それから今回文中で同盟語を二重鉤括弧『』で表記しています。関西弁にするかとか考えましたが、エセ関西弁で皆さんを不快にさせてしまう事もあるかと考えてこういう形に着地しました。
では、どうぞ。
帝国暦452年10月30日 ゾンタークスキント艦内
ボート・フォン・フランツィウス大尉
この基地に着いて半月が経ち、分散集合してきた乗組員も揃って訓練が始まった。何しろサイズだけは巡航艦レベルなのに、武装は艦首に30cmビーム砲が2門と側面に3門づつのレールガンがあるだけなのだ。ともすれば駆逐艦や砲艦にだって撃ち負けてしまう。艦長が言うには
「命中率と射撃速度をそれぞれ倍に上げれば、戦力は8倍だ!最新型のマーヒェン級にも負けない艦にできるぞ!」
だそうだ。まぁ、我々「劇団メンバー」にはその訓練に加えて別のものもあるわけで、それが当面の問題でもあるのだが。
「では、始めます。」
今日の"尋問役"はバウディッシン中尉だ。艦長がどこからか用意してきた叛乱軍の軍服と軍用ベレー帽を被っている。なにも服装まで合わせなくてもいいじゃないかと思うが、それにしてもその巨体も相まって大した威圧感だ。比較対象はアレだが、あの社会秩序維持局にだってこれ程堂々たる尋問官はいないだろう。対するのは船内作業服を着込んだ私と、ベルガー、それに砲術長のエルトマンだ。因みに彼は"砲術長"と名乗るわけにはいかないので"二等航海士"という事になっている。想定状況は"臨検中に怪しんだ叛乱軍士官による取り調べが行われた"というものである。
『では、まずは二等航海士、君からだ。君は兄弟はいるかね?』
バウディッシンのハスキーボイス。通常時より低く聞こえる。案外こういう役が好きなんじゃないか。
『はい、姉と妹がいまして、姉の方はフェザーンで働いていますが、妹のエルシーの方は2年前にろくでなしの詐欺師と駆け落ちしましてね、今どこでなにをしているやら…!』
『ふむ。では、航海長の、パトリック君とか言ったね、君は結婚しているのかな?』
『はぁ、カミさんはこれまで3度悪い男に巡り会ったって言ってましたがね、いまは俺のような身持ちの固いのといれて、幸せだって言ってましたよ!へへ…』
わざと下品な笑い方をしてみる。演劇経験者のツァーン少尉によると、含み笑いをより低くやるといいとの事だが、こんなもんだろうか。
『ふむ、既婚者、ね。なるほど。では君、経理のイオーノフ君だったね。この船の経済状況はどうかね?何か足りないものが有れば申し出れば、可能な限りなら援助するが?』
『航行はあなた方に止められるまでは順調そのものでしたよ。今この瞬間だけでも時間的な損失が逐一発生しているんです。できるなら早く解放して貰いたいものですな!』
イオーノフことベルガー主計少尉が機嫌悪そうに言う。まさに神経質かつ効率重視のフェザーン商人といった感じだ。なんだ、皆上手いものじゃないか。
『ふむ、では我々は嫌われているようだし、船内検査も異常なしだそうだ。そろそろお暇するとするかな』
バウディッシンが尋問室(仮)を出ようとする。
「では諸君、良い旅を!」
私とベルガーは黙っていたが、エルトマンは「ありがとう、そちらも」と返す。すかさずはっとしたような顔をするが、もう遅い。
入れ替わりに艦長が入室して来て、各々に対する講評が始まる。
「まず、エルトマン少尉。君は最も初歩的な手に引っかかった。よく情報Ⅲ課や憲兵隊辺りがスパイや脱走者の炙り出しに使う手だが、知らなかったかね?まぁ、人の好さが出てしまったんだろうが、ボロのサイズで言えば特大級だ。もし本番があれば、特に注意して臨むように。それから、姉妹がいる設定にするなら、君の自室に適当な写真なり立体映像なりを置いておいた方が整合性があって良いだろうな。」
「ベルガー少尉、君の機嫌悪そうな態度はフェザーン人らしさが出ていて、その点は評価できる。が、本物ならせっかく物資提供を提案されているんだ。欲を出してみせた方がいいな。食料やエネルギーではなんだから、そうだな、紅茶やコーヒー豆辺りの嗜好品を要求してみるのもアリかもしれん。」
「かしこまりました。肝に銘じます。」
「結構。では、フランツィウス中尉だが、あの笑い方は自然体かつ喋り続けていると不快感をもよおす感じがして良かった。ほぼほぼ心理学の領域だが、早めに尋問を終わらせるには有効な手段だろう。だが、今一度考えて欲しい事は、君の話と諸々の状況の整合性だ。君の部屋は今どうなっている?」
そこまで言われて気づく。たしかに自分の部屋は三大欲求を持て余す独身者の代表例のような有り様だ。もしあの部屋の住人が既婚者だと言ったら不自然どころの話ではないだろう。
「確かに不見識でした。精進します。」
「結構。まぁ、3人とも明らかに嘘をついている、というのが分かる風でも無かったし、演技力の点では合格点だろう。あとは指摘したような整合性と、ふとした時の受け答えなどを出撃までに詰めておくように。」
