海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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母の日って何を贈れば良いんでしょう?花は無難でしょうが…女心は分かりません。

では、どうぞ。


第六十四話 発見と井戸水

宇宙暦762年5月23日 ジャムシード第1捕虜収容所

A・ビュコック少佐

 

『なんだね、これは。』

 

所長室の机の上に置かれているのは奇妙な物品達。その更に奥ではヴィドックが困っているのか面白がっているのか分からない、これまた妙な顔をして立っている。

 

『家探し…というか、昨日の捜索で出てきたものです。しっかり外から帰ってくる時はボディチェックもしているし、一体こんなものをどう手に入れたものやら…』

 

そう言って手に持ったのは表紙に堂々と水着姿のモデルが描かれた雑誌。これでも並べられた本の中では大人しい方だが…所帯持ちには縁の薄い本、本当にどうやって…

 

『いや、そうじゃない、違うぞ!私が家探しをさせたのは脱走計画やらトンネル掘りの証拠やらを見つけるためであって、なんだ、この…プライバシーというか、とにかくこういうものを見つけ出すのが目的では無いんだ。』

 

『しかし、実際見つかったのはこれだけです。紙袋に入れて縛ってあったので、爆弾か刃物でも入っているのかと思ったらコレですよ。家探しに抵抗するそぶりを見せませんでしたし、何か隠し事があるのであればもっと抵抗なり隠蔽なりしようとすると思いますが…』

 

『うーん…気にしすぎだったかな?ただ単にツァーンが変なことしてた現場に遭遇しただけか?そんなバカな。』

 

『どうにも、証拠が無い分には独房送りにする訳にもいきませんし、あんなに間抜け…とは違いますが、いつもおちゃらけてる連中が本当に脱走なんて考えてるんですかね?』

 

『そう考えれば楽でいいがな。考えてもみろ、彼らはほんの数ヶ月前までは無害な商船を装っていたんだぞ。それが見事にできていて、今になって脱走の兆候一つ隠せませんでは説明がつかないだろう。』

 

『言ってみれば捕虜は役者集団で、演じる登場人物が変わっただけだと?』

 

『そう、さしずめ演劇の第2幕といったところだな。本性は変わらないのに役割は商船員から無害な捕虜へ、という訳だ。それを見破るのが我々の仕事…だが、上手くいかないんだよな。』

 

『では、とにかく前提としては脱走を計画中なのは間違いないという事にしますか。…トンネルを掘ってるんでしたよね。』

 

『そうだと思うが、もしかしたらそれもブラフかも知れない。脱走といえばトンネルというのは固定観念に囚われた妄想で、実は大反乱の末の強行突破を狙っているとか、あらゆる可能性を考えなくてはな。』

 

『はい。それで、とりあえずこの没収品はどうしますか。』

 

『考えてみたら捕虜宣誓で禁止してるのは危険物の持ち込みだけなんだよな。危険物、ではないが…』

 

『成長途中の青少年にとっては入手するのに麻薬より勇気が要る危険物ではありますがね。』

 

『その論理で没収したままにするのもな。…今後無断で持ち込むのは禁止という事にして、棟の代表者に渡す事にしようか。』

 

法律でも規則でも、遡及適用というのはするべきでは無いからこの件はまぁ、不問にするとして、あとは子爵と愉快な仲間たちが何を考えて、どう実行に移そうとしているのか。それを早いとこ突き止めなくちゃならないな。

 

ーーーーー

帝国暦453年6月12日夜 士官棟内 空き部屋

E・ツァーン少尉

 

ノックが4回、続けて2回。時間通りだ。これで全員集まったかな。

 

「よし、入れ。軍曹、誰にも見られなかったな?」

 

「ええ、DOOFは大丈夫です。この前からピリピリしてますが、逆に堂々としてやれば案外いけるものですよ。」

 

闇に溶け込むために黒く塗った顔で笑う軍曹、薄暗い中でみるとそういう妖怪のようだ。装甲擲弾兵が他の軍人に比べてモテる理由は軍人ができるあれやこれやの仕事に加えて化粧まで上手くできるから、とこの前自慢げに言っていたが、あながち嘘でも無いかも知れない。

 

「DOOFの事はどうだっていいんだ。折角の本番だからな、こんな大事な時に大尉なんかに見つかったりしたら…その、なんだ、困る。」

 

「それも大丈夫です。でもあの人は眠りが浅い方ですから、静かに、静かに、ですね。」

 

「分かった分かった、じゃあ始めるぞ。A液は?」

 

「A液、準備よし。水も大丈夫です。」

 

「よし、よぉし、ガス缶も十分あるし、いくぞ。」

 

巨大な缶に入れたA液が熱せられて甘い匂いがしてくる。…そろそろいいだろう。

 

「軍曹、そっとつけろよ。…うん、ハマったな。計算通りじゃないか、流石の腕前。で、この先に瓶を置いて、こっちに水を入れれば、あとは待つだけだ。」

 

「戦闘資材の自給自足は基本ですからね。これくらいの金属工作なら目をつぶってもできますよ。」

 

「うん、やはり友人に1人位は装甲擲弾兵出身者を入れておくべきだな。便利すぎる。」

 

「お、来ました、来ましたよ!」

 

