海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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一日あきました。初めて献血をしてみたんですが、中々いいもんですね。体がフワフワして。では、どうぞ。


第三十七話 SPU、激動

帝国暦453年3月26日 ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

やっと新天地と言える宙域まで進出する事ができた。あの肝を冷やした哨戒艇との遭遇後は平和な彗星乗り継ぎの旅だったし、次に肝を冷やしてもらうのは向こうの番だ。まずはルートを選定してここ以降の宙図を入手しないとな…なんだ、廊下で転んだ音がしたぞ。

 

「艦長、艦長!」

 

やっぱりクンツェ中尉か。軍医のくせに腕でも折られたら困るんだが…

 

「どうした中尉。トイレが逆流でもしたかね?」

 

「SPUで騒乱ですよ!確かな理由は分かりませんが、フェルト氏の部屋の前に人だかりができていて、解散しろと言ってもしてくれないんです!」

 

「…はぁ…主犯格は誰だ?何をしようとしてる?」

 

「バクスター氏の所のカーターです!フェルト氏に言いたい事があるとかで…」

 

「そのバクスター氏はどうしたんだ?それにこういう時の抑え役をするのがあのキング君じゃないのかね。ホワイト嬢と上手くいって気が抜けたか?こんなことなら恋を応援してやるんじゃなかったな。」

 

「とにかく、まだ詳しい状況もつかめていないんです。艦長がいらっしゃればなんとか収まるかもしれないと思いまして…」

 

「分かった、じゃ行って見ようか。全くフェルト氏が来てから面倒続きだな。」

 

ーーーーー

 

『出てこい!卑怯者!出て言い訳の一つでもしてみやがれ!うちの船長によくも…!』

 

現場に着いてみると、中尉の言う通りの光景が繰り広げられていた。しかし中々の数が集まっている。20人くらいか。

 

『自分から出てくるのが嫌だって言うんなら引き摺り出してやるからな!おい!テーブルの脚でも何でもいいから破城槌になりそうな…あっ』

 

『やぁ。随分興奮しているようだねカーター君。とりあえず艦長としては勝手に艦を壊すのはやめて欲しいし、更にいえば暴動を起こすようなマネをされるのも困るんだが。』

 

『艦長さん、これは我々の中で片付けたい問題です!艦を壊そうとした事については謝りますが、暴動を起こすつもりはありません!ここに閉じこもっているネズミ野郎さえ出てくれば…!』

 

『いいかね!君らには艦内での自由を与えているとはいえ、本質的には我々の指導下にあるんだ!私の指示に従わないようなら、今度は君らにも閉じこもってもらう事になるぞ。とにかく全員興奮しすぎなようだから、この場からの解散を命令する。後で行くまで頭を冷やしていたまえ。』

 

そう言うと集団は本当に渋々といった様子で下がっていった。…さて、今度はこっちのネズミ野郎とやらの対処だ。

 

『フェルトさん!一体どうしたというんです!もう彼らはいませんから出てきなさい!』

 

すると、何かをずらしたりするような物音がした後に半開きの扉からフェルト氏が顔を出す。キャビン内に取り付けられた棚を外してきてバリケードに仕立て上げていたようだ。全くどいつもこいつも艦を勝手に壊したり壊そうとしたり…おや?

 

『…どうしました?ただぶつけただけには見えませんが。』

 

フェルト氏の顔には右目の下にはっきりと紫色の痣ができている。鼻血を拭ったような痕もあるし、カーターの叫びからしてバクスター氏と一戦交えたと言う所だろう。

 

『どうしました?あんたにはどう見えるんだこの様が!あのバクスターとか言うオヤジがここに来たかと思ったら急に殴りかかってきたんだ!それで殴り返して部屋の外に放り出しただけなのに、あのなんとか言う若造が仲間を連れて押しかけてきたから自分の身を守る他なかったんだ!』

 

『ほー…バクスター氏がねぇ、急に…』

 

『そうだ。とにかく、今回については私が完全なる被害者だからな!さっきあんたが外で言っていたようにこの艦に乗ってる奴らの指導者だって言うんならケジメをつけさせるべきだと思うね!』

 

『…まぁ、まず貴方はその外した棚を元通りにしておいて下さいよ。』

 

『ケジメの話はどうなったんだ!』

 

『1人の証言のみを採用する訳にはいきませんからね。…ついでに言わせてもらうと、貴方のこれまでの態度と行動からして…いや、いいでしょう。では、その痣が気になるようなら医務室へどうぞ。』

 

ーーーーー

 

同日 ウィレム・バクスター

 

フェルト氏の右は中々のものだったし、放り出された時に打った腰はまだギシギシいっている気がする。思わずアレを奪い取ろうとして咄嗟に手が出てしまったのが悪いんだが…

 

