では、どうぞ。
宇宙暦762年4月29日 ジャムシード第1捕虜収容所
A・ビュコック少佐
『ジャムシード愛国烈士旅団?随分勇壮な名前だな。』
『ええ、人民防衛党の実力団体です。』
『人防党?野党第一党のか?』
『はい、昨年の選挙で躍進した党です。評判は…』
『大体知ってるよ。高利貸し崩れやらを取り込んで有権者集団の脅迫の疑いが上がってたアレだろ?厄介なのに目をつけられたものだ。』
どうやら子爵を無理矢理連行したのは政治団体だ。同盟軍は文民統制で動いている組織だとはいえ、民間人の方が絶対的に上という訳でもないんだが…
『とにかく、そいつらは内務大臣の許可がどうとか言ってたんだな?』
『はい、証拠書類などはありませんでしたが、確かに。』
『…そうだったらまずそんな怪しい団体を敷地内に入れるな。口先だけで誰でも収容所に入れてしまうようでは鉄条網で囲っている意味がないぞ。』
『はい…申し訳ありません。』
『頼むぞ、いざという時に民間人に強く出るのも軍人の仕事のうちだ。声だけでかいような今回のような連中に押し負けるようでは本来の任務に支障が出るからな…よし、説教は終わりだ。解決策の相談に移ろう。』
『はい。とりあえず内務省に連絡は入れてあります。人防党の方は電話も繋がりません。』
『で、内務省は何て言ってる?第一本当に『収容所から捕虜を勝手に連行してもいい』なんていう許可をポマード頭が出したのか?』
『大臣は…その、休暇中だそうで繋がらないんですが、内務省としては政党に軍事施設への立ち入り許可のようなものは与えていない、と。』
『そうか。どうせ個人的な席で喋った事を真面目に受け取ったか拡大解釈したかだろうな。しっかりした根拠がないなら、つまりこっちが子爵を取り返すのも一向に構わないという事だ。』
『大丈夫ですかね。仮にも軍が民間人組織を敵に回すような真似をするのは危ない匂いがしますが…』
『放っておく方がよほど大丈夫じゃなくなるぞ。明日の朝に子爵が開拓記念塔にぶら下がってるなんて事になってみろ。収容所の中でも外でも大混乱が起きる事は間違いなしだ。』
『分かりました、子爵が連れ去られた場所はおそらくその、えー、愛国何とか旅団の拠点のどこかでしょうから、すぐに人をやって…』
市街地の地図を広げて奪還策を練ろうとすると、急に扉が開く。
『少佐!大変です!』
『くそっ、愛国カルト集団との対決以上に大変な事があるか!今度はどうした?』
『それが、捕虜が動いてくれないんです。この雨の中だって言うのに外に出てきて…』
『…首謀者は?』
『おそらくフランツィウス大尉です。目的は分かりません。』
…こういう状況も内憂外患というのか?とにかく近い方の解決が先だな。
『ヴィドック、君らは先に出て支部をしらみつぶしにしろ。銃は使うな。エネルギーパックを抜いておけ。見せるだけでいいからな。』
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外に出てみると、確かに捕虜が雨に打たれながら整列している。先頭に立っているのは大尉だ。全くなんだというんだ…
『大尉、何をやってる!すぐに解散させたまえ!』
『所長、我々は艦長の奪還の為にはどんな協力でもする。艦長が戻るまで、決して脱走、その他の騒乱行為は行わないと誓う。だから、収容所のメンバーには全力を尽くしてもらいたい。』
『何を言ってるんだ!とにかく中に入るんだ!』
『いや、入らない!これは我々のできる精一杯の誠実たる事の証明だ。例え収容所に我々だけになろうと、君らが艦長を連れて帰ってくるまで我々は外に居続ける。』
どうも帝国人というのは妙な所で頑固だ。しかし、子爵を無事に奪還できるかどうかも分からない状況下では捕虜を雨降りしきる中に立たせておく訳にはいかない。
『君達の想いはよく分かった。我々も軍人だ、軍人が誓うとまで言った事を違えるとは思わない。もしそうなら捕虜宣誓など許しはしないからな。だから、そちらも我々の事を信じてほしい。宣誓した事をあえて疑うなどという不心得な者は私の部下にはいない!だから、体調を崩さないうちに屋内に入ってはもらえないか。』
『…分かった。ただ、必ず艦長を無事に連れ戻してくれる事、これだけは約束してもらいたい。あの人は、我々にとって必要な、無くてはならない人なんだ。』
