では、どうぞ。
宇宙暦762年4月5日 レイダー捜索隊旗艦 戦艦モンジュ艦内
A・ビュコック少佐
『つまり、そのマンタ号とかいう船は他の船から何かしらの密輸品を受け取るはずだったのがまだ会えずにいる、という事ですか?』
『ああ、どうやらそうらしい。一応君はまだ臨検戦隊の取りまとめ役のままなんだろ?こういう場合はどうしたもんかと思ってね。その密輸船の片割れを探すか、予定通りレイダーの捜索を続けるか…』
出し抜かれた。レイダーの奴は既にマルヴィクの向こう側だ、間違いない。LH-112船団から1隻消滅して破片も見つからないという時点で決断すべきだったのに…!
『私としては密輸船の方を探した方がいいと思うがね。レイダーはまだマルヴィクを抜けてないかも知れないんだろう?』
『いえ、中佐、マンタ号には元の乗組員と臨検隊を乗せてシャンプールなりハイネセンなりへ送り返して、フェートンはそのままレイダーの捜索行動を続けて下さい。それについての戦隊命令書はおって送付します。』
『ふーん…君はレイダーが我々の近くにいると思っている訳か…。出来ればその理由を聞かせて貰いたいね。』
『はい、まず密輸などと言う後ろ暗い事をしようとする連中は基本的に時間を守ります。』
『社会の最低限のルールを守らない奴らが時間だけは守るとは面白いな。それで?』
『ええ、奴らの中には社会一般とは別のルールが形成されている様なものですから。さらに先程の話…マンタ号の乗組員は『筋金入りのろくでなし』だとか。つまり密輸に関してそれなりの経験を積んでいるプロだと言うことです。そんな連中は会合点に現れない待ち合わせ相手を何週間も待つなんて事をしません。囮捜査を疑ったりしますからね、待って2、3日でしょう。』
『ははぁ、つまりここ数日でその密輸船の片割れが行方不明になったという事か。で、それをやったのがレイダーだと?』
『おそらくそうです。いえ、間違いないでしょう。密輸船というやつは時にはその船の値段の数倍はするような積荷を運ぶ事もありますから、案外事故損失というのは少ない傾向にあるんです。少し前に船団に所属していた船が逸れた後に行方不明になる事案も起きています。レイダーがどうやってマルヴィクの隘路を抜けたかは不明ですが…本隊もすぐそちらへ集合させます。』
『そうかそうか。つまり、レイダーに一番槍をつけるのは我々かも知れないって事だな。分かった。また連絡しよう。では!』
しかし、数日前にレイダーが襲撃をやってのけたという事は、確実に我々が奴に近づいている証でもある。さんざん無駄足を踏まされ、裏をかかれたがあと少しでやつの首に手が届く、そんな段階まではこれている筈だ。…上手くやる、やってみせる。
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帝国暦453年4月7日 ゾンタークスキント艦内
フォン・オイレンブルク中佐
「どうだ、ケンプ曹長。大分見た目が変わっただろう。」
「はい、近くから見ても十分別の船に見えますよ。色を塗り替えるのと小物を付け足すくらいでかなり印象が変わるものですね。これならもう一度臨検を受けてもバレないんじゃないですか?」
「外見は変わっても中身は変わらずフェザーン仕様だからそれは厳しいだろうな…よし、回ってみて気になる点が無ければ着艦許可を出すぞ、ご苦労。」
「了解しました。ワルキューレの調子も好調です。オーバー。」
小物の中で一番大きくて目立つブレードアンテナはワープにも耐えられる仕様にする為に苦労したが、何とかそれらしいものが出来た。無論外見だけの代物だから実用性は0だが、ケンプ曹長の言う通りぱっと見る限りでは別の船に見える。…改造したエンジンを積んでいる艦尾の膨らみ具合は誤魔化せなかったが、それでも人はより目立つ構造物の方に目がいくはずだ。これで我が艦は立派にフェザーン船マレタ号からエル・ファシルのカシー号に変身を遂げた訳だ。
「よし、ワルキューレ1番の収容が終わり次第出発だ。とりあえずの目標はこの星系だ。バクラン…ね、無人の星系のようだが、警戒は怠らないように。」
