海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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お待たせしました。やっと出撃です。かっこいい演説内容がどうしても思いつかなくて、当たり障りのないものになってしまいました。
 


第七話 出撃

帝国暦452年 12月14日 オストヴィントⅧ基地内 貸切酒保

 オイレンブルク中佐

 

「諸君、とうとう出撃の時が来た。明日の夜、我々は前代未聞の冒険行に旅立つ。我等が愛すべき艦、ゾンタークスキントは外見はうすのろの旧式船だが、中身は全く違う!帝国の技術と、帝国の最精鋭、つまり諸君らが揃っている!明日からの旅路は決死行ではあるが、必死行ではない。我々はあのコルネリアス帝以来、100年ぶりに叛乱軍を震撼させた海賊として凱旋する!」

 

「「「「「「はい!!中佐殿!!!」」」」」」

 

「ではグラスも行き渡ったようなので、乾杯する。プロージット!!」

 

「「「「「「プロージット!!」」」」」」

 

259人分のグラスが叩き割られる。この後はもう自由行動だ。いきなりラッパ飲みを始める下士官席を横目に、士官連中のテーブル席に戻る。

 

「やはり出撃前の宴は何度しても良いものですね、艦長。」

 

「そうだな、大尉。願わくば、帰ってきてからの祝宴も同じメンバーでやりたいものだが、何しろ準備は万全にしたつもりだが、不安も残る。フェザーン通過後の叛乱軍領域の星図も駐在武官の情報収集能力では限界があった。航路があることが分かっている以上、あまり広大な航行不能宙域やブラックホールの類はないと信じたいが…」

 

「問題ありませんよ、艦長。何しろ艦名は”幸運児”ですからね。名は体を表すといいますし、機密保持と偽装に訓練も完璧、最高の状態と言っていいまでになっています。向こうに行って、1隻でも拿捕することができれば、データの入手もできるでしょう。」

 

 横からクンツェ中尉が明るい声で言う。

 

「君は楽観的だな、そういう考えは助かるよ。そうだ、もう出撃であるし、フェザーン人に化ける以上はこれは不自然だろう。いい感じに渋みが出て気に入っていたんだが、もう外すべきだろうな。」

 

 一瞬全員と目が合った気がしたが、気のせいだろうか。

ーーーーー

 

翌日 ゾンタークスキント艦内

フォン・フランツィウス大尉

 

「員数・物資・エネルギー、全て良し。全艦、出撃準備完了いたしました。」

 

「結構。出撃する。機関始動。」

 

「了解、係留ケーブル解除、全機関始動、確認。出力4分の1。」

 

「上げ舵25」「上げ舵25!」

 

「圏内翼展開、よし。」

 

「管制より飛行進路指示並びに通信。"クンレンノセイコウヲイノル"」

 

「水先案内のシャトル、視界に入りました。誘導ビーコン受信。」

 

「艦内気密及び気圧、共に正常値。」

 

「惑星オストヴィントの重力圏、離脱しました。加速度正常、シャトルの離脱を確認。速力巡航、予定進路をとります。」

 

何度経験しても重力の鎖から解き放たれるこの感じは快感だ。取り敢えずはこの後、フェザーンへの3日間は通常の商船と同じ航路をとる。彼らの貿易管理局や航宙保安部隊は令状なしには船舶への立入検査はできないことにはなっているものの、余計な疑惑を招く訳にはいかないし、必要もないのに回廊ギリギリを行って思わぬ損害を受けるのもつまらないとの艦長の指示からだ。

 

ーーーー

 

「衛星放送が入るようになりました。フェザーン本星の通信域内に入った模様です。艦内に流しますか?」

 

「いいだろう、許可する。」

当直士官席で熱いコーヒーを啜りながら艦内に流れ出す小気味良い旋律に耳を傾ける。帝国本土ではこういう種類の音楽はルドルフ大帝が「退廃的である」と否定したために、リヒャルト1世や晴眼帝による規制緩和の後も深夜番組ぐらいでしか放送されていないし、軍内部に配布される音源にも未だに収録されていない。個人的には音楽程度で祖国への忠誠心が揺らぐ訳はないと思うし、艦長も「フェザーンの流行歌ぐらいアカペラで歌えないと偽装は完璧とは言えないな。」等と言っていた。

 歌と言えば、この艦には叛乱軍の音源ディスクまである。鹵獲艦から接収して、どこかの倉庫にでも死蔵されていた物だろうが、帝国本土では持っている事が知れた時点で社会秩序維持局がすっ飛んでくるような危険物扱いの代物だ。滅多にない機会だと興味本位で聞いてみたが、古典音楽にはこちらの様な重厚感というか、迫力がない代わりに声楽や大衆歌には向こうの方が質が良い印象を受けた。決して羨ましい訳ではないが、兵士の士気への影響面では無駄に勇ましい軍歌や荘厳なものよりこういったものの方が効果的だろうと思う。実際酒保なんかで兵士がそんな歌を歌ってるのはあまり聞かないし…こんな事を考えた所で、上層部の頭の固い爺さん方に具申できるわけでもない。せいぜい持ちネタの軍務尚書のモノマネの一部に組み込むくらいか……軍人という仕事も難儀なものだ。

 

ーーーーー

12月18日 オイレンブルク中佐

 

 遥か彼方にフェザーンの本星が見える。軌道エレベーターの先端部から多くの光点が絶えず離れたり近づいて消えたりしていて、アリの行列を思い出させる光景を形作っている。流石は全宇宙の貿易中継地といったところか。本星の通信域から離脱次第、今度は回廊の航行不能宙域ギリギリを行く。ここまでは順調だが、これから先でフェザーン当局にばれると厄介この上ない事になる。出来るだけ他人の目に止まらないようにひっそりと航路から外れる。駐在武官からの情報によれば、回廊突破までは最短で2日だそうだが、息を殺して行くとなればより多くの時間がかかるだろう。何にしろ、回廊を抜ければ後は上下左右全てが敵地となる。今はその恐ろしさよりも未知の宙域に対する好奇心が上回っている。そうだ。我々は恐れを知らぬ海賊なのだ。敵に遭遇する前に自然現象を怖がっていてはその名が廃るってものだ。

          

                         続く

 




フェザーンには軍事組織がなかったということでしたが、密輸や脱税防止のためのある程度の実力を持った組織くらいはあったんじゃないかと思います。沿岸警備隊や海保みたいなのをイメージしていただければ結構です。音楽に関してですが、同盟の建国経緯からして、文化資本なんかは建国初期に於いては軽視されていたんじゃないかと思います。元流刑者が開拓した国ですし、ダゴン会戦以降の亡命者増加までよく保ったものですね。
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