海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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どうやら明日は関東で雪が降るような気温だとか。それで、明日早起きしなくてはならないので投稿です。

では、どうぞ。


第四十九話 悪だくみと取り調べ

帝国暦453年4月15日 戦艦モンジュ艦内

E・ツァーン少尉

 

この戦艦に収容されて3日、とりあえず拷問やら虐待やらは受けてはいない。艦長の方は呼び出されて取り調べか何かをされてるようだが、こっちは時々食事を置いていく兵が興味深そうに眺めてくるだけだから、まるで気分は捕虜になった兵隊と言うより動物園の猿だ。

 

「少尉、何かありませんか?」

 

「なんだ、軍曹。悪いがさすがの私でもあのボディチェックをくぐり抜けてこんな所に酒を持ち込むなんて事は出来なかったぞ。お陰で私の肝臓は長期休暇に入った所だ。働き盛りの年齢だっていうのにまったく…」

 

この装甲擲弾兵の軍曹は真面目そうな顔をして我が同志だ。バウディッシン中尉も黙認している、というよりかはあの人の場合は興味がないだけだろうが…

 

「酒の話じゃないですよ。これから捕虜交換があるまで…まぁ少なく見積もって数ヶ月は敵中にある訳でしょう?ですから、この際何かしらの言葉を覚えておいても損は無いと思いまして。」

 

「で、なんで私なんだ?」

 

「大きい声では言えませんがね、大尉なんかに聞くとあのホワイト嬢もかくやという位の講義が始まりそうでしょう?正に教科書通りって感じの…我々が知りたいのは、もっとこう…小粋なジョークとか受け答えとか、そういう類のものなんですよねぇ。」

 

「全く不真面目だな…そうだ、『I’m fond of you』なんてのはどうだ?」

 

「アイ、フォンドオブユー、フォンドオブ…フォンドオブ。で、意味はなんです?」

 

「あなたの事が大好きです。」

 

「はい?」

 

「あなたの事が大好きです、だよ。」

 

「それは…恋愛的な意味で?」

 

「もちろん。」

 

「まさか少尉、あなた捕虜収容所で誰か口説くつもりなんですか?」

 

「真面目に受け取るな、冗談だよ!ジョークだ!」

 

それにしても、捕虜収容所とかいう言葉を聞くと自分達の置かれた立場というものを再認識せざるを得ない。我々に捕まったゲスト達も同じような気持ちだったんだろうか。これでやっと彼らとは同じ立場になったとも言えるが…

 

「こっちの軍人も同じように接してくれるとは限らない、か。」

 

「なんです?何か他に面白い語彙かなんかあるんですか?」

 

「え?あぁ、そうだな…向こうの連中をなんて呼ぶか、とかどうだ?」

 

「それは…あだ名とかって事ですか?じゃあいいのがありますよ!いつも昼頃になるとちょっとだけ顔を出していく…あの態度と他の兵隊からの目線からして、多分下士官でしょうね。いるでしょう?あの色が白くて顔のやけにながぁい奴。」

 

「あー、そう言われてみればいるな、よく見てるな。」

 

「装甲擲弾兵教範第21条に曰く、相対した敵をよく観察し、隙や癖を把握して戦術材料とする事。って奴です。で、あいつのあだ名は白イタチ、なんてどうです?よく特徴を捉えてるでしょう?」

 

「ははっ、いいじゃないか。白イタチね。思ってもみなかったな。…だが、叛乱軍の1人1人にそうやって命名していくのは少々骨が折れるだろ?だから、全員をまとめて呼ぶような奴だ。ちょっと考えたらいいのが浮かんだんだ。」

 

「いつもクロスワードを解いてる賜物って奴ですか?どんな呼び方です?」

 

「馬鹿(doof)」

 

「これはまた直球ですね。言葉が分からないからって…意味を聞かれたらどう誤魔化すつもりなんですか?」

 

「ちゃんとそこまで考えてあるんだな、これが。敵の2手3手先を読んで行動すべしだ。いいか。スペルはD-O-O-Fだろ?これをいい感じに当てあめて、さも「何かの頭文字をとった略語です」と言い張れば言い訳は完成だ。」

 

「中々悪知恵が働くものですね。」

 

「頭の回転が早いと言ってくれたまえよ。で、軍曹、叛乱軍のは自分らの事をどう名乗っているかは知っているか?」

 

「急に士官育成課程のテストですか?えー…自由、惑星連合?」

 

「惜しいな。自由惑星同盟だ。で、これの『自由』の所の頭文字はFだろ?それで後のD-O-Oは『親愛なる将校』で当てれば…」

 

「親愛なる自由惑星同盟の将校(Dear Officer Of Freeplanets )になるって訳ですか!」

 