『大丈夫、それについては我々も同意見だよ。必ず連れ戻す。』
…報道じゃ、帝国軍は腐敗した士官と農奴同然の扱いを受ける弱兵で構成された数だけ多い烏合の衆って発表されてるが…全く、現実は後方には伝わり難しだな。
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同時刻 ジャムシードポリス 愛国烈士旅団本部
フォン・オイレンブルク中佐
『分かるか?軍人だから分かるだろうな、嫌だろう?』
団長が両手に持っているのは薄手のタオルと水が入った音がするバケツ。それに仰向けで押さえつけられている自分の姿勢とくれば、このすぐ後に行われるであろう事は嫌でも理解できる。水責めだ。
『さぁ?分からんな。拭き掃除でも始めるのかね。結構、私から見ても大分この部屋は掃除が行き届いていないように感じるからな。特に今回のような来客を迎えようという日にはぴったりだろうな。』
『そうか…おい、しっかり押さえてろよ!』
参ったな、一応士官学校で対拷問訓練は受けているとはいえ、水責めの苦しみを逃れられるような術を知っている訳ではないんだが…できるのは来る拷問に備えての心の準備程度のものだ。
『最後のチャンスだぞ?帝国人!サインするか?』
『その耳はどうやら飾り以外の何物でもないようだな。使えないなら空気抵抗が増えるだけだ、いっそ切り取った方が効率的…』
言い終わる前に布が被せられ、水を注がれる。本来なら空気が入るはずの場所に違うものが…
『よぉし、離してやれ!』
『どうだ?サインする気になったろう?なった?なったな?はっ、威勢のいい口を叩いてたと思ったらこれだ!帝国人は所詮こんな奴らばかりさ!よし、ペンだ、しっかり握れ!ほら!落とすなよ!』
丁度よく机に手をついてくれている。両手が繋がっているから、振り上げた手に込められる力は倍だ。こいつのように面の皮が厚いとその分手の皮は薄くなって然るべきだろう。このまま机に縫い付けてやる!
『あぁ゛っ…くそっっ!痛ェ…!』
失敗した。少し力加減が足りなかったのか、突き刺す位置が丁度骨の上だったのか、ペンは手を貫通せずに先だけが食い込んだままになっている。
『げほっ、はぁ…残念だな、折角だから貴様の手に直接書いてやろうと思ったんだが、ついうっかり力が入りすぎたようだ。』
『この野郎…!減らず口をっ!』
右手を突き刺しておいたのは正解だった。腹に飛んできた左拳はさほど痛いというものではない。背中で押さえつけている双子の片割れがいなければ避けられたかも知れない位だ。多分元々そんなに力の強い方ではないのかもしれない。
『くそっ、くそっ、くそっ!帝国人、帝国人め!殺してやる!吊るしてやるぞ!!』
手にペン先が食い込んだ位で随分な喚き方をするものだ。この程度の外傷なら戦場に出れば嫌でも見聞きする事になるというのに…
『団長、どうしました、あっ…』
リーダーの悲鳴を聞きつけた連中が部屋に入ってくる。どうやらこいつは悲鳴をあげても放って置かれない程度の人望はあるようだ。
『こいつが、帝国人がやりやがったんだ!もう許さんぞ!吊るしてやるんだ!ロープを持ってこい!』
『でも、そこまでやったら流石にやばくないですか、だから誘…連行してきてわざわざ供述書にサインさせるなんて言う回りくどい手段をとったのに…』
『それに、殺しなんてしたら党の方だってうるさく言う気がしますし。』
『黙れ!黙れ!貴様ら団長がこんな目に遭わされてなんとも思わないのか!?貴様らのようなろくでなしを政治の世界に関わらせてやったのはいったい誰だと思ってる!くそっ、大事な時にびびりやがって!腰抜けめ!恩知らずの弱虫共!』
…矛先は私から部下に向かったらしい。面白がったり身内に激昂したり、全く忙しい性格をしている男だ。だが、このままでは本気で吊るされてしまうかもしれないな。さて、これからどうするか…
愛国烈士旅団は「旅団」と名乗っていますが構成員はせいぜい100人位です。
水責め拷問は本当にやばいらしいですね。実際の様子を詳しく知らないのであんな風な書き方になりましたが、イメージとしてはめちゃくちゃ苦しいことをされてるって感じです。
新生活が始まりまして、更新が3日おき位になるかもしれないです。更新時間もこのぐらいが夜の時間になるかと…申し訳ないです。
今回も、ご意見ご感想お待ちしております!