海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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最近、どうも眠気に勝てません。メーメルです。

では、どうぞ。


第七十話 捕虜らしく

宇宙暦762年 7月15日 ジャムシード第1捕虜収容所 管理棟

A・ビュコック少佐

 

朝から子爵を呼び出した。「呼びつける」という行為はたとえそれが収容所の敷地内だろうが同じ建物の内部だろうが重要な意味がある。どちらが問いただされる側か、そういう人間関係上のあれこれを視覚的に見せるというのもあるし、口裏合わせもなかなかできるものじゃない。…問題は他の捕虜が激発しないかどうかだが。

 

『なぜ子爵が呼ばれたかは分かっていますな?』

 

いつも通りの眼帯姿が目の前に座っている。足こそ組んではいないが、呼びつけられたにしては堂々としすぎているくらいの態度だ。まぁ、ここまできて急にしおらしく泣きつかれるのも興醒めではあるし、これはこれでやる気が湧く。

 

『なぜ…?そうだな、心当たりは幾つかある。ツァーンがこっそりアルコールを造っているとか、ここの所雨が少なくて気分が晴々しいとかね。』

 

『天気についての世間話をするのはまた次の機会にしましょう。お互いに無意味な化かし合いをするのもね。』

 

『お互いに、か。結構、じゃあ少しばかり正直になってみようか。』

 

『そう、それが最良の選択ですね。で、昨日の煙幕とトンネルの発見について何か言い分が有ればどうぞ。』

 

『…そうだな、あのトンネルは脱走用のトンネルだ。娯楽棟から北へ伸びて、見えるかね?あそこの土盛りの裏辺りに出る計画だった。煙幕については言わなくても分かるだろう?』

 

言ってくれるものだ。手の内を晒して何がしたいんだ?

 

『では、結局脱走なんていう不埒な計画を立てていた事実自体は認めるんですね?』

 

『今更私が何をどう言っても君は信じないだろう?それとも何かね、あの穴はジャムシードに住まう巨大モグラが掘ったもので、煙幕はその危険極まる害獣を始末する為の我々の努力の賜物だ、そう言って欲しいのか?』

 

『空想小説の執筆はアッテンボロー君に任せておいた方が良さそうですね。ではその計画の関係者は?子爵が知っているという事は全体的なものという事で?』

 

『それについては言えないな。部下を売るだの裏切るだのなんてしたくないし、部下の方も上官にそんなことをされたくはないと思うだろうしね。』

 

そこまであけっぴろげにするつもりはないか。

 

『しかし子爵、どちらにしてもこれは由々しき問題ですよ。今のところ我々同盟軍としては捕虜を紳士的に扱ってきたつもりです。』

 

『おかげで快適に過ごさせてもらっているよ。独房にいるフェルザーはそう思ってるかどうかわからないが。』

 

『これからそうもいかなくなる可能性がかなり高くなります。もちろん捕虜宣誓をしても外出は禁止になりますし、監視も厳しくせざるを得ないでしょうね。』

 

『別に規則違反をやったつもりはないが、そっちがそう決めるというならそうすればいいさ。それで、とりあえず私はフェルザーと同居する羽目になるのかな?』

 

『今回の騒動についての処分はまた後で通達します。今一度子爵、あなたに理解しておいて欲しいのは我々をそう甘く見ないでほしいという事です。あなた方は移住者でも植民者でもなく捕虜なのですから、それ相応の対応をしても…』

 

『結構、今までだってよくわかってるさ。しかし、それで不足だというなら、そうだな、今回の件も踏まえて捕虜らしく行動する様にしよう。それで、呼び出された理由はその、捕虜らしく暮らせというのと仲間を売れという話だけか?』

 

『その言い方にはかなり語弊があると思いますが、要約するとそんな所ですね。子爵、もし一部の者が企てている事が捕虜全員の不利益につながるとしたら『売る』という言い方は不適切ですが、信賞必罰、そういった考え方も重要になってくると思いますがね。』

 

『どうやら、こちらとそちらではその成句の意味が違うようだね。まぁ、色々考えておくことにしよう。…話が以上なら部屋に戻っても?』

 

背筋を伸ばして子爵は出て行く。とても呼び出しをくらった後とは思えない態度だ。『色々考える』、と言ってもこちらに都合の良いことを考えてくれるとは思わないし、本性を隠すつもりがもう無いというならそれなりの対応の仕方というものがあるが…

 

『それで、結局子爵は独房ですか?』

 

