では、どうぞ。
宇宙暦762年4月17日 シュパーラ5 同盟軍哨戒基地
P・アッテンボロー
『では、司令官閣下、よろしいですね?』
『そうなんでも了解を求めるものではないよ。アッテンボロー君。私と君との仲じゃないか。だが、一応特例だという事は頭に残しておいてくれよ。』
『いや、司令官閣下の友誼には感謝の言葉もございませんよ。では。』
「司令官室」と書かれた扉から出て、数歩歩いて、また戻る。部屋の中からは何かを蹴り飛ばす音と歯を食いしばっている人間特有の呻き声というか、そんな声も聞こえてくる。
『そう怒るような事でもないだろうに…』
あのヒステリーの様じゃ生き馬の目を抜くとも噂される統合作戦本部への異動は無理だろうな、そもそもコトの発端はあの准将がジャムシードの内務大臣に言った謎の帝国艦、どうやら軍内部ではレイダーと呼ばれているらしいが、その捜索に3個戦隊を出してあるとか言ったのが始まりだ。あまりにやる事が無かったからシュパーラ辺りの艦艇出動状況やその他諸々の同盟軍の兵站管理情報なんかと照らして見たら、機密の部分があると言う事を計算に入れたとしても3個戦隊も出しているなんて事は考えられなかった。それでシュパーラに連絡して
『一つの方面を預かる同盟軍部隊が文民に虚偽の説明をするのは如何なモンですかねぇ…』
なんて事を言ってカマをかけてみたら勝手に向こうが友誼だの軍と民衆との橋渡し役としての役割がどうだの言ってきて、基地内通行許可証等々を押し付けてきただけだ。ジェニングスは
『それは半分脅迫じゃないですか。もし何かしらの冤罪をでっち上げられて逮捕されても知りませんよ』
なんて薄情極まりない事を言っていたが、個人的には脅したつもりはないし、強いて言えば向こうが勝手に脅されてると思っているくらいなもので、どちらかというと被害者はこっちなんじゃないかという気もしてくる。
『あ!先輩、どうでした?』
『そりゃもう完璧だ。レイダーとかいう帝国艦の連中は明日あたり到着予定らしい。そこへ「たまたま」基地内で他の取材をしていた我々が通りかかるという事になった。』
『経緯はどうあれすごいですね。とうとう謎の海賊の正体を捉える、ですか!』
『…どうした?素直に褒めるなんて、お前、本当にジェニングスか?』
『実際、今回に関しては本当にすごいと思ってますからね。帝国の捕虜を直撃できる機会なんて、それこそエコニアとかに住まないと無理でしょうし。』
『そうか…ありがとよ。じゃあ早速明日の準備だ。レコーダーと、あとは辞書も必要だな。』
『辞書?…まさかとは思いますが、先輩、帝国語の方は…』
『全くできない!あ、でも単語だけなら幾つか知ってるぞ。「皇帝」とか「撃つ」とか。あと歌も少しなら歌える。』
『えぇ…それでどうやって取材なんかするつもりだったんですか?』
『そりゃあ、まず質問原稿を書くだろ?それでその通りに質問する、向こうが何かしら答えたのを録音して、後でそれを翻訳してみればいい。』
『いや、自分もあまり自信がありませんから文句は言えないですけど、軍の誰かに通訳でも頼めばいいんじゃないですか?』
『そこまでやると軍に借りを作ったようでジャーナリストとしての矜持が保てない!』
『はぁ…頑張って下さいよ…』
ーーーーー
翌日 フォン・オイレンブルク中佐
どうやら艦内がいつもより騒がしい所から見て。どこかしらの基地か何かに入港するようだ。やっと収容所に到着かな…?