火に炙られた缶から伸びる鉄管の先を見ると、1滴、また1滴と透明な液体が瓶に滴っている。

 

「これで完成ですか、舐めてみてもいいですかね。」

 

「失明したいなら止めはしないが、それはメタノールだぞ。」

 

「えっ、じゃあ…」

 

「大丈夫。そうだな、100くらい出したら大丈夫だろ。そしたら本当のが出てくる筈だからな。もう暫くの辛抱だ。」

 

ーーーーー

 

目の前に並べられたのは素晴らしい香りのする透明の液体で満たされたグラスが3つ。正にジャムシード捕虜収容所始まって以来の一番搾りという奴だ。

 

「少尉、これで立派な…」

 

「帝国法違反だ。」

 

「じゃあ、誰から行きます?ここはやはり階級順ですか?」

 

「えっ…いやぁ…それは職権濫用みたいで軍曹も嫌だろ?一番低い階級からなら後からの文句の出様も無い、という事で伍長、フェルザー君、どうだ?」

 

「実は少尉、自分でやろうって言っておいて自信が無かったりします?」

 

 

「いやいや、そんな筈無いだろ!作り方は完璧に合ってる…うん、大丈夫だ。」

 

「じゃあどうぞ。」

 

 軍曹はそう言ってグラスの1つを目の前に突き出してくる。…こうなったらやるしかない、帝国軍の士官の責務、指揮官先頭!

 目を瞑って液体を一気に飲み込む。喉、食道、胃まで熱湯が流れ込んでくるような感覚!これまでに経験したどれよりも刺激的だ!

 

「……わお。」

 

「…どうなんですか?どっちの「わお」です?」

 

今度はこっちの番だ。黙ってグラスを差し出す。

 

「…倒れてないって事はとにかく毒では無さそうですね、いただきます。」

 

意を決した表情をして軍曹も喉を鳴らす。

 

「…わぁお。」

 

「どうなんです、2人とも!やめて下さいよ、いつもあんなに喋るのに何で喋らないんですか…」

 

今度は軍曹と2人で突き出す。多分同じ事を考えているんだろう。

 

「少尉、目が赤いですよ、本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

文句とも興味とも取れない声色で言いながら、とうとう伍長も液体を摂取する。

 

「…!げほっ、えはっ…わぁお!」

 

「どうだ?すごいだろ?」

 

「すごいです!なんとも…とにかく強い!どの位ありますか?」

 

「ちょっと待てよ、もう1口……わお、うん、6、70度はあるんじゃないか、気をつけろよ、火がつくレベルだぞこれは。」

 

「70度!それは良い、まさにアルコールという感じですね。」

 

「うーん、見よう見まねでやってみたが、ジャガイモと砂糖でも案外上手いこと出来るもんだな。こっちでも軍のイモは無尽蔵で助かったよ。人類の友に久方ぶりに会うってのは何回やってもいい。次は香りでもつけてみるか?朝食のピーナッツバターをくすねてくれば…」

 

「いいですねいいですね、是非やりましょう。」

 

「創意工夫は人類の進化、友人の進化と共に我々も進化し…これが切磋琢磨って奴か、昔の人は偉いな。うん。」

 

「切磋琢磨ね、結構、先人に習うのを恐れないのは大切な精神だ。」

 

「ええ、そうでしょう?…んぁ?」

 

後ろから聞こえたのは聞き覚えがありすぎる声。

 

「艦長!…と、大尉も一緒ですか、あー、ようこそ。」

 

「ようこそだ?ここの所何をコソコソやってるのかと思ったらこんな事か。最近所長も怪しんできてる節があるというのに、怪しまれるような行動をとって…」

 

「いや、違うんですよ大尉、これは決して自分達だけで酔っ払おうとかいう理由でやってる訳では無くてですね。」

 

艦長は前に出てきた大尉の後ろから蒸留器を眺めている。怒っているのか?…分からない、どう言い訳すれば。

 

「そう、DOOFにだって酒好きな奴はいるでしょう?それでこれと何か役に立つものを交換したり、買収的な事が出来ればと思ってですね、これも脱走に必要なものなんです。うん、そうなんです。」

 

「今考えた台詞か?」

 

「本気で思ってますよ。軍人たる者、常に、仲間と、組織の事を念頭に置いてます!」

 

まずい、なんだか舌が回らなくなってきた気がする。強すぎたな…このままだと言い訳が出来なくなってしまう。

 

「大尉、その辺でいいじゃないか、何にしてもトンネル掘り以外に熱中できる事を作ったんだ。それに、役に立つんだろ?」

 

「ええ、はい!たしゅ…確かにやってみせます!」

 

「うん、結構。私も一口いいかな?…わお、うん、では、軍曹と伍長も帰る時は見つからないようにな。」

 

ベストなタイミングで助け船を出してくれた艦長はまだ説教が山ほど溜まっていそうな大尉を引き連れて出ていった。…まぁ、多分咄嗟に出た言い訳を信じてくれた訳では無いだろうがこの魔法の液体に利用価値があると思ってはくれている筈だ。量産の許可が出たという事でいいだろう。

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 




あのセリフは…悪ふざけです。はい。

没収されたエロ本の入手経路は半分は密輸、もう半分はあの2人組が持ってきた奴です。何やってるんですかねあの人たち。

今回もご意見、ご感想お待ちしております!
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