「正解!向こうの兵隊だって実際に士官じゃなかったとしてもそう呼ばれた方が嬉しいだろ。ただでさえ向こうのはわかりにくい軍服をしてるんだし、我々が階級を判別出来ないから仕方なくまとめてそう呼んでるって整合性もある。」

 

「いや、面白いですね。早速皆んなに広めてきましょう。」

 

…これくらいしか考える事が無いからやってると言えばそうなんだが。なんにしろただ捕まって閉じ込められてるだけってのは辛いものだ。捕虜収容所かどこかに連れていかれるのか知らないが、早く着かないものかな。

 

ーーーーー

同日

 

フォン・オイレンブルク中佐

 

『だから何度も言うが、私の姓はオイレンブルクであってオーレンブルクではない。対話を試みるつもりなら相手の名をきちんと発音できるようにしてからお願いしたいね。』

 

こんな門閥の坊ちゃん方みたいな屁理屈を捏ねているのは理由がある。何とかして時間を稼いで話題をゾンタークスキントの回廊突破の事からそらし、それができなくても部下達に余計な感情が向かないようにするためだ。私がこういう高慢な性格である事を演じれば、必然的に部下は『嫌味な貴族に従わされていた』、というような考えに至るだろう。叛乱軍はどういう訳か判官贔屓が好きらしいし、憎まれ者になるのは私1人だけで十分だ。

 

『それは申し訳ありませんね。私もあまり帝国語というのが得意ではありませんので。』

 

それにしてもこの少佐、ビュコックと名乗っていたが表情一つ変えない。あの臨検で見逃してくれた若造、今も後ろで所在なさげに控えているが、彼と話していた内容から推測して、どうやら我々の侵入の可能性に気づいた張本人らしいが、だからといって功を誇るとかわかりやすく憎悪の感情を剥き出しにするとかいう訳でもない。強いて言うなら興味が強いという感じだ。…こういう行動原理がいまいち曖昧な人物は油断できない。

 

『それで、続きですが、本当に目的は通商破壊だけですか?』

 

『そうだよ。それ以上でもそれ以下でもない。我々は商船を捕らえ、破壊し、叛乱軍の血の巡り悪くする為に作戦に従事した。』

 

『そうですか。個人的にはあなた方がフェザーンを抜けてはるばるやってきたのは、もっと別の理由があると思っているんですが?』

 

中々カマをかけるタイミングが早いな。確かに向こうとしては臨検した位置が位置だし、相当の確率で侵入ルートは特定してあるんだろうが、だからといって自白して言質を取られる訳にはいかない。黙っているのも認めているようで嫌だし、何か返事を考えるか…

 

『別の理由ね。なんだね。君たちは今私がスパイをばら撒きに来た、とか機雷を撒きにきたとか白状すれば満足という訳か。なら、そういう任務もあった気がするな。』

 

『いいですか。子爵。』

 

どうやら姓で呼ぶのはやめたらしいな。…あまり難しい発音でもないと思うんだが。

 

『こちらとしてはあまり強行な手段を取りたくないんです。もしこの場で真面目に話してくれないようで有れば、自白剤の使用だって視野に…』

 

…急に物騒な事を言い始めたが、どうにもこれはハッタリだな。少佐は気づいていないが、後ろにいる若造の目が明らかに泳いでいる。

 

『それではどちらが野蛮か分からんね。まぁ、あまり個人的な事まで喋らされるのも嫌だから、ある程度の事は喋ろうか。』

 

猟をするにも釣りをするにも大事なのはある程度の餌、譲歩だ。重大事のようで、よくよく考えてみればそうでもない、という程度の話をしてやれば、要するに向こうの調書に余白をなくしてやれば核心部を詮索されないで済むという事になる。

 

『まず、我々の所属は帝国軍務省情報Ⅲ課の直轄という事になっている。これは皇帝陛下の勅令として…』

 

ーーーーー

 

独特の宮廷用語なんかを無理やりこっちの言葉に訳して伝えるのは大変だったが、なんとか解放の時間になった。

 

『では、次は…12時間後です。子爵。』

 

…まだまだ苦難の日々は続いていく、か。

 

続く

 

 

 




DOOFのくだりは無理矢理すぎた感もあるんですが、なんか言語ネタは入れたいなと思いまして…
ビュコック氏の帝国語力については、最期のシーンでラインハルトさんに説教してた時はペラペラだったので、よくわかりません。士官学校も出ていないし、やるなら独学でしょうから、今の時点では「一応喋れるし理解もできるけど、取り調べとかの専門用語が飛び交う場にはまだ不安が残る」っていうくらい、の設定です。

今回もご意見ご感想お待ちしておりまーす!
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