海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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〆切は一週間という自己ノルマを勝手に作ったメーメルです。全ては本社の人のせい(ダイナミック責任転嫁)

では、どうぞ。


第六十八話 コーヒーの行方

宇宙暦762年7月14日 ジャムシード第1捕虜収容所

A ・グレイ曹長

 

『あー、他には引き継ぎ事項は特に無し!』

 

『第2小隊了解、勤務を引き継ぎます。』

 

眠そうなのを隠そうとしない准尉からの朝の引き継ぎを終えたはいいが、どうも今日は自分自身も調子が良くない。それもこれも全てはこの安物の義手のせいだ。別に日常生活に困りはしないが、ふとした瞬間に動かなくなったり急に指先が跳ねたりする。

 

『どうした、調子が悪そうじゃないか。また義手か?』

 

『ええ所長。大丈夫です、日常業務に支障はありません。もし捕虜の連中が反乱を起こしたとしても2、3人はまとめて相手にできますよ。』

 

『頼もしい限りだね、とにかく今日もよろしく。』

 

 所長は最初の方こそ利き腕を失ってパイロット人生を絶たれた自分が、その直接の原因になった捕虜を恨んではいないか、それを理由に虐待なんて事をしでかさないか心配していたようだったが、実際そのおかげで命の危険がない今の仕事につけた訳だし、この後の人生も前線勤務経験済みの戦傷下士官の収まる所といえば教官職なんかの後方だろう。バーネットの親父さんがいなくなったのは少し残念だが、反省文と考課の話がうやむやになったという点もあるし、長生き出来る事が確定したんならこれはこれで悪い人生でもない。ただ、最高に退屈だと言う点を除けば。

 とにかくにも今日のシフトが終わったら一度修理にでも出すべきだろう。結局こうやって修理やら点検やらする度に金がかかるんじゃ、最初から高いものを買っておけば良かったとつくづく思う。

 

『それで、今日あいつらは何やってるんです?』

 

鉄条網越しに庭の方を見てみると、数人の捕虜が集合して何やらゴソゴソやっている。

 

『ああ、我々にも関係ある事だぞ。…君が歴史の授業を覚えていれば、だが。』

 

『歴史の授業ですか?…何かありましたっけ、7月で帝国の連中と同盟の共通の慶事というと人類全体の、西暦時代の話ですよね…』

 

『まぁこれに関しては共通というよりかは正反対の行事だから分からなくても仕方ないか。22日は何の日だ?』

 

『えー…祝日、ダゴン戦勝記念日です。でもおかしいじゃないですか。あいつらにとってはダゴンは大敗北の戦いのはずで、祝うどころの話じゃないし。』

 

『そう、だから帝国側としてはその「慰霊祭」をやるんだとさ。…おかげで色々な物を要求されたね。花火をあげたいから火薬を寄越せだの、帝国国旗を作りたいから布地を調達してほしいだのと…』

 

『で、どの位まで許したんです?』

 

『流石に火薬は却下したよ。威力がどうこうではないし、即席手榴弾なんて作られたらたまったものじゃないしな。ま、そんな事で今日は一日騒がしい日になるだろうが、油断はしないように。所長位置は所長室、以上。』

 

そう言い残すと所長は足早に管理棟へ戻ってしまう。あの人はヴィドック准尉と違ってやはり捕虜とは一線を引いている感じがする。それくらいでないと収容所の管理なんてものは務まらないんだろうが…孤独感を感じる事はないんだろうか?

 

ーーーーー

 

所長は「慰霊祭」だとか言っていたが、そんな言葉が似合う厳かな時間は最初の1時間位だったんじゃないかと思う。要するに連中は何か理由をつけて騒ぎたいだけなんだろうが、それを指を咥えて見ているだけしかやりようがないというのも物悲しいところだ。

 

『あの分じゃ同盟への敵愾心が高まってさぁ反乱だ、なんて事にはならないだろうな。それにしてもあいつら、絶対アルコールが入ってるだろ…』

 

そう誰にともなく漏らすと、ちょうど近くを通り掛かった小隊員が応える。

 

『小隊長はご存じ無いんですか?第1小隊の中にはおこぼれに預かってる奴もいるらしいですが…』

 

『はぁ、こっちは週末の安ワインだけが人生の楽しみだってレベルなのに、はるかにみじめな待遇の筈の捕虜が平日の昼間から酒盛りとは嫌になるな。…こうなったらこっちも公費を使って少しでも節約するしかないな。ロングレイ、付き合うか?』

 

『…規則違反でなければ。』

 

『規則には「収容区画内のコーヒーメーカーを使ってはならない」なんて事は書いてないからな。書いてないという事は、つまり規則がないとの同じだ。』

 

