海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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少し空いてしまいましたが2編目です。
お気に入りが180を超えました、大変ありがとうございます!

では、どうぞ。


第四十六話 バクラン星域の戦闘 2

帝国暦453年4月10日 ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「曹長、1、2番機とも準備はいいか?」

 

「機体、射出装備よし、いつでもどうぞ!」

 

「敵艦、後方で右に旋回中!本艦の左舷につくようです。」

 

「結構、攻撃してくる素振りは無いな。どうやらうまく死んだふりにかかってくれたか。」

 

まさかあの体勢からロールして撃ってくるとは、中々立派な敢闘精神だとは思う。が、向こうにとって不幸だったのは命中箇所がゲスト用船室と船倉だった事だ。バイタルパートはまだ無事だし、ゾンタークスキントはまだまだやれる。火災に偽装して張った煙幕の間からワルキューレを出せば、一気にこっちが有利になる事間違い無しだ。

 

「いいか、ワルキューレの短距離ビームの必中距離まで引き寄せろ。うちのは1門しかついてないんだからな。…よし…そのまま…今!射出しろ!」

 

艦の両舷から煙幕を突き破って我らの愛すべき分身が放たれ、すぐに翼部から細い光線が敵に向かって発射される。だいぶ無理の大きな射出姿勢だったが、ああも早く体制立て直して攻撃に移れるのはさすがと言える。

 

「やった!当たったようです。敵艦中央で小爆発!対空砲火が上がってます!」

 

「やはりワルキューレのビーム1門では小爆発程度の損害しか与えられないか。…2人には落とされないようにしつつ機会があったら攻撃しろとつ伝達!主役の再登板だぞ、煙幕止めろ!取り舵一杯、主砲用意!今度は全力を敵側面に叩き込んでやれ!」

 

速度を落としていたおかげで小回りは効く。敵は今ワルキューレの方に気を取られているはずだし、とにかくこの数秒で勝負は決まる。

 

ーーーーー

巡航艦フェートン艦内

J・バーネット中佐

 

『敵から飛翔体が射出されました!』

 

『脱出ポッドか何かか?撃つなよ。できるなら捕虜にして情報を…』

 

『…いえ、あれは…!ワルキューレ!!』

 

オペレーターの絶叫が聞こえた途端に艦橋全体に衝撃が伝わる。ワルキューレ…!?そうか、艦載機!グレイ軍曹のとらえたレーダー波の発信源はこれか。レイダーは商船じみた見た目をしているくせに短剣よりもっと危険なものを隠し持っていたという事だ。

 

『損害報告と対空戦闘だ!必ず落とせ!これ以上小蝿に好き勝手させるな!』

 

『第2配電盤が発火!左舷の電力系が落ちてます!奇数番対空砲が旋回も照準も不能です!』

 

『旋回が出来ないなら手動で回して目視で打て!何のためにハンドルがついてると思っているんだ!』

 

『主砲のエネルギーパイプがどこかで遮断されています。1、2、3番は充填率60%で停止!』

 

『敵艦、こちらへ回頭中!』

 

『右舷砲は!?何をやってるんだ!』

 

『通信が途絶してます!…おそらく先程の揺れは右舷の…』

 

『くそっ!なら面舵だ!少しでも被弾面積を減らして…』

 

『ビーム来ます!目標は本艦…!』

 

やられる…?あんな軍艦もどきなんぞに我々が、そんな、そんな馬鹿げた話があってたまるか…!

 

ーーーーー

ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「命中!敵艦、各所より火災発生の模様!」

 

主砲は2つとも見事に敵の側面を穿った。30cmといえどもまともに当たればただでは済まないはずだ。…少なくとも戦闘状態を維持できるとは思わない。

 

「誘爆してます。位置から考えてエネルギーパイプ沿いに火が広がっているんでしょう。ああなればもう艦全体の統一行動は無理ですね。」

 

「…ワルキューレを収容する。ワープは出来そうか?」

 

「先程の被弾箇所の消火には成功しましたが、外壁に穴が空いた状態である事は変わりません。ワープするには船外作業が必要になるかと。」

 

「では、とりあえず今やるべきはこの場を離れる事だ。ああも景気良く燃えているんだから向こうも死んだふりをしてるって事はないだろう。…が、奴が見えなくなるまで戦闘配置は継続する。」

 

こちらも損害を受けたが、せいぜい一時的にワープができなくなった程度だ。小破といった所だろう。…修理ドックでは艦内火災が起これば損害がどうであれ中破扱いになるが、一体あの謎の基準は何を基にして作られたものなんだろうか…?

