海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

44 / 78
陸軍記念日です。奉天会戦においてクロパトキンが鴨緑江軍を第三軍と間違えた理由に、日本側の馬賊を使った情報工作があったんじゃないかって言う説を見たんですが、そんなロシアが馬賊の話を鵜呑みにしますかね…
では、どうぞ。



第四十四話 危険の足音

帝国暦453年4月9日 バクラン星系外縁部

G・W・ケンプ曹長

 

「♪帝国とはなんぞや?ヴァルハラ系か?キフォイザーか?オーディンの果樹が実る地か?ゾーストの名勝か?いや、否、否、否!我が祖国はもっと巨大なはずだ!」

 

大型の交通路があるというこの星系に着いて3回目の索敵飛行も相変わらず順調だ。1機分のスペアパーツが出来たおかげで我々の蛮用にも十分耐えてくれている。こういうワルキューレが好きなんだ。索敵レーダーの画面に至っても整備班が出撃のたびに磨き上げるせいもあって汚れの一つだって見当たらないし、次の獲物も案外すぐ……?…!まずい!

 

画面端に映った極小の影、もしこれだけだったら宇宙に何千億単位である小岩塊やデブリかも知れない。しかしその影があり得ない軌道を描きつつ高速移動していたら話は180度違ってくる。あの動きはアルテナで毎日の様に見た叛乱軍艦載機の哨戒行動だ。少しレーダーを切るのが遅れてしまった。もし奴が逆探を入れているとしたらまずい所の話ではない。すぐに戻らなければ…!

 

ーーーーー

 

「間違いなく艦載機の影だと言えるんだな?」

 

「はい、この右腕をかけても構いません、艦長。」

 

「よし、君の経験と目を信用しよう。すると…どう思う?宇宙母艦が出てきているかな?」

 

「思いますに、この辺りに大型の母艦がいる可能性は低いと考えます。といいますのも、叛乱軍部隊の宇宙母艦艦載機の運用は基本的に複数機よりなる編隊によって行われています。そうする事で機体性能の不利を補おうという策のようですが…とにかく、今回の影は単機行動でした。巡航艦か戦艦級の索敵・直掩機かと。」

 

「そうか。一安心だな。ありがとう曹長、悪いが暫くワルキューレの索敵行動は見合わせる事になる。」

 

「了解しました。では、整備に努めます。」

 

艦に逃げ帰ってくるまで追跡は受けていなかったようだが、どうも心配だ。叛乱軍のパイロットが不注意な奴である事を祈るしかないか。

 

ーーーーー

暫く後 ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「さて、諸君。どうするか決めたいが、まず意見を聞きたい。1、すぐにこの星系からの離脱を図る。2、ワルキューレが発見されていないことを信じて現在地に留まり、隠れ通す。3、あえてこちらから仕掛け、敵艦を撃砕する。…これは無謀すぎるな。」

 

「敵艦載機は索敵行動中だったとの報告がありました。だとすれば逆探を使用せずに向こうのレーダーだけで索敵していた可能性もあります。1番は追跡らしきものは受けなかったとの事ですし、下手に動いてボロを出すより、現在地に留まるのが良いのでは?」

 

「…1つの可能性のみを頼って動かないのも危険ではありませんか。索敵行動という事は、その網を現在地にまで広げてくる可能性はかなり高いと考えられます。そうなれば先に発見されて、敵に先手を取られる事態になりかねません。可及的速やかに離脱行動を取るべきです。」

 

「砲術としては大尉の意見に賛成します。今のように機関を落としたまま留まっていてはもし接敵のあった時に主砲が一斉射しか出来ません。…恥ずかしながら巡航艦や…ましてや戦艦を一撃で戦闘不能にできるとは言い切れない以上、ある程度の機関出力は確保しておいていただきたい。」

 

「もし見つかる羽目になっても小惑星帯に泊まっている船より通常航行中の船の方が不審ではありません。変装もうまく出来た事ですし、案外誰何だけなら切り抜けられるのでは?」

 

「それは楽観論だが…私の意見も即時離脱だ。理由はほとんど大尉の言った事と同じだが、もし戦闘になった場合に出来るだけこちらに有利な戦場設定に持ち込みたいというのもある。他に意見は?…無いようだから離脱に決する。」

 

「了解しました。ではアンカーの解除と…戦闘配置は?」

 

「まだ見つかったと決まった訳では無いし、緊張の糸を張りすぎて途中で切れてしまうのもコトだ。とりあえず通常配置のままでいい。叛乱軍の方も通常航行中の商船を発見していきなり撃つなんて真似はしないだろうし…」