『かなり詭弁の香りが強いですが、大丈夫なんですか?』

 

『これまでに2回やってどれもバレなかったから大丈夫だよ。お前も資料整理なんてつまらない事してるよりコーヒーでも飲みながら奴等の馬鹿騒ぎを見ていた方が楽しいと思わないか?』

 

『確かに、流石にアルコールを入れる訳にはいきませんし、代わりにカフェインで代用できるならそれに越した事はありませんね。』

 

『うん、物分かりの良い部下は好かれるぞ。バーネットの親父さんはその辺が堅物だったからな。』

 

別にこれからやろうとしてる事は悪い事ではない。艦隊勤務の時は艦内備え付けのドリンクバーなんかが使い放題だったし、重力勤務になったからといっていきなりダメになるなんてのは道理が通らないじゃないか…通らないよな?

 

ーーーーー

 

庭の方では捕虜が車座になってのど自慢大会なんてのをやっている。言葉は分からないが、それでも音痴かそうでないか位は判別できる。どうやらクンツェには音楽の才能はないようだな。

 

『おい、見ろよ。この豆!管理棟のやつより高い豆を使ってるぞ。』

 

『帝国には紅茶党よりコーヒー党の方が多いらしいですからね。なんでもルドルフがそうだったから国民全体がそうなったとか。』

 

『独裁者の趣味まで気にしなきゃならんとは向こうの国民も億劫だな。じゃ、こっちもその恩恵に与って美味い泥水を堪能させてもらうとしようか。』

 

娯楽棟に据え付けられたコーヒーメーカーは何故か最新式の物だ。帝国の捕虜に同盟の文化や技術力を見せつける方法がこれしかないというのも何だか情けない気もするが、だとしてもこういうちょっとした息抜きに使えるんだから上の考える事も捨てたもんじゃない。

 

『こうやって豆が挽かれていくのを眺めるのもいいな、コーヒーを待ってるこの時間も給料が発生していると考えると更に有意義な時間に感じる。』

 

『このまま捕虜が大人しくしといてくれれば暫くは楽な仕事ができそうですね。一度この味を知ってしまうと艦隊勤務やら前線基地勤務やらが嫌になりそうです。』

 

『所長も油断はするな、なんて事を言ってたがなぁ、見てみろよ、あの馬鹿騒ぎを。あんな連中が脱走やら反乱やら考えてるとあの人は本気で思ってるのかね。』

 

『何にでも慎重じゃないと士官は務まらないんでしょう。それか、所長が何か仕事をしていないと体調が悪くなるワーカホリックだっていう可能性もありますが。』

 

『そっちの方がありうるかもな。お、できたできた。砂糖は…品切れか。無糖でいいか?』

 

ロングレイと自分のカップからは芳醇な香りが白い湯気と共に立ち上っている。やはり飲み物でも食べ物でも、口に入るものというのは香りと味が揃って一人前だな。

 

『ありがとうございます、案外甘党揃いなんですかね。一昨日辺りはもっと砂糖があった気もしますが…』

 

『どうかな…まぁ、もしかしたら闇市みたいなもんでもやってるかも…ん?うおっ、うわっ!』

 

カップを口につけようとした瞬間に右手が震えたかと思うと、手首がくるりと一回転する。当然、重力に引かれた中の液体はカップを離れて床へ吸い込まれる。

 

『だぁ!だから嫌なんだ。安物のせいでコーヒー1杯飲むのも叶わないとはな!』

 

なんとか洗いたての軍服に落ちにくいシミを作るのは避けられたが、悲しいかな、香り高いコーヒーは自分の代わりに床に吸い込まれてしまった。

……ん?吸い込まれた?

 

『…この床、隙間がある訳じゃないよな。…おい、そこのポット取ってくれ。水が入ってる?そのままでいいから早くよこせ。』

 

ポットから床に水を垂らしてみれば、水は溜まる事なくコーヒーメーカーの下に消えていく。耳を澄ませてみれば、水が滴り落ちるような音も聞こえる。こういう音が聞こえるという事は、この下に空間があって、つまり、それは…

 

『ロングレイ!所長を呼んでこい!早く!トンネルか、そうか、これがそうか!』

 

とんでもないものを見つけてしまった。…しかし、本当に連中が脱走を考えているとは、すごい奴らだ。面白くなってきたぞ…!

 

続く




 前まで1日更新だったのにどんどん差が空いて、内容も薄めになるとは、閉店直前の飲食店みたいですね、一回失踪した身としては同じ轍は踏まじと思ってるので、頑張ります!
今回もご意見ご感想、お待ちしてます!
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