では、どうぞ。
宇宙暦762年4月12日 バクラン星域 戦艦モンジュ艦内
A・ビュコック少佐
『では、フェートンはレイダーと相討ちになったという事ですか。』
『先行したイソタケルによればそうらしいな。バーネットは艦と運命を共にしたそうだ。いい奴だったんだがな。残念だよ。』
レイダーには最後までやられっぱなしだ。沈めたとは言え、貴重な巡航艦となによりベテランを大量に喪ってしまったのは痛恨の至りだ。やはり3隻1組の体制を崩すべきではなかったな。
『フェートンから脱出した将兵はイソタケルが収容したそうだが、あとの問題はそのレイダーの方だな。まぁ、だから我々が向かっているんだが。』
『イソタケルは捕虜を収容しないんですか?いくら手狭な巡航艦とは言え、少しくらいは収容できるでしょうに。』
『それが、向こうの脱出者の数がかなり多いらしい。相討ち、と言ってもレイダーの方は自沈したと言った方が正しい位のようだしな。見える脱出艇は8隻、1隻20人としても160人の捕虜だ。390人乗りの巡航艦がフェートンの乗組員の世話をしながらそっちの世話をするのは少々荷が重いという判断じゃないかね。』
『しかし、もう2日ですよ。余り放っておくのも人道上…』
『そうなんだがね、向こうの脱出艇の方も近づいて来ないらしいんだ。こちらが近づいたら逃げると言うわけでは無いんだがね。ま、ほんとに飢えてたりする様なら助けを求めるだろ。…さて、あと1時間で現場だ。帝国人の海賊というのはどんな面をしているのか、楽しみになってきたな。』
確かに8隻の脱出艇というのは帝国軍の軍艦から出てくるにしては多い方だと思うが…とにかく受け入れ準備だ。一応捕虜にするという扱いならこのままの服装でも一向にかまわないんだが…
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『やぁ、ヴィドック、そういえば君とはレイダー捜索委員会ができた時に約束していたからな。多分あの『優しい船長』とやらもいるだろうから会わせてやろうと思って来てもらった。』
『そう考えるとなんだか変な気分です。どう接すればいいんですかね。』
『そりゃあ…今の状況は捕虜と捕まえた側だからな。こっちは堂々としていればいいんだ。なめられないように、な。』
にぶい衝撃とエアロックが作動する音が感じ取れる。どうやら脱出艇が接舷したらしい。もう少しで装甲服を身につけた連中が捕虜となったレイダーの乗組員達を連れてくるだろう。
『少佐、大丈夫でしょうか…』
『なんだ、捕虜の引見も初めてか?』
『密輸業者の相手ならした事があるんですが、そういう手合いと違ってこれから来るのは2日前まで本気でこっちを殺しに来てた連中でしょう?』
『あまりそういう事は考えないほうがいいぞ。捕虜となった軍人は既に非戦闘員だ。民主共和制国家の軍人としては彼らを保護する立場にあるんだからな。』
そうは言ったが、自分自身もそんなに経験があるわけではない。大体、捕虜というのは捕らわれてすぐより少し後になって反抗の意思が芽生えてくるものだから今の時点で心配しすぎるのも良くないとは思うが…
「は…れ!て…」
扉の向こうで声がする。どうやらご到着のようだな。
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フォン・オイレンブルク中佐
2日間放っておかれた後にやっと敵艦に収容される事になった。最初にやってきたのはあの因縁深いSCL-1344の艦番号の巡航艦で、沈めた巡航艦の乗組員を救助した後、暫く留まっていた。一度、バウディッシン中尉から「襲撃を許可してくれれば1時間で制圧してくる」などと言う提案があったりしたが、装甲服もトマホークもない襲撃はさすがにリスクが高すぎるし、成功したところで敵艦の動かし方も分からないので却下しておいた。
「いいか、抵抗はするなよ。罷り間違って撃たれでもしたら困るからな。私が先頭で出るから、士官から階級が高い順に続け。」
エアロックが開くと、銃と片刃のトマホークを構えた兵隊がざっと2個分隊、我々を出迎えてくれた。それにしてもいつ見ても叛乱軍の装甲服というのは威圧感が薄い。まるでフライングボールの防具をそのまま着てきているかのような出立ち、何か理由でもあるんだろうか?
