ。帝国軍と打ち解けろとまでは言わないが、せめて我々とは良好な間柄でいて欲しいもんなんだがねぇ』
『仕方ないですよ。"ピーターが嫌いなら飼い犬も嫌い"って事でしょう。とにかく帝国に関わった時点で我々も敵だと思ってたりして…』
『そんなものかね、同じジャムシード出身でも、カドルナ氏は解放されるとなってもここに残るって言い出すんじゃないかってくらいなのにな。』
『まぁあの人の場合は状況が特殊でしたし…無理に仲良くしようとしなくてもいいんじゃないですか?』
『…そうかな。まぁ人数も大分増えてきた事だし、我々がこの小旅行を終える日もそう遠くはないだろうが…仲良くするとか、しないとかではなくて、同じ同盟人として話をしたいだけなんだがな。SPUの結成理由でもある事だし…』
『そんなに考え込まないで下さい!とにかく今はホワイトソースですよ!ユーフォニアで働いてたって噂の友人仕込みですから、味は保証しますよ!』
続く
文中のLMFは、「Longest march families 」の略称で、長征一万光年に参加した名家って言う独自設定です。アメリカのWASPみたいに特権階級じゃないけど…ね的なイメージがあります。
今回も感想やご指摘、ご意見お待ちしてます!
追記 なんだか文章がいつにも増して下手くそだったり、脱字があったので修正しました