海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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揚げ物が急に食べたくなったメーメルです。油分を定期的に摂取しないと力が出ない…

では、どうぞ。


第五十五話 雨の中

帝国暦453年4月29日 ジャムシード第1捕虜収容所

フォン・オイレンブルク中佐

 

『捕虜宣誓ね。なるほど、面白い制度だね。』

 

わざわざゲートの向こうに建てられている管理棟まで呼び出されて何事かと思ったら、准尉は冊子を出してきた。それに曰く、同盟軍管理下にある捕虜の中で模範的な者は宣誓をした上で1日数時間の外出が許可されるというもの。

 

『ええ、大分収容所の暮らしには慣れてきた頃でしょう?当事者の許可があれば労働もできます。もちろん賃金は収容所の収入として扱われ、本人にはこちらから賃金に見合う品を供給する形にはなりますが、気晴らしにはなるでしょう。』

 

『それで、肝心の宣誓というのは?…流石にそちらの元首に忠誠を誓うなんて内容は受け入れ難いが。』

 

『受け入れ難いものではないはずです。大体は一般的なもの、脱走その他反抗行為を外出先で行わない事、危険物の持ち帰りの禁止…これらの事に署名して貰えば宣誓は完了です。』

 

『そうかね。では私から希望者がいないか見てみよう。』

 

『子爵も十分すぎるほど模範的といえますし、貴方も対象に含まれますが、どうです?』

 

『私はいいよ。どうせ1日の外出者数には制限を設けるんだろう?その貴重な1枠を最高階級者権限で埋めてしまうのは部下に忍びないからな。…話は以上かな?』

 

『ええ、それだけです。足下に気をつけて。』

 

衛兵をつけられて管理棟から出ると、降っていた雨は勢いを増している。どうも星開拓史を読むには元から大気が不安定だったのに加えてなぜか主要都市を景観重視の山際に置いてしまったせいでこうなってしまったらしい。…おかげで治水費用もかかるんだろうが、最初の計画者は何を考えていたんだろうか。

 

「!お帰りなさい、艦長!」

 

「やぁ大尉、外はひどい雨だ。所長も出勤していないようだしな。ヴィドック君からこんな提案をされたよ。」

 

渡した冊子に大尉が目を通している間、窓にあたる雨粒を見るとどうも妙な事を考える。果たして人間が雨を眺めている時、雨粒の1つ1つを見ている訳ではなくその向こうの灰色に濁った景色を見ているはずなのに、何故人間は「雨を見る」なんて言うのだろうか…?

 

「なるほど、宣誓ですか。ところで、この持ち帰り禁止になっている『危険物』とやらの具体的な例がありませんね。」

 

「案外抜け道がありそうだな。で、大尉は外に出たいかね。」

 

「どうでしょう。ずっと艦隊勤務だと青い空が見えているだけで開放感を感じるものですからね…娯楽にしても、軍人というのはあらゆる物の欠乏状態に慣れるようになってますし。」

 

「そうだろうな、まぁ、若い連中の中には鉄条網の外側に興味がある者もいるだろうし、ツァーン辺りに任せるか。」

 

「それくらいの扱いでいいでしょう。…見慣れない車ですね。」

 

大尉の指差した先を見ると、確かに見慣れない地上車が3台、ゲートの先に止まっている。いや、正確にはどこかで見たことがあるような気がするが…

 

「なんだったかな…」

 

「ああいう手合いは憲兵隊辺りが使ってますよね。あんな巨大なメガホンを屋根に載せてまともに運転できるのかといつも思います。」

 

「ああ、そうだった。だとすると、あれも叛乱軍の憲兵かな?」

 

「…どうも、軍服が違うような気もしますが。でも軍関係者でしょうか。」

 

そんな事を話していると、おそらくその地上車の主であろう数人の男達がこちらに向かってくる。並列してヴィドック君が何か話している、というか一方的に喋りかけているだけだが…と、とうとう士官棟までやってきた集団は勝手に扉を開けてくる。これはあの記者よりよほど礼儀がなっていない連中だな…

 

『だから!所長からそんな連絡は受けていません!今の責任者は私ですから、どんな身分の方でも指示に従ってもらわないと困りますよ!』

 

『こっちは内務大臣の許諾を得てるんだ!この片目がそうだな!?』

 

『いいですか、これ以上こちらの指示に従わないようなら実力で…』

 

『ほぉー!同盟軍が民間人を脅迫するか!政治問題になるぞ!いいから黙って見ていろ!おい!』

 

どうやらヴィドック君と問答しているのがボスのようだ。そいつが声をかけると、後ろから全く同じ顔をした男が2人現れる。バウディッシン中尉と同じ位の体格だ、レスラーあがりとでも言ったところだろうが、その手に持っているのは電子手錠か。妙なおもちゃが好みのようだな。

