海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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3月後半になって雪を見るとは思いませんでした。三寒四温のこの頃、お体にお気をつけてお過ごし下さい。

では、どうぞ。


第四十七話 バクラン星域の戦闘 3

帝国暦453年 4月10日 ゾンタークスキント艦内

フォン・オイレンブルク中佐

 

「…長!艦長!くそっ、クンツェはどこで何をやってるんだ!早く艦橋に来させろ!」

 

何が起こった…?巡航艦は完全に避けた。確かだ。少し擦っただけにしても身体全体が吹き飛ばされるような衝撃を受けるはずがない。とにかく指揮を取らねばならないが…声が出ない。肺に空気が無いせいか。

 

「…!艦長、意識はありますか!?現在損害の確認中です。何かはまだ不明ですが、艦下部後方に何かが衝突したのではないかと。負傷者も多数出ている模様です。」

 

衝突…?ミサイルや火器の類いではないのか。こんなタイミングで隕石なんてこともないだろうに一体何が…

 

「あ…あぁ、大尉、ありがとう。」

 

喋るとまだ胸に違和感が残る。この感じは黒色を貰った時の感じに似ている、肋骨が何本かやられているな。3回目だからこれで銀章になるだろうが、あまりああいう勲章はもらって嬉しいというものではないんだが。それに視界が妙に暗いな…

 

「中尉、早く来い!艦長だ!」

 

「意識はありますか?少し痛みますよ、いいですね!3、2!」

 

右目に激痛が走る。なんだこれは、32にもなって経験した事のない感覚がまだあるとは思っても見なかったが、一体私の体はどうなってるんだ?

 

「止血帯を巻きます。できるなら起き上がらないで下さい。義眼は…この艦の設備では用意できませんから本国に戻ってからになるかと…」

 

義眼か…これは銀章どころじゃないな。一気に金章をつけるハメになるか、それにしても片目が無いなんてのは見た目まで海賊じみたものに、ね。何の因果か運命か…

 

「艦長、機関室と連絡がつきません。どうやらあの揺れの震源は艦後部のようです。」

 

「巡航艦はどうなった?あのまま離れたか?」

 

「はい、現在6時方向にいます。あのまま進めば恒星に直撃するでしょう。」

 

「そうか、伝令は出したな。見事に窮鼠に噛みつかれたか。とにかく負傷者の手当と現状確認だ。火災は発生していないんだな?」

 

「火災警報はまだ鳴っていません。ワルキューレに外からの損害も確認させていますから、もう少しで連絡が…」

 

「こちらは1番機、ゾンタークスキント。受信状況は良好か、どうぞ。」

 

「大丈夫だ。艦橋は無事。後部は一体どうなってるか?」

 

「…何か、多分艦載艇だろうが、それが後部に刺さっている。見たところ、下部は完全に潰れてるようだ。」

 

…こいつはとんだ噛みつかれ方をしたな。

 

ーーーーー

 

「詳細が上がってきました。…よろしいですか?」

 

「ひどい事になってるのは分かってるさ。続けたまえ。舞踏会のご婦人方みたいにそう何回も失神したりはしないだろう…多分な。」

 

「はっ、まず人的損害ですが、戦死が18名、負傷は艦長も含めまして、26名です。」

 

18名、18名か。部下を喪ったという報告は何度聞いても慣れないし、嫌なものだ。もっとも、そんな報告に慣れてしまうようでは困るんだが…出撃時の願いは叶えられなくなってしまった。私はどうやら大神オーディンに嫌われているようだな。

 

「分かった。…遺体は残っているか?」

 

「はい、幸い1人も宇宙に放り出された者はいません。認識票も全員分回収できています。」

 

「そうか、せめてもの救いと言うべきだろうな。それで、物的損害の方はどうだ?」

 

「機関長が戦死してしまいまして、修理可能かどうかは現状…明言する事は困難です。敵巡航艦から射出された脱出艇は艦後部に完全に食い込んで止まっています。エネルギーの伝達系がやられて、主機と噴射口が遮断されている事だけは分かるのですが、他は…」

 

「つまりもうゾンタークスキントはまともに身動きが取れない、そういう事か。」

 

「…食い込んだ脱出艇は外部からの支援が無いと引き抜けません。もし商船か何かが通りかかれば、また動ける可能性が生まれて…」

 

「大尉、無理してクンツェ中尉の真似をする事はないぞ。それより先に来るのは叛乱軍の増援部隊だろう。…手詰まりかな。刺さった脱出艇に中身はいたのか?」

 

「いえ、見たところ無人です。発射した人物は、誰かは不明ですがまだあの巡航艦の中かと。」

 

「正に自分1人の命と引き換えに艦の半身をもぎ取っていったか。大した根性だな。」

 

さて、艦はもうどうやっても動けない。配電盤はまだ生きているようだから艦内環境の維持はできるだろうが、問題はこの後すぐにでも現れるだろう敵への対処だ。

 

「…士官と、下士官も集めてくれ。艦橋にでいい。」

 

