海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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世界が終わる前までには完結させたいです。冗談じゃなく。
では、どうぞ。


第三十九話 機密書類

帝国暦453年 3月30日 ゾンタークスキント艦内

エーリヒ・シュタールス准尉

 

「こういうのは君の専門だろう」と艦長が渡して来た書類鞄は中々の難敵だ。電子ロックがかけられているだけだったらロック部分を物理的に壊してやれば解決なんだが、念のために透過装置にかけてみたら内部に薬品ボトルの様な物が備え付けられているのが分かった。仕組みは簡単、帝国でも使われる手で、力ずくで鍵を壊すなりこじ開けるなりしようとすると薬品が破裂するか噴射されるかして鞄の中身をぐちゃぐちゃにしてしまうと言うものだ。つまり、正攻法で開けるしか無い。

 

「どうだい、エーリヒ、艦長からの直々のご下命の進捗具合は?」

 

やってきたのはツァーン少尉だ。どうせ冷やかしに来たんだろうが、まぁ相談する相手がいないよりはマシだな。

 

「ええ、ご覧の通りです。一応安全処置としてパスワードの試行回数を弄ったんですがね。スペースあり数字ありの12桁のパスワードともなると、何かヒントがないと何ヶ月かかる事になるか…」

 

「12桁かぁ、案外何かの単語だったりするんじゃないか?覚えやすいし、打ち込みやすい。」

 

「そんな事言ってもですね…じゃあ何かあります?12桁の熟語か単語か。」

 

「要するにクロスワードの要領だな。得意なんだなこういうの。12文字ね、文明(civilization)とかどうだ?」

 

「…ダメですね。弾かれました。」

 

「まぁ、そう簡単に解けたら面白くもなんともないからな。じゃあ、蒸留(distillation)は?良い言葉だろ?」

 

「よくポンポン12字の言葉が出てきますね。…はい、ダメです。次どうぞ。」

 

「…諜報(intelligence)、冷蔵庫(registration)、スペースが入って太陽系(solar system)…」

 

ーーーーー

 

「またダメか!?」

 

「ええ、やっぱり単語か熟語なんて単純なものをパスワードに使わないって事じゃないですか?こうなったらもう自動入力ソフトでも作るのが時間の無駄にならないかも知れませんね。」

 

「なんだ、折角協力してやったのに…頭にくる言い方だな。どうせ無駄な時間だったよ!」

 

「そんなつもりで言ったんじゃありませんよ。じゃあ最後に何かやります?」

 

「頭にきたとでも入れとけばいいんじゃないか、もう。」

 

「頭に来た、ね。こっちの表現は…『I am boiling』ですって。』

 

打ち込んだ瞬間、軽い電子音とロックの外れた金属音が鳴る。

 

「おっ」

 

「えっ…」

 

「やったじゃないかエーリヒ!まさかの『頭きた』が正解だとはな!おい!もう大丈夫なんだろ?開けてみよう開けてみよう。」

 

「え、いやこういうものは最初は艦長に提出するものじゃないんですか?」

 

「待てよ、もし書類に毒でも塗ってあったらまずいだろ?大事な艦長の…そう!毒味だよ毒味!」

 

「内部向けの書類にわざわざそんな事はしないと思いますけど…」

 

「まぁ、いいじゃないか。見た所で減るもんじゃなし。」

 

「じゃあ、開けますよ。」

 

恐る恐る蓋を開けると透過装置で見た通り、電子ロックとコードで繋がれている薬品ボトルが目にはいる。書いてある文字からしてどうやら大分強力な溶剤が使われているようだ。もしかしたらとんでもないものを拾ってきてしまったのかもしれない。

 

「えー、他の鞄の鍵は以下の書類にある、だとさ。なんだこの…乱数表か?違うな…暗号文って訳でも無さそうだが、分かるか?」

 

「なんでしょう?……RSAですかね、どうも面倒なものを仕込んできますねまた。」

 

「でもこれが解ければ他のやつも開けられるって事だろ?…RSAとやらは全く分からんから俺はもう寝るぞ。頑張れよ!」

 

…まさか本当にあんなノリで解けてしまうとは思わなかった。実はあの人、オーディンの加護とかがついてるんじゃないか…?

