海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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永久脱毛すればひげをそらなくて済むってあって、朝時間の節約できるよなんて聞くんですが、痛いのは辛そうなんですよね…

では、どうぞ。


第六十一話 艦長室にて

帝国暦453年5月7日 夜 収容所 士官棟

フォン・フランツィウス大尉

 

 1週間前に艦長が怪しい連中に連れ去られてから、どうも何かについて考えているような様子が続いている。いや、正確には考えている、と言うより悩んでいると表現した方が正しいかも知れない。いつもあの人は何かしら考えているが、今回のは…上手く言えないが何処が違う気がする。

 帝国軍のものとは微妙に音階の異なる消灯ラッパを聞いて、既に隣の寝床でやけに高い寝息を立てているシュタールスを横目に、何か艦長か悩むような問題があるのか、原因は我々かそれとも別の誰かか、こっちも考えてみるが…やはり収容所暮らしのストレスなのか…?

 

「大尉!大尉殿!」

 

控えめに扉を叩く音がする。声の主は収容所に入っても、何も気にする事や悩み事が無さそうなツァーン少尉だ。ある意味鋼鉄の神経の持ち主なのかも知れない。

 

「どうした?トイレなら1人でも行ける歳だろ?」

 

「違いますよ!…艦長から士官棟の者は艦長の部屋に集まるようにとの伝言です。それから、出来るだけ静かに来るように、とも。」

 

「…分かった、こいつを起こしたら行く。」

 

消灯後に士官が集まって密談ともなれば、まさか怪談大会をしようなんて事は無いだろう。…スリッパを履いた方がいいな。どこにしまったか…

 

ーーーーー

 

「…バウディッシンです。」

 

「よし、入れ。…扉はそっと閉めろよ、少尉!窓の直線上に立つんじゃない、サーチライトが来るぞ。屈むんだ。」

 

「これで、10人か。全員集まったな。」

 

艦長自身はベッドに腰掛けて全員を見回す。カーテンの閉まった窓から薄く差し込む月明かりでぼんやりと見えるだけだが、片目になってもその威厳を持った目線は健在だ。

 

「では始めよう。…何から話すべきかな。まずは私が連れ去られた際に聞いた話からだ。所長や他の連中も承知している事なのかは不明だが、我々は捕虜交換の対象にはされないらしい。どういった形でされないのかは分からない。戦死したことになっているのかもしれないし、捕虜になった事すら通告されていないのかもな。」

 

「…つまり、それは…」

 

「ああ、我々はこの収容所、何年か経てばどこかに移されるかもしれないが、とにかく故郷には帰れない。」

 

 艦長の冷たい宣告に、艦を失った時と同じ、いや、それよりも重い空気が部屋に充満する。そうか、何の因果か知らないが、イルマとはもう会えない…そうか…

 

「…だが、それは叛乱軍が勝手に言っている事に過ぎない。」

 

「艦長?」

 

「帝国の士官が集まって、この空気は何だ。まるで地下墓地にいるようじゃないか。言った通り、確かに我々は帰れないさ。だがその理由は何だ?鉄条網に囲われているからか?厳重な監視下にあるから?それとも、宇宙に出る手段が無いからか?」

 

あくまで静かに、全員の心の隙間に入り込んでくるような低い声色で艦長は続ける。

 

「我々は帝国宇宙軍の最精鋭だ。フェザーン回廊を抜けた。10隻以上の船を沈め、狭い封鎖線をすり抜け、そして優勢な敵と戦って生き残った。ここまでやってのけた我々が、何故そんな障害が2つ3つあるからという理由で帰還を諦めなければならないんだ?」

 

「…つまり、艦長は…」

 

「そう、我々は帰る。この収容所を脱走して、この星の重力から解き放たれ、数百光年の旅路を経て、帝国へ、故郷へ帰るんだ。」

 

「脱走…」「脱走。」「脱走!」

 

「そう、脱走だ。そして、それは今この場にいる者だけでやる訳ではない。私を含めて241名、1人たりとも欠ける事なく家へ帰ろう。」

 

家へ帰る、台詞自体は良く聞くものだが、この状況、この場に限っては何故か不朽の名台詞に聞こえる。

 

「「「はい、艦長!」」」

 

脱走、もし成功すれば帰れる。イルマにまた会える!こうなればやるしかない、艦長の命令だからではない、いや、勿論そうではあるが、何より婚約者に再会する為に…!

