ありがとうございます!うれしいなぁ。
では、どうぞ。
宇宙暦762年4月18日 シュパーラ5同盟軍哨戒基地
A・ビュコック少佐
急にアッテンボローとか名乗る記者が乱入してきたのには驚いたが、子爵がかなり早い段階で彼が帝国語に不慣れなのに気がついた結果として、記者の方は帝国の観光案内にさも興味深そうな相槌を打ち始めたのは大層面白かった。最後の方に寄ってきたヴィドックなんかは真っ赤な顔で吹き出すのを堪えていたし、子爵も中々のユーモアというものを持っている人だと思った。
『いや、面白かったですね。特に「この辺りの同盟軍の印象は?」に対する答えが、はっ、ワインの品評で、それに、「よい感想です!」って、一瞬話が通じているのかと思いましたよ。』
『愉快だったのは確かにそうだったがな、君はイソタケルに戻らなくていいのか?一応レイダー捜索委員会は、なんだ、解散か休止かって所なんだが。』
『それが今朝方艦長から待機命令が出ましてね。レイダー問題が解決したから休暇って事じゃないですか?少佐は?』
『一応まだ司令部副官だからな。とにかく司令官室に出頭だ。聞きたいこともあるしな。あの記者の件も含めて。』
『さっきの様子から見て、司令官室には低気圧が発生中でしょうが…健闘を祈っております!』
冗談めかしてヴィドックは去っていく。多分あの記者の事を言いふらしにでもいくんだろう。こっちは今からその低気圧に突入するっていうのに。
『ビュコック少佐、入ります!』
司令室には顔の前で手を組んだ准将が座っている。久しぶりにこの姿を見ると、なんだか銅像のモチーフにありそうな感じを覚えるな…
『まずは、ビュコック少佐。君はレイダー捜索について功績ありと認められた。よって、君の司令部付き副官の任を解き、新設されるジャムシード第1戦時捕虜収容所の所長に任ずる!』
いきなり功績があるとか言われたりすると訳が分からなくなる。所長…?
『どうした?一応直属の部下を持てる身になれたんだからもっと喜びたまえ。出世だぞ、出世。それから、レイダー関連の資料は全て中央に送る事。捜索の続きは向こうがやるそうだ。』
ますます訳が分からない。レイダーはもう沈んで、その乗組員の移送が終わったばかりだというのに、捜索を続行するなんて一体何が起こっているんだ?
『はっ…拝命します。しかし、司令官、お聞きしたい事が。』
『君の発言を認めない。私はもう疲れているんだ。いいか、レイダーの話を持ってきたのも君、実際に探したのも君、連れてきたのも君、なのに何故中央のじゃがいも頭共は私になんでも聞きたがるんだ!?その上今度は中央の方針の是非についてまで部下に聞かれる!私は全知全能のコンピューターじゃないんだぞ!言いたいことがあるなら私の頭を飛び越えて縋ったLMFの中将に言え!収容所の資料は既に君の端末に送ってあるし、副官の引き継ぎは大尉とやりたまえ。以上、退室してよろしい!』
随分まくしたてるものだが、この人が言う『退室してよろしい』は『早く出て行け』の同義語だ。おとなしく従っておくのが一番だ。
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同日 首都星ハイネセン 統合作戦本部27階
タン・ウー中将
『いや、しかしね。やはりこれだけの証拠であまり大きな戦力を動かすのもいかがなものかね、ただでさえ統合整備計画で前線の兵力がカツカツだというのに…今からでも中止はできると思うが?』
目の前のスクリーンに出ているのは右上に『解読済み』と判が押された書類、内容は
「33より司令部
作戦は順調、34より36はハイネセン、37、50はランテマリオ間、38より41はヴォルフパックアイスベアを形成中、SF1578.34 」
というもの。一見した所ただの艦の配置予定情報に見えるが、これを持ってきた同盟情報局の狐顔はこれにもっと重大な意味を見出しているらしい。
『いえ、『これだけの証拠』と言われますが、これはただ封に入っていた訳ではありません。二重封筒の内側に入っていた奴です。時々犯罪組織が使う手ですが、民間人はまず気づきません。それが最近解読された帝国軍パープルⅢ暗号で書いてあったのです。たった1つの情報源でも、信じる価値は十分あると情報局は確信します。さらに、この封書の持ち主が引き渡しを拒否した点に鑑みても、これが帝国軍にとって重要な情報であるという裏付けになっています。さらに言えば首都近郊での事故件数も…』
