海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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お気に入りがまた伸びまして、評価者数も30人に!快挙であります。ありがとうございます。最近タイトル詐欺あじがしますけど…

では、どうぞ。


第五十六話 連行

帝国暦453年4月29日 ジャムシードポリス某所

フォン・オイレンブルク中佐

 

あの屋根に巨大な拡声器を載せた車に押し込まれてやってきたのは宇宙港から収容所までに歩いた市街地だ。あの時は晴れていたから高層ビルなんかも立派に見えたが、今日は両隣に陣取る同じ顔のせいもあって妙に不気味に感じる。まるで何か名状し難いものの居城のようだ。

 

『こいつ、やけに静かになったな、びびってるのか?』

 

『お山の大将だったんだろうよ!顔だけは本当に海賊みたいな面してる癖にな!』

 

両脇の2人が耳に響くやけに大きな声で笑い合う。これまでに会った人間の中で1、2を争う品性の無い笑い声。場末の酒場でも今どき聞けるようなものではないだろう。

 

『うるさいぞ!アンジェロ!しっかり帝国人を見張ってろ!』

 

助手席に座るボスの言葉に2人が文句なく従う所から見て、彼はかなり上の存在なのだろう。…今までのやり口やこの過剰なまでの上下関係、どうも帝国で言うマフィアのイメージと重なるが、だとすれば犯罪組織が軍施設に押し入れる道理は無いし、内務大臣とか政治問題とか言っていた事実にも付合しない。

 

『なぁ、おい、本物の帝国人だぞ、マーク。』

 

ほんの数秒前に『うるさいぞ』と言われたばかりなのにもう喋り出すのは一体どういう神経をしているんだ…

 

『帝国人を見るのは初めてじゃないだろ。』

 

『あんなのは数に入らねえよ、骨と皮なやつか肉と脂なやつだけじゃんか。』

 

『体に教えないと分からないのか!お前らの脳みそは本当にクルミ大なのか!?』

 

ボスの雷が落ちると同時に車が急旋回して建物の中に入っていく。やり口も言葉遣いも荒ければ運転まで荒いのか。

 

『降りろ、帝国人!降りろって言ってるんだ!』

 

半ば引き摺られるようにして到着したのはビルの合間にある空き地のような場所。どうやら建物への入り口は道に面した形ではなく、奥まった所にある作りのようだ。防御力の高そうな設計、ますますきな臭いぞ。

 

『団長!連れてきましたよ!…例の、行進してた帝国人の親玉!』

 

ボスが入り口の端末に怒鳴っている。どうせ連行するならもっとスムーズにやれないものなのか…人目が無いだろうという事は分かってはいるが、大の大人が手錠のまま両脇を大男に挟まれているという光景は見て素敵だというものではないだろう。

 

『よし、逃がすなよ。』

 

重そうな両開きの扉が開くと、奥はやけに薄暗い廊下になっている。全く、ゾンタークスキントの船倉だってこれより明るかった筈だ。唯一目立つのは薄明かりに照らされた壁に秩序なく貼られた毒々しい色合いのポスター。『帝国に死を!』だったり『亡命者を信じるな』等という攻撃的な内容がほとんどだ。… 銃殺は無いと勝手に思っていたが、案外このまま部下に会えなくなることになるかもしれない。

 

『アンジェロ、マーク、ここで見張ってろ。呼ぶまで離れるなよ。』

 

突き当たりにある部屋はこれまでの廊下とは打って変わって明るすぎるくらいの照明がつけられている。扉には『本部』とやけに古臭い字体で書いてあったから最終目的地はここなんだろう。

 

『よぉし、よくやったぞ。なるほど、片目になってるのか!面白いなぁ、うん、面白い。』

 

他人の顔をじろじろ眺め回して勝手に面白がっているのがさっき『団長』とか呼ばれていた対象だろう。部下が部下だから団長だって碌なものじゃないと予想してはいたが、こんな所でそれが的中しても困るんだが。

 

『ところで、こいつと話は通じるのか?…通訳する?よし、いいか、自己紹介からしてやれ。』

 

団長の横にいた丸メガネの男が進み出てくる。向こうの意図が分からない以上は下手に言葉が分かるなんて事は言わない方が身のためだろう。

 

「この人はジャムシードの民主主義守る人達のリーダー!ドン・ジュリアン・アルバラド。お前に話がある!」

 

自信満々で間違うタイプの下手くそだ。ヴィドック君との初対面の時は向こうも自分の帝国語の出来がまずいの自覚していたから可愛げもあったが、この場合は自分は完璧に使いこなせていると思っている。逆に憎たらしい位だ。

 

「あー…アルバラド?一体私が無理やり連れてこられた理由は何かな?」

 

『うん、うん、なるほど。自分の置かれた状況が理解できていないか。帝国人は脳みそが足りないらしいからな。教えてやれ!』

 

「裁判をする!訴えられる人はお前。」

 