 

…見つかってはいない、現状はそうだろうが、確か叛乱軍艦艇の艦載機数は巡航艦で3機、戦艦ではもう少し多いはずだ。たかが3機だが、それだけ有れば巡航艦そのものの索敵能力もあわせて、一つの星系全体の検索位ならすぐに終わるだろうし、残念ながら発見されるのは避けられないだろう。そんな中での曹長の知らせは正に不幸中の幸いだ。少なくとも心の準備だけは出来るようにしてくれた訳だからな…

 

ーーーーー

同日 レイダー捜索隊第13小隊巡航艦フェートン艦内

J・バーネット中佐

 

『レイダーに一番槍をつける』なんて事を言ってはみたが、結局あの密輸船を送り返して以来会ったのは小さな民間船が2隻だけだ。ビュコックはやけに深刻そうな面でいたが、本当にいるのだろうか?索敵用にスパルタニアンを出しても接敵報告も無いし、第一出す度に…

 

『2番機に着艦許可。後部スラスターに注意!』

 

そら来た。そう思った瞬間、艦全体が震え、いや、揺さぶられて耳障りな衝撃音がする。

 

『…2番機、着艦しました。』

 

『よーし、この感じはどうせグレイだろ。すぐにつかまえて艦橋まで来るように伝えろ!』

 

『はっ、それがグレイ軍曹の方も報告があると言ってますが…』

 

『なら好都合だな。ついでに聞いてやるからその前に…』

 

言い切る前に扉が開いて、右後ろから大きな声がする。

 

『グレイ軍曹、報告事項がありまして参りました!それでですね…』

 

『気をつけ!まず報告の前に私の話を聞いてもらおうか。軍曹、先程君に出した許可は何かな?』

 

『はっ、着艦許可であります!』

 

『分かってるじゃないか、そうだ着艦許可だ。決して衝突許可や墜落許可を出した訳じゃないぞ!この前の着艦ベイの空気漏れの原因は誰だと思ってるんだ?』

 

『さぁ?』

 

『さぁ?じゃない!君の着艦が荒いからあんな事になるんだ!…そのうち君の命まで危うくなるぞ…はぁ、今回は反省文を15枚書いて3日以内に持ってくる事。それまでスパルタニアンには指一本触れるな。で、報告というのは?』

 

『はっ、哨戒行動中に一瞬だけ対レーダー反応があったんです。』

 

『…で?その発信源は確認したのか?』

 

『いえ、一瞬でしたし、推進剤の残量も心許なかったので、大まかな方向が分かっただけで…発信源が具体的にどのようなものであるのかは不明です。』

 

『対レーダー反応、ね…スパルタニアンのレーダーに艦影のようなものは映らなかったんだな?』

 

『はい、何も。』

 

そうなるとおかしな事になってくる。もしこの宙域にレイダーがいたとして、奴も帝国艦だ。常識的に考えてみれば帝国艦単体のの電子戦能力はそんなに高いものではない。そうなると資料にあるような150万t級の船がこっちのレーダーに映らないで向こうのレーダー波だけ届くなんて事はないはずなんだが…

 

『艦長…?』

 

『ん?ああ、軍曹、君はもう行っていいぞ、報告ご苦労だった。反省文の件は忘れないようにな…』

 

もしかしたらレイダーの目的は商船を襲撃するだけじゃなく、同盟領の測量やら、そういった攻勢準備的な任務もあるのかもしれない。そう考えると偵察艦級の電子戦装備があると言われても疑問はないが…それこそ単艦にやらせるには少々重責すぎないか?それに、そういう任務に使う機器は総じて艦の容積を使うものだ。だから向こうもこっちも強行偵察艦なんていう専門のやつを造っている訳だし…分からんな。

 

『本隊の到着予定はいつだったか?』

 

『はい、おそらく…1番近い所にいるイソタケルも1日以上はかかる位置にいますので、早くて明後日以降かと。』

 

『そうか…とりあえずこのまま哨戒行動を続行しつつ、軍曹が言っていた方位へ向かう。砲術長…はいないんだったな。あー、次席に主砲と側砲の準備を万端にしておくように伝えろ。』

 

さて、もし見つけたとして…本隊の到着を待つかどうするか…

 

続く

 

 

 

 

 




冒頭でケンプ曹長が歌ってるのは「Was ist des Deutschen Vaterland」って歌の銀河帝国版です。良い歌ですよ。本当大ドイツ主義って感じで。

フェートンの砲術長が不在なのはマンタ号の監督官としてついていったからです。

今回もご意見・ご感想よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。