海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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花粉症が辛いメーメルです。この前友人に「車の運転が優しい」と言われました。うれしい…

では、どうぞ。


第四十一話 裁判もどき

帝国暦453年4月1日 ゾンダークスキント艦内 

フォン・オイレンブルク中佐

 

『ではクェベド船長、我々は君の船が船籍を偽って行動していた事、これについてはその偽装を解除する手段がないことから、海賊として扱う事ができるという事を了解してもらいたい。』

 

『そんな!武器なんか持っていないのに…』

 

『話は終わっていないよ。まず聞き給え。次に、君の船が運搬していた積荷に関してだが…サイオキシン麻薬は所持だけで極刑又は重罪が課せられる代物だ。よって、船長、我々は…』

 

『こんな酷い仕打ちがあるか!いやだ!本当に知らなかったんだ!』

 

『我々は!君の船長職の剥奪を決定した!』

 

『剥奪…?そ、それはいったい…』

 

『そもそも我々は君の船を、まぁ形としては徴発して現在艦内に滞在しているゲストの輸送をしてもらおうと考えていた。が、君が全宇宙共通の犯罪者たる資格があることがわかった以上、そうした事を任せる訳にはいかないという結論に達した。』

 

『そ、それで私は…』

 

『…本来であれば公権力の手にかかった者としての立場を与えたいところではあるが、君は民間人であるから軍法会議にかける事もできず、残念ながら当艦のゲストの中にも法曹関係の仕事ができる者はいなかった。よって、先程も申し伝えた通り、船長職の剥奪をもって仮処分とし、他のゲストと同じ扱いをとる事とする。』

 

全く裁判官ごっこも楽じゃない。一度軍規違反の軍法会議に書記として参加した事があるが、そういえばあの時もこんな事を考えていた気がする。クェベド「元」船長は命は取られないという事が分かった辺りから目に涙を溜めていたが、こちらとしては別に慈悲をかけたつもりはない。鹵獲した偽フェザーン船、船名をヨーマと言ったが、それが何故本来の船長の手によって運航されていないのか等は当然調べられるだろうし、まず船籍偽装の一点においても取り調べがあるだろう。あとは彼がどういう判断を自分自身に下すか、だ。

 

「お疲れ様でした、艦長。それで、あの船の新船長はどうしますか。こちらで任命しますか?」

 

「どうするかな。年功序列で言えばカドルナ氏だが、なんせ500人近い大人数をまとめて帰ってもらう訳だから、SPUの中で決めてもらった方が後々の問題も少なくていいかも知れない。もちろん今コールドスリープ中の彼とクェベド元船長は船長に据える訳にはいかないが…」

 

「そうですね、ではSPUにそう伝えます。それから、ヨーマ号の曳航索の接続と改造工作班の移乗は完了したとの報告が入りました。移動するのは先ほどまでいた衛星の隙間でよろしいですか?」

 

「うん、それで頼む。ああ、あと改造作業もあまり急かさなくていいぞ。ゲストを降ろすんだって時間がかかるんだからな。」

 

ーーーーー

同日 ゾンタークスキント艦内

ウィレム・バクスター

 

『皆さん。とうとう我々がこの艦での生活を終える時がやってきました。数奇な運命によってこの艦に、艦長さんに捕われ、船を失った事は不幸かもしれない。ここにいた時間、自由を奪われていた事も不幸と呼んでいいかもしれない。しかし、この数ヶ月あるいは数週間の経験は、他の何十億の同盟市民が願っても叶わないもので、それらの不幸を埋め合わせて余りある有益なものであると私は確信しています。この経験は故郷に帰れば不倶戴天の敵と通じた悪き記憶であると、そう評価されるかもしれません。それでも、私はやはりこの数ヶ月を人生で重要な数ページとして記憶するでしょう。それほど迄に、一生関係を持つことはないと思っていた、宇宙の向こう側の人々との交流は我々の人生観に多くのものをもたらしてくれたと思っています。今、我々は新しい『友人達』との別れの時を迎えました。きっと、帝国の圧政を逃れたかのアーレ・ハイネセンと重ねられるような事もあるでしょう。彼は弾圧者から逃れ、バーラト星系へ辿り着きました。我々は違う。我々は先程言った通り、『友人達』と別れて、バーラトへ帰るのです。SPU代表として、皆さんにお頼みする最後の願いは、受けた親切、友誼、恩義、それらを忘れない、誇りある同盟市民の一人として、この奇妙で素晴らしい旅を終えて欲しい。それだけです。…初代SPU代表、ウィレム・バクスター。』

