海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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地元の忠霊塔に、226事件での死者として名前が書いてある人がいるんですが、被害者でもなければ処刑された青年将校でもないんですよね。だれなんでしょう?
では、どうぞ。


第六十二話 トンネルと手がかり

帝国暦453年5月12日 ジャムシード第1捕虜収容所

フォン・オイレンブルク中佐

 

「85…だから…あー…75メートル…」

 

定規と手製の分度器を組み合わせたような妙な道具を持ってツァーンが測量をしている。士官学校で基本的なやり方を学ぶとはいえ、こうも早く道具を自作してしまうとは、案外器用な事をする奴だ。

 

「どうだ?起点は決まったか?」

 

「はい、トーマスとハインリヒは決まりましたが、リヒャルトをどこにするかがまだです。どうも最短を攻めつつ、監視塔の視界から出来るだけ離れた点を、となると難しくて…」

 

「分かった。で、その2つの起点は?」

 

「トーマスの方は娯楽棟の食堂隅からやり始めます。見に来ますか?中々見事な出来栄えですよ。」

 

「偽装が完璧という事か?確かに一目でトンネルの入り口だと分かるようでは困るしな。」

 

「完璧どころじゃありません。作業するのは夜の間ですから、今から見にきますか?」

 

「…では招待を受けるとしようか。測量はもういいのか?」

 

「ええ、どちらにしろ士官棟区画からトンネルを伸ばすのは作業人員や実行の時の事を考えると非現実的だとは思ってました。やはりリヒャルトはどこかの収容棟からやる事になりそうです。」

 

「理想としては全て北側に抜けたいが、やはり長すぎるか。」

 

「そうですね、1本はどうしても西か南側に向かう事になるかと…少し待ってください。」

 

ツァーンが窓の外に目線を向ける。どうやら今は衛兵交代の時間で、監視塔の人員がまとまって管理区画へ移動している。

 

「所長がいる日はこうですからね。いない日は時間帯もいい加減なものですが…よし、じゃあ行きましょう。」

 

昼間は開放されている仕切り門を通って、敬礼を受けながら娯楽棟へ移動する。…監視塔の上からも視線を感じるし、私は移動しているだけでも監視の注意を引くようだ。トンネルを掘り始めるにしてもあまり頻繁に訪れるべきでは無いな。

 

「1つ問題、というか注意する事がありまして、いまいち監視のローテーションが掴めないんです。…南端の監視塔、よく見ると煙が上がっているでしょう、ああやってすぐに煙草を吸い始めるのは『鍵屋』…あー、そういうあだ名の伍長なんですが、いつもあそこに配置されてる訳ではなくてですね、一昨日は正門にいましたし、時間帯も朝でした。」

 

「つまり警備の薄い時間帯や場所というのが固定されていないのか。」

 

「そうなります。更に面倒な事にああいう…職務怠慢というか、あまり真面目にやらないような手合いは少数派です。『鍵屋』の他には『くしゃみ』とあと数人ですね。」

 

「そうか…シフト表か何か手に入れば良いんだな。」

 

「それが出来れば掘削要員や土を運び出す担当のタイミングが決められて便利なんですが…まさか管理棟に忍び込む訳にもいきませんし…」

 

「…何か手を考えておくか。」

 

そんな事を話しながら娯楽棟へ到着する。扉を開けると、パーテーションで仕切られた飲料コーナーの最奥に案内される。

 

「ここにありますは、種も仕掛けもないコーヒーメーカーです。いや、正確には豆が入ってますから種はあるんですが…」

 

「仕掛けもあるんだろ?この下か?」

 

「ええ、台座の下に縦坑を掘って、そこから北東方向へ伸ばしていくつもりです。」

 

台座の下の物入れを開けてみると、これでもかというくらいにコーヒー豆の袋やらフィルターの予備やらが詰め込まれている。

 

「こういう感じに、「誰かが苦労して無理やり詰め込んだ物」に触りたいなんて欲求を持つ奴は中々いないでしょう?もし触って崩しでもしたら絶対に元通りには出来ない、そんな雰囲気を出すのがコツです。」

 

「それはいいが、掘る時やうっかり崩してしまった時に元通りに出来なかったら困るぞ。こんなものを広げて何をしていたのかという事になるし、1回や2回程度なら偶然崩れたって事に出来るかも知れないが。」

 

「その点も問題ありません。これ、実は雰囲気だけなんです。ちゃんとした手順に従えば10秒有れば元通りに出来るようになってます。試しに一度崩してみますか?」

 