「…見た所、君らは民間人のようだから言っておくが、もし我々帝国軍人が、捕虜になる以前に戦争犯罪を犯していたり、また軍規に則った形での戦闘行動の一環として民間に属する財物を破壊していたとしても、民間人に我々を裁く権利は無い。軍人には民間法が適用されないのは…」

 

『何だって?…拒否してるのか?帝国人の分際で生意気な…まぁ、どうでもいいな。書類を持ってこい!』

 

奥から持って来られて机に置かれた紙には『供述書』と大きく印刷されている。内容は、

 

『帝国軍人たる私は、自由惑星同盟領内に於いて、民間人に対する海賊行為を行い、軍用目的外の動産及びその他の財物を破壊した事をここに供述する。この宇宙共通の非人道的犯罪行為についての責任は私と部下を含む帝国軍全体に帰する事を明言する。』

 

というものだ。海賊ではないとさっきから言っているんだがな…

 

「これにサインしろ。内容はお前が嘘をつかないという事!」

 

なるほどね、こっちが言葉わからないと思って好き勝手な供述をした事にしようってわけか…このまま唯々諾々と従ってしまうのはいかんな、仕方ない…

 

「あー、通訳の君、名前は?」

 

「!マッカラムだ。どうした、早く書け!」

 

『そうか…ではマッカラム君、この際だから言っておくが君の帝国語はとても聞けたものではない。さぞ自信があるような口ぶりだが、接続詞の順番あたりからやり直す事を薦める。はっきりいって5歳児以下だな。』

 

『この野郎…!ふざけやがって!』

 

親切に忠告してやったと言うのに『ふざけやがって』とは随分な物言いだ。先達には敬意を表するべきだという事もついでに教えてやった方がよかったかな?

 

『言葉が通じるのか。じゃあお前は要らないな。行け!』

 

『でも団長!こいつ…!』

 

『行けと、言ったんだ。こっちの言葉まで5歳児並みに退化しちまったのか?行け!』

 

マッカラムが顔を赤くしながら引き下がる。あの赤さは言語の不味さを指摘された恥からだろうか、それとも私に対する怒りか…多分両方だな。

 

『じゃあ、早速再開と行こうか。この書類に書いてある内容は読めるんだな?』

 

『ああ、読めるとも。しかし分からんね。捕虜尋問の際に既に敵地における通商破壊行動については話しておいたはずだが、なぜこんなに時間が経って海賊などと不名誉な嫌疑…違うな、冤罪を課されなければならないのかな?』

 

『冤罪、冤罪か!面白いな、帝国人!』

 

『先程から何かあると面白がっているようだが、愉快な事が好きなら私などと向かい合っていないで喜劇でも見に行ったらどうだね?』

 

『ところがそうはいかないんだな、お前は海賊、ただの凶悪極まる犯罪者になってもらわないとうちの主張が通らないんだ。いいか、初めての汚い亡命者以外の宇宙の向こう側からきた奴らが、街中で分列行進なんかされてみろ、街の連中はどう考えると思う?』

 

…我々は彼らが唱えているお題目、多分帝国は悪の権化だとか、人でなしの集団だとかいうのに知らず知らずのうちに反してしまったようだ。つまりこの行動は彼ら流の名誉挽回とでもいう事なんだろう。

 

『はぁ…どうかね。君らの主張については全く知らないが、私としては帝国の名を貶めない事を第一に考えてやっているつもりだ。あの行進についても恥じる所は何一つないね。』

 

『そうか、そうか。じゃあサインするつもりはないんだな?こっちが優しくしてやってるのも今のうちかもしれないぞ?』

 

『生まれつき、どうも嘘をつくという事には慣れていなくてね。おかげで人生で大分苦労した方だと思うよ。』

 

『…舐めやがって。いいか、今すぐにサインすればお前のかわいいお仲間へはもっと優しくしてやれるかも知れないぞ?珍しく反論してくるやつに出会えて気分がいいんだ、大人しく…』

 

『どうやら言った意味が通じないようだからゆっくり言ってやろう。ノー、だ。分かるかね?答えはノー。自らと部下の名誉を捨てるようなサインはしない。用が済んだら早くこの手錠を外してくれ。窮屈でいけない。』

 

言った瞬間に視界が一気に上を向く。背中に衝撃があって、椅子を蹴り倒されたという事が分かった。

 

『じゃあ仕方ないな。名誉だの何だのが気にできないようにしてやるぞ!アンジェロ!マーク!入ってこい!』

 

…またあの2人のご登場か。双子がトラウマになりそうだ…

 

続く




「民主主義を守る人達のリーダー」って言ったのは通訳の人の訳語がおかしいだけで、彼らはそんな間抜けな名前の集団じゃないです。

あと、子爵が嘘をつくのが苦手だとか言ってますが、仮装巡洋艦の艦長やってたヒトがそんな訳ないので、発言自体嘘なんじゃないですかね。

今回もご意見、ご感想よろしくお願いします!
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