 

ーーーーー

巡航艦フェートン艦内

J・バーネット中佐

 

…右足が熱い。身体全体も。視界は赤いし、耳鳴りもする。が、何故だか意識ははっきりしている。…頭に血が上るという言葉があるが、逆に血が流れすぎたかな。

 

『誰か、生きてるやつはいないのか!?航海長!コールドウェル少佐!』

 

艦長席の右前にある航海長席を見ると、少佐は先ほどと寸分違わず姿勢で座っていた。一つだけ、何かの構造物が彼の胸に生えたように突き刺さっている事を除けば。

 

『…君に昇進の先を越されるとは考えてもみなかったな。6歳も年下のくせに大佐殿とはな。だが、私もまたすぐに追い抜くぞ。君が佐官の最高位なら、こっちは将官だ。』

 

問いかけに応える声や呻き声の一つも聞こえない所から考えるに、艦橋はどうやら全滅だ。最高責任者は最後に退艦するものであって、最後まで生き残るなんてことは無いと思っていたが…

 

『艦橋、艦橋!機関室です!艦橋、指示を!』

 

…まだ有線は生きているか。奇跡に近いが、もう出来ることは…いや、

 

『こちらは艦長だ。残念ながら現在艦橋は人事不省状態となっている。…機関室はどうだ?』

 

『3番と、4番の融合炉も止まりました。電力変換室の様子は分かりませんし、人員も…』

 

『そうか。分かった。なら、1、2番の出力を全開にして機関科員は退艦せよ。総員退艦命令も追って出す。』

 

『…しかし、それでは機関が焼け付いてしまいます!安全装置が作動しなかったら熱暴走してしまう可能性も!』

 

『構わん。どうせもうフェートンは廃艦同然だ。それより返事はどうした?』

 

『…了解しました。艦長。』

 

よし、後は艦内マイクで退艦命令を出して…自分自身は民主共和政へ最期のご奉公だ。

 

ーーーーー

ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「さらに誘爆しています。艦首部も…あれではもう主砲は無理ですね。。」

 

「…よし、敵の戦闘能力は喪失したと判断する。ワルキューレの方は何か言ってきたか?」

 

「1番機は無傷のようですが、2番は右翼後方が削れているとの事です。着艦は可能ですが、できるなら誘導ビームを出して欲しいと。」

 

「そうか。とりあえずアレにいつまでも原型を保たれるのは精神衛生上よくないな。…5分後に撃沈するから退艦するなら早くしろと伝えろ。主砲は準備。1番は後部上方のタンク状の構造物、2番は艦首部に照準。」

 

「了解しました。主砲に伝えます。」

 

「敵艦より艦載艇らしきものが離脱しています。脱出作業が始まったようですね。拾いますか?」

 

「さすがにそんな事までしている余裕はないな。ゲスト用の部屋も焦げてしまった事だし、彼らにはしばらく不便な宇宙の旅を満喫してもらうとしよう。」

 

ともあれ、これで撃沈リストに叛乱軍巡航艦1隻が追加だ。あの武装商船を含めなければ初めての正規の戦闘艦の撃沈記録、初めて軍工廠でこの艦を見た時はなんて貧相な貨物船かと思ったものだが、何のことはない、やればできる奴だったじゃないか。

 

「ああ、それから、言い忘れていた。大尉!」

 

「はい、艦長!」

 

「この前の戦闘配置演習の時、私はせめて完了まで1分は切れるような状態にしろと言ったな。」

 

「はい、艦長。」

 

「35秒だった。よくやってくれた。」

 

ーーーーー

フェートン艦内

J・バーネット中佐

 

5分くれた。どうやら帝国軍では「窮鼠猫を噛む」と言う言葉を士官学校で教えないらしい。艦全体に火が回り、人員悉く倒れるとも、我らがフェートンはその最期の瞬間まで軍艦だし、私も最期の瞬間まで軍人だ。

 最後の脱出艇が艦を離れる。後は艦橋要員用に配備されているものだけだ。つまり今となっては自分専用の艇という訳だが、まだ別の使い道がある。

 

『頼むぞ、フェートン、我らが家にして妻、言う事を聞いてくれ。』

 

痛む足を引き摺って舵輪を掴む。計器類はカバーが割れただけだ。これだからアナログ式は信頼できる。…レイダーはこちらに艦首を向けたままだ。止めを刺そうとしているんだろうが、逆にこっちが特大のプレゼントをくれてやる。

 

『機関長はよくやってくれたもんだ。よし、行こうか。』

 

1、2番の緊急用弁と全てのスラスターを吹かす。舵輪を右に回して、後は…

 

ーーーーー

ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「…!!艦長、敵艦、急加速!転舵してこちらに!」

 

「窮鼠猫を噛むってやつか!落ち着け、それくらいの事は折り込み済みだ。主砲打て!下部スラスターを全力で吹かせ!奴はカミカゼだ!」

 

脱出した艦載艇の数からして巡航艦に残っている人数はかなり少ない可能性が高い。ならば細かい機動が取れるはずもなく、この奇襲的な一撃を避けてさえしまえば奴には何もできない。

 

「スラスター、効き始めました。主砲命中するも、敵針変化せず!」

 

「ならこのまま下を抜けさせてやれ!」

 

ギリギリで足元を抜けていく巡航艦がいやにゆっくり動いているように見える。炎を後ろに引きずりながら艦首が消え、中央が消え…

 

「よし、抜けたk」

 

そして次に知覚出来たのは下から大きく突き上げられる感覚と、艦橋の天井に灯いた赤色灯。そして艦橋要員の叫び声、あの高い声はツァーンだな…

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと長くなってしまいました。戦闘描写が難しいのは地の文というものがなくて、みんなだれか視点から書いているからって結論になりました。なんでこういうスタイルにしたんでしょうか、昔の私。

今回もご意見ご感想お待ちしております!
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