ーーーーー

 

「全員集まったな。座ったままでは格好がつかないが、軍医に立つなと言われているからこのまま話す。とりあえず、今回の戦闘では全員よく働いた。これは艦長として誇りに思う事であると同時に、敵巡航艦1隻を結果的に撃沈できたのも、諸君らの能力あっての偉業と言っていいだろう。出撃前に言った、『マーヒェン級にも負けない艦』になったといえる。が、残念かつ不幸な事にゾンタークスキントも戦闘力を失った。あと少しで確実に現れるであろう敵艦、もしくは敵艦隊に対して有効な行動をとる事は不可能だろう。」

 

ざわめきの一つも聞こえない。誰もが私の次の一言を待っている。

 

「…帝国軍規によれば、もし、艦が戦闘不能状態となり、周囲に味方の援護の期待できない時は機密保持の為に自爆する事になっている。今現在の

の状況を鑑みて、本艦に残された選択肢はこれしかないと思う。」

 

言いにくいことは1番初めに言ってしまうのがストレスを溜めないコツだ。結局どう言い訳をしたとしても、私の油断からこういう結果を招いてしまったという事実は曲げられはしない。

 

「また、我々の今後に関してだが…帝国軍規には降伏の項はない。ただ、敵前逃亡と無責任行動についての罰則基準があるだけだ。」

 

まぁ、帝国軍ができた時から暫くはその主敵は宇宙海賊のような捕まえた奴は吊るすか身代金の種にするかのような連中だった訳だし、何代目かの軍務尚書が『帝国政府は宇宙海賊を対手とせず』なんて演説を打ったせいで降伏の項が意図的に消されて、復活もしてないなんてのは有名な話だ。軍人になった時点で誰もがどこかから聞く話だろう。

 

「だから、私としては諸君らに『降伏する様に』とは言えない。ただ、自爆する本艦からの脱出命令は出す。そのあと、『もし』脱出艇が叛乱軍に捕らえられたとしても、これは命令違反にも軍規背反にもならない。…と、私は解釈している。」

 

「ただ最後に、これは完全に私の個人的な願望で言う事であるが聞いて欲しい事がある。まず、我々はこれから艦を放棄する事にはなるが、これは打ちのめされ、惨めに追い出された末にする行動ではない。我々は敗残兵として敵の手中に陥るのではなく、自らよりはるかに優勢な敵を倒した勇士として、敵中へ赴くのだ。帝国軍人としての誇りと矜持を忘れないでいてほしい。それから、艦を離れる時、全乗組員は軍帽、上着、勲章・徽章類を着用すること。では、下士官はこの事を指揮下の各分隊に伝達せよ。復唱は不要。士官は残って自爆シークエンスの認証と機密の廃棄作業を手伝ってくれ。」

 

ーーーーー

 

「7番艇、離れました。艦長、どうぞ。」

 

「最後に艦を離れる栄誉まで大尉に取られる訳にはいかんよ。先に乗りたまえ。負傷しているとはいえ、な。…名簿に漏れはないな?」

 

「はい、生存者、艦長含めて242名、全員います。負傷者は1番艇に医療要員と一緒に乗せてあります。」

 

航海日誌やあのはぐれ船から鹵獲した叛乱軍の機密書類は完全に焼却したし、ワルキューレも木端微塵だ。どうしても我々がフェザーン回廊を抜けてきたという証拠を残す訳にはいかないから仕方ない。艦を失ったという現実を受け止める為にも必要なことだ。

 

「よし、では、さらば、ゾンタークスキント。」

 

先に離艦していた7隻に合流し、離散しないようにワイヤーで各艇を繋ぐ作業に入ると、大尉が話しかけてくる。

 

「艦長、起爆時間まであと1分です。」

 

「そうか。総員、ゾンタークスキントに、敬礼!!」

 

我々の艦は艦尾から順に、そう、本当に崩れるように壊れていく。1年足らずの冒険の末、ついに1つの艦が宇宙に還っていくのだ。崩れていく艦を見ながら、どこからか歌声が響く。

 

「♪我に1人の戦友ありき、それは勇敢な、ドラムが響き渡り、彼は隣で歩き、共に進んだ…」

 

「♪飛び来る弾の、狙いは我か君、弾は彼を貫きて、彼はただ斃れ伏す、我が身の如く…」

 

…なぜか右目の傷口がしみる。さらば、私の艦、私の戦友。

 

続く




帝国暦453年4月10日、午前10時15分、帝国宇宙軍仮装巡航艦ゾンタークスキント、バクラン星域にて沈没す。

でも、まだ話は続きます。もうちっとだけ続くんじゃって奴です。以下、補足と蛇足です。

艦長の目に刺さった何かを軍医が抜く時、3、2で抜いたのは患者に力を入れさせないためです。
帝国軍規の内容は「叛乱者」を参考にしました。軍規に書いてないって事は解釈次第でどうにもなるって事で一つ。

今回もご意見、ご感想お待ちしております。
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