 

『手を出せ!』

 

嫌いなんだがな、こういう輩は。どんな立場の人間にも最低限の礼節をもって接することのできないやつ…

 

「いいか、我々は確かに敵中にある捕虜ではあるが、決してそんなものを使われるような犯罪者ではないぞ!」

 

『なんだ、何を言ってる、命乞いか?アンジェロ!マーク!早くやれ!』

 

どうやら向かって右側がアンジェロか。よく見分けがつくものだ。すると、マークの方が肩に手を伸ばしてくる。さて、どうするか。

 

「いいか、大尉、いまいち状況がよく分からんが手は出すなよ、多少強引な手段をとっても問題ない位の連中だ。他の部下に危害が及んでも困る。」

 

「艦長…!」

 

両手でカチリと電子ロックのかかる音がする。手錠をかけられるというのは初めての経験だが、なるほど中々に不快なものだ。

 

『いいですか、これは軍に関する明らかな越権行為です!抗議しますよ!捕虜を勝手に連行しようとするなんて事は許され…むぐ!』

 

横から再び抗議の声を上げたヴィドック君は胸のあたりをアンジェロの方に突かれて壁際に押し付けられる。…普通軍人にここまでやったら撃たれても文句はない位の行為のはずなんだがな…一体この連中は何だというんだ?

 

『よし、取り敢えずこの1人だけでいい、行くぞ!』

 

「大尉、いいか。さすがにこのまま銃殺と言う事は無いだろうが、もし戻らなかったら次席は君だからな。指揮を引き継ぐ事。」

 

「…了解しました、艦長。無事のお帰りを。」

 

こちらの言葉がなければ今にも飛びかかりそうだった大尉から向き直ると両脇を抱えられる。…こんな写真をどこかで見た事があったな。怪我人とはいえ、別に1人でも歩けるんだが。

 

ーーーーー

同日 ジャムシードポリス郊外

A・ビュコック少佐

 

家の食堂の窓から見える景色は朝からずっと霞んだままだ。幸いにも風はないからいいが、一体いつまで続くんだろうか。

 

『やはりこの星は雨が多いとは聞いてたが…予想以上だね。あまり住み良い土地とは言えないかな。』

 

『ええ、でも家族が揃って昼食をとれる時間ができたんですもの。問題はありませんわ。』

 

そう言ってくれる家内の隣りではもうすぐ4歳になる息子が口の周りを真っ赤にしながら必死の形相でパスタと格闘している。自分にもこんなに微笑ましい時代があったのかと思うと、恥ずかしくもあり、幸せでもあり…

 

『いー、きらい!』

 

そう言うと、我が家の最高権力者は私の皿に小さな茄子の破片を移してよこす。中々に素早い動きだ。将来は手先の器用な男に成長するだろう。

 

『そうか、茄子は嫌か。なら仕方ないな、ソーセージとなら交換になるかな?』

 

『まぁ、いけませんよ!甘やかして…』

 

『いいじゃないか。それにほら、パパは茄子が大好物だからな!』

 

言いつつ交換した破片を口に入れると、彼は満面の笑みを浮かべる。と、急に廊下にある端末から呼び出し音がする。一体誰だ?

 

『はい、ビュコック。…あぁ、ヴィドックか。どうした、落ち着いて話せ。……うん、子爵が?誘拐された!?…何を馬鹿な…うん、…分かった。すぐ行く。』

 

『事件ですか?』

 

振り向くと、既に軍服と防水コートを持った妻が立っていた。

 

『ん?…あぁ、些細な事さ。心配する様な事じゃないよ。しかし、帰りがいつになるかは分からないな…もしかしたら日付をまたぐことになるかも…』

 

『分かりました。この雨ですから、7番街の辺りは冠水してるかも知れませんから気をつけて。』

 

『流石、奥さまは土地に詳しいね。ありがとう。』

 

服を受け取って食堂の方を見ると、まだパスタ対幼児の戦いは継続中のようだ。途中で横槍を入れるのも無粋だし、小さい背中に手を振ってそっと扉を閉める。これで軍服に着替えれば後は問題解決に当たらねばならない。やはり幸せな家庭を営む当事者になりたいなら軍人になんてなるべきじゃないな…

 

続く

 

 

 

 




書いてて1番違和感があったのはビュコック少佐の一人称が「パパ」になった時です。因みに息子さんの年齢は完全独自設定です。

ヴィドック君が強くないのは、まぁあの人まだ20かそこらだし、許してあげて下さい。

話数修正しました。なんで間違えるかな…

今回もご意見ご感想お待ちしております。
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