「はい、艦長。収容作業終了次第予定航路に出ます。」
…さて、またもや再出発だ。イゼルローン回廊へ向かいつつ、命令電文にあった補給・通信網の撹乱若しくは遮断か…丁度よくすぐには通報されないような位置に丁度よく非武装の中継ステーションでも有れば遂行できるというレベルの命令だが…可能性は0に近そうだな。
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同日 ゾンタークスキント艦内
V・クンツェ中尉
SPUの連中が去って、思えばカーターとの三次元チェスはこっちが負け越したままで終わってしまった事を考えていると、私を呼ぶアルコール臭い声がする。
「あ!中尉!どうです?」
「どうです?じゃない、私はもう二度とお前の酒は飲まないと決めているんだ。…ま、話ぐらいには付き合ってやる。」
「だってアレは無理矢理呑ませた訳じゃありませんよ。第一たった1、2杯でああなっちゃうとは予想出来ませんでしたし…」
「…そういう帝国人もいるんだよ。で、何かあるから呼んだんだろ?」
「あぁ、そうでした。中尉は艦長がバクスター氏と別れる時に封書を渡してたの見てましたか?」
「あ?…ああ、あれか。私信だって言ってたが…」
「それですよ、私が知るオイレンブルク艦長という人は私信なんて弱みの塊みたいなものをいくら友人と思っているからといって、出会って数ヶ月の人間に託すような人物では無いと思っていたんですがね。」
「うーん、そんなもんか。誰だって故郷は恋しいものだろ?あの堅物のフランツィウス大尉だって、本人ではバレてないと思ってるがロケットの中の写真を見てる時の顔は直視できたもんじゃないぞ。ロマンス小説にあるような恋人を想う微笑み、って言うのはああいう顔の事を指してるんだろうなって代物だ。」
「いえ、艦長が故郷を懐かしんでるとか、女々しくなってるとかそう言う事を言いたいんではなくてですね、気になってるのは、何かしらの考えがあってああいう事をしたんじゃないかって点です。」
「考え?…どういう事だ?」
「まず、バクスター氏は…まぁ、善良な人ですから誰かに封書の中身を見せろって言われた所でハイそうですか、とやる様な人ではないでしょ?でも叛乱軍側としたら敵方からの文書です。何とかして手に入れようとするでしょう。それを見越して、ゾンタークスキントがこれから向かう先がまたフェザーン回廊方面だ、とかいう類いの偽情報が書かれているんじゃないか、そう考えた訳です。どうです?この説は。」
「…艦長が故郷を懐かしんでるってよりかは頷ける説だと思うがね。先にバクスター氏がなにがしかの好奇心を発揮して覗き見でもしてしまったら直ぐにバレるような内容を書くかね?」
「そこは彼への信頼でしょう。信頼しつつ利用しているとなれば…艦長も中々辛辣な人ですね。」
信頼しつつ利用している、ね。確かに軍人や医者という人命に関わる職業は利用できるものが有ればとりあえず試してみようとするものだし、別にそれは悪いことであるとも思わない。いや、思ってはいけないんだ。
「ま、あの封書の内容がどんなものであるにせよ、艦長のやる事だからな、我々乗組員に害を及ぼすなんてものではないだろ。…そうやって推理ごっこしている位なら直接艦長に聞いてみればいいじゃないか。一応艦長副官って仕事なんだから。」
「いやー…一応艦長の前では真面目な副官で通ってますから、こんな探偵めいた事を考えてるとは、とてもとても…」
驚いた。こいつはいつか酒を鹵獲するかしないかって艦長に掴みかかりかけたのを覚えてないのか?艦長も能力はどうあれ、絶対に「真面目な副官だ」なんて感想は持っていないと思うが…まぁ、自分でそう思ってるんなら別に訂正する必要もないか。
続く
クンツェ中尉の名前はフィクトール、Viktorです。そろそろ、というか日常パートは苦手なので、次回は動きます。毎回激動すれば良いじゃないかと思いますが…こう、ステーキにも付け合わせは必要かなって思うタイプの人間なので…拙くても入れたくなるんです。
今回もご意見ご感想お待ちしております。