 

「では、早速悪だくみを始めようか。まずは収容所からの脱出策についてだが、何か案のある者は?」

 

すると、先程の空気とは打って変わって目を輝かせているツァーンが手を挙げる。この裏表のはっきりした反応、子供みたいなやつだ…実際子供なのか。

 

「やはり脱走と言えばトンネルが定番ではありませんか?実際241人ともなれば鉄条網に2つ3つ穴を開けた所で全員が脱出して距離をとるには時間がかかり過ぎますし、まさか収容所の敷地内で小型飛行機なんて作る訳にもいかないとすれば、活路は地下しかないかと。」

 

「そうだな、では取り敢えずはトンネル掘りと…情報収集だな。少尉、今日は初めての柵外作業の日だったが、市街地の様子はどうだった?」

 

「はい、どこか物好きな企業が依頼でもしてこない限りは我々の仕事は土木工事と鉱物の仕分け作業ですから、資材くらいは密かに持ち帰れるかも知れませんが、確度の高い情報となると、入手できて作業員の噂話位が関の山かと。その辺りはあの記者からそれとなく聞き出せませんか?」

 

「そうだな、トンネル掘りにしても数ヶ月はかかる作業だろう。ゆっくり確実にやっていけばいい。故郷は逃げないし、記者も上手くやれば口が軽そうだしな。」

 

一度方針が固まれば後はスムーズにやるべき事が決まっていく。集団としての強さ、その秘訣はこういう所にあるんだろう。

 

「では計画に関する役職決めだが、大体艦内序列と一緒でいいかな、大尉、君は次席として全体の統括と私の手伝いだ。次にトンネル班だが…」

 

ーーーーー

翌日 夜 艦長個室

 

「脱走計画は今日、全員に周知しました。うっかりDOOFに喋るなんて奴はいないでしょうが、一応口止めはしておきました。それから、出来るだけ捕虜宣誓には立候補して外の物資や、出来れば情報も集めて来るように言ってあります。」

 

「結構、ありがとう大尉。…それで、トンネル班の方はどうだ?」

 

トンネル班の班長はツァーン、半分彼の自薦で決まったが、穴掘りにそんなに憧れがあるんだろうか?

 

「はい、試算した所、1本のトンネルだけでは240人の脱出には時間がかかり過ぎて発覚の危険があります。1本当たり80人、それ位のペースでやるのが時間と労力の均衡値だと考えますと、計3本のトンネルを掘る事になりますが、如何ですか?」

 

「3本か、多いな。場所は?」

 

「それはまだ未定ですが、もしもの際の発見リスクを考えると1つの収容棟に集中して入り口を設けるのは悪手です。それぞれ分散させる事になるでしょう。」

 

「そうか、分かった。工法や掘り方なんかは装甲擲弾兵の指導下でやってくれよ。脱出行の途中に生き埋めなんて事は避けたいからな。他に懸念事項は?」

 

「懸念事項…ではありませんが、1つ、決めておきたい事があります。」

 

「どうした?流石にまだ実行予定日などを決める訳にはいかないが…」

 

「いえ、機密保持の関係上、トンネルの事をあまり堂々と喋るわけにいかないでしょう。堂々とはしていなくても、何かの会話の拍子に出てしまう等という危険性を考えると、やはり暗号名や、そこまで堅苦しいものでなくても、3本それぞれに愛称でもつけておけば良いのではないかと考えまして。」

 

「なるほどな。何か案はあるか?余りにふざけたものだと逆に怪しまれる可能性があるから…」

 

「人名等はどうでしょう?例えば近くで、兵に「誰々は最近調子が悪いらしい」とか、「誰々の様子は良好」、そのような話を聞かれたとして、そんな世間話を怪しむ奴は…」

 

「変人だな。」

 

「はい、そう言う事です。それで、候補ですが、こっちでありふれた名前がいいでしょう。240人のメンバーのファーストネームまではっきり記憶してるなんて者はいないでしょうし、それで、パッと思いつく名前と言えば…トーマス、リヒャルト、ハインリヒ…どうですか?」

 

「リヒャルトか、確か廃嫡されたんだろ?縁起が悪くないか?」

 

「大尉、皇帝になったリヒャルトの1世と2世の方はちゃんと治世を全うしてます。大丈夫ですよ、我々の艦の名前は「幸運児」です。縁起も因縁も全部吹き飛ばして余りある位じゃないですか。」

 

「…縁起を気にしてるのはそっちの方じゃないか。艦長はどうです?」

 

「いいんじゃないか。あまり仰々しい名前、例えば大帝の御名だったら止めていたが…」

 

「では、それぞれトーマス、リヒャルト、ハインリヒで進めます。実測と経路設定は明日から始めて、竣工期間は未定ですが…」

 

さて、これからどうなるか、収容所から出られてもこの星からは…?いや、幸運児は沈んだが、その幸運はまだ我々に宿っている筈だ。幸運と、艦長と、我々の力、最早この世に不可能な事は無いのではないかとも思うな。

 

続く

 

 

 




挿絵で収容所の見取り図が有れば想像してもらえてこっちも楽だなーと思ったんですが、前にも言ったように絵心などないのでパワポで線引く画像になりそうです。次の休日あたりで作ろうかな…

大尉の言ってるDOOFは何話か前にツァーンが考えた同盟軍人全体を指した呼び名です。「うっかりバカ共に喋る…」という表現だと分かりづらいのでここだけ原文表記というか…そうなってます。

今回もご意見ご感想お待ちしております。
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