そう言うと、右下の方に飛び出していたフィルターの袋を一気に引き抜く。…案の定、雪崩の跡というのに相応しい惨状となる。

 

「えーっと…有りました。1番がこれで、2、3、4…」

 

よく見るとそれぞれの袋や箱の端には小さく数字が書いてある。なるほど、こうやってマニュアル通りに組み立てる要領でやる訳か。

 

「26!…すいません、少し遅かったですね。」

 

「いや、十分早いと思うぞ。よく考えたな。この無秩序ぶりが再現できるとは思わなかった。」

 

「どうですか、ちょっとやそっとではバレそうもないでしょう?」

 

「うん、このまま進めてくれ。リヒャルトの方も決まったら報告してくれよ。」

 

トンネルの方は順調に進みそうだ。あとはシフト表に、その他は資材収集に、もし市街地辺りに潜伏するような事になった時の為の偽造書類や変装用の平服の類いも必要だろう。…先は長いな。

 

ーーーーー

宇宙暦762年5月15日 首都星ハイネセン 

W・バクスター

 

『あ、船長!どうでした?』

 

オープンカフェに陣取ったカーターと他数人が手を振っている。子供や犬でもないんだからあんなに目立とうとしなくても分かるのに。

 

『うん、保険金は船と、積荷の分も何とか下りるようだよ。オナシスさんも随分食い下がったらしいし…』

 

『そりゃあ保険証書に『帝国の巡洋艦による拿捕撃沈の場合』なんて項目はありませんでしたからね。大方火災・犯罪保険辺りを拡大解釈させたんでしょうが…』

 

『それで、新しくまた船を買うことにしたんだそうだ。…君の方も取材が落ち着いてきた頃だろ?また同じ船に乗ってくれるかい?』

 

『ええ、喜んでご一緒しますよ。…あ、取材といえば…さっきまで話してたんですが、船長はゾンタークスキントの行方について聞いたりしてませんか?』

 

『ん?…まぁ、そうだな、聞いてないよ。』

 

実を言えば、帰還してからしばらく続いた同盟情報局からの取り調べ中にやけに粘りのある喋り方をする狐顔が艦長さんはもういない、とか暗示的な事を言っていたけれど、アレはゾンタークスキントが沈んでしまったという意味なんだろうか…?

 

『そうですか…これ、どう思います?』

 

そう言ってカーターが差し出してきたのは開いた雑誌だ。週刊フリートタイムズ…

 

『どこだっけな。ああ、ここです。P・アッテンボロー、『帝国軍捕虜に聞く同盟軍の実態!我が軍は本当に強いのか?』ですって。』

 

『アッテンボロー?いつも軍隊を批判してる記者じゃないか。なんだって?…うん…ん?』

 

『分かりました?この『元帝国軍佐官のO捕虜は語る。「結構、では軍隊への税金は紅茶代に消えているのか。」と!』って所。なんだか聞き覚えがありませんか?』

 

『聞き覚えがあるも何も…イニシャルはOだし…艦長さんか?』

 

『そうじゃないかと思うんですよ。どこに捕まっているかは分かりませんが、今生の別れって訳でも無かったようだって話をしてたんです。』

 

『そうだな、例の手紙を盗まれた顛末も話さなくてはならないし…でもどうする?まさか出版社…あー、L&Pか。ここに聞きに行っても…教えてくれはしないだろうなぁ…』

 

『捕虜収容所というと…パッと思いつくのはエコニアか…その辺りですかね?』

 

『もしそうだったとしても、行って艦長さんに会えるかどうかは分からないからね…何かいい手は無いかな?』

 

『いい手…このアッテンボローとかいう記者、次号予告によると週刊連載コラムを始めるらしいですし、もしかしたら情報がポロポロ出てくるかも知れませんよ。』

 

『そうかな。じゃあ定期購読でも始めるか。…こうなるんだったらもっとセネット船長やカドルナ船長にも居て貰えば良かった。相談できたのにな。』

 

『まぁ、セネット氏はあれでも会社の社長ですからね。ドラーク…って言ってましたっけ?商売敵がなんとか…』

 

友人との再会、その為には友人の行方を探すところからか。人間は宇宙を短い間期間で行き来できるようになったが、人生を全て思い通りに運ぶにはまだまだ未熟な生物のようだな…

 

続く

 

 

【挿絵表示】

 




挿絵、作ってみたんですけど上げ方はあってるんでしょうか。

バクスター氏が言ってるオナシス氏って言うのはヌワラエリアの船主さんです。バクスターさんは雇われ船長なのですが、彼との関係は良好らしいですよ。
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