ーーーーー
11月25日 ゾンタークスキント艦内
フォン・オイレンブルク中佐
とうとう出撃まで残り1ヶ月となった。艦内は追加で送られてきた偽装品やらでフェザーン色に染められている。会った事もないシュテファン分室のスタッフが筆跡を変えて書いたラブレターや私の文書箱に入れる架空の契約書、納品書、領収書まで全てフェザーン式の物だ。最も良い出来なのはフェザーン自治領主府の電子印が押された契約書だ。内容は、「当マレタ号はジャムシード開発省の使用するテラフォーミング資材を運搬しており、取扱及び消耗には十分注意すること」というものだ。確かに高額かつ政府間取引資材はあまりベタベタ触りたいものではないだろう。
「さて、と。後の仕事は、そうだワルキューレの方に呼ばれていたな。」
艦橋を出て右に曲がり、廊下に等間隔で設置してある消火システムの一つの前に立つ。
「魔女のバアさんの呪い、水を怖がる中隊長、オイレンブルク艦長。」
ー短い電子音が鳴り、消化システムの下部が開く。緊急用誘導路の名目で設えたものだが、ガワを少し作り替えれば立派な隠し扉だ。新無憂宮にも隠し通路や秘密の部屋があるなんて都市伝説があるが、この艦ほど完璧なものはそうそうないだろうという自信がある。この階段は降りると3機しか積んでいないワルキューレの格納庫とパイロット詰所に直通だ。
「曹長?艦長だ。どこにいる?」
折り畳まれて収容されている機体の裏から長身の男が駆けてくる。彼はゲルハルト・ウェーバー・ケンプ曹長。専科学校を出て4年で単座撃墜19機、砲艦1隻撃沈、巡航艦1隻大破確実という戦果を挙げたエースである。その腕とその戦果を誇らない人柄を見込んで最前線のアルテナから彼のケッテ編隊丸ごと引き抜いてきた。その曹長が意見具申とは…
「ご足労ありがとうございます艦長。ご相談したい事がありまして、それには実機があった方が説明がやりやすいと考えたのであります。こちらへどうぞ。」
彼の機の横まで案内される。ワルキューレ搭乗員はある程度の塗装の自由が戦果に応じて許可されているが、彼の機には単座機撃墜を示す五角形が並んでいるだけだ。戦闘艦の撃沈に関しては「アレは中隊の皆の戦果ですから」と言って自分の機には描かないらしい。
「艦長、現行のワルキューレの武装は短距離ビームが翼部に2門づつ、計4門となっておりますが、任務内容を鑑みて、これを改造したく思うのです。」
「ほう。改造、というと?」
「はっ、今回の作戦におけるワルキューレの任務は敵襲撃に先立つ前路警戒並びに先制攻撃による敵通信・自衛・推進設備の破壊であると承っております。それに際して、ビーム砲4門の火力は些か、いや大分過剰でありまして…」
言われてみれば確かにそうだ。4条のビームがまともに命中すれば巡航艦といえど十数秒で廃艦同然になってしまうのだから、民間船が相手なら正に牛刀をもって鶏を割くというものだろう。
「それを鑑みて、ビーム砲は右舷の一門を残して撤去し、空いた左舷側スペースには予備の予備の水素燃料タンクを、右舷下部にはジャミング装置を増設したいと考えたのですが、攻撃力が著しく低下する事と、左舷を丸ごと可燃物にしてしまうので防御力の面でも不安になります。ですが、任務には最適なチューンであると愚考致します。」
彼の言い分は正鵠を射ている。もし罷り間違って一撃爆沈などしてしまえば反応を叛乱軍の哨戒部隊に探知される恐れもあるし、前路哨戒を頼んだりする以上航続力の延伸と電子戦装備は重要だろう。リスクはあるが、それ以上にリターンの方が大きいと判断した。
「よろしい。許可する。改造と試験飛行はこれまで通り何か理由をつけて秘密裏に行うように。それから、君は新婚だったな。改造中に基地内の超光速通信室の使用を許可する。素晴らしい意見具申の正当な対価ととってくれていい。」
「ありがとうございます、艦長!ご期待に沿えるよう、ワルキューレ隊は全力を尽くします!」
そのしばらくあと、艦内食堂で「父親、子供、ハインリッヒか?いやカールも…」などと呟く彼を見かけた。ともあれ、出撃の準備は完了しつつある。
続く
色々言いたいことがあるんですが、かいつまんで話すと、尋問シーンは名画「大脱走」の「Good Luck!」→「Thank you 」が大好きなので入れました。叫びたくなるくらい好きなんです。あのシーン。
ワルキューレの任務については「奪還者」でラインハルトさんが同じ様な事してたので借りました。奪還者の時代には30年も後ですし、ビーム砲の出力調整なり精密射撃機能なりが進化したって事にしました。
最後に出てきたケンプ曹長については、まぁ、そういう事です。親子二代でエースとは凄いですね。
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