 

拍手の中自分の席に戻る。SPU代表として最後に演説会でもやりますかなんてカーターが言うものだから了承したが、どうも上手く喋れるものではない。政治家はこんなことを毎日のように飯を食う手段としてやってるんだから、その意味では同情を禁じ得ないな…

 

『いやぁ、船長!見事な演説でしたよ!これで新船長選挙も間違いないですね!』

 

『別になりたくて演説を打った訳ではないんだがなぁ…』

 

ーーーーー

 

『SPU船長会は、帰還船新船長として、ウィレム・バクスター氏を…賛成11の賛成多数で選出する!』

 

『皆さんの期待に背かぬよう、最後まで責務を全うする事を誓います。』

 

『さて、では無事に新船長も決まった事だし、早速艦長さんに報告に…』

 

『待って下さい。新船長としていきなり権力を使うようで恐縮ですが、少し皆さんに聞いてもらいたい話があります。』

 

『なんでしょう?バクスター…船長?』

 

『今、この場にいない船長の事です。ラワルピンディ号の、フェルト船長の。』

 

『…』

 

『私は、彼も共に帰還船に乗ってもらいたい。そう考えています。』

 

『それは…!』

 

『よくわかっています。彼はSPUの規則に違反し、我々全体と、帝国軍の間に不信の種をあえて蒔くような行動をしました。しかし、彼は同じ同盟人です。同胞です。…それに、あの件に関しては先に手を出したのは私ですし…』

 

『そうはいっても艦長さんが許さないでしょう。彼の頭の中にはこの艦の重要部の情報がある程度は入っているわけで、それを喋られるのは艦長さんだっていい気分ではいられないと思いますよ。』

 

『フェルト船長だって一生故郷に帰れないのは嫌でしょう。この艦で見たこと聞いたこと調べたことその他一切を口外しないという内容の宣誓書を書いてもらいます。それでもいけないと艦長さんが言うなら…その時は大人しく引き下がりましょう。』

 

『まぁ…確かにどんな人間であれ同胞を1人残していくと言うのも後味が悪いか…分かりました。では、一緒に艦長さんに直談判といきますか!』

 

ーーーーー

 

『フェルト氏を、ね…乗組員の生命を預かる艦長としては両手を上げて賛成という訳にはいかないんですがね。第一、その宣誓は誰に対するものなんです?帝国では皇帝陛下に対する約束と言う形で宣誓は法的拘束力があるといえますが…』

 

『それは…今回の場合は自らの良心と、同盟憲章に対しての宣誓です。法的な拘束力は発生しませんが、それでも同盟市民にとっては重い責が伴うものであると思います。』

 

『そうですか。…まだ本人に了承をとっていないんですね?仮に、彼がその宣誓書に真心から署名して、口頭でも宣誓できるのであれば、彼の退艦を許可しましょう。』

 

『ありがとうございます、艦長さん!では、彼を起こしてきますね!』

 

ーーーーー

暫く後 

フォン・オイレンブルク中佐

 

フェルト氏は意外にもあっさりとSPU船長会が用意した宣誓書に署名し、私と主要メンバーの前で口頭宣誓までやってのけた。もっと抵抗するなりして、SPUとも再度衝突があるかとも思っていたんだが…

 

「コールドスリープ中にどんな心境の変化があったんだろうな?」

 

「コールドスリープ中に、と言うよりかはその前の件じゃないですか?自分では自分がやったスパイ行為は賞賛されてしかるべきもので、それを妨害したバクスター氏こそ弾劾されるべきだぐらいに考えていたのが、彼らの信奉する投票では全く逆の結果になった訳ですからね。そりゃあショックも大きいでしょう。」

 

「そんなものか。ま、約束した以上は守らねばならないしな。これでゾンタークスキントは再び純然たる戦闘艦だ。あとはこっちがどう家に帰るか、だな。」

 

「その事についてですが、ひとつ提案があります。これはSPUから買ったものですが、考慮に入れて頂ければと…」

 

そう言って大尉は一冊の分厚い本を差し出してくる。なるほど、これは今の状況を変えられる一手になるかもしれないな。

 

続く




SPU船長会は船長を務めていた人たちによって構成されるものです。SPUでは大体のことが直接民主制で決まりますが、船長職は船長経験がある人がやるのがいいだろうって事で召集されました。1人、自決してしまったイシュタム号の代表は一等航海士が代理で出ています。

今回もご意見ご感想よろしくお願いします!
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