海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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一度しまった毛布を引っ張り出してきた私です。
どうしてこんなに寒い日が続くんですか…

では、どうぞ。


第六十七話 ドラーク氏

宇宙暦762年7月1日 ジャムシード第1捕虜収容所

A・ビュコック少佐

 

結局フェルザーを独房に入れて以来、特に捕虜達に目立った動きは無い。「プラスチック製のフォークは噛んでるうちに飯に混ざるから金属製を持ち込もうとしただけなのに、なんで20日も穴倉にぶち込まれなきゃならないんだ」なんて不平を漏らしていた彼も、5日目あたりからは大分静かになってしまった。逆に静かにしている方がこちらの罪悪感が募る気がするんだが…

 

『所長、そういえば今日じゃありませんでした?』

 

『ドラーク鉱業の社長が来るって話か?』

 

『そう、そのドラーク氏?ですか。中々面白い人物らしいですよ。ちょっと前まで急激にシェアを拡大してたと思ったらここ数ヶ月でまた失速してます。そんな人物が何の用事で収容所に来るんだと思います?』

 

『チェスに飽きたと思ったら今度は地元経済の予測か?…経済といえば悪いニュースがあるぞ。1番削りやすい費用は人件費って奴だ。組織ってもんは軍でも民間でも結局同じ結論に辿り着く…』

 

『その言い方、まさか、給料が減るんじゃないでしょうね?』

 

『…当たり!はぁ、今月から士官は職務給を一等落とす扱いになるとさ。そりゃあずっと地上にいるから命の危険は無いかも知れないが…全く…』

 

ただでさえ妻が2人目を授かった事が分かってこれから金が入り用だって時にこの仕打ちだ。…もちろんする気は無いが、汚職の温床は本人の悪の気質や才能より安月給が最大のものだという意識が司令官にはあるのだろうか?

 

『どうせ今更辞めそうにないから多少下げても大丈夫だろうって魂胆が透けて見えますね。責任と仕事量を考えると艦隊勤務の時より増えてる気がしますけど。』

 

『何か大失敗でもやらかせば考え直すかな?…いや、だとしても原因が安月給による意欲の低下でしたなんて事は死んでも認めたくないだろうから無駄か。』

 

『かと言って捕虜収容所の管理で目立つ成果を上げるのは難しいですよね。ただでさえあの記者が好き勝手書いてるんですし。』

 

『いっそのこと彼に我々の窮状を訴えて軍上部の締まり屋具合を糾弾してもらうか?…いや、忘れてくれ。そんな事したら更に調子に乗るな。』

 

ここでヴィドックと自分達の懐事情について嘆きあっていても状況は良くなる筈が無い。願わくばこれから来る予定の客が何かいい話でも持って来てくれれば良いんだが…

 

ーーーーー

 

『初めまして、私、ドラーク鉱業株式会社の代表をしております、ヤロスラフ・ドラークです。よろしく。』

 

見た目は真面目なビジネスマン風のドラーク氏だが、どうもその目つきが気に入らない。『陰険』とかいう感想がぴったりな感じがする。それに何か口に含んでいるようにモゴモゴ喋るのはどういう事なんだ?

 

『どうも、それで今日はどういったご用件でしょう?鉱物資源の納入等は私より上に権限があるので対応しかねますが…』

 

『いや、そんな事ではありません。ビジネスの話です…と言ってもやはりその成功に必要なのはある程度の秘密主義でしてね。出来るなら所長さんと私と、2人だけでお話ししたいのですが?』

 

『…残念ながら収容所の規則でどの部屋でも1人きりになってはいけない事になっていましてね。規則を責任者自ら蔑ろにする訳にもいきません。このヴィドックは誠実な人物であると保証しますし、軍やプライバシーに関わる事を口外するような癖もありません。それでも彼が信用に値しないと仰るなら…』

 

ドラーク氏の貼り付けたような笑顔が曇る。2人だけで秘密の話をしたい奴の魂胆というのは大体が後ろめたい話をするためだが、この反応から見てそのつもりだったんだろう。こんな所で犯罪めいた事の片棒を担がされるのは御免被りたいし、この言い訳で退散してくれるとかなり嬉しいんだが。

 

『そう、ですか。まぁ、信用できると言うなら信じましょう。ビジネスには利益と信頼の共有も大事な要素だと誰かも言ってましたしね。実は我が社の経営状況の方が最近かなり悪化していましてね。』

 

結局話を続けるのか。嫌な予感がするから早いとこ出て行って欲しいんだが、しかし無理矢理追い出してまたあの記者がホクホクするのを見せられるのも癪だし…

 