…そもそも『引き渡しを拒否』した相手の持ち物がどうしてここにあるのかという所から問い詰めたいが、どうせいつも通り彼らの言う『手先の器用な協力者』が『誰かの落とし物』を拾ってきたとか言うんだろう。決して紳士的とはいえない手段にやけに断定的な物言い、これだからスパイ組織は好きじゃないんだ。どうせこの後も理屈を捏ね回して彼らの要求通り、艦隊を捜索に供出しろなんていう結論を出させるんだろうし、誰かこの会議を終わりにしてくれる英雄が現れないものかな…いたら10万ディナールやってもいいぞ…
『中将、シュパーラ5の哨戒基地から通信が入っています。アポは取られていませんから、断りますか?』
ありがたい。渡に船とはこの事だ。抜けられる口実ならなんでもいい。
『あー、皆さん、緊急の連絡があるとの事なので少し席を外しますよ…』
シュパーラという事はビュコックだろう。彼がただ無駄話をする為に私を呼びつけるとは思えないし、大方新設される捕虜収容所の話でもするんだろう。とにかく、人の弱みを嗅ぎ回るような連中と話すより数百倍マシだ。
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『そうだよ、どうやら情報局はレイダーがまだうようよしてると思ってるらしい。しかももう国防委員長まで話を持って行ったというから驚きだ。まぁ、見つからなくて恥をかくのは向こうだよ。放っておくのが無難だな。』
案の定ビュコックが聞いてきたのはレイダー捜索続行の話だった。彼もレイダーが多数いるなんて話は信じていなかったが、私が言って無駄なのを一介の少佐が上申した所でどうなるものでもないというのは彼も分かっているだろう。
『そうだ、本題はどうせ新設される捕虜収容所の件だろう?管轄は国境艦隊になるから人事の方はよく分からんが…』
『そうです。普通、捕虜はもっと奥地の収容所に送られるものでしょう?エコニアとか、少し古いですがバンドーもありますし、わざわざジャムシードに新設する理由が何かあるんですか?』
『あー…もう言ってしまおう。後ろに誰かいないな?いない?よし、アキレス・ドライバーという名前を覚えているか?』
『船団から逸れて、そこをレイダーに襲われた船ですね。積荷は確か艦載機の部品だったかと…』
『それなんだがね、実を言うとあの中には…なんだ、大事な、書類がかなり積まれていてね、いや、ちゃんと暗号鍵はかかってるから中を見られる可能性は万に一つも無いと言っているが、もしレイダーの乗組員が中身をどうにかして見ていた場合…』
『彼らを他の一般の捕虜から隔離する必要があると?』
『そういう事だ。それに、これは悲しい話ではあるが、彼らは捕虜交換の対象にはされない事になった。全ては情報の秘匿のためにな。』
『つまり、終身刑と?』
『言い方をわざわざ選んだんだがな。だからそれなりの経済基盤があるジャムシードに置く事になったんだ。娯楽を与える、とは言わないが捕虜宣誓をさせれば街に出ることだってできる。』
『…分かりました。ありがとうございます。』
『あぁ、そうだ、前に言ったレイダーの艦長の首の話だがな、アレは冗談だから真面目に受け止めてくれるなよ。それから、さっきの捕虜交換対象外という話は一応本人たちには秘密だからな。絶望して自決なんかされても困るし、もし責任者に会う機会があったら伝えといてくれ。』
『はい、了解しました。では。』
なんだか暗い顔をしていたが、少し移送中に顔を合わせた位で情でも移ったかな?しかしこれでまたあの結論ありきの会議に戻らなければならない。出世してもいい事なんかないな…
続く
もうゲストの人たちは無事に有人惑星に到着したということになってます。
タン中将は東洋系がルーツなのでタンが苗字です。同盟の人はどっちが苗字か分からない場合に大変でしょうね。ウランフ提督みたいな変わり種もいますし。
今回もご意見ご感想よろしくお願いします。