『できると思うか?あの愛国旅団の一件を思い出してみろ。あの雨の中を子爵1人連れ去られたからって律儀に整列するような連中だぞ?それこそ反乱の火種になる。』

 

『責任者は子爵なんですからちゃんと説明すれば納得するんじゃないですか?あの人自身も間接的に知ってたのは確かですし。』

 

『我々はそれで良いと思うし、子爵自身だってそれで良いと思うかも知れないが、他の二百何十人がそうは思わないだろうというのが問題なんだ。特にあのフランツィウスなんかは扇動者の才能がありそうだしな。』

 

『じゃ、士官の中から何人か出しますか。あとできる罰則といえば…プラスで屋内謹慎を何日か命じる位ですか?』

 

『実際他の収容所じゃどうしてるんだろうな。体罰やら水抜き刑やらはできる訳ないし…』

 

『さぁ…とにかくそれで懲りてくれると幸いなんですが。』

 

懲りる、ね。なんだか逆に闘志を燃やされるような気がしないでもないが、これまで甘くしてきた結果が管理棟侵入やらトンネル掘削だと考えると、ここの捕虜にはムチの比率を上げた方が効果的なのかも知れない。

 

『何ごとも試行錯誤…人間相手の仕事はこれだから面白いな。』

 

ーーーーー

7月18日 

P・アッテンボロー

 

『結局こうなるんじゃないか!えぇ?最初だけ良くて、人気が出てきたらこれだもんな?』

 

昨日もいつも通りに収容所に行ってみたら、

 

『今は外部の人間は入れてはならない事情がありまして』

 

なんて言って追い返された。『もう知り合いなんだから一概に外部の人間とは言えないだろう』とも反論したが、そしたら考える素振りすら見せることなく

 

『いや、あんたは外部の人間でしょう。』

 

と即答するのがさらに癪にさわる。遊ばれてる女性なんてのはこういう気分になるものなんだろう。

 

『百日天下まであと少しでしたね。まぁ、出張費の元を取るくらいの事は出来たんじゃないですか?』

 

『元を取るだぁ?そんな向上心のない奴だとは思わなかったぞ!何とか潜り込む方法を考えるか見つけるかしなきゃならんな。』

 

『見つけるなり考えるなりするのは良いですがね、前みたいに長考のあげくテーブルを叩き壊すみたいな事はしないでくださいよ…じゃあ行ってきますよ。』

 

『どこに?現地妻でも拵えたか。』

 

『朝言ったじゃないですか。地元の鉱山会社の社長と面談があるって話ですよ。』

 

『よし、連れてけ。』

 

『えぇ…』

 

『なんだその『えぇ…』は!?地元の会社と言ったら収容所とも関わりがあるかも知れないだろ?そういうぱっと見では関係も無さそうだと思うところから記事の種を探すというのが記者の仕事なんだ、というのは建前で、今日やることが無くなって暇だから連れてけ。』

 

『いいですけどね、怒ると怖い人らしいですからあまり反論とか論破とかしようとしないで下さいよ?』

 

『俺がそんなことするような人間に見えるか?大丈夫だよ。』

 

今度は詐欺師を見るような目でこっちを見てくる。こいつ、こっちに来てからさらに遠慮がなくなってきた気がするな…

 

ーーーーー

 

『それで笑い話だ!ドラークの奴が収容所に出禁を喰らったんだって、やっぱり奴は金でも何でもがめついのがいけないんだな、だからツキもどっか行っちまうって訳だ!』

 

デカい声で商売敵の不幸を喜んでいるのはしばらく何かの理由で休業状態だったとかいうセネット社長。

 

『じゃあドラーク社の方の業績予想はあまり期待しない方が良さそうですね。』

 

『期待しないほうが良さそう?それどころじゃない!いつあの鷲鼻がぶら下がる事にならないとも…』

 

やっぱり来るべきじゃなかったかも知れない。ジェニングスは興味深そうに頷いているが、こっちとしてはピンとくる単語が1つだって出ては…

 

『それもこれも運が向いてきてるんだな、オイレンブルクは幸運の…あ、これはオフレコで頼むよ?』

 

オイレンブルク…?…何だかどこかで聞き覚えがあるような…

 

続く

 

 




子爵も少佐も違いに嫌いな訳ではないんですが、ライバルみたいにちょっと好きって感情とも違う気がします。どっちからみても『面倒な奴』くらいの感想でしょうか。

今回もご意見ご感想お待ちしております。
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