『それは残念ですね。軍としても納税者の方々の景気が悪くなるのは良い気分で見ていられる事ではありません。が、我々は一収容所の管理者に過ぎない立場で権限も大きいとは言えませんから余り助けにはならないと思いますが。』

 

『そう深く考えずに、そもそも業績悪化の原因というのはあの悪どいセネット社の連中が戻ってきた事にある訳ですから軍にも責任が無いとは言い切れないんですよ?』

 

セネット社…?確かレイダーが沈めた船にそんな会社のものがあった気がする。妙な所で繋がりがあるものだが、別にそれが判明した所で嬉しくも何ともない。逆に軋轢の種になるのも面倒そうだし、第一何故商売敵が無事に帰ってきたのが我々の責任になるんだ?

 

『それで、我が社としては今期の決算を何としてでもプラスに持っていきたい訳です。なに、やり方は考えてありまして、実は小惑星帯から2、3個衛星軌道にのせてありましてね、そこからの鉱物が無事に入手できれば万事上手く行くという事になっています。そこで問題なのがその小惑星内部での採掘作業でしてね…』

 

『…どんな層になっているかも分からない岩塊を掘り進めるのは確かに骨が折れるでしょうね。しかし、軍としては1つの法人の為に小惑星の調査費用などというものは出せませんが?』

 

『調査費用を出せなんて事は言っていません。ちょっと人員が欲しいんですよ、いるでしょう?危険手当も割増料も払わなくて良い人間が。』

 

『…つまり、捕虜を使わせろというご依頼ですか?』

 

『そうですとも。大丈夫ですよ、帝国人には人権なんて概念は無いと聞いてますし、自分達が何をやらされるとしても、それが収容所で一番偉いあなたの命令ならやるでしょう?あぁ、勿論所長さんや収容所にだってそれなりのお礼はしますよ。1ヶ月あたりこんな額でどうですか?ビジネスというのは相互に利益が無ければ成り立たない…』

 

そう言ってドラーク氏は計算機のディスプレイを見せてくる。それなりの額が表示されているが…

 

『ヴィドック、ドラーク氏はお帰りになるそうだ。門の外まで送って差し上げろ。』

 

『何故です?捕虜の労働なら普通に認められている事ではないですか。それとも見返りについてご不満な点が?それならこのアップルパイもつけましょう。妻が焼いたものですが、絶品ですよ。』

 

『ヴィドック准尉!命令が聞こえなかったのか!?』

 

跳ね上がるような反応をしたヴィドックは扉を開けて自称善良なビジネスマンに退室を促す。

 

『考え直してもらう訳にはいきませんかねぇ?これはそちらにとっても決して悪い話じゃありませんよ。ちょっと規則の拡大解釈をするだけで臨時収入にありつけるなんて、この不景気な世の中、そうそうある事では…』

 

まだこいつは自分が何を言って、それがどういう意味を持っているのか分かっていないらしい。

 

『いいか!同盟軍は市民の代表として、同盟とはどういう国かを帝国人に分からせる為に収容所を運営しているんだ!貴様のような恥知らずな守銭奴のエサにする為に捕虜を養っている訳ではないぞ!痛い目を見たくなかったら早く出て行け!』

 

そう怒鳴ると、ドラーク氏は赤くなったり青くなったりしながら出て行ってしまった。最後によくフィクションで悪党が言うような捨て台詞を吐いていった気もするが、あれ位の人物の事をいちいち記憶していたら脳みそが航路局のデータ容量並みでも足りないだろう。

 

『それで、残ったのは不快な気分とアップルパイという訳ですか。』

 

『…収容所に関わる民間人は妙な奴ばかりだな。…ん?』

 

パイの箱を開けてみれば、片隅に封筒が詰まっている。…こんな小細工までして自分の要求を通したいか。犯罪めいた話どころか犯罪そのものを持ち込んでくるとは…はぁ、本当に『良い話』とやらはいつ来るんだ、果報は寝て待てとか言うが、もうそろそろ寝るのは飽きてきたんだがな。

 

続く




ドラークって名前だけ出して私に設定にするのもアレなので憎まれ役として出てもらいました。

ちなみに、セネット船長をはじめとしたジャムシードのゲストの方々は「捕虜収容所」ができた事は知っていても、まさかそこに知り合いがいるとは思っていません。捕虜の目撃証言も「片目の将校に率いられた集団」という風ですし…

今回もご意見ご感想お待ちしております。
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