『船長、そんなになってまで黙っている事はないじゃないですか。艦長さんだってきっとこっちの味方ですよ。何故あんな奴に義理立てする必要があるんですか?奴の部屋で何を見たんです?』

 

『…カーター、SPUの第一則はなにかな。』

 

『…同盟人として、恥ずかしくない態度、姿勢を持ち、誇りを持つこと。です。』

 

『そうだ、その、恥ずかしくない態度とはなんだろうか。私は、作った当初は敵対している帝国軍に、敵国民とはこの程度の人々なのかとか思われないよう、ある意味侮られない為の決まりだと考えていたが…』

 

『そうでしょう。我々は帝国軍に捕まり、今は彼らの為に仕事をし、養われている立場ですが、向こうの皇帝に忠誠を誓った訳でもなければ祖国を捨てたのでもありません。同盟人です。だからこそ…』

 

『そうだ、そうなんだカーター、我々は同盟人なんだ。帝国人じゃあない。だからこそ悩みどころなんだ。…フェルト氏は確かに同盟人さ。確かにそうだ。ジャムシード出身、義勇艦隊に身を投じるほどの愛国精神に溢れている。しかし、しかし…!』

 

『なんだっていうんです?』

 

『私はね、カーター、この艦で暮らしているうちに、まず重要なのは同盟とか、帝国とか、そういう人間が作り出した社会のあり方ではなくまず人間そのものとしてのあり方が大前提として根本に据えられるべきなんじゃないかとじゃないかと思うんだ。つまり、恩を仇で返すとか、そういう人の道徳にもとるような行いは…たとえ同胞といえども許すべきではないんじゃないかと。』

 

『つまり、奴はそういう事をした訳ですか。』

 

『まだ艦長さんには言って欲しくないんだが、見たんだ。艦内の見取り図だった。我々に配られたものじゃない、多分自分で作ったんだろう。立入禁止エリアに何があるのか、エネルギー配管のバイパスまであった。どうやって調べ上げたんだか知らないが、アレはこの艦にとって、艦長さんにとって、不都合なものであるのは確かだ。』

 

『それは…では、艦長さんか、なんだったら軍医さんに言えば…』

 

『だが、さっき言った人の道徳の方が大切だとか言うのは私の、個人的な意見に過ぎないんだ。実際、もしこの艦を降りた後、フェルト氏のやった事は称賛に値する事になるんじゃないか?戦争中、敵に捕われながら重要情報を味方にもたらした…そんな形で。それで、私はその勇気ある行動を妨害した裏切り者だ。』

 

『そんな事はありません!船長は、同盟の名誉の為に奴を殴ったんです。一度降伏しておきながら、ゲストの立場を利用して敵対行動を取ろうとするなんて事は卑怯者のする事です!…議会を開きましょう。』

 

『議会?』

 

『フェルトの奴を弾劾するか否かを皆に問うんです。それで弾劾決議が出たら、奴をリンチにかけるなり艦長さんに突き出すなりすれば奴が汚した同盟の名誉も少しは回復できるってもんです。止めないで下さい船長、私はやりますよ。』

 

ーーーーー

暫く後 フォン・オイレンブルク中佐

 

「で、これが投票結果という訳だ。読むぞ。『SPU構成員は賛成多数でラワルピンディ号元船長マリアン・フェルト氏の弾劾を決議する。当人は信頼と良心に背き、艦内規則を敢えて破る事、またその証拠隠滅と自己正当化のために暴力を使用した事の2点の行動によって自由惑星同盟人民全体の名誉を毀損した。』だとさ。」

 

「中々手厳しい言い方ですねこれは。少しかわいそうになるくらいだ。」

 

「しかし、これでフェルト氏が我が艦に対して明らかな意思を持って敵対行動をとっていた事は確かになりました。しかもSPUのお墨付きで。」

 

「では、彼をどう処分しようとゲストからの反発は最小限で済むと言うわけだな。だが、宇宙に放り出すわけにも、それこそ銃殺するわけにもいかないが…」

 

「やはりタンクベッドで"ぐっすり"眠って貰うのが1番ではありませんか。おそらく単独犯ですし、その方が監視の目も少なくて済みます。1つが常に埋まってしまうのが難点といえば難点ですが。」

 

「それで更なる妨害が防げて、SPUも静かになると言うんならそれでいいか。では、バウディッシン中尉、フェルト氏の…あー、逮捕は任せる。」

 

ま、獅子身中の虫ををこれで退治できたと思えばいいだろう。次はもっと気分が晴れるようなニュースを聞きたいものだが…

 

続く

 




戦時における民間人のレジスタンスなんかは、向こうから見れば厄介なテロリスト、こっちから見れば正義の集団、難しい見方の問題ですね。
今回もご意見ご感想をお待ちしております。
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