 

ーーーーー

同日 フォン・オイレンブルク中佐

 

「大尉、これは…大した拾い物だな。本国の情報部が見たら腰を抜かすどころの話じゃないぞ。」

 

シュタールス准尉が案外早く解錠して持ってきた書類鞄の中身の価値は凄まじいものだった。叛乱軍の暗号表、統合整備計画とやらの計画書に新型艦の設計図まで、軍の事ならなんでも分かると言っても過言でないほどの代物だ。

 

「イゼルローン回廊の哨戒部隊配置図までありますし、ティアマト方面の帝国軍戦力評価…これは、宇宙艦隊司令長官からルジアーナ造兵廠長への信書ですか。『統合整備計画による前線からの戦力引き上げにより工作艦と浮きドックが不足しつつあるからルジアーナ所属艦を一時的な増強戦力として派遣する事の是非…』だそうです。」

 

「…中々正確な戦力判定だな。しかし、これを見るに今イゼルローン回廊方面の叛乱軍兵力は通常時より大分少ない事になるな。突破が夢物語じゃなくなるかもしれないぞ。」

 

「それもそうですが、まず考えるべきは我々への追跡がより一層強化されるのではないかという事ではありませんか?もし私が叛乱軍の首脳なら、こんな機密書類が敵の手に渡るのは考えただけでも恐ろしい事です。全力をあげて取り戻すか、若しくは丸ごと宇宙の藻屑にしてしまおうとするか…」

 

「そうだな…しかし、叛乱軍にしてみれば機密書類はワープに失敗した船ごと宇宙の深淵に既に葬られている、という考え方もできる。そして人間と、その集まりで出来る組織と言うものは出来るだけ最悪の予想はしないで楽観論に走りたがるものだ。例えそれが悪手だと1人1人の頭の中では分かっていても、な。…だが何にしろ1隻また行方不明にしてしまった事は確かだ。気をつけるに越した事はないし、あまりウロウロするのも被発見率を高める事に繋がりかねないからな。また良い待ち伏せ場所を探すとするか。」

 

「はっ、では航路設定に入ります。」

 

調子のいいことを言ってみたはいいものの、実際あれほどの重要機密書類が行方不明になる事件はそうそう起こるものではない。もし帝国で同じようなことが起こったとすれば、責任者の処罰は良くて自裁と言う所だろう。しかも我々を追跡している連中から情報共有があるとすれば…うん、やはりSPUの連中には早めに艦を降りてもらう事にしよう。次に捕まえた船に余裕が有れば…

 

ーーーーー

宇宙暦762年3月31日 惑星ジャムシード ホテルキングフィッシャー

P・アッテンボロー

 

『また雨か、こんなんじゃ気分が上がりようもないな。』

 

『まずジャムシードくんだりにまできてシングルルームの2人利用をしてる時点で気分なんて最低値ですからねぇ。』

 

『仕方ないだろ、嫌なら自費でどこの部屋でも取ればいいじゃないか。急に取材に行きたいって言う記者相手に雀の涙ほどの金しか出してくれない会社に勤めたお前が悪い。』

 

『そんな事より、どうなんです?例の帝国艦の情報は入りました?』

 

『…いや、これといって特に。義勇艦隊が編成されて、それがまだ帰ってこないって事は見つかってないんだろうな、位の事しか分からん。そう言うお前はどうなんだ?』

 

『俺のほうは大豊作ですよ。編集長から言われたデータは既に送ってありますし、株価変動予測もばっちり立ててあります。最近伸びてるのが…これですね。ドラーク鉱業、少し前から急激にシェアが上がってます。』

 

『株価なんて非人道的なものはどうでもいい!第一、なんだ編集長から言われたデータって言うのは?聞いてないぞ。』

 

『あれ、そうですか。編集長が言うには、『あいつは軍の尻ばかり追っかけて収穫なしなんて事になりそうだから、ジャムシードに行くんならついでにフェザーン方面との経済的繋がりとかも調べといてくれ』って。』

 

『最初から信用されてないって訳か、くそっ、いつか必ず独立してやるからな…!』

 

『それで、どうしますか。これ以上粘ってもどうしようも無いと思いますよ。』

 

『いいや!何か、何かあるはずだ!だが、成果なしでいるのもアレだな…こうなったら仕方ない。シュパーラの司令官のゴシップでも探るとしよう。なんか出るだろ。』

 

『それで先輩が満足ならいいですよ。俺は先輩が世紀のニュースを握る瞬間を見せられる為に引っ張ってこられたんですから。』

 

…皮肉とも嫌味とも取れる奴だが、なんとかこいつと編集長を見返すためにある程度のニュースを掴まねばならない。とりあえず何故か義勇艦隊を管轄してるらしい内務省にでもまた行ってみるかな…

 

続く

 




シュタールス君に名前がつきました。彼はツァーンより少し年上なんですが、ツァーンは年が近いのと階級が下なのとで結構馴れ馴れしくしゃべります。なんだこいつ…。

今回もご意見ご感想お待ちしてます!
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