「出ろ!帝国人!」
部下たちが何故か『白イタチ』と呼んでいる軍曹が後ろに彼の分隊を引き連れてやってきた。「帝国人」と呼ばれるのは事実ではあるから仕方ないが、もっとしっくりくる呼び方というものがないものだろうか。
『帝国軍捕虜、241名の移送を完了しました!全員の武装は解除済みです。』
例の少佐が走っていって、背の低い、神経質そうな男にそう報告している。つまりあれが上司という訳か。何か式典でも始まるんだったら整列でもさせた方がいいだろう。
「総員、傾注!士官は前方へ集合!乗組員は所属毎に縦隊形成!」
一塊になっていた乗組員は即座に命令通りの動きをする。やはりこういう体に染み付いた集団行動は一朝一夕で忘れるものではない。…叛乱軍の連中は急に動き出した我々に驚いて引き金に指をかけていたりしたが、流石にそれを引くような不心得者はいないようだ。
「整列、終わり!」
「よし、休め。」
大尉の報告を受けて前方へ向き直ると、いつの間に用意したものか、木箱に乗った少佐の上司…襟元の階級章の形からして将官が私を見据えていた。
『私が!この基地の責任者であるオディロン・ヴィルヌーヴだ!諸君ら帝国の捕虜はこれより私の監督下に置かれる事になる!最高階級者は誰だ!』
…これはきついタイプだ。列の先頭、号令、軍服、あらゆる要素からして私がそうだという事がわかっているはずなのにこういう行動を取るのは自分が権力者である事を視覚的に明らかにしたいといった所だろう。
「最高階級者は私だ。部下は240名、まずは我々の沈めた巡航艦の戦死者諸氏に哀悼の意を表す。」
あえて帝国語で返答することによって向こうに勢いを与えないというのも戦略の一つ。部下たちにとっても指揮官の腰が低くなるのを見るのは気分の良いものではないだろうし。
『…そうか。まず、最初に言っておく事は諸君らは捕虜となった自覚を持つべきだという事だ。捕虜にこんなものはいらん!』
言うが早いか、木箱から飛び降りた准将は私の左胸に下がった双頭鷲章を掴み、一息に引き剥がす。
「…返して貰えないか。それは皇帝陛下からの下賜品だ。」
『「皇帝陛下」はここにはいない!このような権威の塊は今後1ディナールの価値もない事を知るべきだな!』
准将は私の勲章を床に落とし、また木箱の上、彼の演説台へ戻る。
『とにかくにも、諸君らは無駄、無益、無謀かつ無意味の反抗、反乱の類の行動は厳に禁止する!これから少しの待機期間を置いて、ジャムシードに新設される捕虜収容所へ移送する事になるが、その間はくれぐれも大人しくしておくように。以上!』
木箱を降りた准将は、そばにいた例の少佐に何か呟いてからどこかへ行ってしまった。少佐はすぐに近づいてきて、床に落ちた勲章を拾って渡してくれる。
『申し訳ありません、子爵。ヴィルヌーヴ准将は、その、ここのところ、少し気分がすぐれないようでして。』
上官に対して最大限の言葉選びをした少佐が詫びを入れてくる。
『それで、准将が言うには部屋の準備が整うまで暫く、30分ほどこの場で待機する様にと。』
待機?それは一体どういう…
『あっ!待って!待ちなさい!止まれ!』
声がする方を見てみると鉄灰色の頭をした男と、もう1人若い男がバイザーをした警備兵に追いかけられている。軍人ではないようだが…
『だからこっちは司令官の許可を得てるって言ってるだろうが!』
民間人の割には足が速いな…
『少佐!止めて、止めて下さい!』
追いかけられていた男は少佐の前まで来ると首に下げていた身分証を彼の鼻先に突きつける。
『はぁ、わ、げほっ、私は、アッテンボロー、ハイネセンの記者です、はぁ、司令官に、許可は得てますから。』
走ってる途中に大声なんか出すからひどい有様だ。ついてきた若い男が背中をさすってやっている。
『許可と言っても何の許可だね?こちらは何の連絡も…』
『まぁ、少し、10分もすれば終わりますから、ね。ね!』
そんな問答をした後、鉄灰色の方がこちらへ向き直る。
「こんにちは、私は首都の記者です。話を聞きたいです。」
記者…?ゾンタークスキントでは艦長動静を書かれたが、この身の上になっても同じようなことをされるのか。叛乱軍の連中はよほど新聞やら情報が好きらしい。
「…答えられる事なら答えよう。ただ、」
『大丈夫だそうだ。回せ!』
『本当にイエスって言ったんですか?』
『よく見ろ、どうしても嫌だって顔つきじゃないだろ。』
何やら妙な事になってきたぞ。言葉が分からないくせにこっちに合わせてくれようとしてるのか…?
「一つ目、あなた方の目的は何ですか?」
「…聴取でも言ったが、通商破壊作戦だ。我々は軍として作戦行動についていたので、一般の宇宙海賊と同一視されるのは困る。それから、」
「分かりました。次に、あなた方の所属は?」
話を途中で切った所から見て、彼はどうやら帝国語を理解できてはいないようだ。試しに少しからかってみるか。
「帝都オーディン名物のフランクフルタークランツは逸品だ。是非帝都観光の際はおすすめするよ。」
「興味深いですね。では、あなた方は何隻の船を沈めましたか?」
彼の後ろで少佐が苦笑いしているが、結構、折角だから帝都の観光案内でもしてやろうじゃないか。
続く
アッテンボローの親父さんを出すといつもこんな方向に行っちゃうんです。ツァーンと3枚目の位置を争っている感じですね。
勲章の場面、激昂した中佐が准将に手を出すってパターンもあったのですが、そうなると今後大変になるので静かに抗議するだけにしました。
今回も、ご意見ご感想お待ちしております。