第15軍工廠 特別検査官室 フォン・エックマン少佐相当官(仮)
「一人目は良かったが、そのあとが続かないなどうも。」
フランツィウス大尉の後に面談した少尉2人はどうにも気に入らない。1人はあまりにおどおどし過ぎているし、1人は随分な大言壮語を吐いた。
「自分はこの手で叛徒の首魁を吊るしてやるのであります!」だそうだ。軍人に闘争心は必要だが薬も過ぎれば毒だ。トラブルメーカーになる危険性があるようなのを長い艦内生活の仲間にする訳にはいかない。それと出ていった後の足音が異常にうるさかった。ああいうのは門閥の私兵辺りに収まっておけばよいのだ。さて、次は士官学校ホヤホヤの少尉か。どうなることやら。
第15軍工廠 特別検査官室前 エーバーハルト・ツァーン少尉
緊張する。なぜ自分がこんな所に呼ばれたのかすらまだ分からないが、おそらく同じ目的で呼ばれたであろう自分より少し年上に見えた背の高い少尉が自信ありげに大股で出て行った所を見ると、どんな面談にせよ、彼のような人材が求められているのだろう。私は背も低いし、色は白いし、士官学校で他の学生連中と同じように鍛えていたにもかかわらず線が細いままだ。おまけに声も高めと来てる。お世辞にも「軍人らしい」とは言えないし、士官学校時代に行った夜の店でもてんで相手にされなかった。フェザーン生まれの母は「男と女、両方の服が着れるなんて経済的でいいじゃない」なんて言ってくれるが、あの人はあれで励ましてくれてるつもりなんだろうか。ともあれ、軍務省からの呼び出しとあっては逃げるわけにもいかない。少しでも背筋を伸ばして扉を叩く。
「どうぞ。」
「ツァーン少尉、入ります!」
入室すると軍属の勤務服をきた男性が出迎えてくれた。軍属の割にはキッチリ着こなしているし、ボタンも電灯が反射するほどであるが、なぜ口髭はなんとも言い難い形状にしているのだろう…
「グーテンターク、少尉。フォン・エックマンだ。今日は軍務省による新任士官の実務及び素行、勇気と忠誠に関する調査のために君を呼び出させてもらった。非公式かつ参考調査であるので、どんな事を言っても人事考課には反映されない。安心して答えて欲しい。」
「まず現状確認だが、君は今オーディンに帰還中の戦艦「ヴォルフスアンゲル」の砲術科員だね?」
「はい、士官学校を卒業しましてから最初の任官でありまして、同艦の左舷側収束砲群副官を拝命しております。」
「なるほど、少尉、君は上官からの命令を過たず確実に遂行できる自信があるかね?」
「はい、軍人を志望した時よりこの身は帝国に捧げております。」
我ながら100点満点の回答だ。これ以上はないだろう。
「…結構、大変結構。では、君には演劇、又はその類の経験はあるかね?」
「はっ、、、演劇、はですね、はい、ギジナジウムでは演劇部に所属しておりました。実は母がフェザーンで女優をしていた過去がありまして。」
そういえばあの時以来演劇とは縁遠くなっている。確か女役をやったのを男友達に揶揄われたから無理やり辞めたんだった。別に嫌だった訳ではなかったのに、なぜあの時は頑なになってしまったんだろう。
「なるほど、経験あり、と…では次だ。君は現在の叛乱軍との戦いに於いて……」
「では、失礼します。」
なんだか妙な面談だった。ただ、自分の外見について一度も触れてこなかったのは好印象だ。今の艦の艦長も砲術長も私を一瞥して「もやし」だの「うらなり」だのというから自信が無くなりかけていたが、、いい気分だ。せっかくオーディンに来たんだから名物のフランクフルタークランツでも買っていこう。
ーーーーー
数日後
フォン・エックマン少佐相当官(仮)
「取り敢えず人事はこんなものかな。それにしても人を見るというのは精神にくるな……。」
リストの中から面談に進めた人数が125名、その中から「ゾンタークスキント劇団」の劇団員に選んだのは36名だ。
航海長兼副長はボート・フォン・フランツィウス大尉。第一印象とこれまでの人事評定で決めてしまった所があるが、立派な尉官に見えた。No.2として役目を果たしてくれるだろう。 副官にはエーバーハルト・ツァーン少尉。少し若すぎるかとも考えたが、私の考える「ある計略」にはこれ以上ないほど適任だった。それだけでも抜擢する価値はある。
艦付き軍医はフィクトール・クンツェ軍医中尉。数ヶ月前までフェザーンの駐在弁務官府付き医官だったそうだ。フェザーンの形式なんかにも通じているし、軍医学校の恩賜組だ。腕は信用できるし、性格も申し分ない。ただ一つ叛乱軍との繋がりが社会秩序維持局からの報告書で挙がっていたが、もし本当にスパイだったらフェザーンから首都勤務になる前に逃げているだろうし、もっと用心深いだろう。検査官室から出た数秒後にすっ転んだ音を私は聞き逃しはしなかった。それもあって、彼を信用してみる事にした。
ある意味この艦の顔ともなる、接舷移乗部隊長兼保安主任のオットー・フォン・バウディッシン中尉。装甲擲弾兵優等徽章に戦斧術指導章、レアものの白銀地上兵突撃章まで持っている身長2㍍超の偉丈夫である。だからといって手のつけられない野蛮人気質でもない。まさに「粗にして野だが卑に非ず」の体現者であると言えるだろう。そのくせどうやら女性には弱いらしい。何かトラウマでもあるのだろうか?声も見事なハスキーボイスだし、やる気になればご令嬢の一人や二人は簡単に撃墜できそうなものだが。
その他には砲術長のエルトマン中尉に主計長のベルガー少尉、索敵・通信主任のシュタールス准尉。他にもいるが、皆軍隊内の組織の第一人者だ。十分な働きを期待して良いだろう。他の所謂「裏方」の人選は人事考課と経歴を参考に選んだ。人間関係も良好になるよう、徴兵区や原隊に大きな偏りがないようにしたし、あとは座して天命を待つのみだ。
総員259名、集合は10日後の夜。そこから、まさにそこから我らが冒険行が始まる!
続く
登場人物
書いた人
平民。 船舶免許が欲しい。
えんえんと面接シーンが続くのも冗長に過ぎるかと思い、簡単な人物紹介にとどめました。
銀河帝国軍人には勲章をつけてる場面があまり見受けられません。ラインハルトが帝国紋章型の胸章をつけてるのと、ローエングラム朝期に「ジークフリートキルヒアイス武勲章」が登場するくらいでしょうか。でも彼らも軍人である以上勲章や徽章はもらっていたはずですし、二次創作の強みという事で好き勝手やらせてもらいました。
執筆の励みになるので感想、ご意見などお待ちしております。