「…出ろ!」
おや、どうやら言葉はこっちに合わせてくれるようだ。こちらとしてはどちらでも構わないんだが、劇団員以外の乗員にはこちらの言葉が喋れない奴もいるし、あえて向こうの負担を軽くしてやる事も無いだろう。
「あー、指揮官は私だ。我々は武装もしていないし、もはや抵抗の意志もない。そちらの責任者に会わせてくれるかな?」
『おい、今こいつ何て言ったんだ?』
『指揮官がなんとか…までは分かりました。服からしてこの片目が最高階級者でしょう。』
『よし、じゃあ早く連れて行こう。伍長、こいつの腰のものを調べろ。それからボディチェックだ。』
手荒い手つきでバンバン叩かれると折れた肋骨が軋んで痛いんだが、ここは我慢だ。
『なんだ、これ。刃がないぞ。』
指揮刀なんだから刃がつけてないのは当たり前だろうに…だが、それがないと困る。
『…異常がないなら返してもらいたいね。この後使う予定なんだ。』
『分かった、まぁ、怪我人が1人で何かできるもんでもないだろ。ほら。…ん!?』
『今、喋ったぞ!』
参った、つい口が滑ったな。それにしても綺麗な二度見だった。
『同盟語が話せるのか?』
『まさか、帝国人だぞ!たまたまそう聞こえただけだ。全く違う言語って訳でもないんだし。』
『なんでもいい、早く艦長の所に連れてけ!他の連中は待たせとくからな!』
どうやら部下達とは引き離されるようだ。まぁ、帝国軍でもいきなり銃殺というのは…あまりないし、とにかく責任者には面会できるようだ。大人しく指示に従うか。…銃口で突き回されるのは好きな感覚じゃないしな。
それにしても艦内設備はこっちと変わらないんだな。兵器の進化は最終的には一つの形に落ち着くという話もあるし、だからこそ今の時代でものを言うのは指揮官の技量と戦術なんだろうが…
「入れ!帝国人!」
おそらく会議室のような部屋として使われているのであろう空間には士官級と思しき服装の人間が整列している。全く、叛乱軍の軍服は一目で尉官か佐官か分からないから面倒だ。…見知った顔もいるが。
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A・ビュコック少佐
入ってきたのは右目に眼帯をつけた男だった。肩に2本線が入っている所と、胸の模様から見て中佐だろう。
『おい、あの男か?』
『そうです、そうです!目は…無くなってますけど。』
その中佐はぐるりと我々を見回し、ヴィドックを見て一瞬目を細めた後、艦長の方へ進み出る。
『何する気ですか?』
『まぁ、見てろ。面白いものが見られるぞ。』
艦長と数秒無言で相対すると、中佐は指揮刀を引き抜き、剣先を掲げた後に顔の前へ柄をもってくる動作を繰り返した後、鞘に収めた指揮刀を艦長に手渡した。
『帝国の軍刀令さ。向こうの一部の貴族なんかはああやって武装解除の意思を示すんだ。』
「帝国宇宙軍巡航艦、ゾンタークスキント艦長、フォン・クラークドルフ・ツー・オイレンブルク中佐、部下240名と共に、貴官の指導下に入る事をここに宣する。帝国暦453年、4月12日。」
途切れ途切れにしか聞き取れなかったが、おそらく自分の氏名と降伏する旨を伝えたんだろう。名前はオーレンブルク、か。とにかくにも、これでレイダーの件は一件落着だ。フェートンが沈められた以上は司令官もあまりいい顔をしない…だろうが…民間船舶の被害はこれで打ち止めになるはずだ。私にとってはめでたしめでたしって所かな。
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『このままシャンプールに戻るんですか!?』
『そうだよ。神経をとがらせて待っている司令官閣下からのご命令だ。来て、見て、帰る。いつものことじゃないか。』
先程手渡された指揮刀を興味深そうに眺めながら艦長はつぶやく。
『でも、捕虜は降ろさないんですか?普通は捕虜を艦内に収容している場合は移送収容所がある場所に寄ってから…』
『いや、『寄り道はせずに真っ直ぐ帰ってこい』だそうだ。司令官もここ数ヶ月の自分頭痛の種が見たくなったんじゃないか?』
それにしても不思議だ。まさかそんな曖昧な理由だけで呼びつける訳はないと思うんだが…取り調べにしても中央に任せればいい話だし、何か不都合な事件でも発覚したのかな?
続く
だいぶ自由にやりました。軍刀礼が帝国にあるかは分かりませんし、指揮刀を持っているかどうかも独自設定です。
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